戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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66初めての人ころ・・・・

「っ」

 

「どうしたのよ急に立ち止まって、やっぱり水が欲しくなったのかしら?」

 

「・・・・・煙が見える」

 

「煙?あ、本当だ、向こうで立ち上ってる」

 

「誰か、いるのか?」

 

 

水の下り以降、あの馬鹿女は隊長でもないのに私の前を先行するようになった。

私を見下しているように思えたけど、水を貰った手前、偉そうな事を言うのは気が引ける。

少し拗ねているのだ、私は。

そんな煮え切らない思いを抱きながら歩いていると馬鹿女は急に止まった。

 

 

「っ・・」

 

「しゃ、しゃがむの?ここから?」

 

「ば、バレない方が良いし、しゃがむ・・・?」

 

 

馬鹿女は敵が怖いのかまだ姿も見えてないのに腰を低くした。

グリースも臆病なチキンなので本能レベルでしゃがもうとする。

 

 

「もっと近づいてからでも・・・・」

 

「歩哨とかいるかもしれないので」

 

「ほしょーって何よ?」

 

「・・・・見張りの事です」

 

「難しい言葉を使わないでちょうだい、もっと分かりやすく言いなさいよ!」

 

「ジュリー静かに・・・ッ!」

 

「あ、・・・ご、ごめんなさいグース・・・・そ、そうよね・・・静かに」

 

 

事あるごとに衝突してきて頭が痛くなるけどよく考えればもう敵は目の前にいるかもしれない。

私は無駄に声量大きく叫ぶ口を押さえて腰を低くした。

背負っていた銃が背中から滑り降りる。

 

 

「銃はもう・・・か、構えた方が良いかしら」

 

「武器はもう構えましょう」

 

「そ、そうよね、グースとシャルは・・・・」

 

「ぼ、僕は敵を数える仕事があるから、敵をやっつけるのは任せるよ」

 

「一人で数えるのは大変だろうから俺も手伝う、俺達を守ってくれジュリー」

 

「ま、任せなさい!」

 

 

後ろに続く二人に励ましの言葉を送って前を向くと・・・一瞬、こちらを横目で見るあの馬鹿女と目が合った。

一瞬、私が酷く睨まれていたと思って恐怖した、だけどよくよく見ると馬鹿女が見ているのは私じゃなくて後ろの二人だった。

 

 

「ど、どうかしたの?」

 

「いいえ、・・・・皆で、生きて帰りましょう」

 

「当り前よ・・・!あんたも・・・生きて帰るんだから・・・!」

 

 

絵面としてみれば凄く地味な光景だ。

頭と体に雪を被って斜面の関係で見えにくい場所を静かに進むだけなのだから。

だけど何かの拍子で私達の存在が敵に露見した時の事を考えると緊張で力んでしまう。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・・ゴクリ」

 

「―――で、俺は仲間を撃ち殺し続ける機関銃陣地に――――――」

 

「パチ、バチバチ」

 

「―――薪は向こうに積んでおけ、湿らせるなよ―――」

 

 

人の声が聞こえる、焚火で音を出して燃える薪の音も。

神経が目に集中し、頭に映し出される視界には・・・・敵が映っている。

銃を持った、敵が、私達を虐げてきた奴らが見える。

 

 

「ひぇぁ~!」

 

「「「!?」」」

 

「トイレトイレ!ったく、何でトイレ休憩も許されない程急ぐんだよ、人の事も考えろよなぁ~ったく」

 

 

不味いバレた・・・!?

 

 

「ふぅ~・・・・お漏らししなくて、良かったぜ~」

 

 

ば、バレていない・・・・うわ、トイレしてる・・・。

・・・・・こんなに近いのに、こっちに気付いていない。

周りの敵も、こちらは見えていない。

 

 

「・・・・・・」

 

「ジュ、ジュリー?」

 

「どうしたの・・・?」

 

「アイツ、今ならやっつけれる」

 

「待って・・・!」

 

 

固唾を飲んで私は前に一歩踏み出すもあの馬鹿女に腕を掴まれて静止される。

ここにきて流石に私への嫌がらせとか邪魔をするのかとも思ったけど、・・・・よくこいつを見ていれば震えている。

私を掴む手も、喋りかけてくる唇も、やはり皆怖いのは同じなんだと分かる。

 

 

「殺す事ない・・・!」

 

「こ、これは戦争、だから・・・・関係ない・・・・!私はやってみせるんだ・・・ッ!」

 

 

静止を振り切って一歩一歩静かに男に近づくいて、かなり近づいて所で後悔に襲われる。

隠れているのが露見する事が怖くて恐ろしく時間をかけた、男の人の用を足す時間がどれくらいなのかは分からないけれど急がなければ終わってこちらを振りむく事は自明だった。

 

 

「ふ~んふんふん、・・・んぁ~・・・ふぅ、・・・・冷え冷えで萎むぜ・・・」

 

「・・・ッ」

 

「さぁて、戻るとす――――――――え」

 

「死ねッ・・・・!」「ガゴコ!」

 

「あ、っ・・・だ、れ・・・・」

 

「死ね!死ね!死ね!」「ボコ、ガ、ボコン!」

 

 

全力で銃床を男の頭に向かって振りかざした。

柔らかな枕の様に男の顔面は柔軟に凹んだが、弾力性はなく、元の形に戻る事はなかった。

陥没した顔では声も禄に出せないだろうが、初めての人殺しに興奮していた私はまず先にも息の根を止める事に執着して倒れた男を何度も殴った。

 

 

「・・・ボコ!・・・・ボコ!」

 

「―――――――――」

 

「は、・・・はは!・・・・やった、か、簡単、じゃない・・・・こんなにも!簡単・・・・ふ、は、あひひ」

 

 

倒れ伏した男の頭は殆ど潰れていた、ちょっとした隙間からドロドロの内容物が隙間から零れ落ちている、恐らく頭の中身だろう。

用を足している最中に撲殺されるなんて無様な死に方だ、おかしくて笑いが零れる。

自分の初めての戦果に浮かれながら私はさっきまでびくびくしていた仲間の方を見る。

何だか、私に叫びたそうに蠢いているけど、一体―――――――――

 

 

「ふぅ~トイレトイレ!俺も混ぜてくれよ~」

 

「ッ・・・・!?」

 

「あれ?おーいゲラルド~、あっるぇ・・・あいつ、ここら辺で小便しに行って・・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

 

しゃがんで隠れるとか先手必勝で攻撃を仕掛けるとか、頭では考え付いても体が動かなかった。

仲間を探しに来た敵と、私は目が合う、お互いにお互いの存在を気付いている。

一瞬の沈黙の刹那、私は銃を敵に向けて構えた、そして引き金を引いた。

 

 

「し、死ね!」「カチ」

 

「う、うわぁあああ!?・・・・あ?」

 

「あ、あれ何で撃てて・・・」「・・・・・カチカチ」「な、何で撃てないの!?」

 

「こ、こん畜生!」

 

「ちょっとしっかりし・・・・あ、」

 

「死ねえええ!!よくもゲラルドをぉおお!!」

 

 

何度トリガーを引いても銃を撃つことは出来なかった、頭が真っ白になって馬鹿みたいに撃てない銃のトリガーを何回も引く。

その内に、最初は動揺していた敵も応戦の構えを見せて携帯していたピストルを私の方に向ける。

あ、ダメだ殺される、って思って・・・恐怖に負けて後ずさって逃げようとしたけれど、それよりも先に敵が引き金を引いた。

 

 

「パン!パァン!」「え、ジュリー・・・・ジュリー?」

 

「あ゛・・・う・・・・あ」

 

「や、やった!」

 

 

胸が痛い、逃げようとしたのに足がほつれて転ぶ。怖くて声が出ない。

私を殺そうとする敵を見る。

笑みを浮かべてこちらに近づいてくる、銃を向けたまま、私に近づいて・・・・。

 

「ははは!残念だ――――」

 

「パシュン―――――ブチ」

 

「ったな――――――あ?」

 

 

近づこうとした敵の首筋を、細い枝が射抜いた。

ひと時は、その攻撃が全く効いていないように敵は平然としていたけど、やがて・・・

 

 

「あ、ガ・・・ご、ゴヘェ・・・・イギ・・・・が、お・・・ぁ、助、て」

 

 

首元を抑えだして苦しみだして、膝をついて、何かを振り払うように体を捻じっている。

じたばたと、そして私と目が合う。

 

 

「何の音だ!」「銃声だ!」「何があった!?」

 

「ジュリー!に、逃げるよジュリー早く!」

 

「撃たれているんですよ!助けに・・・・あ、ちょっと先に逃げないで!」

 

 

血走った目、敵の・・・いや、その人の口元からは滝のように血が溢れかえっていて・・・息をする度に血反吐を吐いて

涙を浮かべて、苦しんでいた。

 

 

「あ、ごほ・・・うぅ・・・ゲホッ!!」

 

 

そして、最後に盛大にせき込んで、私の顔に・・・血を吹きかけて息絶えた。

私はその一連の光景に目を奪われた、恐怖した、そして感じた、殺すとは何なのかを、戦争とは何なのかを。

全く、私は分かっていなかったのだ。

 

 

「誰か倒れているぞ!?」

 

「な、何てことだ、一体誰がこんな酷い事を・・・!」

 

「逃げろ、こ、殺される!」

 

「いたぞ!兵士だ!奴らがやったんだ!」

 

「追いかけろ!」

 

「こっちにも一人いるぞ!」「バン!」

 

「あ、・・・ぐぅ・・・」

 

 

再び私を現実に引き戻したのは痛みだった。

銃声に気付いて押し寄せた敵の一人が私に向かって発砲をした。

お腹は威力のないハンドガンだったから血が滲んでいるだけだけど、今度のは威力のあるのだったから、・・・当たった手が凄くのけぞって・・・痛い。

 

 

「やめてええェ!」

 

「も、もう一人!?ぐあぁ!?」

 

 

私を殺そうとした敵は腕部に投石を受けて持っていた銃を落とす。

そしてその隙をついて、一気にこちらに向けて走って来る人がいた、あの・・・・馬鹿女だ。

 

 

「しっかりして!ジュリー!」

 

「・・・あ、え」

 

「く、クソォ・・・おいこっちにまだいるぞ!誰か、助け・・・ぁああクソ俺の指がぁああ!!」

 

「ジュリー!ジュリー!ヴォアナさん!しっかりして」

 

「私・・・あ、血・・・」

 

「しっかりしてください!」

 

「わ、あ?・・・あれ?」

 

 

視界がぐるっとひっくり返る。

世界が逆さになっている、これは私が担がれているのか。

顔を伝う血がポタポタと地面に垂れる。

私の血なのか、浴びたあの敵の血なのか分からない、視界は真っ赤で、私は染まっている、染まったのだ。

 

 

「おい!大丈夫か!」

 

「奴ら逃げてる、殺せ!」

 

「バン、バン、ババン!」

 

「ハァ、ハァ、あ゛ぐぅ、づぅ・・ああ!もうぅ!!」

 

 

再び私の顔が血に染まる。

慌ただしく地面を蹴る足から勢いよく血が噴き出して私の顔にかかる。

でもそれでも足は止まらない、最初は大きかった銃声も徐々に遠のいて、遠のいて、消えて行く。

残ったのは荒く息を乱すあいつの声だけだった。

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