戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
テレビはあんまり見なかったけど、思えば狭い世界が全てだと信じたかったから目を背けていたんだと思う。
広い世界を知ってしまえばきっと今までの閉鎖的な人生が低俗な物だと知ってしまうから。
ああ、だけど今の感情を抱く程なら私はテレビを通してこの世界を知っておけば良かったと思う、知っていたらもっと違った未来があったかもしれないから。
「アルベルタ・フンメル様でいらっしゃいますか?マッケンジー運輸です。
本日は当社のサービスをご利用いただきありがとうございます。
我々一同が目的地までの快適な旅をお届けします。」
「随分とお若いのですね貴女、お名前を伺っても?」
「チェルナー・カフカです、本日運転手を務めさせて頂きます、お荷物はこちらにお任せください。」
「少し重たいのですけど。」
「いえ構いませ―――――――おも・・・・!?。」
「あ、・・・・持てるのですね、意外と力はあるようで。」
「取り柄・・・・です、ので・・・・・!」
雪の文明を超え荒野の戦場を過ぎ、森と畑を抜けた先には平和があった。
少なくとも陽の当たる場所には争いは見えない。
どのような過程でも結果的に平和であるならそれ以上望むのは我儘だと自分を抑え込む
だけれどこの胸に永遠に残り続ける後悔は消えることはない。
「他に同伴者はいらっしゃいますか?」
「・・・・・・」
「あの、アルベルタ様?」
「ん、あ・・・大丈夫です、一人・・・・・で結構です」
「しかし珍しいですね、高貴なお方が一人とは。」
「貴女ほど珍しくはありませんよ」
「これはこれは一本取られました、やはり珍しいでしょうか?」
「何処の国でも滅多に見る物ではありません。今後はそういうお方が増えればとは思いますけど難しい事も理解しています」
「好意的な視点をお持ちで」
「ご同輩ですから、生き死にを共にした」
「そうは見えませんでした、大変失礼を」
「結構でして、そう見えるように取り繕って来ましたから、そちらは何か秘訣をお持ちで?」
「私は・・・・・ついぞ行く事はありませんでしたから、行く準備も何もかも終わって、家に帰れというタイミングでしたので」
「まあ、・・・・良かったですね、知らぬ方が良い事も沢山あります、だから美しいままで居られるのです」
「えっと・・・・申し訳ありません?」
「いえ、責めているつもりはありません。寧ろ羨ましいのです、そして尊いのです。どうかこの先の未来も貴女のように朗らかで自然なままのお人が増えれば私達も死地に赴いた甲斐があるものです。」
珍しいというより初めての経験だった。
この仕事を始めてからはや4ヵ月、たぶん100人ぐらいはお客さんをあちらにこちらに運んで来たけど元兵士の人を乗せたのは多分初めてだ。
そのお客さんは遠くから見る分には何だか映画館のスクリーンの向こうで、何人も男の人を本気にさせるような美しい人だった。
「やはり戦場は長すぎると人を変えてしますのでしょうか?」
「20年もいたらきっと、でも私はまだまだ新米でしたが・・・・・年月とは別に経験でどうしようもなく捻じ曲がってしまうんです」
「過酷でしたか。」
「・・・はい、そしてそれ以上に残酷です」
「親しい人の旅立ちは堪えますでしょう、でも戦争も終わりましたし今は彼らを弔えます」
「・・・・・・・・幾ら墓を豪勢に盛り立てても死んでいては何も変えようはありませんよ」
「そう、ですね・・・・・結局は生者の自己満足ですもんね。」
煌びやかで厳粛な美しさを持った彼女もその喋り、振る舞い、儚さを知ればまるで戦場で多くを失って大切な物を何処かに置いてきた悲壮感を持ち合わせているように見える。
兵士を多く見る機会はあったけど皆近い将来、というか明日ないしは次の瞬間には死ぬことを覚悟して刹那的で投げやりな方が多いのが普通だった。
だから強く生きようと、生き抜こうと確かな信念を持ち戦い抜いた人は新鮮だった。
「一番堪えるのは無為に消える事です。多くの方が歩むべき人生とその命を代価に戦いを続けてきましたが得られる物がなければ誰も幸せにはなれないのです。」
「私達はそうかもしれませんが、これから生まれてくる多くの人達は違いますよ、でもちょっと羨ましいって思ってしまいます、私も」
「悪い子ですね運転手さんは」
「お気を悪くされましたか?」
「いいえ、結構ですよ。純粋無垢な真っすぐさも深く暗い悪意の食い物になるだけです。
少し悪知恵が働くぐらいが丁度良いんです。」
「お目に叶う賢さを私が持っていたら良いのですが、・・・・目的に到着しましたアルベルタ様」
「あら、もっとお話しをしたかったのですが・・・中まで荷物を持ってきて貰っても良いですか?」
「ええ、構いません。」
普段はあまり発生しないお客さんとの会話、その上盛り上がったせいかえらく短い時間で目的地に到着した気がする。
やはりいくら元兵士と言えど車に乗る身分の人だから行先も高そうなホテルだった。
多分間違っても私が一生でお世話になる事はないぐらいに立派だった。
メインエントランスとでも言うのか、そこだけしか見てないけど断言できる。
「お荷物お預かりします」
「結構です、こちらの運転手に任せていますので」
「しかしお客様、それではホテルマンとしての仕事がなくなってしまいます」
「私達の事は良いですから他のお方を手伝ってあげてください」
「そうご遠慮せず、ささ」
「あ・・・・それ重・・・・」
「ふん!・・・・・ン・・・・!?・・・・」
「好意はありがたいですが退いてくれませんか?お客さんを待たせてるんで。」
「え、は?・・・・これ鉛みたいに全く動かな――――――――――」
「よいしょ・・・」
「・・・・は、は??」
ホテルマン君は普通の人間だったようでアルベルタさんの荷物は持てなかった。
兵士で鍛えた私でも重く感じるのだから並みの人間なら逆立ちしても無理だ。
私が両手で頑張って持てる程の荷物をアルベルタさんは片手で指2、3本を持っていたのだから彼女は相当のマッスル・・・・・でないにしても鍛えられている。
世の中上には上がいると言う事を分からされた。
兵士の中でも私は所詮ただの子供なのだ。
「重い荷物をありがとうございます、小さいのによく頑張っているんですね」
「いえ、当然の義務です」
「・・・・勤勉は美徳です、この国で立ち行かなくなれば東を目指す事をお勧めします、黒い海を越えた未知の領域へ。」
「は、はぁ・・・・?」
「若しくは北の大地に、ああ今は真面目に受け取らなくていいですよ、でもこの先きっと大きく険しい困難が待っています、その時に私のこの言葉が貴女の助けになればと思い贈る事とします」
「忘れない程度に覚えておきます。」
「よろしい、あ、失礼そうでしたね、私とした事が・・・・・チップですねチップ・・・・・えーっと」
先程までの雰囲気と違って一気に庶民のような挙動をするアルベルタさん。
最初の方に取り繕っていると言っていたけど素の方はこっちなのかな?
儚い美しさが一瞬で天真爛漫な太陽のような眩しさに変ったように見えた、ほんの一瞬だけれど。
「えーコホン・・・・ごめんなさい勉強不足でチップはよく分かりませんがどうぞ、懐の足しになれば」
「はい!・・・・・色とりどりなチップですね。」
「ちょっと旅費が足りなくなったら困るのでこの国の通貨は差し上げれません」
「いえ、十分だと思います。それに私外国のお金を見る何て初めてです、へぇ~こんな風になってるんですね、ありがとうございます」
「気に入って貰えたのなら何より、それでは、また会う事があれば」
視界から消えるまで見送って私は停めてある車に戻る。
もう少し話したいと言われたがその割にはさっきと比べて掴み処のない事を言われた。
実の所ただの社交辞令で私をからかっているのか、それは分かりはしないけれど戦争も終わって何だかんだ平穏な日々が続く中で何か大きな事件なんて起こるとは思えなかった。
「コツン」
「あ、失礼しました」
「い、いえ・・・・」
深く考えても仕方ないので次の仕事に向かった。
いつも通りにこなして特に大きな問題なく一日も終わる。
そうして日々を過ごしていくうちに私はすっかりあのお客さんの忠告を忘れていった。
忘れることがなかったとしても私の足りない頭ではその大きな問題を予見する事は出来なかったし予見した所で出来ることは限られていた。
ならばこそ何も知らずに困難が到来するその日まで日々を謳歌した方が幸せと言う物だ。
彼女が言っていた「知らぬ方が良い」とはきっとそう言う事なのだろう。
「っち、あのクソ運転手、金づるにべたべたくっ付きやがって、本来俺が貰う金を盗む強欲野郎が・・・・!っへ、でも取り返してやったぜ」
「パラパラ」
「な、何だよコレ!玩具の金かよ!ふざけやがって!。だークソがぁっ!」
お金を捨てるのはカフカちゃんだと思った?残念スリのホテルマンでした(残当)
一番曇って欲しいのは誰?
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カフカちゃん
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カフカちゃんの祖母(ブレハンズ・カフカ)
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ローン・パーペン
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灰皿でぶん殴って来る閣下
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横領着服教官
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ローザ・ブランデンブルク(大学教授)
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アルベルタ・フンメル
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謎の怪物
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同僚のルードヴィッヒ
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曇らせとかいう人の不幸で栄養を得る俺達
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その他(感想欄にでも書いて)
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(曇らせとか)もうやめましょうよぉお!