戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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72私の・・・・私達の救いのヒーロー

「いや、・・・嫌ぁあ!!」

 

「――――――――ォォン」

 

 

恐怖が原動力になり動かないとしても無理に前に進もうとする意志に突き動かされる。

片足で立ち、片足で地面を蹴って進む、木から木にしがみついて足を引きずって。

 

 

「どこに行くんだ?」

 

「俺達から逃げるなよぉ~」

 

「っ、・・・いや・・・来ないで・・・・!」

 

「――――ブォン」

 

「悪く思うなよ、こんな場所に来ちまったお前が悪いんだからな」

 

「いや・・・誰か、誰か助けてッ!!・・・・嫌だ嫌だ・・・・!誰か助けてよ!」

 

「苦しまないように殺してやるよ」

 

「ブォオン」

 

 

鈍足過ぎる私を追い越した追跡者たちに囲まれる。

バランスを崩して雪の中に突っ伏す、銃口を付きつけられ、それから逃げようと雪の中で藻掻く。

情け容赦のない痛みと恐怖が私を今にも襲おうとしていた。

 

 

「ブォオオオン!!」

 

「何だぁっ!?」

 

 

私を処刑しようとしていた敵の背後、太陽の後光から登場したのは・・・・盛大な速度で侵入してきた車だった。

手前の坂で飛び上がった車はこちらに飛んできて、このままでは正面衝突をしそうになる敵の何人かは咄嗟に横に飛んだ。

 

 

「ち、畜生轢き殺す気か!」

 

「バァン!」

 

「がはぁ!?撃たれたぁああア・・・・痛ぇええよぉおお!」

 

「敵だ、敵が乗っているぞ!」

 

「何だってんだ車がこんな山中でェ!!!」

 

「クソッタレ兵士が何で車持ってんだよ!俺達から奪ったのか!」

 

「バン!」「ババン!」「バン!」

 

 

飛び上がった車は奇麗に木の間と間を縫って横すべりして停止する、そして手際よく乗車席から敵を銃撃する。

その隙に他の搭乗者は反対側から降車して展開した。

私は一瞬遅れて木の陰に飛び込んだ、だけど激しい銃撃戦が始まり身動きが取れなくなった。

 

 

「ちょっと隊長!『バン!』これは無理があり過ぎるでしょ、初陣の次が敵の渦中からスタートはないでしょ!順序『バン!』ってモノがあるでしょぉおお!!」

 

「クッソォ!敵は手練れだ、総員物陰に隠れて応戦しろ!」

 

「バン!バンバン!」

 

「『バン』っひぃ・・・!『カチカチ!』こ、この・・・どうして排莢しないんだ!このぉ、このッ!」

 

「落ち着けグース、その銃はレバーを上に上げてからだ!『バン!』慌てずにコッキングだ!」

 

「今だ撃ち返せェ!」

 

「バン、バン!」

 

「っ、向こうは20人、こっちは4人・・・!ヴォアナさん、あのゴツイの借りますよ!」

 

「ゴツイのって何よ!」

 

「これです!」

 

「ババン!ババン!」

 

「ぐぁぁあ・・・」

 

「っひぃ!?ボルトアクションの連射力じゃないぞこれは!」

 

「サブマシンガンかクソ?!何でクソッタレの貧乏兵士があんなものを!」

 

 

車に乗っていた四人の内、一人がマドセン銃片手にこちらに走って来る。

移動しながらの発砲が随分と様に成っていて・・・ああ、格好良くて救いの女神に見えた。

それが見知った人だから尚更に・・・。

 

 

「ババン!バン!バ・・・カチカチ!」

 

「ッ、り、リロード!援護をお願いします!」

 

「任されたわ、食らいなさい!私の人力連射術を!」

 

 

距離があったから一気にこちらに走り込んでは来れなくて、途中の遮蔽物に隠れてリロードをしている。

弾倉が斜め上にある物は不慣れなのか、それともクリップでのリロードしかした事がないのか、少し手間取っているように見えた。

 

 

「入れ!カチ・・・よし入った!」

 

「バン!バン!バン!カチ、カチ」

 

「やっば弾切れ!?」

 

「大丈夫ですか!すぐ助けに――――」

 

「バンバン!」

 

「ッ・・・大丈夫です、必ず助けます!」

 

 

運悪く援護の人とタイミングが合わずに一瞬ハチの巣にされかけるあの子。

だけど天性の才能か、踏みとどまり銃弾の嵐を回避する。

そして私を安心させる声かけをした後、一息ついて飛び出した。

 

 

「ババ、ババン!」

 

「首元失礼します!う、ぉおおおお!!」

 

 

私は首根っこを掴まれて有無を言う前に全力で引きずられる。

すぐ傍を銃弾が掠め、ちょうど通過した木の幹が銃撃によって欠ける。

そんな中でもこの子は勇猛果敢にも撃ち返して制圧をして私を引っ張り続ける。

 

 

「敵は今全身を晒しているぞ!撃て『バン!』――――ぐはぁ・・・っ」

 

「しょ、小隊長!」

 

「人助けをしている人を狙い撃つ卑怯な真似をする奴は私がぶっ殺してやる!」

 

「チェルナー隊長をえ、援護するんだ・・・・ッ!」

 

 

敵の狙いは妨害の援護で定まっていないと分かっていても、次の瞬間には自分の身に命中するかもしれないという恐怖を抱く。

だから思わず手で顔を覆い隠す。

 

 

「よいしょっ・・・!一先ずはここで・・・ダルマン君車回して!」

 

「く、車をですか!?」

 

「そう『バババ!』よ!」

 

「や、やってみます!『キン!』っひ!?」

 

「よし・・・!アリンシャスお姉ちゃん!」

 

「・・・ビク」

 

 

名前を呼ばれて肩が震える。

ずっと腕の中の暗闇に沈んでいたのに私を呼ぶあの子の声に顔を上げてしまう。

視界に写る貴女はどうしてここまで輝いて見えるのだろう。

私よりも小さな体で、まだまだ未熟者と自負しているのに、誰よりも勇敢に戦い続けるカフカちゃん。

 

 

「まだ戦えますか!?」

 

「・・・」

 

 

敵への制圧射撃をする最中、横目で私を一瞬見る。

今の私はこの子が姉と呼ぶにはあまりに情けなく無様な姿だろう。

内心では幻滅されて、見下されているかもしれない。

戦う事から逃げる兵士なんて飛ぶ事の出来ない鳥ぐらいに無意味で無価値な物なのだから仕方がない。

 

 

「っ、「カチカチ」よく弾切れを起こす・・・ッ!」

 

「ッ!・・・・」

 

 

再び弾倉を使い切り、木の陰に身を潜めるカフカちゃん。

もう既に私がいるので二人寄せ合ってギリギリ、遮蔽物として機能している。

リロードの為に中腰になったカフカちゃんの肩と地面に座り込む私の肩が触れる。

 

 

「私・・・私は・・・・」

 

「大丈夫、お姉ちゃん・・・絶対生きて帰るから、安心して、今回も私が助ける!」

 

「・・・助け・・・・」

 

「出来れば私が背負ってる銃を使って援護をしてくれれば少しでも助けになるから!・・・『バン!』ッう・・・無理なら私がその分頑張る!」

 

「どうして・・・・そこまで」

 

「当然でしょ!お姉ちゃんなんだから、私はもう大切な人は守るって心に誓ってるから!」

 

「ブォオン!」

 

「車回せたよぉ!!」

 

「グースあんたいつの間にそんな器用な事を!?」

 

「俺達が後ろで物資漁りしている間に隊長に教えて貰ったな?!」

 

「お姉ちゃん、今から車まで一気に駆け抜ける!心の準備はオッケ?」

 

「・・・ッ、怖い・・・!」

 

 

奇襲の効果で最初こそ敵の混乱に乗じてここまで拮抗に持ち込めたけど、段々と敵も立て直してきている。

元からいた私を追いかけて殺そうとした奴らと後ろから援護に来た無数の敵が集結している。

弾幕も激しくなり今飛び出したら・・・・。

 

 

「奇遇だねお姉ちゃん、私も怖い!」

 

「っ・・・・」

 

「ババババ――――」

 

「っひぃ!?ちょっと隊長、早くしないと多勢に無勢よ!戻って来なさい!」

 

「こんな事ならもっとゴツイ銃を物資から頂けば・・・ッ!」

 

「まだ死にたくないよぉおおお!!」

 

「でもねお姉ちゃん!誰だって怖い事はある、大事なのはそれを立ち向かって乗り越える事、でしょ!」

 

「乗り越え・・・・」

 

「だから今は一緒に乗り込えましょう!私を信じてください!」

 

「・・・・」

 

「敵は足を止めているぞ!」

 

「マシンガン部隊援護しろ!敵との距離を詰めて奴らの脳天を撃ち抜く!」

 

 

状況は刻一刻と悪化していてすぐにでも行動しないといけないというのにこの子は怖がる私を励ましてくれる。

銃弾が頬を掠めても、敵の雄たけびにも屈さずに私を真っすぐ見てくれている。

手を、差し伸べてくれている。私は・・・・・・。

 

 

「信じる・・・・私信じる、カフカちゃんの事を!」

 

「よし!じゃあこれお願い!」

 

「ライフルより機関銃を使う!」

 

「え、あ、まあ良し!合図したら行きます!3、2・・・・1、生きます!」

 

 

その手を取った、私に勇気を抱く事は出来ないけれど、誰かを信じて勇気の代わりとする事は出来る。

取り柄なんてあんまりない私を姉と呼んで慕ってくれて、裏表ない笑顔をいっぱいに浮かべてくれたこの子だから、カフカちゃんだからこそ信じられたのだと思う。

引っ張られて地面を滑る私は、もう顔を背けずに、逃げずに前を見据える。

 

 

「バババ!バン!」

 

「敵が逃げるぞ!撃てぇえええ!!」

 

「死ぬほど怖いけど隊長たちを援護するわよ、ここが踏ん張り所よ、二人とも!」

 

 

木の陰から飛び出した瞬間、同じく木の陰から敵が何人も体を晒して銃口を向けて来る。

出る杭を撃つように私は銃を構える、サイトの中心を敵に合わせて引き金を引く。

 

 

「ババン!「がはぁ・・・!」ババン!「ぐあぁああ!?指ガァア、俺の指がああ!」ババン!「あがごげ・・・あごぉ・・・ご、ごォ!!」――――――――」

 

「っ、狙いが正確だな、禄に顔出せねえ・・・!」

 

「弾切れの合間を待て・・・・・今だ―「バァン!」――アガ!?あぁああ肩がぁアアアア!!!」

 

「何だと!あいつ片手で狙いを付けてライフルを・・・!」

 

「あ、ありがとうカフカちゃん!」

 

「っどうも!こんな事なら片手でコッキングする方法を練習しておくん、だ・・・・ったぁ!」

 

 

こちらを狙っていた五人の内、四人は顔を出せないように狙撃ったけど力量不足で五人目に撃つ弾丸はなかった。

だけどカフカちゃんは片手で発砲して見事に敵を無力化した。

敵を怯ませている隙に私は空になった弾倉を放り捨ててカフカちゃんのお腹周りにある予備弾倉を引き抜いて交換する。

カフカちゃんは肩に銃を固定して片手でコッキングをする、器用な芸当をしながら後退していて本当に凄い。

 

 

「早く早く!ほら私に掴まって早く乗りなさいこの火中の栗女!」

 

「あ、ありがとう・・・・っぐぅ・・・・!」

 

 

車まで引っ張られてきた私はカフカちゃんの仲間の一人に肩を貸して貰って車の荷台に乗った。

敵が発砲した銃弾が車を貫く音や掠めている音が響く、それと運転席で酷く怯えている子供の声も。

 

 

「ひぃいい!!」

 

「ガンガン!ダルマン君発車、発車!全速力発進!」

 

「は、はい!え~っとクラッチ踏んでアクセル全開で・・・・・「ガコ、ガコガコ!」う、うわぁあああ!!やっぱり僕に運転なんて無理だよぉおお!!」

 

「クラッチは離してもアクセルは絶対に離さないでください!」

 

 

カフカちゃんはワイルドにも車から少し出っ張っている部分に足をかけて乗っている。

車ってそんな乗り方出来たんだと感心しながら私は荷台に伏せていた。

終始仲間に声掛けをして指揮をするカフカちゃんは格好良かった、ずっと見ていたぐらいに。

 

 

 

 

「た、助かった・・・不幸中の幸いね・・・・ッ!」

 

「ナイスです皆さん!物資からこっそり銃を頂いてなかったら危なかった!」

 

「ち、血を止められない・・・誰か手伝ってくれ!この人の出血が止まらない!」

 

「手伝うわシャルロット!」

 

 

後方への荷物を輸送している途中で助けを求める声を聴いた。

チェルナー隊長が迷いなく木々生い茂る、明らかに車が走れる場所じゃない所を爆走して敵の渦中に飛び込んだ。

その時はどうなるかと思ったけど意外と敵は臆病なようで、数とかで全然こっちが負けていたのに勝手に距離を取って、何だかんだして逃げる事に成功した。

助けを求めていた女性は足の太ももを撃ち抜かれていて、出血の勢いが強すぎて傷が塞がらずにいた。

 

 

「た、確か隊長が昨日同じ所を撃たれて・・・・隊長ぉ!昨日太もも撃たれた時にどうやって血を止めたの!」

 

「死ぬほどに足の上を縛って無理やり止めました!足がボンレスハムになるまで圧迫するんです!」

 

「ボンレスハムって何よボンレスハムって!」

 

 

育ちの違いのせいでハムなんて食べた事ないし見た事も殆どない。

なので隊長がどんな事を言っているのか分からなかったけど死ぬほどに無理やり締め上げて血流を止めるという事は分かった。

 

 

「ぼ、ボンレスハムはハムの一種で・・・!」

 

「もううるさい黙ってて隊長!貴女名前は!」

 

「アリンシャス・・・よ」

 

「長いわね、車の上だと舌を噛みそう。短くアリスと呼ばせて貰うわ、アリス、シャルロット、今から三人で協力して止血するわ、いい?!」

 

「どうするんだジュリー?」

 

「私・・・死ぬのかしら・・・」

 

「死なないわ!しっかりしなさい!」

 

 

弱気になりつつある貧血気味なアリスを叱咤激励しながら私は荷台に何個か転がっていた荷物を縛る頑丈な紐を拾い集める。

そしてそれを二人に渡す。

 

 

「アリスは一番手前、シャルは後ろ、私は傷口を全力で圧迫するわ!」

 

「ヴォアナさん、寝転がらせてください!血流を上がりにくくさせるんです!」

 

「アドバイスありがとうね!さあ行くわよ三人とも、せ~の!」

 

「「「!!!」」」

 

 

かなり全力で圧迫してドクドクと垂れていた血はみるみるに減っていき、私が抑えつけている布に滲んでいく血が止まった。

反面、足への血の流れを完全に遮断されたせいでアリスの顔は苦悶としており足は人間が出して良いような色をしていなかった。

 

 

「こ、このまま2分も圧迫すれば流血は完全に・・・・ッ!」

 

「ガコ!」

 

「うわぁ!?治療してるんだからもっと安全に運転しなさいよグース!」

 

「僕もうハンドル握ってないよ!」

 

「隊長、もっと安全運転しなさいよ!」

 

「ちょっとそれは難しいかも、後ろから追いかけられてる!」

 

「はぁ!?」

 

「「「ブォオオン」」」

 

「何よもうしつこい!」

 

 

後ろを見ると車にソリを付けたような奇天烈な車を乗り回してこちらに銃を構える野蛮人の姿があった。

タイヤを回す動力と比べて上から下に滑り降りるソリが何故タイヤを凌駕しているのか理解できない、ソリが回転しているようには見えないし。

 

 

「何よあれ!?」

 

「あれはタトラ=アエロサンです!飛行機みたいに大きなプロペラを回して動く雪の中を走る車です!」

 

「なら空でも飛んでなさいよ!これでも食らいなさ・・・・・」

 

「カチャリ」

 

「っ、皆!伏せ―――――――――」

 

 

追いかけて来る奴に鉛弾をお見舞いしようと顔を出した瞬間、敵の車中に明らかに今まで見てきた銃よりも二回り大きい銃が顔を見せていた。

大きいからと言って強いといった発想は馬鹿っぽいかなとも思うけれど、いざ相対すれば例えそうでなくとも恐怖を抱いてしまう。

人は未知にはめっぽう弱いのだ、特に危険な物事に関しては必要以上に警戒してしまう。

だけど今回は無条件に怖がっていいぐらい十分に危険だった。

 

 

「バババババ――――――――」

 

 

1秒間に何発もの弾丸を発射する暴力的な音と共にトラックのあちらこちらに穴が開いていく。

咄嗟に全員を伏せさせたけど身動きが出来ないこの空間で伏せる事は果たして正解だったのだろうか。

無数に飛来する弾丸が気まぐれで伏せている誰かの命を今この瞬間に奪っているかもしれないという恐怖に襲わる。

そして私自身も死ぬかもしれない、ここに来てやっと私は戦争の真の恐怖を味わった。

 

 




ヒロインのピンチに颯爽と現れるカフカちゃん格好いいね
これもう実質手つなぎデートでしょ、イチャイチャしてんね。
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