戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「シュウウ・・・・」
「あ、ぉ・・・あ・・・や、ぁ・・・お」
「ひ・・・っ」
すぐにあったのはトラックの体当たりで木に激突して大破した車。
乗っていた敵の内の一人は衝突の衝撃で車から投げ出されて恐らく頭を木に強打して近くの地面に転がっていた。
そして息のある一人は中途半端に投げ出されており、半身が窓を突き破って外に垂れていた、そして血も垂れている、あちらこちらから。
衝撃で体の中がぐちゃぐちゃになったのか、言葉を喋る事も体を動かす事も出来いようだった。
時々、苦しさを表した息遣いが漏れるだけであり、それが怖くて足早に去った。
「シャルは・・・・シャルは無事で・・・・きっと無事よ、そうよ無事に決まってるわ・・・・」
胸が締め付けられる。
最後に聞いた彼の声が頭から離れられない。
恐怖に苛まれつつも戦おうとしていた言葉を、そしてあの雄たけびを。
色々な気持ちが入り混じりながら道を進んで見つけたのはボロボロになっている敵の車。
「ッ」
私は銃を構える。
見た所、車の中には人は一人もいなかった。
シャルが生きているかもしれないという期待と敵がまだ生きているかもしれない恐ろしさが同居した。
「右・・・左・・・誰もいない、誰もいない?」
付近を軽く見回しても人影はない。
ならば木の陰に隠れているのか、無数にある木の裏を遠くから確認するすべなど持っていないので警戒を怠らずにまずは車に近づいてみる。
窓ガラスには血がこびりついており私達を殺しかけたゴツイ銃が足つきで備わっていた。
「ッ、この!」
苛立ち半分に銃を蹴りつけると銃座の足が折れて座席の方に落ちてしまった。
「ッチ、うざったいけどこういうのを奪って武器として使って・・・・っひぃ!?」
蹴り落した銃を拾おうとし屈み込んだら、座席と足場の隙間に人間が小さく縮こまって納まっている光景が見えた。
頑張れば入れるというレベルではなく、明らかに腕や足が曲がってはいけない方向に向いていて、肌と肌がはち切れそうな程に張っていて・・・。
何を間違えたらこんな事になるのか想像できない。
「何よこれ・・・・う、おぇ・・・・ぇえ・・・ご、お、おぇえェ・・・何で・・・気持ち悪い・・・う゛・・・・ごぉお」
地面にひれ伏して嘔吐する。
骨が体が突き出すとか想像もしない猟奇的な光景は無知な私に現実の凄惨さを分からせた。
お腹から色々と出てくると同時に、目からも・・・・。
「う、あ、・・・っぐぅ、泣くな、泣くなジュリー・・・・シャルはきっと無事、生きてる、生きてるに決まってる・・・・ッ!」
驚いて手放した敵の銃に再び手を伸ばして担ぐ。
「きっとシャルは途中で落ちたんだ、だからここにはいない、生きてるに決まってる」
生きているから私のせいじゃない。
私が怖がって、勇気が足りなくて、蹲って戦う事から逃げたせいじゃない。
生きていたら私のせいじゃない、死んでいたら紛う事なく私のせいだ。
「シャル・・・・シャルぅ・・・・・返事してよ、何処に居るの、私はここに居る・・・・ここに居るのよ、どうして貴方はいないの・・・・・」
歩こうとする足がほつれて雪の上に身を落とす。
進もうとする気持ちはあるのに湧き上がってくる後悔の念に心を押しつぶされそうになる。
「私が弱いから・・・怖がったりしたから・・・・シャル・・・お願いよ、生きていると言ってよシャル!まだ皆で死ぬほど美味しいもの、食べてないでしょう!」
私の声だけが静けき森に木霊する。
こんな事をしていたら、また隊長に怒られそうだけど、今は叫ばずにはいられなかった、後先なんて考える暇もなく。
「シャル、・・・・ぅ、ああ、ああ・・・私のせいでぇ・・・・いや、あ・・・うぅ゛あ、あ゛ぁあ・・・!!」
「かぁんどぉ、的だ・・・」
「!?」
「やぁジゅリー・・・・いぎてるよ・・・」
「シャル!?シャルなの、よかった生きて・・・・もぉ早く返事しなさいよこのバカァ!」
車があった付近の雪の中から手が一本生えてきた。
そこから声も聞こえてきて、私はすぐに駆け寄って積もっていた雪を取り払った。
中には見知った幼馴染の顔が出てきた。
「雪の枕で快眠だったよ・・・・君の声で目が覚めた・・・・あぁ、痛ったぁ・・・」
「だ、大丈夫よね!?ケガとかは・・・してない?」
「あぁえっと・・・敵の車に飛び乗って一人を投げ飛ばしてもう一人に二発ぐらい撃たれたけど・・・痛っ・・・・」
「た、大変・・・だ、大丈夫?」
シャルは少し血が滲んでいた部位の服を脱いで素肌を晒す。
中からは丸い銃創が現れて、もう既に瘡蓋が出来上がっており問題はないように見えたけど痛々しさは健在だった。
「こっちはそんなに・・・敵が運転する事を忘れて車が盛大に激突した時、投げ出されて背中をこの木に強打したんだ、そっちの方が正直痛い」
「全く・・・良かった、本当に良かった・・・!ふふ、木に激突したから後から落ちてきた雪に埋まってたのね」
「ああ成程、それよりも他の皆は無事?」
「ええ、ええ!一番酷いけがをしているのが隊長だけど・・・早く合流しましょう、敵の仲間がいつここを嗅ぎつけて来るか分からないし」
「そうだな、・・・痛っ・・・・悪い、ちょっと腰が立たないかもしれない」
「私に任せなさい!」
「お、・・・おぉ」
「麻袋を運ぶより簡単ね、私の肩でじっとしてなさいシャル」
「ありがとうジュリー」
片方に銃を片方にシャルを背負って私は来た道を引き返した。
道を過ぎ行く中で一度振り返る。
止まった車の屋根にはもう雪が積もり始めており、しばらくの時を隔てれば埋もれていくように思えた。
私達は止まる事なく進み続けられるようにと願った。
隊長と合流して車を動かして移動しようとしたけど、銃撃のせいかそれとも激しい体当たりのせいか分からないけれど故障してしまったらしい。
そのせいで歩いて移動する事になった、相変わらず手際の良い隊長は怪我をしている人の為に急造で担架を作った。
トラックの幌と若い木の幹から10分くらいで、手品師か何かだと思う、あれは。
「ごめんねカフカちゃん、それに皆も・・・・」
病人が如く担架で運ばれていた人だけど、止血してから意識を徐々に取り戻していて今は普通に会話は出来るし起き上がる事は出来ている。
だけど歩くには少し覚束なくて貧血気味だから、隊長の強い意思で担架に乗せて運んでいる。
「全くよ、とんでもなく酷い目に合ったわ!」
「で、でも皆無事だし結果良かったんじゃない?」
「俺はもう二度と御免だ・・・」
「一連の行動で一番飛びぬけて頭のネジが外れた行動をしている割には理性的な事を言うのねシャル」
「俺は至って理性的だ、銃撃の効果がなかったから接近して敵を無力化した。」
「ダルマン君がハンドルを握ってくれていれば私もしたんですけどね・・・・」
「あんたもなの・・・・隊長?」
どうやらこの小隊でまともなのは私とグースしかいない事が確定したようだ。
まさかシャルが向こう側の人間だとは・・・いや、よく考えたら戦場に行く際に何よりも鍋を先に持参している時点で彼も中々だと気付くべきだったのかもしれない。
「戦争は頭のネジが少し外れてるぐらいが丁度良いのかもね、ねじの緩め方とかコツがあったら教えて欲しいな・・・」
「ダメだよアリンシャスお姉ちゃん!・・・・そのままで居て」
「お姉ちゃん呼びしてるけどアリスはアンタの姉なの?」
「・・・・・」
流れで思わず聞いてしまったけど、私は自分でも珍しく言葉を間違えたと察した。
姉かどうか質問した次の瞬間に隊長は口を閉じて少し悲しそうに遠くを見ていた。
唐突に黙って空気が変になっている事にはっと気付いた隊長が慌てて私の質問に答えてくれた。
「あ、え、えっと違うけど・・・・アリス・・・?アリンシャスお姉ちゃんの事・・・アリス?」
「不自然?」
「いや・・・ちょっと、・・・・私より先に渾名で呼ぶなんてちょっと羨ましいなぁ、とか、私も呼びたいなぁ・・・・とか?」
誤魔化す様に話題を逸らす。
これ以上追及する気にはなれなかったので変わった方の話題に便乗する。
変えてきた話題だけど隊長当人を見たら結構本心で一言一言発している様に見える。
仕草が年相応の女の子で男にモテそうな女みたいな振る舞いをしている、女の私でも愛嬌を感じる程に。
「そうなのカフカちゃん?」
「いや、いや・・・・・ん、ンン・・・」
「良いよ、カフカちゃんが好きなように呼んで、私を無理にお姉ちゃんって呼ばなくても・・・・」
割と本気の声でアリスが隊長に姉と呼ぶのを辞めて良いと言って隊長はかなり衝撃を受けている。
蛇に睨まれた蛙・・・ではない、何というか私の乏しい語彙力では表現できないショックに満ちた顔をしていた。
「そんな事は!・・・・お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ、アリス・・・・お姉ちゃん?」
慌ててそれを否定した隊長はかなりモジモジと恥じらいながら捻りだす様に名前を呼んでいる。
なぜ名前を呼ぶだけでここまで大仕事な様相を呈しているのか私には理解できない。
「隊長なんでそんな乙女みたいに恥じらってるんですか?」
「は、恥じらってなんかないよシャルロット君!これはあれだよ、親しくない人との距離感を慎重に検討した結果の苦悶とか悩みとかそんな感じの溜めだよ!」
「は、早口ですねチェルナー隊長」
普段は口喧嘩は強い方な隊長だけど、なぜか今回に関しては調子が崩れている上にグースとシャルにボロクソに言われていて少し笑ってしまう。
「それを・・・恥じらいと言うんじゃないの、隊長?」
「う、う、うるさいなぁもう!」
私の言葉すらも理詰めではなく発露した感情で誤魔化している。
何だかんだで可愛い面も持っているんだぁと感じ入った。
「うふふ、・・・・皆仲良しなのね、元気でやってて良かった」
「・・・・・・アリスお姉ちゃんも無事で良かった、心からそう思う」
私達のやり取りを見ていたアリスは微笑んでいた。
その顔を見て赤く恥じらっていた隊長の顔がいつも通りに戻って、少しの笑顔が浮かんできた。
これから先も皆がこんな風に笑えたらなあと、思わずにはいられない。
「何だこれは・・・・第二旅団は僅かな負傷兵しかいないではないか」
ロニス師団長は敵の反撃に遭遇し潰走した第二旅団の慰問にやって来ていたが、普段聞く『負けた』という言葉以上に旅団が悲惨な状態にある現場を目の当たりにして言葉を失った。
指揮下にある1個師団の部隊を四つの旅団に分け、攻撃を実行したがこの第二旅団は敵の後方陣地に浸透して攻撃を行う命令を与えていた。
人員は4000名だったが今この場所には1000名いるかいないか程に損耗していた。
「報告しろ、第二旅団は何故このような状況に・・・」
「師団長殿・・・・」
「敵は想像以上の数なのか?武器類が潤沢だったのか?それともスノースにでも襲われたか?」
願わくば敗走した理由があの獰猛な肉食獣であるスノースのせいであって欲しい。
報告をするように命令したが旅団の面々は顔を見合わせて誰が口を開くか迷っている。
「何を戸惑っている、報告をしろ」
「・・・・中佐も少佐も戦死して・・・次席は・・・」
「あの大尉は喋れる状態じゃないだろ・・・だから一個下で・・・」
「俺かよ・・?報告します師団長殿」
「・・・・・」
不手際で待たされて眼前に現れたのは威厳など全くない士官学校を出たばかりの若造だった。
格好もだらしなく制服も着崩しており、階級章は斜めになっている。
「部隊は・・・・初めに敵の後方拠点と思われる陣地を襲撃し・・・中隊規模と思われる戦力を撃破しました。
その際に多少のハラスメント攻撃で損害が発生しましたが敵の奥地への浸透を続行しました・・・。」
「それで、何があった?」
「あ、あの・・・・敵の精鋭部隊と思われる300人程の中隊からの襲撃を受け敗走し・・・・・・」
「旅団が中隊の攻撃を受けて敗走?聞き間違いかな中尉、君は砲弾恐怖症を患って頭がおかしくなったんじゃないのか?」
「いいえ、いいえ大佐殿!・・・本当、です、旅団は敗走し、後方から駆けつけてきた敵に挟撃され壊滅しました」
「・・・・・・」
報告をする中尉を凝視する。
中隊に敗走するのは俄かに信じがたい上に、そんなあり得ない事態を見越したのか偶然なのか撤退中に敵に補足されるという不運を呪う。
一体どうすればそんな頑強な敵を粉砕できるのか。
「部隊の再編をする、中尉、君は現時点を以て大尉に昇進とする、第二連隊の指揮を執り無様に死んだ上司の名誉を挽回すると良い」
「む、無理です、この戦いは我々の敗北です・・・・第二旅団は既に小隊規模の戦闘力しかなく正面から攻撃を仕掛けた部隊も撃退されたと聞きます」
「一連の戦闘が勝利か敗北か判断するのは君の仕事じゃない
「ですが師団長殿・・・・誰がどう見てもこの戦いは我々の敗北で・・・・」
「敗北ではない!」
「ッ・・・・」
「敗北だと!?中央政府に一個師団を浪費したと言ってみろ!私はスパイの烙印を押されて投獄される。成果は何一つないと言ってみろ、私は処刑台の階段を登る事になる!貴様ら無能のせいで!」
声を荒げて叫ぶ、途轍もなく寒いというのに体中の穴という穴から汗が噴き出す。
無様な部隊を見る、確かにこの生意気な中尉の言う通り、第二旅団以外の部隊も損害を出して進撃を停止している。
言われる事は全て事実であり自明であることは理解している、そしてまた敗北が自身の人生の終焉を意味する事も。
「勝てている筈だ!何故負ける!敵は銃を禄に持たないウンターメッシュの集まりだ!ザワークラウト野郎・・・クソ!クソォオ!!」
周りにある物に壊して怒りを発散する。
雪を蹴りあげて自身が雄大で力ある人間だという満足感を取り戻そうとする。
だけどやっていく内に馬鹿らしくなって冷静さを取り戻していく。
「ハァ、ハァ・・・・ッち・・・・防衛構築をしろ、撤退はしない。攻勢に出て来るであろう敵を撃滅する、塹壕に籠って待ちの姿勢で迎え撃てば困難な事はない」
「・・・・・・・・」
『各部隊の損害』
第十四師団 第一旅団 第一突撃大隊 401名の損失、殲滅
第二工兵大隊 253名の損失、壊滅
第三援護大隊 42名の損失、戦闘力低下
第四偵察大隊 93名の損失、大隊機能の喪失
第二旅団 第五スキー大隊 525名の損失、殲滅
第六重歩兵大隊 537名の損失、殲滅
第七輸送大隊 199名の損失、全滅
第八機動大隊 105名の損失、大隊機能の喪失
第三旅団 第九医療大隊 23名の損失、損害軽微
第十砲撃大隊 戦闘行動中の事故により7名負傷、損害なし
第十一予備大隊 他部隊の損耗の補填の為、解体
第十二予備大隊 他部隊の損耗の補填の為、解体
第四旅団 後方待機の為、損害軽微
師団定員2万人の内、累計で4000人近い損失が発生、損耗率は2割強。
欠員の補充ないしは敵の攻撃を避けるために撤退を推奨する。
*殲滅・・・部隊の殆どが欠落している状態
*壊滅・・・部隊の半数が欠落している状態
*全滅・・・部隊の三割が欠落している状態
戦争で大人にならざるを得なかった子供がふとした拍子に子供らしい仕草を思い出したかのようにしだす光景からしか得られない栄養がある(早口)