戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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75自分を顧みない

「勝利に乾杯!アルデアルに乾杯!新たな友人に乾杯!」

 

「「「乾杯ィイ!!」」」

 

「か、かんぱい・・・?」

 

 

多くの人が音頭取りの人の合図に合わせてジョッキを高くつき上げる。

ヴォアナさんも渡された木製ジョッキを困惑気味に上に掲げて周りの人と同じように飲もうとする。

 

 

「ぶほぇ!?何よこの水・・・・変な味ィ・・・」

 

「あ、これはお酒ですね・・・・おいしい・・・・」

 

「昨日まで敵に攻められてピンチだと思っていたが・・・・こんな事をしていて大丈夫なのか?」

 

「や、やけっぱちのパーティーとかじゃないよね?」

 

 

何とか友軍と合流して私達は無事に帰還した訳だけれど、帰ってきて待っていたのは、強大な敵との続く死闘ではなく勝利の祝賀パーティーだった。

遅れながら私もジョッキに口をつける。

熱くないのに少し喉に熱を篭らせる喉ごしが堪らなく癖になる。

お酒の魔力に魅入られている私は悪い子ちゃんだ。

 

 

「ふわぁ・・・・癒される」

 

「良く飲めるわね隊長・・・・」

 

「果汁絞りのジュースないかな・・・・」

 

 

付近にあった椅子代わりの空箱に座る。

内臓まで抉られた脇の傷も気にならない程に治って、段々と本調子に戻ってきている。

ヴォアナさんとダルマン君はお酒の代わりに飲めるものを探し回っている。

シャルロット君はお酒だろうと何だろうと食べて飲む大食漢のようで、慌ただしくそこら中から食べ物を得てお腹に収めていた。

皆幸せそうだ。

 

 

「カフカちゃん、お酒飲めたんだね」

 

「あ、お姉ちゃん、怪我の具合はどう?」

 

「すっかり良くなったよ、ありがと」

 

「良かった」

 

「私よりもカフカちゃんだよ、ジュリーちゃんから聞いたけどあの銃で撃たれたんでしょ?」

 

 

お姉ちゃんは傍にある武器置き場になっている場所を指さす。

その中にダルマン君が担がされていたゴテゴテの機関銃があった、確かシュワルツローゼ機関銃という名前だった気がする。

 

 

「ああ、運転席の真横にやってきて、体当たりでも中々倒せなかったから窓開けて拳銃を片手に応戦してたんですけど脇腹に6発ぐらい」

 

「6発も!?あれは機関銃だよカフカちゃん!?拳銃とは違うんだよ、重機関銃だよ!?」

 

「怪我には慣れてるから大丈夫、大丈夫」

 

「・・・・・ダメだよ、もっと自分を大切にして」

 

「そんな、私よりもお姉ちゃんの方が命の危機で―――――」

 

「カフカちゃん!」

 

「ッ・・・・・」

 

「ごめんね、でも本気で心配してるの・・・・幾ら誰かを助ける為でも、自分の命を顧みないのはダメ」

 

「・・・・・・」

 

 

お姉ちゃんの言葉を受けて胸に手を当てて考えてみる。

もしも、もし一方の命を犠牲にして一方を助けられる状況に遭遇したら私はどうするのだろう。

誰かを犠牲にしてまで私は生きることが出来るのだろうか。

生き続けた私は、果たして私たり得るのか。

 

 

「お願い、分かってカフカちゃん、助けてくれたのは感謝してもしきれないけど、・・・・ね?」

 

「うん、・・・分かったよお姉ちゃん、私は自分も大切にする」

 

「良かった」

 

「ね、ねえお姉ちゃん」

 

「なに?」

 

「一つご褒美というか、・・・・お願いだけど」

 

「私に?いいよ、なにをすればいいの?」

 

「これ」

 

「・・・・あ、」

 

 

私は飲み物を置いてお姉ちゃんに近づく、そしてその胸に飛び込む。

 

 

「ちょっと、ぎゅっとして欲しいんです・・・また・・・あの時みたいに」

 

「カフカちゃん・・・・・」

 

「安心するんです、怖い事とか、辛い事とか和らぐ・・・・だから」

 

「うん、いいよ・・・・」

 

 

お姉ちゃんに言った事も確かに事実だ、罪の意識に圧し潰されそうな私を救ってくれたのはこの暖かい抱擁だ。

だけど今は、別段罪に圧し潰されそうなほどに憔悴もしていない。

ただ感じたかっただけだ、私にとってのお姉ちゃん、アリスお姉ちゃん、アリンシャス・ループレヒトの感触を。

 

背中に回ってきたお姉ちゃんの腕が私の背中に触れて心地よく抱いてくれる。

私もお姉ちゃんの背中に触れ、擦って、抱きしめる。

体と体が触れあいお互いの温もりを共有する。

 

もし、お姉ちゃんと私がどちらかの命を犠牲にしなければいけない状況に差し迫った時。

ごめんない、その時は間違いなくお姉ちゃんを裏切る事になる。

どうか神様、普段は信じてない癖にこんな時だけ都合が良いかもしれないけど、そんな選択を私にさせないでください。

触れ合う感覚に身を任せて、私はしばらくお姉ちゃんの腕の中で眠った。

 

 

「・・・・・んっ」

 

「もういいの?」

 

「うん、ありがとう」

 

 

前に垂れ下がって来た髪の毛を退けてお姉ちゃんの顔を見る。

優しく微笑んでくれている、私も笑顔で返す。

 

 

「じゃ、また後でねカフカちゃん」

 

「お姉ちゃんも」

 

 

 

 

 

 

「――――俺はびびって敵を5人しかやれなかったけどな」

 

「畜生負けた、こっちは4人だよ、でも全員の脳天を炸裂されたぜ」

 

「俺は二人だけど二人ともこの両手で真っ二つに引き裂いてぐちゃぐちゃにしてやった」

 

「すっげぇ~ハチの巣にされるのによくやったなぁ、素手で!」

 

「容易い事じゃないぞ―――」

 

 

身内での話が一段落すると周りの話し声に耳を傾けてしまう。

戦果自慢と言えば聞こえはいいが飾らずに言えば殺害人数を自慢し合っているのは聞いてて気分が良くない。

見てくれだけが格好良くて様になる勲章も、人を殺して手に入れる物だから今となってはもう同じ目で見る事は出来ない。

人を殺さなくても勲章は手に入るらしいけどそんなの区別出来っこない。

吐き気を催す程の嫌悪感を感じる前に私はこの場所を離れた。

 

 

「敵と戦うかもしれないのにこんな飲んで騒いで・・・・勝ったらしいけど、これで終わるのかな戦いは・・・」

 

 

雪の上に座りジョッキを傾ける。

もう僅かしか残っていないお酒を一気に喉に流し込む。

 

 

「ふぅ・・・・」

 

 

熱くなった口から白い吐息が出てくる。

兵士たる者、滅多に出す事はないので物珍しい。

 

 

「ほ、ほ・・・はぁあ・・・・」

 

 

出して儚く消えてゆく吐息。

しばらくすれば口の中がいつもの温度に戻って透明な吐息に戻ってしまう。

 

 

「何やってんだお前」

 

「わ」

 

 

すっかり上の空になって空を仰いでいたら唐突に眼前に人が現れてびっくりした。

この辺りでは見慣れない服装をした人で一瞬敵かと警戒したけど、どうやら違うようだ。

 

 

「折角向こうで勝ったぜパーティーしてるのにこんな所で、村八分で嫌われてんのか?」

 

「違いますよ、・・・ここにいちゃダメですか?」

 

「いいや全然構わないぜ、俺はゲリンゲル・スノウ、ドットトーチカ小隊の小隊長だ、よろしく頼む」

 

「私はチェルナー・カフカです、・・・・4人ぐらいの偵察小隊の隊長です、一応」

 

 

お互いに握手を交わす。

 

 

「スノウ君は何をしているんですか?」

 

「俺か?そりゃあ警備だよ、誰かが見張らないと、まあもうすぐ交代の時間だけどな」

 

「ご苦労様です」

 

「良いって事よ!でもパーティーに時間はかけすぎるな、俺達は自由の為に戦っている道中なんだ、足を止めるのは良くない」

 

「同感です、早く戦いを終わらせて平和が戻ってきて欲しいです」

 

「お、・・・そうなのか?」

 

「平和になって欲しくないんですか?」

 

「い、いや・・・思うよ、だけど珍しいだろ?殆どの奴は大暴れ出来て好き勝手しても咎められない暴力万歳ってスタンスなんだぜ?」

 

「身勝手で、この上なく放逐してはいけない人達ですね」

 

「・・・・」

 

「あ、すいません言葉が過ぎ―――――」

 

「―――お前の言う通りだ!」

 

「っへ?」

 

「いやぁ話が分かるじゃないかカフカ君!俺もそう思うんだ、早くこんな悪事に手を染めないといけない世界を変えなければと思っていたんだ!」

 

 

唐突に沸き上がったスノウ君は両手でガッツポーツをしながら私の言った事を肯定した。

てっきり独善的過ぎて嫌な顔をされると思ったのに予想外だった。

 

 

「もっと話をしたいんだけど交代の時間なんだ!」

 

「なら散歩がてらご一緒しましょうか?いつまでもここに座っているよりは楽しそうですし」

 

「本当か!良い奴だなカフカ君は!」

 

「ところでスノウ君はどこの番地の出身なんですか?熱い情熱を秘めているように見えますけど議場とかには参加してたりしました?」

 

「ああいや・・・・知らない俺達の事?」

 

「いいえ全く」

 

「そうか、では改めて・・・俺達はここアルデアル居住地が悪逆非道な現政府に対して挑戦する為に立ち上がったと聞いて合流してきた・・・・・犯罪者集団だ」

 

「は、・・・犯罪?」

 

「恥ずかしい話だが、まあ俺達はドットトーチカって名前で活動していた犯罪者だ、強制移住に反抗して・・・テロリストと言われたら心外だから犯罪者が妥当だな」

 

 

自分たちをどう言い表すかでスノウ君は少し戸惑ったようだけど、はっきりと自虐的に自分を犯罪者と言った。

嫌悪感を抱かずにはいられなかったが、よく考えたら人を撃ち殺してる私が言えた義理ではない、私は彼ら以上に極悪人かもしれないから。

改めて自分がどのような所業を行ったのか実感し、気持ちが沈む。

 

「私達が立ち上がった・・・随分と好意的に捉えてくれたんですね」

 

「違うのか?」

 

「私は・・・・ッ・・・・食料を全部徴収していこうとした人たちを・・・決して争うつもりはなかったんです、ただ・・・普通に毎日を生きたいと思って・・・誰も死んで欲しくなくて、必死で・・・・」

 

「何か辛い事でもあったのか?」

 

「辛いというか・・・最近は色々な事が起こり過ぎて心が何というか・・・・疲れてるんです」

 

「分かるよ、俺も・・・・真面目に生きてたらこんな狂った争いには疲れる」

 

 

酷い仮定だけど私に人殺しを楽しむ気概があって、この力を存分に振るう事で満たされる需要があるとしたら、こんなに疲れることはなかったと思う。

でも、今からでもそちら側に行くかと甘言を受けても私は絶対に断る、冗談じゃない。

だけどやはり気楽でいいなぁと思ってしまう、矛盾している。

心が摩耗して形を保てなくなっているのか。

 

 

「ここに来る前は犯罪・・・と言いましたけど何をしていたんですか?」

 

「あー・・・・盗みに盗みに盗み・・・・全部盗みだな」

 

「誰かを殺したりしたんですか?」

 

「・・・・・・・ああ、もちろん、何事もなく終わる方が難しい、どれだけ望んでも難しい」

 

「・・・・・・」

 

「だからこそ、もう盗んで殺して、誰かが不幸にならないように、平和で普通に暮らしていける世の中を作りたいんだ」

 

「・・・・!」

 

「手を汚して散々人から奪った俺が言うのも何だけど、願っちまうんだ、いや願う以上に、この手で叶えたい、そう思うようになって、ここに来たんだ」

 

「なるほど・・・・」

 

「あはは、ガキみたいだろ?変に理想抱いて高望みして・・・青臭くて自分でも気恥ずかしくなるよ、時々」

 

 

少し私から顔を背けて明後日の方向を見るスノウ君。

悶々とした感情を色々と抱えていたけど私は叫ばずにはいられなかった

 

 

「恥ずかしくなんてないです!」

 

「お、おう?」

 

「良いじゃないですか!立派ですよ。私は尊敬します、そういう事を理念に掲げる人を、応援します、そして私も同じように・・・・叶えたい」

 

「・・・・・」

 

「殺し合うのは嫌だ、一方的にも奪われるのも嫌です、だけど受けてきた痛みを痛みで報復するなんて私はもっと嫌です」

 

「あぁ同感だ、いや良かった・・・ここに来て、もっと語り明かしたいがまずは交代の手続きだ、ちょっと待っていてくれ」

 

「あ、はい!待ってます」

 

 

気付けば友軍が設営した陣地に到着した。

何個かの仮設テントが規則正しく配置されており、外のキャンプスペースでは鍋を囲って食事をしている人も見受けられる。

居住地では見た事のない格好の人達が多めだから多分、彼らがスノウ君の仲間達なのだろう。

私は浮足立ちながら話が合う人の帰りを待った。

 




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