戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
詳しくは活動報告の方を参照してください。
「先ずは敵の奇襲撃退と多大な助力に感謝する、アルデアルを代表する者として」
「おう!どんなもんだい!」
「随分とフンラクな口調に代わりましたね、・・・ど、同志アズトナーシャ・・・・」
まだ向こうに倣った挨拶には抵抗がある。
向こうもこちらの言葉に戸惑っているが呼び方程度の些細な問題ではなさそうだ。
「あ、いや・・・え~・・・・」
「無理に固い口調になる必要はありません、ここでは上下関係は希薄ですから」
「にゃ?本当か?助かるんだわ~!」
会った時は言い表せぬ不気味さを漂わせていたこの異国の代表者だが場慣れをしていないのか今はすっかり口下手な一人の人間に見えるようになってきた。
こうもう少し・・・敵の返り血で染まっていなければ仲良く出来た気がするが、彼女の仲間が端っこで雪を被って血を洗い流している光景は異常に感じる。
普通の人間は寒くて雪で顔なんて洗う発想は出来ないから。
「代表者との取り決めで正式にアルデアルは君達との提携に合意した、これからは君達の一団を友人として迎え入れ仲間として頼る事になる」
「賢い選択だな、いやぁ良かった良かった」
「細かい示し合わせをしたいが構わないか?」
「いいぜ、私達もお前達に聞くべきことは沢山あるからな」
「聞くべき事?」
「おう、あ、こっちから聞く流れか?」
「構わない」
「一番大切な質問だが、お前達はどこを目標にしてこの戦争を遂行するんだ?」
「目標?」
「戦争目標は?それを達成するために執るべき行動は、敵にどれだけ出血を強いるか、どれだけ都市を占領するか、それを定めなければ歩調は乱れるし無駄に長引くだけだ」
「・・・・・・」
「え、決まってないのか?」
「住民が声高に叫ぶスローガンはよく聞く、だが統一された意志として何を目標にしているのは定かではない」
「マジか・・・早く決めとけよ」
「申し訳ない」
「暫定的で良いからどんな目標になりそうか教えてくれ」
「私個人としては、中央政府と交渉して居住地に対する税制の改革と『兵士』に対する人権問題に取り組む約束を取り付ける要求が最良と考えている」
「随分と控えめだが一番早く終わりそうなだな、現実的でグッドだ」
「住人達の意見としては完全な独立を叫ぶ者、連邦を粉砕したい者、虐げられる状況を変えたい者がいると考えている」
「そういう彼らとの協調を怠らない事をお勧めするぜ」
「忠言感謝する」
どうやら彼女は仕事を進めていけば勝手に真面目な口調に代わるようで格好から入るタイプではないのだろう。
戦争目標は何かと鋭く問われた時にやり手のオーラを少し感じた、格好や姿は幼いがやはり兵士はそれだけで判断できない人材が多いように思う。
「次に確認したい事だが、軍・・・と言える代物かは分からないが、武装集団の編成や統制はどうなっているんだ?答えられる範囲で構わない」
「居住地から志願した者達を知識のある者達に編成させた、急ぎの仕事の為こちらに詳細な資料はあまり上がっていないが・・・・これだな」
「ふむふむ・・・・・1000人単位の集団を三つ作成しそれぞれを軍識者に運用させる・・・野戦将校経験者でもいるのか、少し畑違いな気もするが・・・・軍総数は4000人前後、旅団規模か」
彼女はぶつぶつと、恐らくあちらの母国語を呟きながらページをめくっている。
軍編成の情報を渡すのはかなりリスキーだが、先の活躍を見るに彼らは軍事経験が我々とは段違いの職業軍人に見える。
その為、得られる有望な助言に賭けてこちらの状況は隠すことなく伝えた。
「士官教育を受けた兵士はごく僅かだけと思っていたが指揮を執っている者は十分な指導力があるのか?」
「士官教育・・・?分からない、現場の決め事で最も知識のある者に一任している」
「放任主義だな、末端の暴走を止められないぞ」
「暴走?歩調の合わない進撃はしないように厳守させているが・・・・」
「違う、秩序の話だ。誰も彼もが同志パーペンの様にスーツに袖を通してお行儀よく話し合う訳ではないんだ」
「・・・・・・」
「何人かの監督を派遣して部隊の規律の把握に努めた方が良い、人手が足りないなら部隊内の信用できる身内に内情の把握を任せるのも」
「それではまるでスパイじゃないか、彼らは味方だ」
「違う、武器を持った者は誰しも獣になる、手綱は握らなければならないんだ」
「常識的なやり方とは思えない」
「強要はしない、だが私は忠告したからな、後になって泣きついても助けられんぞ」
苦楽を共にしてきた仲間を雑に括って酷評する姿勢に少し憤りを覚えてしまったが、冷静になってみれば危惧する気持ちも分かる。
だがだとしても監視者を送り込んで厳しく統制するのは民主的じゃない。
顔も知らない誰かの一団ならやったかもしれないが彼らは仲間なのだからそんな事はしたくない。
「さて次だ、・・・・・任意の話だが戦争において私服で戦う事は後々の禍根になる事がある」
「一応の区別の為に統一的な記号は導入しているが・・・・」
「あの腕に巻きつける布切れの事か?身内に分かっても敵に伝わらなければ意味がない、ルールを守って戦争をするなとは言わない、だから任意だともう一度言おう」
「了解した、それで?」
「同志達に相応の服装も共に用意する準備が出来ているぞ」
「君達の国のを着るのはお断りだぞ」
「そんな事する訳ないだろう、望めば小銃と同梱にして配達させるが」
「代金は?」
「未来に築くだろう我々との友好への投資と思ってくれ!」
「・・・・・肝に銘じておこう」
こちらの返事に対して満足気な様子だ。
戦後は一体どのような代償を払うのか考えたくもないが、収穫した作物を100%徴収してくるぐらいの蛮行はないだろうと信じたい。
「さて、次は特に重要な事だ」
「何かな?」
「アルデアルと暫定的に呼称しているが同志は自分たちを何者だと名乗る、世界に自身達の存在を喧伝し知らしめる際にどう表現するのだ」
「・・・・・」
「名前は大事だ、正当性の確保に繋がり参加者の士気すらも左右する」
「議場に持って行く議題に加えよう」
「面白い返事を期待しているぞ」
官僚としての経験を以てしても戦争を始める際の決め事や、やるべき事の周知は難しい。
言われてから初めて気付くことだってあるし子供でも分かるような大事な事を失念する事も珍しくない。
そのような抜け落ちた要素を指摘し補完してくれる助言者の存在は有り難かった。
しばらくはまた仕事が増え眠れる日々が続きそうなのは贅沢な悩みなのだろうが。
「敵国の攻略はまだ終わらんのか!」
「ッ・・・・」
「貴様らの目算では遅くとも11月中旬に作戦は完了し戦争は終わると言った事を私は覚えているぞ!今は何時だ言っみろ!11月の末の末だ!よもや私の周りだけ時間の流れが違うと言うつもりか!」
「も、申し訳ありません宰相閣下・・・・冬季装備の不足と敵の粘り強い抵抗により想定以上の事態が起きまして・・・・・」
「想定外も想定しておくのが戦争なのではないか将軍!」
執務室から飛ぶ怒号は日に日に多くなり、執務室前の歩哨二人は耳に胼胝ができる程にウォーロック首相の声を聞きうんざりとしていた。
そして報告を上げた将軍はパーキンソン病の重篤患者かの如く手が震えておりそのような軟弱な態度がよりウォーロックの怒りを際立たせた。
「何もかも貴様ら軟弱な軍部のせいだ!軟弱者のカマ野郎の集まり!全てを与えても尚足りないと喚き散らし国を食いつぶす寄生虫!」
「主席宰相閣下・・・作戦を中止になさって、講和をするべきです・・・・?」
「講和だと?」
「はい・・・・もう既に備蓄食料は切り崩され民間用の配給は完全に停止しています、このまま戦争を続ければ民は飢えに倒れ勝利をしたとしても残る物は・・・・・」
「では軍用の食料を民間に回せ」
「閣下・・・・それでは軍隊の食料が・・・・講和締結まで彼らには戦闘を続けて貰う必要があります、食料を取り上げては敵と戦えません・・・・」
「ならどうすればいいのだ!貴様は何が言いたいのだ!」
「・・・・・・閣下、この戦争は我々の負けです、もう終わりにしましょう、無駄な戦いは続けるべきではありません、堅牢に固められた敵の機関銃陣地に突撃した若者の死体が積み上がっています、今この瞬間も」
「国家の為に死ぬのは若者の使命だろう?」
「・・・・ッ!?」
「講和などあり得ない!」
「閣下!もう既に30万近い国民が戦争によって倒れているんです、お願いです・・・・どうか、負けを認めてください・・・・ッ・・・・!」
「奴らに敗北する事は我々の理念の敗北だ!兵士に篭絡され、毒された梅毒国家の手に落ちるぐらいなら連邦は最後の一人まで戦う」
「馬鹿げてる・・・・!」
「敗北は全て貴様ら将軍のせいだ、この売国奴共が!」
ウォーロックは渡された報告書を将軍に投げつけ会話を打ち切る。
必死の懇願虚しくも呆然と立ち尽くす将軍は目の焦点が定まらず震えている。
そして・・・・
「ッ、全部貴様のせいだウォーロック!貴様が作戦遂行の師団を途中で引き抜かなければ!」
「何だと!」
「大見得を切って軍の作戦に介入し無理難題を突き付けて優秀な将兵を貴様が殺したせいだ!この戦争の敗因は貴様にある!」
「何事ですか首相閣下」
「こいつを逮捕しろ!国家反逆罪として処刑台に登るのを楽しみにしていろ貴様!」
「処刑台にかけられるのは貴様だウォーロック!精々その日まで妄想に縋って現実から逃げると良い!!離せ、自分で歩いていく!」
不忠者を一人排除したウォーロックだったが彼の不満が解消されることはない。
彼は執務室に飾られている世界地図を見る。
巨大な世界では取るに足らない一地方である母国がそこにはある。
「こんなはずじゃなかった・・・・はぁ、・・・・揃いも揃って、私の単純明快で簡潔な言葉すらも理解できない賢しい猿ばかり」
座っているだけでは鬱憤が堪るばかりだったので彼は立ち上がり地図に近づく。
そして母国を撫でる、だけれど幾ら地図でそれに触れ、手で覆ったとしてもこの国は完全に彼の物にはなれない。
「様悪しい兵士共の反乱が鎮圧され、食料の徴収が出来たのならまだ戦える・・・勝つことが出来る、全くまだ徴収は終わらないのか・・・・」
ウォーロックは内線でどの担当者に連絡をすれば反乱の鎮圧に派遣された部隊の詳細の状況を把握できるか思い出そうとしていた。
そして黒電話のダイヤルに指をかけ離す、回された分滑るように回転して元に戻る。
暫くの沈黙の後にウォーロックは担当者と電話で話を始めた。
「備品の搬入を急げ!ほらほらさっさと運ぶんだ怠けものども!」
「折角貿易が停止して惰眠を貪れると思ったのに、トホホ・・・・」
第四次バルカン戦争の勃発に伴い、折角再整備したセヴァストポリ港は閑古鳥が鳴く程に閑散としていたが、珍しく今日は雇われ労働者が汗水を垂らして荷物を運んでいた。
彼らは本国から中身のよく分からない無駄に重い荷物を何個も何個も運び続けた。
「この給料泥棒どもが!怠けていた分せっせと働け!楽しい冬休みは終わりだ!」
「まだ冬も本格的じゃないってのに・・・・」
輸送船から積み下ろされた荷物はトラックで港の奥に運ばれていく。
大抵は港に置いてやってきた貿易船に積み込むのがセオリーだったので労働者達からしたら珍しかった。
「あ、同志、ここから先立ち入り禁止ですよ」
「今日だけは良いんだよ、撮影は禁止だぞ」
「そっすか、未知の領域だな、ワクワクするぜ~」
「なんか面白いモンみられっかなぁ」
「スノースとかいないですよね?」
「いても襲われないから安心しろ」
「え、いるの?ちょっと腹痛が・・・・」
「病欠は許さん、働け」
20台近くのトラックが降り積もった雪の道を開拓して先に進む。
党の偉い人が普段は施錠されたフェンスを開錠してさらに奥に進んでいく。
労働者達は唐突にあの化け物共に襲われないかとヒヤヒヤしていたが数刻したらその懸念を忘れた。
「な、何すかここ!」
「今年の初めに始動したばかりの六ヵ年計画に含まれる空路整備計画で策定された空港の一つだな、ゆくゆくは人民が飛行機で旅行できる時代がやって来る」
「すっげぇ!飛行機たくさん、俺ワクワクして来たぜ!」
「こんな場所あるなら早く言ってくださいよ!」
「もしここの事を誰かに言うのならば聞いた者諸共に北方再開拓団に異動になるぞ、酒で口を緩ませない事だな」
「あ、ハイ・・・・・」
格納庫から今現在も出されつつある輸送機の光景と言ったら年を取って世間に興味を失った労働者達の目でも釘付けにするのは容易いぐらいに圧巻だった。
整備士やパイロットが機体の整備をしており人の手で巨大なプロペラが手動で回され不備がないか点検されていた。
「到着だ、荷物を積み下ろしたら変な詮索はせずに真っすぐ家に帰ると良い、そしてまた仕事が来るまで惰眠を貪れ」
「へ、へぇ・・・・わかりやした、えへへ!」
「うぉおお中入って良いのか!?入れるの!?」
「中に入らないと詰め込めないだろうが、さっさと入って荷物を置いて出てこい」
「おぉおおお・・・!!」
「詰め込んだら早く出てこい!」
労働者達は初めて見る輸送機に釘付けになって中々荷物の搬入が進まなかった。
整備が終わり手が空いた整備士が手伝って作業の遅れを補填していた。
「政治将校さんよぉ」
「何かな?」
「聞いていたより荷物が多いんだが?」
「燃料は満タンだ」
「そういう事じゃねえんだよな、ほら労働環境っていうのか、機体の中のスペースが狭くなったらその分俺達も大変なんだ」
「なるほど、同じ感想を抱いた者は?」
「さぁ俺以外は頭の回らない馬鹿だからどうだろうな」
「・・・ではこれで不満を発散すると良い、仕事終わりに」
「ニヤリ」
「他には問題が?」
「いいや、万全だ、お任せあれ」
金を手渡されたパイロットの一人は満足げに機体に乗り込んでいく。
政治将校は先ほど話しかけてきたパイロットの乗り込んだ輸送機を凝視した。
「鎌と槌のデカール、無駄にノーズアートが多いな・・・・資本主義にかぶれた対敵協力者として告発してやろうか、四番機・・・第七航空輸送隊っと」
話しかけてきた人物の特徴と機体の情報をメモした政治将校は深く呼吸をする。
輸送機のエンジンが始動しプロペラが激しく回転し始めたので彼も滑走路の横に待機して輸送隊の出発を見守った。
「あの飛行機たちはどこに行くんです!」
「秘密だ」
「方面的にはカザフ辺りでしょうか!」
「馬鹿かお前、カフカースだよ」
「違うなバルカン方面だ」
政治将校は労働者達が本気で物を言っているのか言葉を疑った。
だが彼らの育った年代をよく考えれば十分な教育を受けていないであろうことを思い出した。
「バルカン方面だ同志労働者諸君」
「あっるぇ~!言って良いんですか!?」
「お、俺は聞いてないっすよ!だから北方開拓団行きはご勘弁くだせえ!」
「まあどこに行こうが俺達には大して関係ないんだがな!」
「方角ぐらい覚えると良い、あちらが西で反対側が東、向かうと寒くなる方角が北、その反対が南だ」
「ん~難しいっすねぇ!」
「き、北・・・南、西?」
「そっちは東じゃねえのか?」
再教育には手を焼きそうな事を痛感した政治将校だった。
通過する輸送機の起こす風が地面の雪を付近で見守る者に浴びせ始めたので、服が汚れるのを嫌った政治将校は早めに横に避けた。
「ブォオオン」「ブォオン!」
「・・・・空から運ばれる助けが君の仕事の一日も早い完了に繋がるように、アズ姉・・・・早く帰ってこい」
「ブォ・・・・ボボ」
「うわぁああ飛行機から火が出てるぞ!?」
「やべーぞ整備不良だ!」
「消せ消せ!」
「・・・・・整備士を粛正か、予算を増額して航空隊の拡充を図るべきか、仕事がまた一つ増えたな」
滑走路から飛び立とうとしたところ、突如エンジンが黒煙を吹いて停止した輸送機に人が群がる。
まもなく赤い炎が顔を覗かせたが飛行機に夢中な労働者達が雪を被せて消化する事に成功していた。
ひと段落したら政治将校はまた集団の中に戻り、音頭を取り故障した輸送機を退かせ待機している輸送機の発進を急がせた。