戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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何か急に閲覧者増えててびっくりなんだ・・・
期待に応えられるように頑張ります。
それはそうと「ここすき一覧」なんですけど書いた文章を特別に褒められてる感じがして無茶苦茶嬉しかった(小並感)


78戦争特需

「さあ出発だお前等!お喋りは程々にしろ、暗闇の中で敵に察知されたくなかったらな!」

 

「鋏二個・・・鋏、殴るなら自分の拳で間に合ってるっての・・・・ブツブツ」

 

「全く使えない事もないかもしれませんよ」

 

「今度はどんな前向き思考を披露してくれるのよ隊長」

 

「戦いに使えなくても日常生活で使えるかもしれませんよ、木の裁断、動物の解体、薄い金属板の加工とかに」

 

「どれも縁遠いな・・・」

 

「あるだけ感謝しろって事かな・・・」

 

「はぁ・・・」

 

 

かなり好意的に解釈するけど私だって不満だ。

先鋒を務める部隊への特別な武器を配るとしてこれを入れた人は何を考えているんだと腹が立ってくる。

手榴弾とか機関銃とか倍率スコープとか良い物ばかり入っていたというのにまるで残念賞が如くこの鋏を入れるなんて性格を疑う。

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

いや待て、武器の配備を司っているのは結構頭が回る人達だ、アリスお姉ちゃんとかローンおじさんとかがやっている。

命を賭けて戦う人におふざけ半分で鋏を渡すとは思えない。

というか居住地は備品不足でこんな鉄の鋏があるならそっちで使うはずだ。

なのにそれをこちらにわざわざ渡して来たという事は・・・・。

 

 

「これは何か有用な使い方があるのかな・・・」

 

「あるの?」

 

「敵をぶった切って殴る以外に何の使い道があるのよ」

 

「鋏だから何かを切るんじゃないか?」

 

「戦場で何かを切ってる暇なんてあるの・・・?」

 

「っし、お前等、そろそろ静かにしろ」

 

「りょ、了解です」

 

「「「・・・・・」」」

 

 

鋏に関して少し馬鹿らしくなるぐらいに熟考をしていたら遠方に灯が見え始めた。

あれは敵の防衛陣地・・・いや野営地の光だ。

防衛陣地は手前のあまり明るくない場所だ。

 

 

「前から伝言だ、攻撃開始時刻は21時きっかりだ、あと・・・20分近くあるな、全員姿勢を低くして息を潜めろだってよ」

 

「て、敵の目の前で20分も伏せて待つの・・・・・?」

 

「バレやしないって、心配すんな・・・・静かにしてたらすぐだ、寝ても良いぞ、起きた時には俺達が終わらせてる」

 

 

どうやら少し待機をしてから攻撃を始めるようだ。

後詰の人達の配置完了を待っているのかそれとも複数方向からの同時攻撃をする為に待機をするのか。

ただの歩兵である私には関係ない話だけど、待つのは・・・・

 

 

「っ・・・・・・・っぅ・・・」

 

「大丈夫グース?」

 

「怖い・・・今にも狙撃される気がして・・・・」

 

「心配するな、普通の人間は俺達みたいに夜目が利く訳じゃないんだら、光源さえなければ大丈夫だ」

 

「不安なら雪に埋めましょうか?」

 

「う、埋めないで隊長・・・!」

 

「あ、いや・・・そう言う事じゃなくて・・・あ、前の人がやってますね、あんな感じです」

 

 

前方にいる人達を指さす。

匍匐状態になっている人たちの中でも自身に雪を被せて埋まろうとしている人が何人かいた。

少し離れた場所から見たら注視しない限りいる事なんて分からなくなる。

 

 

「凄いわね、完全に地面ね」

 

「お、お願い隊長・・・僕を埋めて・・・!」

 

「仰せのままに、ほらいきますよ・・・」

 

 

風が吹けばかき消されそうな小声で会話をして不安に負けそうなダルマン君を助ける。

ヴォアナさんやシャルロット君も前の人の真似をして雪に埋まろうとしていた。

私もダルマン君を埋め終えて最後に自分が埋まろうとした瞬間―――――――

 

 

「――ポ」

 

 

眩しい光に目を焼かれた。

 

 

 

「な、何だ!?」「空が急に明るくなって!」「あれは何だ太陽か!?」

 

「お前等騒ぐな敵に位置が露見するぞ!」

 

「こんなに明るかったらもうバレてるだろ!」

 

「どうするんだ!?ど、どうするんだ!?」

 

 

しばらく視界が真っ白で前が見えなかった、手で眩しい光を少し遮ってからやっと徐々に周りが見えるようになってきた。

空には光りを放つ球体が十数個も撃ち上げられており周りの暗い景色を明るく照らしていた。

こちらも敵もはっきりとした光の下に晒された。

 

 

「照明弾だ!総員前進だ、何でこうなったんだクソォ!」

 

「夜間偵察では一回も照明弾なんか撃ちあがらなかったのに何で今回に限って!」

 

 

照明弾の光に晒されるのは一年ぶりだ、訓練時代に数回しか実施されなかった夜間射撃訓練で何回か小型の迫撃砲で打ち上げた記憶がある。

あれは1分や2分で消える代物ではない、消えるまで待っても代わりの照明は沢山ある事だろう。

つまり姿を暴かれた部隊が取る選択肢は二つ、迅速な攻撃か、撤退。

中隊長は攻撃を選んだ。

 

 

「畜生動け!急げ急げ!」

 

「敵の塹壕に飛び込むんだ!」

 

「ま、待って!っぅ・・・!」

 

「急ぎなさいグース何やってんのよもぅ!」

 

 

慌てて起き上がった前の人達は足早に走り始める。

ダルマン君は腰でも抜かしたのか起き上がらずにモタモタしていると私達は置いていかれる。

不満を露わにしたヴォアナさんが乱暴にダルマン君を雪から引き抜く。

 

 

「急ぎますよ皆さん!敵が攻撃態勢を整え――――――――」

 

「「「ダダダダダダ―――」」」

 

「きゃああああ!?!」

 

 

私の号令がかき消されるように一斉に発火炎が現れる。

一瞬灯るその炎は塹壕から少しだけ顔を覗かせる機関銃の口を照らし、その仰々しい佇まいを露わにする。

一秒間に数発数十発、全てを合わせると毎秒数百発の銃弾が私達に飛来する。

 

 

「走れ!死んでも走りなさい!ヴォアナさん立て!走るんだ!ダルマン!」

 

「ひぃい!」

 

「っぅう!!」

 

 

頭をかき回す轟音の中で私は大声で叫び緩慢になっている仲間を追い立てるように動かす。

次の瞬間にはこの雪を棺桶として死ぬかもしれないという恐怖に苛まれながら。

機関銃の轟音を聞いて反射的に地面に伏せたヴォアナさんを掴む。

 

 

「走れ!走れ!」

 

 

ヴォアナさんの首袖を掴んで立たせて無理に走らせる。

三人が一応は追随しているのを確認して私は恐怖が待っている正面を見る。

 

 

「っし、死んでる、さっきまで前にいた人達が!!!」

 

「うるさい!そんなの分かってる、走りなさい!」

 

「僕達も死んじゃうよぉお!!!嫌だよぉおそんなのぉお!!」

 

 

死屍累々、先程まで前を進んでいた仲間が死んでいる。

顔の上半分がなくなって横たわっている人がいる、全身に銃撃を受けて倒れ、雪を赤く染めている人がいる。

屍を超え、踏み越え、この地獄にもっとも近い道を私達はひた走る。

 

 

「ここだぁ!ここまで来い!」

 

「飛び込め!さあ飛び込むんだ!」

 

「っつぅうう!!」

 

「っひぃ!!」

 

 

発火炎が見える塹壕までまだ距離があるというのに少し地形が盛り上がった場所に数十人の人達が全力で隠れていた。

まず私は片手に掴んでいたヴォアナさんをそこに放り込んで続いて飛び込んだ。

ダルマン君もシャルロット君も飛び込むことに成功した。

 

 

「何よ何よ寄って集って狙い撃ちに・・・・この銃嫌いなのよぉお!!」

 

「生存報告!生存報告をしろ!」

 

「第二小隊2名!」「第五小隊4名」「第六小隊ひ、1人です!」

 

頭上を銃弾が通過する中で震えた声で生存報告が上がる。

小隊がいくつか抜かされて報告がされるが抜けている訂正する者は現れない。

 

「総勢33名かクソ!60人も持って行かれて・・・・ああクソォ!クソォ殺してやる!」

 

「中隊長!敵の陣地まであと50mです!」

 

「総員突撃準備をしろ!敵の塹壕に入って仲間の仇を取るんだ!」

 

「いやだぁああ!!」

 

「こんな中でもう一回顔を上げたら死んじゃうよぉおお!!」

 

「俺は嫌だ、嫌だぁあ!!」

 

「っひぃいい・・・終わってくれ、早く終わってくれ・・・」

 

「軟弱者どもが!クソ、俺一人でも・・・・っつぅう、やっぱ怖えよ・・・お前等一緒に来てくれよぉお・・・・!!」

 

 

ある者は銃を抱えて蹲って震えて、ある者は銃すらも何処かに忘れて頭を抱えて震えている。

最初は平静を保っていた中隊長も士気が壊滅した部隊を目の当たりにして取り乱し始めている。

かくいう私もこの完全な死角かどうかも分からない場所にいるのは気が気ではなく、何処からか狙われているのではないかと怯えていた。

 

 

「帰りたいよぉ・・・帰らせてくれよぉお!」

 

「こんな所に来るんじゃなかった!」

 

「たった50m何だ!なのにどうして、どうしてこんなにも遠いんだ畜生・・・・!!」

 

 

絶え間のない銃声と間に挟まれて聞こえる阿鼻叫喚の声が戦場に響き渡る。

ここに居る誰もが痛感しているであろう、戦争という悲劇の営みを、殺し合いという無情の行いを。

ここは万人に平等な場所だ、差別はなく、特例はなく、皆等しく価値なく生と死を享受する。

まだ死に選ばれなかった者達は地面に張り付いて生き続ける事を懇願する、必死に、必死に。

 

 

「ッ・・・ッ・・・おばあちゃん・・・私を、皆を、守って・・・・怖いよぉ・・・・」

 

 

私もその取るに足らない一員に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

「え、増産ですか工場長?」

 

「そうらしい」

 

 

ここはアドリア国では珍しくない工場群・・・とは一風変わった工場施設。

変わった点をあげるとすればまずこの捲揚機だろう。

工業用の物でも巨大で重量な物を持ち上げるかなり大型のタイプが10数個と設置されている。

そして更に変わっている点はそれが巻き上げて吊るしている物体、製品のパーツの一つ。

 

 

「月間生産台数は4、5台に合わせて調節したのに、この規模だと頑張っても月間10台ですよ」

 

「ああ、だがクライアントは月間20台まで増やせとさ」

 

 

そのパーツは殆どが鉄鋼で加工された重厚な金属の塊であり、物によって差はあるもののどれも突き出すような長い筒が特徴的だった。

知る者が見ればそれは大砲だという事がすぐに分かるだろう。

そして吊り上げられた大砲の下には履帯を履いた車体があり、上の部分は何かを嵌める為に大きく穴が開いている。

上に吊るしている大砲が丁度良い具合だ。

 

 

「でも何たって急に、戦争が終わって兵器需要なんて昨今の冬より冷え込んでいるのに」

 

「懇意にしているお偉いさんから聞いた話ではな、良い売り手が見つかったんだ」

 

「売り手?博物館にでも買われるんですか」

 

「あんまり詮索はしない方が良い、今の生活を失いたくないだろ?」

 

「え、あ・・・・はい」

 

「とにかく不良在庫のガソリンエンジン式のA型、B型を処分する大チャンスって事で二つ返事で一気に売っちまったんだとさ」

 

「一気に?」

 

「ああ一気にだ、お馬鹿な事に必要数も超えて処分しちまったから慌てて発注をしてきた感じだ」

 

「滑稽な話ですけど工場長、何故そのような裏方の情報を説明してくれるんですか?」

 

「そりゃあお前は他の労働者と関係は良好、勤務を増やすと不満の声も大きくなる、そこをちょっと治めてくれれば」

 

「・・・・そうですか」

 

「ぐへへ、これぐらいでどうだ・・・?」

 

「・・・・良いでしょう、喜んで。これから忙しくなりますから、仕事に戻らせて頂きます」

 

 

ある日を境に、アドリア国が処分に手を焼いていた兵器類が一気に消え始めた。

奇妙に思う倉庫番は当然の事ながら何があったのかと上官に聞く。

そうすると返ってくる答えは。

 

 

「買い手がついた」

 

 

と言われる。

多くの傍観者にはその買い手が誰かなのかは計り知れず、ただ倉庫から引っ張り出されてどこかに連れ去られる兵器たちを眺める事しか出来ない。

日に日に埃を被り錆びてゆく兵器達を眺める事も悪くないと感じていた人々にとっては複雑な心境であったに違いない。

 

運び出された兵器は全てが同じく東に消える。

アドリア国の東に金銭を出して兵器を大量に購入できる国はオスマン帝国ぐらいしかないが、自分で幾らでも作れる彼らがわざわざ他人に頼み込んで買い占める必要はない。

それも処分に困る旧式兵器など。

 

時に、物を買う時に注文した者がいたとして、売買された商品が向かっていく先は必ずしも注文した者とは限らない。

商品が届く先は一銭も払っていない人物であるという事も往々にある。

もしこの一連の動きもそうだとするならば・・・・購入者は兵器を誰に与えて何をさせたいのか。

 

超大国は一人でチェス盤の駒を動かす。

グレートゲームの参加者はまだ彼一人しかいない。

この遊戯が終わる時、世界は変革する、滅亡か、繁栄か。

まだ誰も行く末を知らない。

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