戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
経済「ら、らめぇ~!そんなに(過剰投資)したら・・・・おかしくなっちゃう~!」
投資家「
経済「んほぉ~」
堕ちたな・・・(大不況)
ローザ・ブランデンブルグにとってその日はいつも通り何の変哲もない普通の日であった、いやそれどころか普段より数段も心地よい日とすら言える。
現存するどこかの大学に出張講義に赴いたり権威を求めるメディアに専門家として出演したりする面倒な仕事がなくなる年末だったからだ。
在りし日の生活と比べれば随分と貧相にはなったものの世界中で困窮する避難民の中では彼のように真っ当な生活を送れる者は少ない。
「コーヒー豆もそろそろか・・・・金に余裕もあるし少し背伸びした値段の物もいいか・・・・しかし月曜の休みはどうしてこうも素晴らしいのか。」
独り言を呟きつつ豆を挽き今日一日何をするかを考える。
釣りにでも行こうか、いや今年は混むだろうから映画館、もしくはもういっそ家でゆっくりしていようか。
逆に社会研究を進めて来年の休暇への貯金とするべきか。
「まあどうにせよ苦になる事はない、・・・・・さて最近の出来事はっと・・・・」
淹れたてのコーヒー片手に新聞を持つローザ、まあいつも通り何処か遠い場所の公共事業の成果か、連邦議会の些事を無駄にスペースを使って書いてあるのだろうなと予想する。
ソファーに深く腰掛け湯気を立ち上らせるコーヒーを一口。
苦さに半分起きていない脳が刺激され、震えあがり活性化する、
そして新聞を開く。
「ニューヨーク株式市場、ストック・マーケット・クラッシュ?・・・・・・・・・・アメリカも大変だな、下落率は・・・・23%、・・・・・・23・・・・・23!?」
最初にローザは年のせいか少数を示す点が見えていないのかと疑い次に印刷ミスを疑った、だが新聞に掲載されていたグラフの下がり幅は生者を刈り取る鎌のように急転直下でありそれが2.3%という些細な物ではないとはっきりわかった。
23、小さいか大いかと問われればこの戦争で感覚を毒された多くの人が小さい数字であると答えるだろう。
だが専門としていないローザでもこの23という数字がどれだけ膨大で計り知れない物を示しているのかは理解していた。
その日だけでニューヨーク市場は10年分の経済成長を失ったのだ。
「こ、こんなのアメリカだけの問題じゃない・・・・!世界が傾く、・・・・そ、そうだ持っている株式を早々に売却しなければ・・・・!」
特に株式に興味がないローザは営利目的で金銭を投入している訳ではなかったがかなりの額を『儲けを目的としない投資』につぎ込んでいた。
それこそ銀行に預けている金額と同じぐらいに。
だが少なくともこの時、彼は間違えても自分が無一文になるとは思っていなかった。
「何でこの値で売れないんだ!さっきまでの株価の半分だぞ!。」
「このままじゃマージンラインを超えて俺は破産だ!何とか売ってくれ!幾らでも損はしていいから!。」
「一瞬で紙切れじゃないかこんなの!ふざけてる!。」
それはまるで甘いものに群がる蟻のように株主たちは才取会員達の元に詰め寄り自身らが保有している株を一瞬でも早く売却しようとしていた。
だが提示した金額で売買契約が成立する前に鬼のように価格帯が変動――主に下落――し、彼らの焦りを増長させ絶望の淵へと叩き落としていた。
「帝国国際銀行・・・・帝国国際銀行・・・・!」
ローザは必死に自身が株主である企業の株価を情報黒板から探っていた。
帝国国際銀行、銀行と名が付いている物の主だった事業は所謂、難民の生活援助と亡国の領地回復活動。
海外に離散した難民の富裕層が設立した企業で終戦後は新大陸やアジアからの投資で大きく成長すると期待されている企業だったのだが・・・・。
「ど、何処にも見当たらないじゃないか・・・・!。」
人は信じたくない情報は頑なに認めようとしない、何かそれに反駁できそうな材料に無条件で飛びつきしゃぶる。
だがこの場には彼が拠り所にする「もしかして」という救いはなく証券所の職員が企業の株価を消して書き直す―――ではなく企業そのものまで消して永遠にそこに加筆しない光景を見て彼の最後の希望は砕け散った。
「き、君!本当にありがとう!これは駄賃だ!それじゃさようなら!」
「お、お気をつけて~・・・・・今日はお金持ちの人達慌ただしいな・・・何かあったのかな?」
今日は休みの日だったけれどわざわざ会社の方から電話で呼び出されて出勤した。
いつもは服装と余裕が売りのお客さん達が妙に慌ただしく口調も服装も乱れていた。
何なら今さっき乗せたお客さんは車をボコボコぶつけても良いから最速で目的地に辿り着けるように懇願して来た。
「歩道の人達・・・・ごめんなさい。」
渋滞に巻き込まれて歩道を行けと言われ人生で初めて車で歩道を走った。
警察とかに止められるかなとヒヤヒヤだったけど運よくお世話にはならなかった。
「号外!号外!ライヒスバンク倒産!連邦中央銀行も破産手続きに突入!号外!号外!」
「倒産?破産?・・・・うちの会社潰れないよね?儲かってるし・・・銀行って滅多に潰れないらしいけど沢山の人が慌ててるのってそれが原因かな?」
「もう・・・終わりだぁあああ!!!っはははああああ!!!うっふぁあああぁははは!!!」
「う゛・・・・・ぁ゛・・・・ぐぅ・・・・・ヅ・・・・」
「売らせろ!売らせろ!俺は大株主だぞ!こ、ここに証券もある!お、おいアンタ!こ、これ買わないか?な、なっ!?」
「え、・・・・ちょっと私よく分からないんで・・・」
「頼む、頼む買ってくれ・・・・全財産をつぎ込んだんだ・・・・・紙切れなんて言わないでくれ・・・・明日からどうやって暮らせばいいんだよぉおおお!!!」
後に暗黒の月曜日と言われたそれはバルカン連邦の株式市場を平均で40%前後を下落させ100を超える企業を破綻させた。
しかしこれはまだ序章でありこの世界的な恐慌が末端の小市民に波及するまでは今しばらくの時間的余裕があった。
勿論銀行の倒産でお金が消し飛んだのならそれはもう十分に影響を受けていると言える。
だが・・・・
青天井と信じられていた株価は重力を得たリンゴの様な軌道を描いて落下する、その後を追うように破産し、人も落下していく。
銀行が倒産し、遅れてそこに金銭を預けていた資本家、ひいては企業に影響が波及する。
相次ぐ企業の消滅で国民生活を支える歯車が稼働を停止する。そして世界恐慌が躍動する。
「ふぅ~・・・・今日は銀行が倒産したとかで大変でしたね。」
「本当に驚きだよ、カフカ君は大丈夫なのかい?」
「銀行とかよく分からないですけどお金は全部現金で持ってましたので」
「そっか良いなぁ・・・・」
「ルードヴィッヒさん・・・・もしかして。」
「三か月・・・・三か月分の給料が・・・・一年間コツコツ貯めてた給料が・・・・・・!」
「あ、あぁ・・・・・た、食べ物とかに困ったら私に言ってください!お裾分けします!」
「本当かい?・・・・本当、何でこんな事になったんだろうね。偉い人はこれから戦争に使われてたお金が暮らしに充てられて皆が豊かになるって言ってたのに」
「ネコババしすぎたんじゃないんですか?悪い人が」
お金持ちの人限定のイベントかと思ったけど意外と身近にも影響を受けている人がいて驚いた。
そう言えば祖母の貯金は何処にあるか知らないけれど運悪く倒産した銀行に預けていたら大変だから明日にでも手紙を出して状況を聞いておこうと思った。
思ったのだが、・・・・終礼の為に社長室の騒ぎが気になって仕方なかった。
「騒がしいな、おい何だどうかしたのか?」
「そ、それが社長がいないんです!」
「はぁ・・・・外出してるんだろ?」
「そうかもしれませんが、売上金の入った金庫とか高そうな調度品とか全部なくなってるんです!」
「泥棒が入ったんですか!?」
「多分泥棒じゃないが・・・カフカ君、手分けして社長を探そう」
「は、はい・・・・・」
何故だが分からなかったけど夜通し皆で社長の事を探したけどついに見つけることは出来なかった。
私はてっきり泥棒に誘拐されたとか見られたから殺されたとかと陳腐な想像しか出来なかったけど他の人が思うに社長はどちらかというと加害者に近いらしい。
「夜逃げ?」
「ああ、お金や痴情の縺れで立ち行かなくなった時に住んでいる場所から逃げることを言う。
金品の物も逃亡資金や逃亡先で行う新生活の為に持っていく。」
「でも社長が何で夜逃げするんですか?社長ですよ?」
「あの野郎が逃げた理由はこれだ」
日が落ちてから随分と立ってから社長からのメッセージが見つかった、残念ながら本人を見つけることは出来なかったけど。
手紙には社長が姿を消した理由がしたためられていた、先に目を通したであろう人達はこの上なく怒り心頭だったので私も覚悟して読むことにした。
『もう戻る事はない、各自で新しい仕事を見つけてくれ、どうにもならなくなった。さようなら』
頭の理解が追いつかなかった、特別社長がお金に困っている素振りは見られなかったし誰かとトラブルになった話も聞いた事がなかったからだ。
ならば何故社長は首が回らなくなって逃げてしまったのか、最近の大きな事件と言えば銀行の倒産だけど例えば社長が全財産を銀行に預けていたとしてもお金が消えても借金が増えることはない。
『また一から稼ぎなおせばいいのに』と思ったからこの状況を飲み込むのにとても時間がかかった。
「差し押さえ?」
「ああ、お前たちの所の社長は金を返さずに逃げた、それを少しでも清算するために奴の周辺物は軒並みこちらの手中に収めて換金する。」
翌朝、状況を呑み込めないまま流されるように出社したけど会社には見知った顔は一人もいなくて沢山の知らない人達が会社のあちこちの物に何かを張り付けていた。
「でも車がなくなったら私達明日からどうやって仕事をすればいいんですか?リアカーでも使えと?」
「・・・・・あのなお嬢ちゃん、社長が逃げたんだぞ?この会社ももう終わりだ、悪い事は言わないから真面目に出社してないで今後の事を考えた方が良い、・・・難しいかもしれないが。」
何をしているのか聞いたら懇切丁寧に説明されたけどそれでも自分が唐突に無職になった事は信じ難かった。
「えーっと、私クビって事ですか?」
「ちが・・・・いやそうだ、クビだ」
「え、・・・・・え!?」
割とショックだった、顔にも出てたのか知らないおじさんが何故か高そうな万年筆をくれた、不遇な環境で抑圧された人間の心を文字にすると高確率でお金になると言っていたけど物書きの経験何てなかったので無用の長物だった。
フラフラと宿泊先に帰ったら今日中に荷物を片付けて出て行けと言われた、本当に意味が分からない、いやまあ会社が用意した場所だから会社がなくなったら住めなくなるのは分かるが何事も急すぎて意味が分からなかった。
世間知らずと言う自覚はあるけど世間はこうも唐突に路頭に迷うぐらいに脆弱なシステムだったのかと呆気とする。
「あ、・・・・今夜どこで寝たら良いんだろ・・・」
私は今自分がかなりどうしようもない状況にある事にやっと気づいた。
光の速さで職場が消滅した事はあるか~い?一応作中で三か月は勤務してます(小声)