戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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WIKI風の記述には特定集団の恣意と主観が混じっています


80この音を地の果てまで轟かせて

「敵はもう塹壕内に入ってる急げ!」

 

「進め進め!」

 

「敵だ、撃ち殺せ!」

 

「・・・ッまだ他に仲間が!急げ、急いで・・・よし・・・・!」

 

「クソ、幾ら撃っても死にやしねえ化け物が!」

 

「でも効いてはいるんだ、撃ち続け――ぐぁ!?」

 

「ああ!?一人やられ・・・・あぁ!?」

 

「何だどうして急に・・・う、後ろかぁあああ!!!」

 

「後ろにいる!敵が後ろにいる!」

 

 

塹壕の曲がり角で半身だけを出して敵を銃撃する。

一発撃つたびに手前のハンマーを動かしてコッキングしないといけないのは大変不便に感じたけど敵の無防備な背中を襲えたので問題なかった。

私が頭を撃ち抜いた敵は前後に痙攣しながら地面に突っ伏せる。

敵からの反撃もあったけど半身しか露出していない上に奇襲性もあり敵の攻撃は当たらない。

5人いた内の3人は仕留めたけど三人目に4発も弾丸を使ったせいでまだ不慣れなリロードを挟まなければならなかった。

 

 

「もぅ・・・!」

 

「うおぁあああああ!!!」

 

「ッ!?」

 

「死ね!クソ兵士ィイイ!!!」

 

「もう、何で装填したのに撃てない、・・・う゛・・・・!?」

 

 

身を隠して再装填を試みてる途中で敵が雄たけびを上げて走って来た。

1発しか装填できていなかったけど、それでも構えて撃った。

なのに何故か弾丸は射出されず、勢い衰えぬ敵は銃先に備え付けた剣を私に突き刺した。

 

 

「あ゛が・・・・」

 

「死ね!死ねえクソ兵士ぃいい!!」

 

「う、う・・・・あがあぁ・・・あ!!」

 

 

走って来た勢いと私が壁に抑えつけられたのもあって、銃剣は私の腹部に突き刺さる。

さらに猛烈な力が加えられて傷口が抉られる。

すぐさまに私は私に刺さっている銃剣を掴んで引き抜こうとして敵との力比べが始まる。

 

 

「あ、ああ゛あ゛・・・!!」

 

「うぅう・・・何だよインチキ野郎!子供の癖に・・・・大人しく死んでくれよぉ!」

 

 

かなり鍛えている普通の人。いくら刺されているとはいえかなり強い力だった。

だから徐々にしか押し返せなくて、少しずつ形勢が変わっていく中で、敵の顔が歪む。

私を見て、険しくなる。

 

 

「死にたくない、死ねない・・・・死ぬもんか・・・・!」

 

「う、ぐぉおお・・・・!!」

 

「うぉおおおお!!!」

 

「ふ、二人目!?」

 

「押し込め!」

 

「しま――――――――あ゛、ぁああ!!!」

 

 

このまま突き刺さった銃剣を引き抜き敵を仕留めようとする時に、増援が現れ、もう一本銃剣が私に突き刺さる。

心臓の真下と、脇腹辺りが血で滲む。

 

 

「うぉおおお!」「うぉ、ぉおおおおお゛お゛!!!」

 

「あ、・・・あ・・・ッ」

 

 

二人がかりに抑え込まれた私は地面に押し倒される。

そうするといよいよ敵が私を刺す力が増す。

銃剣が皮膚に食い込み、肉を裂き骨にまで到達する。

生きたまま捌かれるような感覚に恐怖を覚える。

 

 

「あ、・・・・嫌だ、・・・死にたくない、・・・・嫌だよぉ・・・う、・・・あ、痛いよぉ・・・・」

 

「ッ・・・」

 

「痛・・・・あ、うぅ゛・・・・」

 

 

痛みと悲しみと恐怖が混ざりあった感情に情緒がぐちゃぐちゃになる。

力も入らない、死にかけているからじゃない、感情の問題だ。

人をこの手で直接殴り殺した生々しい感触。

あまりに多くの人の死を見てきて気が滅入っていた。

 

 

「嫌だ・・・・嫌だ・・・・助けてっ・・・・」

 

 

命乞いをしても私を害する力は弱まらない。

突き刺さった銃剣を止めるために必死に押し戻そうとしている手は刃先で切れたのか銀色のナイフを赤く濡らしている。

いや違う、これは私の体を貫いた血だ、手の切り傷から付着した血じゃない。

押し戻す事は叶わない、この銃剣は私に刺さったままだ。

 

 

「ッぅ・・・ッ・・・ッ!!」

 

「何を!?」

 

「こいつまさか俺達諸共に・・・・!?」

 

「そんな訳、・・・・ない!私は、生きるんだ!」

 

 

歯を食いしばって立ち上がる。

敵の刃を押し戻せた訳じゃない、寧ろ私は前に進んでいるせいで刃がより一層体に食い込んでいる。

食いこみ、食いこみ、体に埋まっていく。

やがて持ち手部分以外が全て私の体に呑み込まれた。

 

 

「死ぬわけには、いかないんだ!」

 

「バキ」

 

 

全力で体を捩じる、着剣された銃剣は根元から折れて敵はそのままただの銃を突き出す形になる。

一人は抑え込むのを中断しなかった為、バランスを崩して倒れる。

 

 

「畜生化け物!」

 

「あぁああ゛あ゛!!!」

 

 

異変を察知してバランスを崩さなかった方の敵に私は飛びつく。

腹部に異物を抱えているせいで動くたびに体の中が壊れていく感覚がする。

 

 

「このォ!?おげぇ!ああ!?助け、うぶ!?助けぇ・・・・!」

 

 

飛び疲れた敵は姿勢を崩して倒れる。

そんな敵に馬乗りになって殴打をする。

自分の拳で、右で、左で、この手で人を壊している感触がする。

 

 

「やめろぉっぉおお!!」

 

「ぐぅ・・・・!」

 

 

もう一人に引き剥がされて一緒に泥の地面を転がる、塹壕の壁の土をガリガリと削って。

激しいストレスに晒され、酷な痛みに悶え、一転二転と絶え間なく動く現状に頭が追いつかない。

消耗しきった私は多くを考える事は出来ずに、ただ襲い掛かる敵を殺す事しか頭にない、まさしく獣だ。

 

 

「ぬぁあ!!」

 

「こんのぉ!」

 

「あがっがあぁあ!?」

 

 

背後を取って私を締め上げようとした敵に肘を食らわせる。

骨が砕かれ悶絶する声が上がる。

妨害がない中、よろよろと地面を這う。

 

 

「こんのぉおお、こんのぉおお!!ぉ、ぐ、あ、かっ・・・・」

 

 

敵の首を絞める、もう二度と立ち上がれぬように、もう武器を取られないように、もう誰かを殺させないために。

敵の顔はみるみるに赤く充血し、口をパクパクし出す。

私の締め上げる手を退かそうとする力は弱まり、そして消える。

 

 

「が、っか・・・ぁ・・・」

 

「ゴキ」

 

 

泡を吹いて、あれだけ赤かった顔が真っ青になってゆく。

壁に寄りかかって立ち上がる支えにする。

 

 

「うぶ・・・・あ、・・・・あっ、・・・・すぅう・・・う、はぁ・・・・」

 

「―――殺さないで」

 

「・・・?」

 

「嫌だ、やめ、て・・・俺は、死にたくな、い・・・・・お願いだ、・・・・助けてえ・・・」

 

 

顔がぐちゃぐちゃになって目も殆ど開いていない敵、まだ生きている。

私が何処に居るのかも分からないので見当違いな方向に喋っている。

敵はまだ生きている、敵だ、敵だ・・・仕留めて、仕留めて、殺す。

 

 

「銃・・・銃を・・・・」

 

 

私を突き刺した折れた銃剣を手に取る。

 

 

「やめ、やめて・・・・降参だから、堪忍だ・・・慈悲を・・・許して・・・・」

 

「っふぅ、ふぅ・・・・よい、しょ」

 

 

銃を逆から持つ、銃床が一番持ち手から遠くなるように。

振りかぶった時に最大の威力を発揮するように、敵を仕留めるため、殺すため、確実にする為に。

 

 

「家族がいるんだ・・・・頼む・・・・」

 

「・・・・・・っ」

 

「生まれたばかりの娘・・・・まだ死ねない・・・・生きたい・・・・」

 

「っ」

 

「だから、頼む・・・・頼むよぉ・・・・」

 

「っく、・・・あっ、・・・あ、ああ・・・・」

 

 

敵は、敵は殺す。

敵、敵だって人間だ。

私は人殺しだ。

 

 

「あ、あ・・・ああ゛」

 

 

皆私が殺した、私が奪った、私のせいで。

今も私は人を殺そうとした、人殺し、人殺し。

何をしようとした?

無抵抗で怯え切った人を殺そうとした。

 

 

「あ、ああああ・・・・ご、ごめんなさい・・・・」

 

 

振り上げた銃を落とす。

恐ろしさに後ずさる。

息が詰まる、この目に映る世界が遠くに離れていくようで、これは現実じゃないと錯覚する。

直視したくない、耐えられない。

 

 

「う、うぅ・・・・はぁはぁはぁ・・・ああぁ・・・」

 

「――――誰か」

 

「・・・・っ」

 

 

それでも、銃を取らずにはいられない。

声に恐れおののき、風の吹き抜ける動作一つにすら過敏になる。

嘗てない程に神経を使っている筈なのに、いつも以上に周囲の環境の変化を認知できていない。

動くと体に刺さったままのナイフが痛いけど、緊張で痛みを気にする余裕すらなかった。

 

 

「誰か・・・・あ」

 

「あ、・・・・ちゅう、たいちょう?」

 

 

声の主は味方で中隊長だった。

仲間を見て、私は安堵感を覚えた、銃を下ろして横倒れになっている彼に近づく。

狭まっていた視界が解けるようにいつもの感じに戻り、周りの音も聞こえるようになってきた。

 

 

「あ、あ・・・・あはは・・・・・・・・やったのか?」

 

「・・・・・・・・・おそらく、はい」

 

「塹壕は・・・・制圧した、・・・・部隊、ゴハッ・・・!」

 

「しゃ、喋ったら・・・いけないです・・・・中隊長・・・」

 

「いい、良いんだ、喜ばしい、勝ったんだ・・・・はは、惜しかったなぁ」

 

 

言葉を喋る最中に中隊長は血を吐く。

今一度彼を見る。

彼の周りは肉塊と化した人間だった人が沢山いる。

爆発の痕、吹き飛んだ隊長の足や腕、焦げ付いた肌。

 

 

「もうダメだと思って、手榴弾を抱えて・・・自爆、・・・したのは、失敗だった」

 

「すぐに・・・・すぐに、え、んぐん・・・が来て、治してもらえますよ・・・・・絶対、助かります」

 

「・・・・・はは、・・・・じゃあ、暫くは負傷で前線から退かないとな」

 

「ええ、ええ・・・・治ってる頃には、戦争は終わってますよ」

 

「戦争か・・・・そうだな、終わると、良いなぁ・・・・良いだろうなぁ、また平和になったら、苦しい事も、悲しい事も、今よりは」

 

 

遠くを見据えて中隊長はそう言うと、まだ辛うじてくっ付いている方の腕で何かを取り出す。

握りしめた手を私の胸にあてる。

 

「やって、くれないか?・・・・号令を待っている、仲間がいる」

 

 

ボロボロになった中隊長の腕を支える。

開かれた掌の中には笛が納まっていた。

 

 

「勝利の号令、・・・・聞きたいんだ」

 

「わかり、ました・・・・はい、任せてください」

 

 

それを受け取り、私は握りしめる。

手で持ち、口をつける。

 

 

「すぅうう・・・」

 

 

沢山息を吸って、空に向ける。

お腹が痛いけどめいいっぱいに息を吹き込む。

 

 

「ピー!ピー!ピー!」

 

「無駄死にじゃない、やったぞ・・・・皆、鎮魂歌だ・・・・・・・・地獄で会おう・・・・・――――――――――」

 

「ピーピーピ――――――――」

 

 

空気を震わせ、その音を遠くにまで届けた笛は物言わぬ山から生者を呼び起こす。

一人、また一人が顔をあげる。

死屍累々だった塹壕に生きている人間が現れる、隠れていた人たちが顔を出す。

私は必死に笛を吹き続ける。

 

 

「ピー、ピー」

 

「この音は、突撃命令の・・・・・」

 

「ざ、塹壕から聞こえる!」

 

「やったんだ、中隊長がやってくれた!」

 

「もう敵にハチの巣にされない!」

 

「い、行くぞ俺達も!」

 

「ええ乗り遅れないように!」

 

 

 

私達の部隊は二番目に塹壕地帯を突破した部隊だった。

一番目に突破したのは、攻撃開始時刻を間違えた部隊だった。

照明弾が上がったのは彼らが原因だったのだ。

 

攻撃に参加した4000人の内、戦死は842人、負傷者2000人越え、死体判別不可能者や逃亡兵は100人に上る。

戦死者は主に正面からの攻撃を敢行した部隊だったが、私達の側方部隊も無視できない犠牲を被った。

私達はアルデアルに派遣された敵の軍隊を壊滅させる代わりに大きな代償を払った。

 

 

 

 

『アルデアルの戦い』

 

交戦勢力:アルデアル反乱軍

     バルカン連邦軍

 

日時:11月中旬~11月末

 

戦力:アルデアル反乱軍 不明(一部文献により2000人~1万人)

   バルカン連邦軍  鎮圧に派兵された1個師団とその補充要員 総数3万人

 

損害:アルデアル反乱軍 死傷者1000名前後 具体的な数は不明

   バルカン連邦   死傷者1万人 病死2万人 捕虜ごく僅か 多数の民間人

 

結果:アルデアル反乱軍の決定的勝利

 

次:教会町(ブライラ)の戦い

 

関連:『アルデアル独立地域』『アルデアル反乱軍の戦争犯罪』『ハーグ陸戦条約』『山岳共和国の戦争介入』『便衣兵』




心も体も傷だらけになりながらも怖くて動けない仲間の為に、静まり返った戦場で音を奏でるカフカちゃん美しいよ・・・・(自画自賛)
ノベルゲーだったらご立派な一枚絵が表示されるんやろな

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