戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
鼻先の脅威を全て排除したので一時的な平和が訪れていた。
もちろん私達を害する人達がまたやってくる可能性もあるけど定期的なパトロールが実施され、守る戦いをする為の準備もされている。
私達はまだ嵐の中にはいるけど今はそうだと感じない目のような場所にいる。
「缶詰食料もあんまり美味しくないのね」
「そうか?俺は結構いけるけどな」
「シャルロット君は何でも美味しそうに食べるから羨ましいです」
「・・・・・」
激戦があった場所に放置された遺体を片付けたり敵が置いていった物資をあっちにこっちにしていたりしたら三日も時間が経過した。
今日は随分と新顔の人が多い気がする、右も左もよく分からずおどおどしている人も多い。
彼ら彼女たちは死んだ人の分の補充なのだろう。
「新しい人達、今度はもっと上手く戦えれば誰かの代わりにやってくる人も減るのかしら・・・・・私は戦えるかさえ分からないけど」
思い悩むようにヴォアナさんは呟く。
手を閉じたり開いたりして黄昏ている。
新しくやってくる人を見ても、死んでいった人達以上に上手に戦えるとは思えない。
死と隣り合わせの体験をさせないとやはり殺し合いなど無理なのだろう。
「でも確かに違うのは、俺達と違って一人ちゃんと一つの武器を持っている事だ」
「あ、本当だ・・・・」
「全く新人の癖に生意気・・・・でもないわね、私達が不遇だっただけね、妥当だった気もするけど」
「「あはは」」
自虐的に三人は笑いあってる。
でもたとえ銃の扱いも禄に分からなかったとしても、戦う人として擁立するにあたって武器も与えないのは最低だと思う。
仕方ないとは思うけれど戦い始めの「死者の銃を代わりに取って戦え」というスタンスは邪悪な事この上ない。
「聞け新兵共!」
「「「「ッ!」」」」
「これより軽い訓練を行う、実戦で足手まといにならい為の有意義な訓練だ、連いて来い!」
あれは確かバジューク連隊長、生きていたのかな。
しかし訓練と言っていたけど気になる、私達の時は説明の一つもなく戦場に駆り出した放任主義的な教育体制だというのに随分と手厚い。
「訓練?めんどくさそうね、あの嫌味連隊長となんて、あーやだやだ」
「私も参加してみたいですね」
「何で隊長が?」
「新しい発見があるかもしれません、私ちょっと見に行ってきます」
「なら私も同行するわ」
「俺はパスで良いか?まだ食い足りないんだ」
「あ・・・・ぼ、僕は・・・僕も行こっかな」
缶詰の中に残っていた物を急いで呑み込んで新兵の人達の列に混じる。
数分歩いた先にあったのは・・・・。
「何よあれ・・・・」
「人が括りつけられてる・・・?今から処刑でもするのかしら」
ヴォアナさんが物騒な事を言うけれどまさしく言葉通りの事を想起させる猟奇的な光景が目の前にあった。
地面に突き立てられた棒が数本、その一本一本に人が結び付けられており目隠しをさせられている。
頭が痛くなってきた、一体今から何が始まるのか。
不安になりながら人の波をかき分けて前に陣取る。
「今からお前達にはこの悪党どもを撃ち殺してもらう!」
「え?」「こ、殺すの?」「泣いてない?あの括りつけられてる人達」「血も涙もない・・・」
「我こそという奴らは前に出ろ!さあ!」
「俺やりたいです!「私が!」「やらせてください」「俺だ俺だ!」「人を殺してみたかったんだ!」
「よし!お前等は解散だ、陣地に帰れ!」
「はぁ何でだよ!?」「話が違うじゃない!」「どういうこったよ」「舐めてんのか!」
「この訓練の目的は命令を遂行できない出来損ないの欠陥兵士を半人前に育て上げる訓練だ、最初から引き金が軽い奴らに用はないんだ、さっさと帰れ!」
「ちぇ何だ」「つまらねえ」「チキン野郎に興じていれば良かったぜ」「折角本番の練習を出来ると思ったのに・・・」
十数人が不満言を言いながら集団から去る。
残った子達は馬鹿正直に残ってオドオドしている人と今からさせられる事に緊張している人が殆どだった。
まさか本気でやらせるつもりなのか、出来る人と出来ない人を仕分けて本当は平和で穏当な訓練を、などという淡い期待はすぐに打ち砕かれた。
「さあ並べ、すぐに並べ、実戦ではわざわざ並ぶ暇はないし敵は馬鹿正直に棒立ちじゃないし銃を真っすぐ構えられないと思え!」
「っ・・・・・」
「ほ、本当にやるのか?」
「構え!・・・・構えと言っているんだ!」
「痛っ・・・っひぃ・・・え、え?」
「この臆病者が!その感情は仲間を殺す!俺がお前達みたいなチキンを鍛え直してやる!」
困惑して銃を構えられない子が連隊長に殴打される。
それ自体は大したダメージではないけど殴られた子はどうしていいか分からず涙ぐんでいた。
他の銃を構えている子も構えるか構えないか迷っている、当たり前だ。
「いい加減にしてください!」
「何だ!」
「無抵抗をこんなっ!戦場がどうとか知りませんけどダメですこんなの!それを無理やりやらせようとして・・・・人の心はないんですか!?」
「――――人の心はないんですか!?」
生意気な小娘の抗議に溜息を吐く。
心外な罵倒を受けて段々とこの世間知らずを殴りたい気持ちが沸き上がってくるが、堪える。
どうして女はこう誰も彼も俺に楯突くのか、殴り飛ばしたくなる。
「人の心があるからこその行動だ、多くの仲間の命を繋ぐ為に必要な通過儀礼だ」
「だからってどうして!捕虜にした人を、う、撃ち殺すなんて気の狂った事が出来るんですか!」
「や、やっぱりまともじゃないよね・・・・・」
「戦おうって決めたのに、いの一番に無抵抗の人を撃ち殺せって、お、おかしいよね」
日和っている新兵を半人前の兵士に育て上げるためにわざわざ準備した訓練もこの馬鹿女のせいで台無しになりかけている。
戦争だというのに人を殺す事を憚るとは滑稽な矛盾思考だ、絵本の中のプリンセス気分が抜けていないのだろうか。
「先の戦いで分かった、多くの新兵は小心者で勇気がない、与えられた銃の引き金すら満足に引けない、それが命に関わる場面でも戸惑うのは命取りだ」
「これの何処が命に関わっているんですか!」
「見当違いな文句を言うな、言った筈だこれは訓練だと。人間を撃ち殺す練習だ、ここでの経験は実戦での活躍に繋がり、より多くの兵士が死を回避し、代わりに用意される多くの仲間を死地から救う」
「ッ」
「君の気持も分からんでもない、人を殺すのは非常に抵抗のある行いだ、だが戦争は奇麗事だけでは出来ないんだよ」
「・・・・・それでも、貴方は間違っている。はっきりと言います、バジューク連隊長。貴方は間違っている!」
「理詰めを諦めて感情論に訴え始めたのか?多少の我儘は許そう、だがこれ以上の妨害行為は連隊長として許された権限の行使に繋がると警告しよう」
丁度、先程腰に引き下げたばかりの鞭を取り出す、小娘はこの上なく嫌悪感を示す顔には笑い出しそうになる。
全く敵に趣味の良い人間が混じっている、使い手がいないこれは俺が代わりに新しい所有者として成り変わってやろう。
「何よこの変態!変な物を取り出して!捕虜を撃ち殺せって命令した時もそうだけど笑いっぱなしね、最もらしい事言ってあんた加虐癖のある変態でしょ!絶対そうよ!」
「何だと?」
「・・・い、今までの態度と一変して厳しいわね、図星だったのかしら・・・・・・なんか手で顔撫でてるし、表情確認?」
生意気な小娘以上に調教が必要なメスガキが場外から文句を好き勝手喚き散らしている。
この神経を逆撫でする行動と忌々しい顔、大した成果を持って帰らずに物資だけ消耗した偵察小隊、まだ全滅していなかったのか。
「ほう誰かと思えばただ飯食らいの偵察小隊様じゃないか、偉そうによくもまあご高説出来るもんだ」
「何よ!」
「お前等聞け!紹介しようこのおめでたい出来損ない先輩共を!そこの臆病者4人は禄に仕事もせずに文句しか言ってこない害悪な味方だ!」
「ぼ、僕達のどこが害悪なん・・・・ですか?」
「全てだ!まず男の方は女を置いて逃げ帰って来る臆病者!女二人は協調性などまるでなく部隊の団結を乱す不和を持ち込む無能だ、オマケに仕事が何一つできない!」
「あんたもういっぺん言って見なさい!隊長まで馬鹿にしてこの変態鞭野郎!」
「口だけが達者な素人ばかりよく集まったもんだ、全くお笑いだ!今までの戦いで死んでいなかったのが驚きだ、仲間を盾にでもしたか!?」
「する訳ないでしょうが!」
煩わしくもやはり単純な子供。
こちらのペースに持ち込んだら簡単に丸め込める。
このまま逆上して俺の事を殴りでもしてくれれば摘まみだして訓練にありつけるが・・・どれもう少し煽ってみようか。
「なら生きているのが不思議だな!お前達が別の誰かだったら死ぬ奴らはもっと少なかったに違いない!」
「「「・・・・・・」」」
っむ、間違えたか・・・・怒りを誘発させるはずが寧ろ黙ってしまった。
こいつらもこいつらで自身の無能さ加減を気に病んでいたという事か。
ならばさっさと爆弾を抱えて一人でも多くの敵を道連れにするか有能な味方の盾になって死んでくれればいい物を。
「そんな事、関係ないです」
「人の命を大切にする話をし始めたのはお前だぞ」
「その人はこういう人だから、意見を封殺するのはダメです、同じ仲間なら・・・・・仲間の言葉として聞いてくれませんか?」
「聞いているとも」
「聞いてないじゃないですか・・・・ッ!・・・・・人の立場になって物を聞いたり考えたりできる人は・・・・こんな事を出来たりしないんですから・・・・・ッ!!」
「それはお前の理論だ、俺に押し付けるな」
「・・・・・・・何も、聞いてないんですね・・・・私達の言葉を、・・・・敵だと思っている」
「ああそうだ、お前達はまさしく内憂だ。絶対的な正義である勝利へ向かう苦難の道にある障害物だ、邪魔でしかない」
「ッ・・・・・」
逆上させる必要もなく、言い負かすだけで項垂れて口籠っている。
身の程を弁える常識を学習し始めたのは進歩だがどうせならもっと進歩した従順な兵士であって欲しい。
扱いにくい部下はいらない。
「総員構え!」
「ほ、本当に撃つの・・・」「もっと頑張れよあのへなちょこ抗議者」「わ、私達の分の撃つ人残ってなさそうだしセーフ」「よかったよかった」
「ッ・・・・や、やめてあげてよぉ!」
「!?」
発射合図の為に片手をあげていたら後ろから先程引っ込んだと思った奴が一人飛び出して来た。
口が悪い生意気なメスガキ・・・・ではなく一番最初に噛みついてきた小娘だ。
俺の腕を掴んで制止する。非力な力だ、兵士の風上に置けない。
「放せ」
「どうしてそんな酷い事が出来るんですか!殺される捕虜の人にだって人生があるんですよ!家族がいるんです!帰りを待つ人だってきっといる筈なのに」
「放せと言っているんだ!」
「分かるはずです・・・私達がそうだから・・・奪われ続けてきた私達が一番それを失う痛みを分かっている筈なのに!」
「いい加減にしろ小娘が!」
「あがっ・・・!?」
掴まれていない方の手で小娘を殴る。
だが、しつこくへばりついているせいで振り落とせない、まだ俺の事を掴んでいる。
「可愛い顔がぐちゃぐちゃになりたくなかったら放せ」
「い、や・・・です・・・!―――あぐぅ・・・!が、あ・・・・」
「ちょ、ちょっと何やって・・・・何やってんのよお!」
「だ、ダメだよジュリー!」
「はぁあ!?何止めてんのよグース!あんた・・・・隊長が殴られて・・・・放しなさい!」
「相手は連隊長だよ・・・ッ!僕ら・・・僕らには何も出来ないよ・・・・・」
「ふざけんじゃないわよ!放しなさい、放せってば!」
臆病者の男は保身に長けているのか無理にメスガキを掴んで制止している。
無様にぼこぼこと叩かれても一発も反撃しない、男の癖に情けない奴。
「お、願いです・・・・こんな事、やらないで・・・・ッ」
「うるせぇなぁ、いちいち・・・・何で俺がやる事為す事全部・・・・お前らに許可を取らないといけないんだァア!!」
「ボキ!」
「ふん、手間をかけさせやが・・・・って!!」
「あ、う・・・あ、やめ・・て」
地面に無様に転がる小娘を見る。
意外と骨はある質らしい、まあ首の骨は今しがた折ったが。
「邪魔が入ったが・・・構えろ新兵共!」
「やめ・・・・やめ、て・・・・いや・・・だめ、そん、なの・・・・・」
「撃て」
「――――――――――」
俘虜は敵の政府の権内に属し、これを捕らえた個人、部隊に属するものではない。
俘虜は人道をもって取り扱うこと。
俘虜の身に属すものは兵器、馬匹、軍用書類を除いて依然その所有であること。
三馬鹿+1小隊はどうだった?
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嫌いじゃなかった
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この別れ方も悪くないかなって
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また再結成して欲しい
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正直あんまり好きじゃなかった
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四人で頑張って欲しかった