戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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83手遅れになる前に

「あの、僕・・・・・・もう、兵士辞めます」

 

「・・・・・」

 

「あっそう・・・・・はぁ!?グースあ、あんた・・・・え、辞めるの?」

 

 

露店通りのゴミ捨て場並に酷い空気感の中、グースが唐突に耳を疑う事を言いだす。

心が何処かに飛んでしまったかのように虚ろな目をしている隊長がその言葉に反応する。

私はたまに笑ってくれるその顔を見るのが、いつのまに好きになっていたんだろう。

今の隊長は見るに堪えない。

 

 

「自分で、決めたんですね」

 

「・・・・・・うん」

 

「グース、・・・・俺は、まだ続ける。だからお前と一緒に居てやる事は出来ないんだ・・・一人でも、大丈夫なのか?」

 

 

缶詰食品を食べるのやめたシャルがいつもよりゆっくりと喋る、心なしかいつもより丁寧な口調だ。

グースの方は何度か目を合わせようとして、でも結局申し訳なさそうに逸らして、重力に負けて項垂れている。

 

 

「うん、僕は大丈夫だよ。・・・・そ、その二人は・・・・いや・・・・隊長も・・・・・もう、戦う事なんか辞めない?」

 

「・・・・」

 

「私は・・・・・・・・」

 

「悪いなグース、俺はやるよ。途中でやめるつもりはない。」

 

 

いの一番にシャルがグースの言葉を否定する。

その言葉に私は少し胸を締め付けられる。

何故ならグースに辞めようって言われて、どうしようもなくそれは良い考えだと思ってしまったから。

 

 

「た、隊長いいの?・・・・私達が勝手にやめたりして・・・・・・」

 

「私は・・・・許すとか許さない以前に何かをしようとする人を強制する資格なんてありません」

 

「いや、そうじゃなくて・・・・・いて欲しいとか、そういうの、自分の気持ちって言うの?」

 

「・・・・・・・・自分の気持ち、ですか。はい、やめるなら歓迎です」

 

「ッ・・・・・」

 

「歓迎・・・はは、よかった・・・・隊長がそう言うなら、・・・・少しは・・・いや、違うかな・・・・」

 

 

はっきりと隊長の口から放たれた言葉は私にも突き刺さる。

辞める事を歓迎をするとは一体どういう事なのか、足手纏いが減って楽になるとかそういうのかなと思ってしまう。

私が辞めようとしたら、隊長は喜ぶのだろうか。

 

 

「グースは・・・・兵士として役に立たないから、歓迎って事?」

 

「違います・・・・・役に立たなくても、少しずつ成長していけばいい、私はそう思っています。だけど実際の戦場はそんなに甘くなくて・・・・だから・・・」

 

 

隊長が言い淀む。

 

 

「死んじゃう・・・誰でも、とても死にやすい戦場に・・・・・出して、出す意味なんて・・・・・面倒みきれない、私には・・・・私の力不足です」

 

 

この前の攻撃を思い出す。

発砲の音が酷く頭にこびりついて何があったかとかは音に上塗りされて殆ど覚えていない。

その筈なのに眠って見る夢は、はっきりと戦場の凄惨さを描写する。

あんな中で誰かを気遣う余裕を人に求めるのは酷だ、私達の隊長も一応等身大の人間なのだから。

 

 

「・・・・逃げるみたいで、ごめん・・・・シャル、・・・・・ジュリー」

 

「逃げるなんて・・・・ッ!・・・・・・・・逃げる・・・・なんて」

 

「そうだねジュリー、みたい、じゃなくて・・・・逃げたんだ、僕は・・・・」

 

 

言葉に詰まる、そんな事を言いたい訳じゃないのに、間違ったように捉えられて寧ろ酷い言葉になる。

軽はずみに喋り始めた自分を恨む、もっと他に言うべき言葉がある筈なのに、暗く沈んだ心は碌な言葉を知らない。

 

 

「戦いをやめる事は逃げる事だと思っていますか?」

 

「・・・・・はい、隊長・・・・僕は、そう思います。臆病な卑怯者です」

 

「・・・・・・」

 

 

自虐的に自分をこき下ろすグース、この上なく失礼で名誉を傷つける言葉を自分自身の口で発しているから訂正のしようがない。

誰よりも怖い事を怖く感じるのに、ここまで諦めずにいてくれたのは十分な勇気だというのに、言葉には出来ない。

それは気休めとか慰めで、偽物の言葉だと思ったから。

本物の言葉を何も言えないのは私がグースを見ることなく自分ばかりを気にしていたからなのか、グース自身に問題があったのか。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・あ、隊長・・・何を・・・や、やめ―――――」

 

 

沈黙が続く中、思い立ったように隊長が立ち上がり、座っているグースの目の前にやってくる。

何故だが分からないけど私はグースが殴られるような気がしたから咄嗟に間に入った。

根拠はない、ただグースが誰かに見下ろされてげんなりしている時は大抵怖い目に合う前段階だったから、染みついた習慣が勝手に私を動かした。

 

 

「やめてあげて・・・!ぐ、グースに手を出さないであげて・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「気が治まらないなら私を、な、殴っても良いから・・・・・・・!」

 

「・・・・・・・」

 

「お、お願い・・・・っ・・・・!」

 

 

隊長の目の前に立ちはだかるのは怖い。

今まで出会ってきた誰よりも優しい人だとは分かっているけれど、激戦を終えた後、血に染まった隊長を見た時に考えに疑念が生まれた。

いつ撃たれて死ぬかもわからない戦場で死ぬことを恐れずに走り、お腹にナイフが刺さっても戦い続けるその狂気じみた事実は怖かった。

グースを庇う言葉すら歯切れ悪くはっきりと言えない、でもちゃんと言い切った。

立ち尽くす隊長が恐ろしくなって目を瞑る。

 

 

「ッ・・・・・・?・・・・・え、あ・・・・あれ?」

 

 

焼けるような痛みを肌に感じることは無かった。

目を開けると、少し悲しそうな目をした隊長がただ私の頭に触れているだけだった。

撫でられている、というのか、された経験のない事だからよく分からない気持ちになった。

一体これはどういう意味なのか。

 

 

「そんなに、怖かったですか?・・・・ごめんなさい、怯えさせちゃって」

 

「え、・・・え?」

 

 

力なく笑う隊長は私が後ろに隠したグースの頭にも手を乗せる。

年齢の割に隊長は背も低くてあんまりそういうのが似合わなそうなのに、悪くないと思ってしまう。

振りほどく反骨心もなく、ただ受け入れる。

 

 

「ごめんない、怖い思いをさせて。こうなると知っていればもっと強く・・・いえ、もっと正しい言葉で伝えれたはずなのに、私も世間知らずのお子様だったんです」

 

「そんな・・・・隊長のせいなんかじゃ・・・・・僕が弱虫だから・・・・・・」

 

「いいえ、いいえダルマン君。怖いなりに頑張っているのをここに居る皆は知っています、今こんな事を言っても気休めになるかも分からないですけど、武器を持って戦う事が全てじゃないんです」

 

「でも・・・・」

 

「戦わない事も立派な戦いです。戦わない場所で、戦う人の為に、戦う人の分も行う営みも立派な戦いです、私はそれを卑怯だ逃げだとは言いません。同じ戦友と、仲間と言いたい。」

 

 

ずっとグースに顔を向けている隊長が最後に私の方を見る。

心に迷いが生じる、隊長の優しい言葉に甘えたくなる。

意気揚々と大見得きってここまで来たのに今更怖くなって帰る卑怯な自分に嫌気がさす。

 

 

「だから、言わせてください。・・・・・元気で、戦争が終わったら、また生きて会いましょう。仲間として再開して、友達になりましょう。四人でやった沢山の事は辛い事ばかりだったけど、楽しかったです。」

 

「だい、っちょう・・・・!」

 

 

肩で息をして泣き出すグースを隊長が抱きしめる。

私は子供みたいにズボンを握って心の慟哭を抑える。

 

 

「ジュリー」

 

「っ・・・・・な、なに?」

 

 

座っていたシャルから声がかかる。

もう誤魔化しようもなく震え声で返事をする。

私の異変を察知されたのか、バレたら嫌だ、何とか隠したいと思ってしまう。

 

 

「辛かったら、やめて良いんだ。無理なんてしなくていい」

 

「無理なんて・・・・・」

 

「辛いんだな、やっぱり、そうだよな」

 

「ち、違・・・・そう、よ・・・・・シャルの言う通り・・・ね、私は・・・・・私も、もう無理・・・」

 

 

否定しようとしたけど、両肩を掴まれてシャルに真っすぐみられる。

目を逸らすけど誤魔化しようなく、観念するように私は本心を吐露した。

私の言葉にシャルは静かに頷く、そして話し終えたら手は離された。

 

 

「隊長に何か、言う事があるんじゃないか?」

 

「うん・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「隊長、チェルナー隊長」

 

「はい。何ですか、ヴォアナさん」

 

「私・・・・・私も、もう・・・・・兵士、やめたい・・・・・・」

 

 

何て言われるんだろう、冷ややかな返しをされるのだろうか。

今まで散々偉そうにしてきて、そんななのに注意されることも無くとっても自由にやらせてもらって、挙句突然消えるのは勝手過ぎる。

グースとは違う、出来ないなら出来ないなりの態度とかがあるのに私は根拠のない自信とかで偉ぶっていた。

やはり殴られるのかなと構えてしまう、寧ろ殴られる方が気楽とさえ思っていたのかもしれない。

なのに

 

 

「・・・・あ」

 

「・・・・・・・ごめんない、気付いてあげられなくて、怖かったんですね。言い出すの迷ってたんですね」

 

「ッ・・・・」

 

 

口を噛みしめる。

怒号でもなく、拳でもなく、無視されることも無く。

ただ真正面から受け止められた。

背中を擦ってくれる手に導かれるままに隊長の胸に飛び込んでいた、自分から、甘えん坊の子供みたいに。

 

 

「もう立派な大人なのかなって勝手に思ってしまっていました、でも子供なんですね、全然子供らしかったのに・・・・私が見誤って」

 

「う、う・・・・何でよ隊長・・・・少しぐらい怒ったりしても・・・・・いいのに」

 

 

昂る気持ちを抑えられずに私は隊長の背中にしがみつく、ぐしゃっと服を掴んで離れないように抱きしめる。

暖かく、安心する隊長の胸の中に眠る。

 

 

「別れは、後悔なく―――――――――」

 

そんな私の耳横に隊長は顔を近づけて小さく囁いた。

 

「――――――――――これが、最期かもしれないから」

 

「・・・・・・・・・・・いや、嫌」

 

 

より一層、私は力む。

いつの間にか、グースやシャルも傍にいた。

壊れるかもしれないと怖がった関係は壊れるどころか、寧ろ弱い部分を曝け出して、より強いモノになった気がする。

それを受け入れてくれた皆と、辛い事があっても尚、変わらずに向き合ってくれた隊長に感謝する。

 

 

「皆それぞれ別の場所に居ても、ずっと一緒です。元気で、後は任せてください。」

 

 

 

隊長に言っただけで兵士を辞められるか疑問もあったけど、有無を言う前に隊長が後方を往復するトラックに私とグースを乗せて戦場から遠ざけてくれた。

あの人でなしの連隊長とまた何かトラブルになる気もしたけど今度は言い負かされる事は無いので大丈夫だと信じたかった。

後方の陣地に到着した後、グースは真っすぐ居住地に戻った。

私は・・・・私も戻ろうとしたけど、・・・・・畑を耕すのはやはり少し嫌だったので違う仕事を探す事にした。

自分で言うのも何だけどかなり我儘だなと呆れた、気のせいかこの一か月でかなり年を取った気がする。

 

 

 

 

 

「あ、あの・・・・」

 

「ん、何だ坊主、迷子か?」

 

「いえ、・・・・パーペン議長を探してて・・・・何処に居るか分からなくて・・・・」

 

「議長サマは確か今、軍事顧問団の奴らと軍略会議だ、もう二時間前に始まったから少し待っていたら終わるだろうから待っとけ」

 

「あ、ありがとうござい、ます・・・・・」

 

「いいって事よ」

 

 

僕は真っすぐ居住地には帰らずにアルデアル居住地の一番地にやって来ていた。

一番地はここら辺りで一番発展した場所の一つとはっきり分かる。

住人の住む場所も奇麗に整理されていてちゃんと加工されている木材で家が作られている。

僕がいた居住区では恵まれてる人でさえ雑な掘っ立て小屋住みだったのにえらい違いだ。

 

 

「―――――第二連隊には193人の補充と小銃を200丁程、輸送して――――」

 

 

ガラス越しに中の様子が少し見える。

ぐんりゃく会議?らしき事はまだ続いていて暇ではなさそうだ。

なので入口の傍で少し待つことにした。

 

 

「―――如何ですかパーペン議長?」

 

「個人の携帯備品の把握に努めよう、輸送品の最適化をする為に一の位まで詳細化するように―――――」

 

 

パーペン議長、アルデアル居住区の一番偉い人と言われている。

元議会議員とか元閣僚とか色々と囁かれているけど、追放されてここに来た人達と一緒にその手腕で一大コミュニティを築いた普通の人。

この人のおかげで山肌を開墾する突破口が出来たとか家が作れたとか感謝されている。

今の今までどうって事ないと思っていたけど目の当たりにしてみると上に立つに相応しい人の風格を感じる。

 

 

「―――足りない中での貴重な物資だ、厳正な管理をすればやがて満たされて不足に困る事は無くなる――――――」

 

 

大きな括りで一概には言えないかもしれないけど、僕達兵士は大体の人が大雑把だ。

悪く言えば頭が弱いのだ、余りある力のせいで考える事が少ない、育った環境のせいもあるかもしれないけど。

足りない頭として代わりに・・・いや、完全な上位互換としてパーペン議長は最適だ。

きっと自身以上に自身を使ってくれる、だからこそ彼に一番使われる機会が多かった一番地はここまで発展できたのだろう。

 

 

『ぶっはぁ・・・あっちち、普通の奴はどうにも寒がりで仕方ない。外は涼しいなぁ!』

 

「・・・・・外国語?」

 

 

外で待っていたら扉を豪快に開けて隊長並みに小さい子供が出てきた。

謎の言語を喋っている、バルカン連邦は色々違う言葉を喋る人がいるから僕が知らないという事は多分南部出身の人か。

しかし偉い人が集まっている建物に随分と幼い子もいるんだなと思った。

 

 

『3分ぐらい涼んだら戻るか~「ん?少年、こんな所で何油を売っているんだ?」』

 

「え」

 

 

謎の言語から急に分かる言葉に切り替わってぎょっとする。

しかも僕に話しかけている、知らない人に急に話しかけられるのは怖い。

 

 

「怪しいな、対敵協力者か~?」

 

「え、あいや・・・たいてき・・・・え?」

 

「ジョークだよ!にゃはは、中に用があるのか?」

 

「あ、・・・えっと・・・・うん、パーペン議長に」

 

「なら中で待つと良い、終わったら裏口から帰るからここで待ってたら逃げちまうぜ?」

 

「そ、そうなの!?」

 

「おう!出入り口は一つじゃないんだぞ」

 

 

流れるように招き入れられる。

中にはもう随分と見ない高そうな椅子があった。

当たり前のようにそこに座らせて貰う。

 

 

「じゃ、さっさと片付けるから待っとけよ~」

 

「・・・・・・さっきの人、可愛かったな」

 

 

ひと段落ついたら緊張とかも解けてようやく普通の人が思っているであろう感情を抱き始める。

少し柔らかな座り心地に癒されて段々と眠りに誘われてぼーっと天井を見つめ始める。

 

 

「それではこれで決定だ、皆ご苦労だった」

 

「ふぅ終わった終わった」

 

「今日は予定より1時間オーバーししなかったね」

 

「それではまた明日お会いしましょう」

 

 

会議の部屋のドアが開いてぞろぞろと人が出てきた音で飛び起きた。

如何にも偉い風に見える人が沢山いたので申し訳なくなって通路の端っこに立っていた。

人の出入りがなくなるまで暫く待った。

 

 

「あ、もう入って来ていいぞ少年」

 

「は、はい!」

 

先程外で会った女の子に促されて部屋に入る。

 

「失礼し・・・し、ます」

 

 

中に入ると議長と女の子と端っこに黙って立っている数人の人がいた。

特に黙って立っている人達は怖かった、何故なら思いっきり銃を持って今にもこちらに発砲してきそうな風貌をしていたからだ。

臆病な自分に負けじと固唾を呑み込んで、僕は勇気を出して一歩前に踏み出した。

 




三馬鹿+1小隊、解散ッ!!
・・・・読者ニキネキ的にはどうだった?
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