戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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84心は折れずとも重圧でその形を変える

「緊張しなくてもいい、友達と雑談をする感覚で構わないよ。私はローン・パーペンだ、良ければ君の名前を聞かせて欲しい」

 

「ダルマン・・・・グリースです。・・・こ、こんにちはパーペン議長」

 

「こんにちは、さて今日はどんな用件で来たのかな?」

 

 

早速本題を切り出された、心臓が飛び跳ねているかのように胸が痛い。

今から言う事が果たしてどれだけ自分の想像通りに働くのか、全く見当違いで最悪な方向に向かうかもしれない怖さに喉が詰まる。

 

 

「あ、あの・・・・・僕、昨日まで・・・・戦場、にいて・・・・」

 

「戦場に・・・!それは、・・・何と言ったらいいか、君みたいな小さな子が・・・・」

 

「あ、いや・・・僕、殆ど何も出来なくて、怖くて動けなくて、した事と言えば荷物運びぐらいで・・・敵は肩に一発偶然当てたぐらいで全然役に立たなくて・・・・」

 

「生きてるだけで十分に素質あると思うぞ私は!あ、紹介が遅れたな、私はアズトナーシャだ。特別軍事顧問という肩書だがまあ戦争に詳しい人ぐらいの認識でいいぞ!」

 

「え、戦争に詳しい・・・・あ、ど、どうも」

 

「専門家の太鼓判を貰えているんだ、胸を張ると良い」

 

「あ、ありがとうございます。・・・そ、それで・・・本題、なんですけど・・・」

 

 

ただ戦場にいたというだけで無条件で褒められるのは恥ずかしかった。

生き残る事が素質と女の子、アズトナーシャは言うけれど僕からしてみれば命を顧みずに敵の塹壕に進み続けて撃ち殺された人の方がよっぽど凄いと思う。

ただ怯えて地面を這っていた僕が褒められて物言えぬ彼らが評価の一つもされないのは・・・・苦しい。

 

 

「あの・・・・えっと、・・・・その」

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、・・・あ、えっと・・・・」

 

「ゆっくり落ち着いて息を吸うんだ」

 

「は、はい・・・・はぁ・・・はぁ、すぅ・・・」

 

「落ち着いたかい?」

 

「少し・・・はい」

 

「慌てなくていいよ、どんな話でもちゃんと聞こう」

 

「ありがとうご、ございます」

 

 

多分相手からしてみればお世辞とか言葉の定型文ぐらいの重みの一言でも、僕は飲み込みようのない重すぎる言葉として捉えてしまう。

今はそんな事を気にしている場合ではないのに処理しきれずにいつものように物が言えなくなる。

だけどそんな僕の胸の内を分かってくれているかのように宥めてくれるパーペン議長、とても話し上手なんだと分かる。

 

 

「それで・・・・大きな戦いがあって、沢山人が死んで・・・味方も敵も・・・・」

 

「聞いているよ、そこにダルマン君も?」

 

 

落ち着きのない手が震える、なくなっていく自信と共に声も小さくなる。

だけどそんな僕を励ます様に議長は座ってる僕の目の前に膝まずいて手を握ってくれる。

少し勇気が出てきて、話しやすくなった。

 

 

「は、はい・・・・それで、全部終わって、生き残って・・・・生き残った敵の人がいて・・・」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「た、隊長が・・・・あ、えっと僕の隊長じゃなくて違う隊長が・・・・銃を握り慣れてない新兵の訓練だってその人たちを・・・撃ち殺せって―――――――――」

 

「―――――――――何だと!?」

 

「っ・・・ひぇ・・・」

 

 

議長ではなく横にいたアズトナーシャが、その子から出るとは思えないような怒りが込められた声が上がる。

大きな声で窓が震える、僕も怖くて震える。

その怒りが自分に向けられている物だと気付くのに少しばかりかかった。

 

 

「アズトナーシャ、先ずはこの子の話を聞こう、抑えてくれ」

 

「ッ・・・分かっている、続けてくれ・・・・」

 

「え、あ・・・・あ、僕、・・・いや、僕の隊長が・・・・おかしいって・・・止めようとして、だけど止めらなくて・・・・」

 

「捕虜は殺したのか!?」

 

「アズトナーシャ」

 

「あ、すまない・・・・」

 

「そ、そこにいた敵は・・・・・・・う、撃たれて、死んだかなんて・・・・知らない・・・見てない、・・・・ご、ごめんなさい、僕変な事言って・・・!」

 

「変な事なもんか、君が投げかけたこの話題はとても大事な事だ。ありのままの出来事を話してくれて良いんだ、それで私達も助かる」

 

「怒ったりし、しないんですか?」

 

「少なくともダルマン君、君を責めることは絶対にないと約束しよう」

 

 

はっきりと面と向かって保証してくれて初めて見当違いの恐怖が払拭される。

喉に詰まっていた物が取れたかのようにはっきりと呼吸が出来る。

 

 

「その時は、これも皆の為って言いくるめられたんですけど、やっぱりおかしいと思うんです。だから・・・・そんな事を辞めさせるように偉い人に言って貰えないかなって・・・」

 

「言われなくても!すぐに走ってぶん殴ってやりたい気分だ!全く話にならない体たらく・・・・!」

 

「それも重要な事だが、実行をしたのは隊長・・・隊長の隊長で良いのかい?」

 

「は、はい連隊長で名前は確か・・・バジューク、ノートリアス・バジューク・・・です」

 

「あのクソ若造・・・・」

 

「その人が一人でやったのかい?確かなんだね?」

 

「一人でやったかは分からないですけど・・・・止めようとした僕の隊長を酷く殴りつけて、怖がる人も無理やり銃を撃たせて・・・・」

 

「もういい、ありがとう・・・・」

 

「な、何とか、出来るんですか?」

 

「出来なかった場合は私自らあいつの頭を撃ち抜いてやる、野蛮人め、だから部隊の監視は必要だと言ったのに・・・っ!」

 

「落ち着いて欲しい。・・・さてダルマン君、他に何か言っておきたい事はあるかい?」

 

「他に・・・・は、ないです・・・・それだけで・・・・」

 

「ありがとう、君の善良性と勇気ある告発で我々は大きく救われた、感謝する」

 

「いや僕は何も・・・ただ・・・あの隊長が僕達の隊長を正義漢ぶって殴ったのが許せなくて・・・泣いて懇願されても、あいつは寧ろ・・・・馬鹿にしてッ!」

 

 

憤りを覚える。

制止しようとしたチェルナー隊長は振りほどかれてもまだ諦めなくて。

直接銃を構えている人たちを止めに入って。

でもあいつに掴まって、ずっと抑えつけられて、僕は何も出来なかった。

いいや、何かをする以上に、何かをしようとしたジュリーを掴んで止めた。

一番の卑怯者は僕だ。

 

 

「僕は・・・何も出来なくて、ああ、ごめんない。・・・すいません」

 

「いや、良いんだ。ゆっくり休んでくれて良い、後の事は任せて欲しい」

 

「ありがとうございます・・・・」

 

「あ、おいちょっと待て」

 

「はい?」

 

「戦場にはもう行かないんだろ?」

 

「・・・・・・はい?」

 

 

何だろう、やっぱりちょっと怒られるのかな。

 

 

「ならそれ、戦場で使う備品だ。私物として持って帰るのはダメだぞ」

 

「・・・・・この鋏の事ですか?」

 

「そうだ」

 

「鋏をどう戦場で使うんですか?役に立たないし持って帰って物を作る時の工具にでもしろって・・・隊長が餞別に」

 

「は?」

 

「す、すいません?!」

 

 

アズトナーシャの声色がまた変わって怖いものになる。

やはり備品を私物みたいに持って帰るのはダメだったか、銃とかは流石に置いて来たけど鋏ぐらいは良いでしょうって隊長に貰ったけど・・・。

 

 

「それ・・・・使ってないの?」

 

「・・・何に?」

 

「進撃の時に、・・・鉄条網に足を取られて大勢死んだって報告が上がって来ていたし・・・」

 

「てつじょうもう?え、何ですかそれ?・・・・足を取られたって、・・・そんな物なかったですよ」

 

「・・・・・・」

 

「そんな筈はない、正面攻撃を仕掛けた部隊は何重にも張り巡らされた鉄条網に苦戦して大損害を被ったんだ」

 

「僕・・・側面から叩く部隊だったので・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

「あ、あのすいませんこれ返します・・・」

 

「いや、もういい・・・・何もしなくていい、・・・・」

 

「ダルマン君、もう行って良いよ、寧ろ行った方が良い」

 

「え?・・・は、はい」

 

 

鋏を渡そうかと近づいたけど受け取りを拒否された、自分で返せという意味なのか立ち尽くす所だったけど、パーペン議長に促されてそのまま退出する。

結局、私物として持って帰って良いのか分からないまま建物を出た時だった。

 

 

「備品の使用用途も分からない怠け者共が!!!揃いも揃って猿みたいな知能をした堕落者の集まりめ!

粛正だ粛正!詰まらない怠慢のせいで何人が死んだんだ!道具の使い方さえ分かっていれば損害もこんなに出なかった!

人殺し共が!この際頭は全て挿げ替えて指揮の仕方なんて分からずとも自分は無知だと自覚している常識がある奴に―――――――」

 

 

やはりあの風貌からはとても出るとは思えない野太い声が響き渡った。

荷物を配る人とか配達する人への文句とか隊長クラスの人達の生意気な態度とか規律の緩みを叫んでいた。

兵士であるから戦う事に関しては誰しもひときわ大きい自信があったけどその道の人から見れば大して凄くもない烏合の衆同然なのだろう。

結局この鋏は何を切る物なのか分からず僕は居住地に戻った。

 

 

 

 

 

「あ、それ明日までに直しといてくれよ」

 

「洗い物は全部今日中に済ませておけ、乾いたら柔らかく一枚ずつ丁寧に解せ」

 

「ほらさっさと働け!戦えもしない無能が!」

 

「・・・・・・ッチ」

 

 

俺を・・・俺達を顎で使う偉くもないのに偉そうにしている奴らに腹が立つ。

確かにちゃんと命を賭けて戦いに挑んだ兵士から見れば腰抜けかもしれないがここまで粗雑に扱われる謂れはない。

こっちだって曲がりなりにも命をかけたというのに、雑用を当たり前のように全部押し付けられるのは道理じゃない。

 

 

「ふん、ふんふん~♪」

 

 

なのに、だというのに・・・・チェルナー隊長は文句一つ言わずにそれを全うしようとしている。

隊長が腰抜けじゃない事は知っている、強いとか弱いに拘らずに間違った事は間違っているとはっきり言う質だ。

だけど俺にはどうして納得しているかのように雑務をこなしているのかが分からなかった。

 

 

「チェルナー隊長、よく何も言わずにできますね」

 

「え?」

 

「反論したくなったりしないんですか?」

 

「まあだいたい皆あんな感じだし、一応許可も取らずに部下を二人も勝手に帰らせた責任とかあるし・・・あ、そう言う意味だとシャルロット君は・・・ごめんね」

 

「俺の事は関係ないです・・・・・・・あともうシャルで良いですよ、俺の事」

 

「じゃあ、シャル君」

 

 

俺はお世辞にも誰かと仲良くなる力はあまりない。

距離の詰め方も下手糞だしお喋りも下手だ、グースも喋るのは下手だけどあいつは喋る事自体が下手糞であって俺みたいに言葉の使い方はそこまでではない。

頑張れば治せるが、果たして俺はどうなのだろう。

ジュリーもグースも帰って俺一人が残ったが・・・心中を察して毎回間に入ってくれるジュリーがいないと少しばかり不安だ。

俺が抱いた思いとかが正しく言葉となって隊長に伝わっているのかが不安になる。

 

 

「隊長」

 

「何ですか?」

 

「隊長はこの戦争が終わったらどうするんですか?」

 

「えーっと・・・・難しいかな、どんな風に終わるかで何をするか変わって来るかも」

 

「勝ったらの話ですよ」

 

「勝ったって言ってもいっぱいあるし」

 

「いっぱい?」

 

「ただ戦いに勝ち続けた結果とか、話し合いで妥協点を見つけて勝ったり、私の幼稚な考えだと想像できない特異な勝ち方だったり・・・」

 

「・・・・・言われてみれば」

 

「敢えて言うとすれば、・・・・戦いなんてやめて皆で平和に仲良く暮らしたいです」

 

 

何でもかんでも知っていて思慮深い隊長にしては大雑把で世間知らずの子供が言いそうな空想めいた夢を呟く。

流石に言葉の綾だろうと思い隊長に細かく尋ねる。

 

 

「皆で・・・皆って・・・アルデアルの皆、ですか?」

 

「・・・・それも良い事ですけど、もっと沢山の皆です。この国の皆、ひいては世界中の皆と・・・です」

 

「俺達を捨てて良いように利用した奴らもですか」

 

「それは・・・・嫌ですよ、私だって。そう言う人たちは顔も見たくない、金輪際関わりたくもない」

 

「じゃあ何で?」

 

「だっても何も、私達以外の皆が私達に酷い事をしてきた人達だとは限らないじゃないですか」

 

「・・・・・でも、こうなる事を看過した」

 

「そう考える人もいるでしょう・・・・いえ、そう考える人が殆どな気もします。最近分かってきました、本当に、根深い・・・・」

 

 

服を洗う隊長の手が止まる。

ある方向をじっと見つめて目を細める。

見ている先には仲間が焚火を囲って談笑している姿がある。

 

 

「この戦いに身を投じる人の中で、どれだけ平和に近づいたかを祝う人は少ないです。終わりが見えないから仕方ない事ですけど、どれだけ人を傷つけたかを祝う人が多い事は嘆かわしい事です」

 

 

先日、ジュリーから聞いた話を思い出す。

隊長とあの嫌味たらしい連隊長のトラブルを。

その時、話を聞いただけでは人情家の隊長と合理性の塊の連隊長のどっちつかずのトラブルに思ったが今は少し揺らいでいる。

いや、隊長と出会ったその時から俺達はこの人に影響されている。

 

 

『私達をこき使ってきたクソバカをぶっ飛ばしてやる行くわよ二人とも!』

 

 

軽い気持ちで戦いに参加した、『傷つける』事がどういう事なのかも確かに理解しないまま。

『殺す』という重い現実を誤魔化して代わりの言葉で自分たちすらをも騙していたような気がする。

兵士の力は簡単に人を殺す事が出来る代物だけどこんなに恵まれた力を授かっても命を奪う事は難しい。

多くの人は難しさの原因である躊躇と未熟さを埋め合わせようとする。

 

隊長に出会わなければきっと自分は躊躇を取り払い未熟さを埋め合わせて殺人マシーンになっただろう。

躊躇のなくなりは人の存在そのものを軽視し始め、成熟は人間性の喪失に他ならないから。

生きとし生ける者がその営みを奪う事に何ら情動がなくなったら生き物として破綻している。

ましてそれが同族なら尚更に。

 

そう考えるようになってしまったから、隊長の考えに賛同してしまっている。

倫理と合理性の狭間で思い悩む。

このような甘い考えでこの先、勝利を得られるのか。

勝利を得るために大切な物を捨てたら、勝利した後の自身は果たして自身と言えるのか。

心が変貌して別の誰かになっているかもしれない、そう表現しても差し支えのない事になっているかもしれない。

 

 

「隊長、俺はただ戦います。自慢する為とか満足する為じゃない、誰かの幸せの為に、未来の為に戦います」

 

 

そう言うと隊長は素朴な笑顔を浮かべてくれる。

 

 

「頑張りましょう、皆の為に、これ以上争いが続かないように」

 

 

戦争に、争いに身を投じれば誰でも変わってしまう。

俺は自分が自分自身のまま戦い続けたい。

そして帰るべき場所に、帰る時でさえ、何も変わらずにいたい。

 

 

「どうか、そのままのシャル君で」

 

「・・・・・!」

 

「どうかしたんですか」

 

「俺の心を見透かしました?」

 

「いえ、今言ったようなままで居て欲しいなって、あ、加えて言えば、ただ口数少ないのに行動原理とかはっきりしていてちょっと悪い子になるシャル君のままで居て欲しいと」

 

「・・・・・・」

 

「皆が皆のままで、戦争で変わることなく、そのままに」

 

 

きっと俺が抱えている葛藤とか悩みを隊長はずっと前から抱いていた。

初めてみた時は正直口では真っ当な事を言ったもののチビだし頼りないと侮っていた。

今は微塵もそう感じないがそのまま伝えたらどんな風に反応するのだろうか。

確かではないが、この先この人に付いて行けば俺は道を違える事はないだろう、俺なんかが付いていける程、平坦な道であるかはまた別の話だろうが。




使用用途不明のハサミは鉄条網を切断する為の道具でした。
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