戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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85急に訳も分からず首を絞められる

親展/極秘/対外諜報局へ

 

題名:第四次バルカン戦争

 

日時:1952年11月

 

目録

1.政府戦線

2.反乱戦線

3.希土戦線

4.総括

 

 

1.政府戦線

バルカン連邦政府と独立を表明したブルガリア政府の戦いは佳境に迫っている。

専門家の分析によればバルカン連邦の最終攻勢が成功する可能性は低く、仮に成功した場合でも戦術的勝利に留まり戦略的勝利は得られないとする。

既にバルカン連邦は旧ブルガリア地方政府の領域の3割近くを占領しているが占領下の抵抗運動の鎮圧に膨大なリソースを割いている。

都市化されていない牧歌的な地域の抵抗運動は都市部と比べて脆弱であるとされているが、全土が占領された際、連邦政府の管理許容を超えるのは容易だろう。

その場合が戦乱の継続となり目的は達成される為、可能な限り成功する手伝いをしても構わない。

 

2.反乱戦線

現地の情報提供者からの知らせによればトランルシバニア地域に追放されたノーワーズが徒党を組んでバルカン連邦に反旗を翻したとされる。

詳細は不明だが開戦前に連邦から入手した記録書類によれば少なくとも同地域には『20万人のスレッシャー(ノーワーズ)を移住している』とされる。

反乱が成功しバルカン連邦が鎮圧に失敗した際は版図を拡大し厄介な勢力として君臨する恐れがある。

各駐在員と分析官は注視されたし。

 

3.希土戦線

オスマン帝国の艦隊再建計画の成功により旧式艦だけで構成されていたギリシャ海軍勢力は駆逐され制海権は完全にオスマン帝国側に渡っている。

また空戦でもオスマン帝国の新型の戦闘機が猛威を振るっており、航続距離の優位に立つギリシャ国内の戦いでも同国は後れを取っている。

しかし海と空の支配権を失ってもギリシャ地方政府の陸での抵抗は激しくオスマン帝国の精鋭陸軍の攻撃を頓挫させている。

だが確実に後退はしている事から敗戦は時間の問題と思われる為、オスマン帝国へのサボタージュとギリシャ地方政府への有利な働きかけを推奨する。

 

追記:本国としてもオスマン帝国の侵略戦争を非難し経済的な罰則措置を行使する準備が出来ている。

 

 

4.総括

バルカンの新秩序形成の為には長期化する紛争が望まれる為、戦争を拮抗状態に調整するのが我々の目的である。

現段階では情報が少ない反乱戦線の内情把握に努め、早急な対応策を立案し行動する事が重要である。

今月中には専門家の助言によりバルカン連邦政府への小規模な食糧支援が開始される予定の為、アドリア国、イベリア連邦駐在員は貨物の手配を万全にするべし。

また戦争指導者への接触も進んでおり早ければ近日中に武器売買が成立する可能性もある事を念頭に置いておくように。

 

 

*山岳共和国の戦争援助が発覚した為、対外戦略が大幅に見直されました、本文書は早急に破棄してください。

 

 

 

 

 

「そ、そんな・・・どういう事ですか!俺はこれまで必死に、必死にやってきました!そりゃあ足りない部分もあったかもしれませんけど・・・・・」

 

「パーペン議長どうして突然そのような事を・・・」

 

「ノートリアス・バジューク元連隊長は部隊指揮に足る人材ではないと判断された」

 

「いやあの、そういう事ではないくどうしてそう判断したのかを・・・・」

 

「俺は命を賭けて戦って来ました!野郎共を率いて敵の弾丸の嵐の中を走り抜けて議長サマ達に勝利を献上しました、どうか・・・・どうかご再考を!」

 

 

最前線の陣地は朝から騒然としていた。

今の様な驚愕とした騒ぎではなく、前線に自分達のトップであるパーペン議長が来訪するという知らせを受けていたからだ。

だらしない姿を見せれば何か言われるかもしれないと最近は怠惰になりつつあった兵士一同は慌てて取り繕うために奔走した。

そして今、陣地に到着した議長は真っすぐ連隊長がいる司令テントに向かい、バジューク連隊長に解任書類を叩きつけた。

 

 

「ここには私を含む多くの議員の代表者の署名がある、皆君の不義理な行動に対する処断を許すサインだ、直訴しようが何をしようが君が今の地位に返り咲く事はない」

 

「そ・・・・そんな勝手な!どうしてですか!」

 

「全てはこの書面に記載している。だが君の功績も確かにある、それに免じて処罰はないものとする。これは最大限の温情と思いなさい」

 

「ッ・・・・こんなの・・・・・・・畜生ゥ・・・俺は、勝利の為に、勝つために・・・・正しい事をしただけだっ・・・・!」

 

 

地面に突っ伏して唸るバジューク、そんな彼を見下げた議長は何をいう事なくテントから退出する。

周りにいた次席の兵士は自分たちがよく分からない理由で処罰されなかった事にほっとした。

バジュークがぐちゃぐちゃに握りしめた書類には以下の事が記載されていた。

 

 

以下、乙が引き受ける責任事由である。

 

・攻勢作戦時の時刻確認の不徹底

・捕虜に関する取扱い

・指導範囲を超えた友軍への過度な暴力行為

・戦略物資の不完全な配給、使用用途伝達の怠慢

・協調性の欠如

 

 

「っゥウウ!!!何だよ時刻確認って・・・俺が何で腕時計の針のズレまで気にしないといけないんだよ!捕虜の取扱いって何だよ、知らねえよそんなお前ルールっ・・・!

暴力行為?必要な事だろう、軍隊だぞ・・・!戦略物資の配給なんか俺が知る訳無いだろ、一つ一つ説明なんてあほらしい・・・ッ、・・・誰だ、俺を貶めたクソ野郎はッ!」

 

 

バジュークは激怒した、必ずや私怨で自身を貶した卑劣な小人を見つけ出し報いを受けて貰わねばと。

思考した、自身を告発しこの心外な罪を覆いかぶせた狡猾で忌むべき膿は誰かと。

 

 

「軍事顧問の野郎か・・・ッ・・・いや、あいつは気の強いメスだからこういう時は直接顔を出すはずだ・・・・なら誰だ・・・」

 

「おい」

 

「ああ、何だ!?」

 

「元連隊長さんよ、ここは司令テントだぞ?」

 

「早く出て行ってくれないか」

 

「いつまでもいたら仲間だと思われちまうよ議長さんに、失せてくれないか?」

 

「ッ・・・テメエら、覚えていろよ」

 

 

掌を返したように態度を一変させる元部下共、先程までだったら俺の一声でどうにも出来た奴らが偉ぶり始める。

ふん、精々楽しむがいい、俺がいないお前達など1週間と持たない、まだ見ぬ敵に屍の山とされるが良い。

と彼は心の中で吠えた。

 

 

「ビリ」

 

 

彼は連隊長章を自身から取り除き机に投げつけた。

そしてテントを出た。

不幸にも彼はそこで答えに成り得る人物を目撃してしまう、自身を告発した最低最悪のクソ野郎の答えになり得る人物を。

 

 

「カフカちゃん・・・・元気そうで本当に良かったよ」

 

「ローンおじさんも・・・目の隈酷いですよ、ちゃんと寝てるんですか?」

 

「ははは、分かるかいやっぱり?」

 

 

あれは、あの忌々しい金髪の小娘は。

先日コテンパンに殴って顔をぐちゃぐちゃにして泣かせてやった女だ。

先程まで威厳マシマシだった議長の顔を骨抜きにして話し合っている、そう思案した彼は自力では否定できない程の有力な仮説を成立させてしまう。

怒りが静まる前にそれをぶつける相手を見つけてしまった彼は後先考えずに詰め寄った。

 

 

「あの女が・・・俺を嵌めたんだ・・・そうだあいつだ、あのクソアマ・・・下手に出ればつけあがりやがって・・・・ッ!」

 

「ダメですよ、毎日ちゃんと眠らないと体を壊しますよ、ただでさえここの寒さはおじさんには堪えるんだ――――え、あ」

 

「このクソアマ!テメエかテメエらがある事ない事を吹き込んだのか、ええ!?」

 

「ちょ、きゅ、急に何を言って・・・痛っ・・・は、放してください連隊長、急に何をするんですか・・・・ッ!」

 

 

傍にまだ議長がいる事を考えもせずにバジュークは少女、カフカに掴みかかる。

その余りある腕力で首を締め上げて持ち上げている、幸いにも兵士は頑丈なのでそう首を絞められただけでは容易には死なない。

だがそれでも苦しい事は苦しいのだ、持ち上げられたカフカは振りほどこうと抵抗するが、激高して全力を出している相手には無意味だった。

 

 

「俺のやり方が気に入らなかったかええ!?金でも積んだか!愛想でも振りまいたか、無駄に可愛いその顔で篭絡して股でも開いたかこの淫売女!」

 

「何を言って・・・・ッ!」

 

「何をしているんだ、その子を放しなさい!」

 

「黙っていろこの分からず屋が!」

 

「ぐぅ・・・!?」

 

「お、おじさん!やめてください!またそうやって誰かを傷つけて・・・・ッ!」

 

「黙れ黙れこの蛆虫が・・・!お前なんかこの手で絞め殺してやる!何の力もない癖に他人の威を借りてのさばる寄生虫が!どうせ卑しいパラボルンの生まれなんだろう!」

 

「意味の分からない事を・・・・げほっ、」

 

 

止めに入ろうとしたパーペン議長が乱暴に突き飛ばされる、バジュークがより一層に力みカフカの首を締め上げる。

普通の人間の首なら当に折れているであろう剛力で締め上げられるカフカは本格的に苦しみ始める。

足もじたばたし始めて怒りが収まらないバジュークの加虐心を満たし始める。

 

 

「何の騒ぎだ!?」「連隊長何やってんだ?」「元だよ元、さっき解任されたってよ、笑うよな」

「いやそんな事言ってる場合じゃないぞ」「何か・・・やばくないか」「あれ本気で殺しにかかってるよね?」

 

「泣いて謝っても許したりしねえ!お前が自分の卑しさを認めるまで俺はお前を締め上げる!」

 

「は゛・・・なせ・・・!げほっ、おごぉ・・・は、なして!」

 

「暴れるな!」

 

「がほっ・・・・」

 

 

持ち上げられていたカフカは振りほどく試みを諦めて、締め上げてくるバジュークを直接攻撃する事で何とかしようとした。

かなり重いパンチが二発、バジュークの顔面に炸裂し彼の鼻をひん曲げる。

 

 

「こ゛、の!」

 

「ごぼっ!?・・・くっそアマぁあ!」

 

「うぐ・・・・!」

 

 

想定よりも激しい抵抗をされてバジュークは慌てて持ち上げていたカフカを振り回して地面に抑えつける。

自分の頭は抑えつけた彼女からめいいっぱい遠い位置に避難させる。

これでもうカフカの拳はバジュークの顔に届く事は無理になる。

 

 

「暴れるなよぉ。はは、もっと苦しめ!絶望の顔を俺に向けながら堕ちていけえええぇええ、っははあああはははは!良い様だ―――――――あがぉ!?」

 

「けほっ・・・ほ、・・・うぅ・・・」

 

 

目の前の事に囚われすぎたバジュークは横から繰り出された攻撃に全く気付く事なく殴打された。

兵士に比べれば非力で普通の人のパーペン議長でも、そこそこの長さの板材を全力で振りかぶれば大きな威力となる。

 

 

「ぐ、お・・・・痛ってぇえなあ畜生!畜生ゥがああ!!」

 

「カチ」

 

「――――あ、」

 

「これ以上暴れれば私はこの引き金を引く事になる、頭を冷やしなさい」

 

 

殴打されて掴んでいた物を放して転がったバジュークは痛みに悶々としながらも立ち上がり事を続けようとした。

だが、自身に向けられた銃口、それも向けているのはあの最高権力者の議長と分かった事で、暴走していた彼はようやく冷静さを取り戻し始めた。

 

 

「議長・・・・じょ、冗談だろ?何で・・・・そんな小娘、俺の方が余程役に立って・・・・」

 

「君が何を言っているのか私には分からないよ、・・・・誰かこの馬鹿の面倒を見ろ」

 

「お、俺は・・・ま、待ってくれ!待ってください!」

 

「ほら立てよバカ連隊長、元連隊長」「大人げないぞ」「情けない」「無様」

 

 

周りの観衆に暴れていたバジュークを任せるとパーペンは未だに喉を抑えて咳き込む少女に駆け寄った。

その光景を群がる有象無象の隙間から見たバジュークは絶対に忘れまいと誓った。

彼は軍隊からは除名となり、居住地に強制的に送還された。




身に覚えのない暴力を受けるカフカちゃん可愛いね

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