戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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86心が壊れないように開き直る

今日は3週間ぶりにローンおじさんに会える日だった。

早めに起きて仕事とかを片付けて、ちゃんとしっかりしているか心配されない為に身なりを整えて服も奇麗にして体も洗った。

少しはしゃぎ過ぎているかなって我に戻りかけたけど、それでも久しぶりに会えるのだから張り切り過ぎてもいいかなと割り切った。

 

 

「~♪」

 

「隊長今日はいつにも増して随分と上機嫌だな?」

 

「今日はローンおじさん・・・議長さんが来るって言うからちょっとウキウキしています!」

 

「知り合いなのか?」

 

「はい、ここに来る途中で色々としてくれた・・・ここに来てからも沢山の事を私達の為にしてくれた恩人です」

 

「一緒に来たんだなここに」

 

「ええ!」

 

「でも隊長に会いにわざわざこんな所に来た訳でもないんだから期待しすぎるとがっかりする事になるかもしれないぞ?」

 

「・・・・・そ、そんな事ありません!あ、でも仕事で来たら邪魔しちゃ悪いかも・・・確かに・・・寧ろ迷惑かな」

 

「あ、いや・・・・でも生きて元気な姿は一目ぐらい見せるぐらいなら喜ぶんじゃないか、お互いに」

 

「そ、そうですか~・・・じゃあちょっと、ちょっとぐらい、えへへ・・・楽しみですね・・・!」

 

 

一瞬、シャル君に背筋が冷えそうな忠言をされて固まるけど、よくよく考えればおじさんは優しい人だから私が少しぐらいの我儘なら許してくれる気がする。

仕事でこっちに来るとしても私とちょっと会って無駄な時間を過ごすことぐらい許してくれるに違いない。

本当は迷惑だからわざわざ会いに行くのは避けるべきかもしれないけどシャル君の言った言葉を免罪符にしようと思う。

 

 

「元気そうな私を見てくれたら喜ぶ・・・喜ぶかな?えへへ、まだ来ないかな~おじさん」

 

 

普段は雑に束ねて後ろに放り投げている髪も少し手間をかけて結ってみる。

ヴォアナさんはこういうお洒落な事にめっぽう強いからどうせなら居てくれればと思ってしまった。

下手糞なりにも一応それらしく髪を仕上げた。

 

 

「まだかな~まだかな~・・・・」

 

 

そわそわしながら待つ。

座って大人しくすればいいのにそこら辺をウロウロしてぐるぐるする。

一通りしたら座るけど足をぶらぶらさせたり頻繁に周りを見てしまう。

なんてやっていたら少し格式のある馬車がやってきた。

 

 

「足元に気を付けてください議長」

 

「ああ、失礼するよ」

 

「よ、ようこそおいでくださいました議長殿!」

 

「こんな所に何の用だ~!」「もっと強い武器を回してよね~」「俺達にも乗り物くれよ!」「飯が不味いんだよ!」

 

 

これみよがしに他の人もおじさんを一目見ようとたむろする。

そのせいで体格が他の人と比べて貧相な私はその中に隠れてしまう。

 

 

「悪いが急ぎの用があるんだ、意見はまた今度聞くから今は道を開けて欲しい」

 

 

・・・やはり忙しいのだろうか。

 

 

「議長殿は忙しいんだ、お前達道を開けろ!」

 

「っちぇ、何だよ偉ぶって」

 

「・・・・ほら皆さん道を開けましょう!さあ」

 

 

不本意ながら集まった人達はつまらなさそうに解散する。

私も解散する人に混じって少し遠くからおじさんを眺める。

最近は普通の人には厳しい寒さになって来たけどローンおじさんは特に変わりない様子だ、良かった。

などと安堵している内に早足で司令テントに消えてしまった。

 

 

「・・・・・やっぱり迷惑なのかな、忙しそうだし・・・・戦争中なのに私はしゃぎ過ぎだよね・・・」

 

「そんな事ないぞ」

 

「どわ?!シャル君いたんですか!?」

 

「ずっと居ましたよ、隊長気付いてなかったのか?余程お熱だったんだな」

 

「・・・・・返す言葉もありません」

 

「そう落ち込むなよ隊長、缶詰食べるか?」

 

「い、いや、良いです」

 

「まあ言っといて何ですけど俺の言った事はあんまり気にせずに・・・・年相応の女の子らしく向かって行ったら良いんじゃないか?」

 

「私は特別大人ぶったり子供ぶったりはしてないんですけど・・・・」

 

「あ~・・・・こう、自分の感情に素直にと言うか・・・・・久しぶりに会えたら嬉しいって隊長が思っているなら相手もきっと思っているに違いないだろうから」

 

 

何やら慎重に言葉を選んでいるシャル君。

私に気を使ってくれているのだろうか、あんまり気にせずに思った事を言ってくれるヴォアナさんの相手ばかりしていたからこういう感覚は久しぶりだ。

 

 

「とにかく、会えずに落ち込むぐらいなら会って落ち込めって事だ、言いたい事はそれだけ」

 

「ありがとうございます、じゃあ・・・・出てくるまで少し待つ事にしますね」

 

「・・・・その必要はなさそうだな」

 

「え?」

 

「もう出て来てる」

 

「あわ、わわわ・・・」

 

「何狼狽えているんですか隊長、行くんですよ。それ!」

 

「ちょ、ちょっとシャル君!?」

 

 

緊張しているとか心の準備が出来ていない訳ではなかったけど一呼吸置く暇もなく進展していくから緊張して・・・結局緊張してるや。

そんな訳で躊躇している内に後ろから押されてやはり足早に歩くローンおじさんの目の前に飛び出してしまった。

 

 

「っとと・・・」

 

「・・・・・・!」

 

「ど、どうもローンおじさん・・・・」

 

「・・・・・・カフカちゃん?」

 

「久しぶり・・・ですね、えへへ、・・・今やっぱり忙しいですよね?お、お邪魔ですよね・・・」

 

「そんな事あるもんか!・・・・カフカちゃん、・・・・元気で・・・・とっても心配をしていたんだ・・・!」

 

「わ、ちょ、おじさん・・・・・」

 

 

もじもじしながら久しぶりでままらない会話を交わすけれど、おじさんは変わりないハキハキとした言葉遣いだった。

変わらず立派で皆の為に働く凄いおじさんのまま、抱きしめられたからびっくりした。

小さい私に合わせて屈んで、寒い雪の上に膝をついてくれる。

 

 

「カフカちゃん・・・・元気そうで本当に良かったよ」

 

 

私を抱きしめてくれるおじさんの肩に頭を乗せる。

背広にシワが出来るかもしれないけど我儘な私はそんなの気にせずに甘えてしまう。

自分よりも遥かに大きくて頼りがいのあるおじさんに暫くくっついてしまった。

少し離れて、だけどお互いがお互いの肩に触れあえる距離を維持する、おじさんの顔がはっきりと見える。

 

 

「ローンおじさんも・・・目の隈酷いですよ、ちゃんと寝てるんですか?」

 

「ははは、分かるかいやっぱり?」

 

 

何も変わらないと思っていたけど近くで見たらおじさんは少し変わっている様に見えた。

元々忙しく働き詰めだったから目元は毎度疲れていたけど、今はその時よりも過酷な日々を送ってきたように見える。

あと不摂生な生活を続けているのか骨が少し・・・ほんの少し浮き出ており痩せている様に思える。

ちゃんと食べているのだろうか、頑張り続けるおじさんは格好いいけど身を削って倒れたりしてしまわないのだろうか。

不安感情が私の中で芽生える、おじさんがわざとらしく調子ずいた声で茶化す姿勢が尚更に私の不安を煽った。

 

 

「ダメですよ、毎日ちゃんと眠らないと体を壊しますよ、ただでさえここの寒さはおじさんには堪えるんだ―――え、あ」

 

「このクソアマ――――――――――――」

 

 

 

「げほっ・・・こほ、・・・」

 

「大丈夫かいカフカちゃん!?」

 

「す゛こし・・・いえ、だいじょう゛ぶ・・・です」

 

「念のために医者に診て貰おう、場所を使ってすぐにでも後方に!」

 

「い、いや・・・これぐら゛い・・・・これぐらいすぐに治りますから、一時的です」

 

「そんな事を言って・・・!」

 

「ごほ、・・・ん、んん゛!・・・・すぅ、ほらもう大丈夫です!すっかり元通り、心配ご無用です。あ、それよりおじさん手が・・・血だらけ・・・な、何とかしなきゃ!」

 

「いやこれぐらい・・・」

 

 

折角の久しぶりの再会は最悪だった。

大嫌いな連隊長に暴力は振るわれるしおじさんは突き飛ばされて怪我をするしで。

心配をさせまいと声を取り繕って何とか問題ない風を装うけど猛烈に痛い、だけどそれよりもおじさんの手の怪我を見て気が気でなくなった。

 

 

「これぐらいでも!普通の人は簡単には治らないしばい菌が入って大変な事になるんです!」

 

「詳しいねカフカちゃんは・・・」

 

「待っててください!すぐに治療の道具を借りてくるので!」

 

 

最後の方は締め付けられて意識が飛びそうになっていて周りがよく見えていなかったけど、私を守ろうとしたおじさんが角材を振り回していたのは覚えている。

大馬鹿連隊長を殴り飛ばしたのは驚きだけど多分殴りかかった時の反動とか考えずに角材で手が傷ついたのだろう。

 

 

「た、隊長大丈夫か?」

 

「私の事は気にしないでください!あ、シャル君はおじ・・・・パーペン議長を暖かい所に連れて行ってください!怪我をしているので手当てをします!」

 

「え、怪我してんのか!?分かった!」

 

「お願いしましたよ!」

 

 

急いで医療テントに駆け込んで道具とかを借りる。

もう戦いが終わって暫く経ったので急を要する病人はいなくすんなりと借りられた。

 

 

「おじさん大丈夫ですか!」

 

「大丈夫だよ、そんなに慌てなくても」

 

「良かった・・・よかった、今手当てしますね・・・」

 

「隊長手当できるのか・・・・?」

 

 

傷から溢れている血を綿で取り除く。

そうすると何処がどんな風に傷ついているかがわかりやすくなる。

可能な限り消毒をしたら少し圧迫す様に傷ついている箇所に包帯を巻きつける。

 

 

「手際が良い・・・どこかで習ったのかい?」

 

「訓練で怪我をした子を少し・・・お手伝いをしていました、私のは見よう見まねで・・・・帰ったらちゃんと見て貰ってくださいね・・・!」

 

「心配性だな、私は君の方が心配だよカフカちゃん・・・・そこにいる友達から聞いたよ、あの連隊長とひと悶着あったんだって?」

 

「それは・・・・・・はい」

 

 

余計な心配事を知られた、恨めしい視線をシャル君に送るけど本人も何処か申し訳なさそうにしている。

決して悪気がない事は分かるけれど、でもおじさんにはあんまり心配をさせたくなかったからこういう事は言いたくなかった。

 

 

「どうして言ってくれなかったんだい・・・相談してくれれば幾らでも対処をしたのに・・・」

 

「・・・だって、言い負かされたし・・・私の方が間違ってるんじゃないかって、思っちゃって・・・」

 

「捕虜の取り扱いは法律で明確に決まっている、何を迷ってしまったんだ」

 

「法律?・・・そんな法律があるんですか?」

 

「あ、あるよ・・・・え、知らないのかい?」

 

「無学でごめんなさい、知らないです」

 

「じゃあ何で・・・・」

 

「自分の気持ちに・・・嘘を付きたくなかったから・・・敵でも同じ人間ですし・・・・殺すなんて恐ろしい事、ダメだと思ったから、どんな理由があろうとも」

 

「・・・・・・!」

 

 

おじさんは少し驚いた顔をしている。

私も驚いている、ちゃんと捕虜になった人をどのように扱わなければならないと法律で決まっていたなんて知らなかったから。

知っていてそれを弁論の材料に出来れば変わっていたかもしれないという後悔に襲われた。

今でも縛り付けられて痛みに悶えながら何度も銃撃され、死んでいった人達を思い出す。

 

 

「カフカちゃん」

 

「・・・何ですか?」

 

「間違っていない」

 

「え、」

 

「カフカちゃんは間違っていない、言い負かされたの何だのは分からないけれど君のその気持ちは間違っていない」

 

「そんな・・・気を使わなくても」

 

「本心だ、特別な間柄だからじゃない。例え赤の他人であっても私は同じことを言う、その気持ちは大切にするべきだ」

 

 

自分の気持ちを正しいと肯定してくれる嬉しさと、その気持ちを間違っているとちゃんとした言葉で否定された敗北感が混ざる。

何が正しくて何が間違っているかなんて私には分からない、信じていた物には簡単に裏切られて自分の信条は簡単に壊れる脆い支柱だ。

貫けなかったこの気持ちをもう一度抱いたまま生き続けて良いのか、迷ってしまう。

 

 

「私なんかの浅知恵を・・・」

 

「知恵や損得じゃない、それは人として一番重要な心持だよ。抱き、持ち続けることは難しいけれど、それを持っている人は誰よりも人間らしく立派だと私は考える」

 

 

お世辞や慰めじゃないと分かる。

ローンおじさんの本心からの言葉だろう。

私のこの考えが、大切な事―――――――

 

 

『人間を撃ち殺す練習だ、ここでの経験は実戦での活躍に繋がり、より多くの兵士が死を回避し、代わりに用意される多くの仲間を死地から救う』

 

『戦争は奇麗事だけでは出来ないんだよ』

 

『お前達はまさしく内憂だ。絶対的な正義である勝利へ向かう苦難の道にある障害物だ、邪魔でしかない』

 

 

大切・・・なのだろうか。

人殺しに対する耐性をつけないまま戦場に送った兵士が狼狽して撃ち殺される過程があったとする。

その人に戦場に行く前に本物の人間で練習をさせればその人は戦場では死なない、それどころか目覚ましい活躍をして多くの死ぬはずだった仲間を救う。

連隊長の胸の内は知らないが理論的に考えればこういう事だ。

 

もちろん人殺しの練習をさせたからと言って必ずしも生き残ったり活躍して味方の命を救うとは限らない。

練習の結果、戦場に行く事を拒否するかもだし、寧ろ練習してしまったからこそ死んでしまう事になるかもしれない。

私達は未来を一つしか知る事が出来ない、知れる未来は唯一、歩むと決め、垣間見る事になる未来だ。

選ばれず、空想と仮定で作られた未来なんて実際はどうなるのかなんて分かる筈もない、誰にも分かりっこない。

 

なら、ならば必要なのはどちらかの優劣ではない。

どっちが間違っているや、正しい議論なんて意味をなさないのかもしれない。

それは間違っていると否定にかかった私が言えた事じゃないけど、今ならそう思う。

苦し紛れの言い訳、論点ずらしかもしれない・・・だけど自分の気持ちに嘘はつきたくない。

 

本当に必要なのは気持ちだ。

人を殺す経験でも、慈悲の強制認識でもない。

戸惑い、困難に相対した時に諦めずに前に進む気持ちこそが大切なんだ。

覚悟が戸惑いに挑み、勇気が困難を乗り越える助けになる。

 

だからどんな理由があろうとも、大義名分があろうとも、無害な人を殺して良い理由などあってはならない。

それらしい理由を叫ぶ人は残酷で人でなしだ。

私は人でありたい、血塗られたこの身でもまだ人間であり続けたい。

一度抱いたのなら貫かなければそれこそ全て無駄になるから、私は・・・・・。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

長い思慮だった。

俯いて黙っている私をローンおじさんは待ってくれていた。

私は未だ傷ついたおじさんの手を支えていた。

 

 

「・・・・立派じゃない」

 

 

おじさんの手を撫でる。

壊れないように、慎重に、優しく。

 

 

「でも、私は人間らしくありたい」

 

 

おじさんの手を頭に添えて私は誓う。

いつかおばあちゃんが読み聞かせてくれた絵本の中の騎士様の宣誓のように。

もう自分を見失わないように、迷わず前に進めるように固く誓った。

 

 

「ありがとうございます、ローンおじさん。その言葉に、少し勇気を貰いました」

 

「・・・・本当に君は、いい子だよ。本当に・・・・・」

 

 

迷いは晴れ、進むべき道は照らされる。

後ろに戻る事はもう出来ないけれど、少しばかり進む道の先が光り輝く善い世界だと想えた。

 

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