戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
87ワクワク楽しい抽選会
コミニティの意思統一は強固な組織づくりに必要な要素の一つである。
個々が団結して実現したくなる共通の目的を設定する事で連帯感が生まれ、内側から支える支柱として組織を盤石にする。
だからどう取り繕っても結局は部外者である我々にはどうにも出来ないので彼らが上手にやってくれる事を祈るしかない。
「今回の戦争において達成するべき勝利条件は以下に決定する」
1.アルデアル地域をバルカン連邦構成国の準州として認定し最低限の自治を認める事。
2.地域の自治体維持が不可能になる程の徴税を行わない事、また維持が不可能になった際は徴税制度を改める事。
3.地域の自治警備組織の設立を認める事。
4.地域内に存在する天然資源および自然資源は、地域に所有権及び基本的な開発権があると認める事。
5.これまでの戦闘行為で発生した損害の賠償は互いに請求しないものとする事。
6.バルカン連邦の定める『再定住政策』を破棄ないしは同地域の代表団を交えた場で見直し、修正する事。
7.同地域からの人の出入りを無制限に自由にする事。
「公的文書の制作をするなんて夢にも思いませんでしたな」
「せいぜい出来上がった文書にサインするか添削するぐらいが関の山だったのに、人生は何があるか分かった物じゃないですね」
議論が交わされるテーブルから離れた場所で、私は手渡された複写の資料に目を通す。
異国の言葉や文字を数種類も同時に見るのは慣れているので障害なく読み進める事が出来る。
『この文言は・・・・』
『それはこっちの政府がやっている政策を陣頭指揮をしている組織の名前だ・・・・』
『し、失礼同志アズトナーシャ・・・勉強不足で・・・・』
『分からない事があったら遠慮せずに聞け』
自国の内政を主にこなしてきた官僚出の部下には少し難しい固有名詞が多く、彼らは読解に手間取っている。
作成された文書の批評は彼らの仕事だが、素人の私から見れば別に悪くない要求だと思う。
一番最初の要求は限定的な自治を要求しているが完全なる独立ではなく、一つの州、構成国として位置づけるでもなく、あくまでその下にある地方自治体としての立場を要求している。
これならば講和が成立した際に敗戦側は一応国民への最低限の面子を保つ事が出来る、そしてこちら側もある程度の自治権を得られるので互いに程よい塩梅である。
もし完全独立や構成国としての地位を要求するのならば向こうの面子は丸潰れで「敗戦した」という雰囲気を誰もが感じることになるだろう。
相手の痒い所に手を伸ばしつつこちらも望む両者の良い妥協点と評せる。
そしてそれ以外は恐らく準州としての自治範囲にない権利の要求をしているのだろう。
自身らの主権やこれから先の持続性の確保としては上出来だと考える。
勝った後も田畑を耕すだけでなく地域の資源を自由裁量で開発できるのならば祖国の良い交易相手にもなり得る。
もっともこのアルデアル地域にどんな資源が埋没しているか分からない、把握していないので過ぎた期待はしない方が良いだろう。
「我々のシンボルとなる旗の決定は予想以上の応募があり難航していますが・・・・一つ旗の下に集う前に共通の合言葉は凡そ候補を絞る事は出来ました」
「書類仕事をする身としては短く簡潔で略称が被らない名称を所望する」
「残念ながら格好良く胸躍る名称を望む多くの民意を汲むので事務方には非常に申し訳ない」
「事務を司る我々も一つの民意だというのに・・・」
「ごほん、多くの案を検討し精査し、我々の行動理念と方向性を示した名称を採用した。組織、団体、コミニティ、そして我々はこれから『アルデアル自由州(Ardeal free state)』と名乗る」
「解釈次第では『自由国(free state)』にもなるので候補に入れるか迷ったと聞きましたがこちらを採用したのですね」
「ええ、何かの拍子に独立しても名前を変える必要がないでしょう?それこそ事務仕事を任される方達の負担を軽減すると思いませんか?」
「心にもない事を・・・しかし悪くありませんな」
戦時下には少し呑気な話題にも聞こえるが、これから一つの国が・・・・いや国ではないが一つ新しい何かがこの世に生まれる瞬間に立ち会えている名誉を感じる。
祖国の革命期に戦士として戦った両親がたまに語る栄光や誇りはこのような場所から生まれてくるのだと実感した。
端的に言えば歴史的瞬間に立ち会えて感服している、旗のデザインが決まっていないのが口惜しい。
「さて次の議題ですが・・・・議題というよりは承認するか否かの儀式的な催しですが、こちらがえーと何と言う名称だったか・・・・」
「参謀部です」
「ああ、そうそうそのような名称に決定していた。ご助言感謝する幕僚長、これからは参謀部が執る大規模な軍事作戦は我々の承認を必要とするように改訂された」
「軍事に疎い我々をプロセスに入れるのは非合理的な気がするが・・・・軍事顧問様と議長殿の強い推薦なら致し方ない」
「それでは幕僚長、これからの戦争計画のご教授をお願いするよ」
「承知しました」
先程までは少し肩の力を緩めて座っていたが、記章をつけた軍人が壇上に上がったとなれば姿勢を正さなければならない。
敬意を払う訳ではない、その文言に嘘偽りはないか、述べている軍事行動は理に適っているか、最善なのかを精査する。
最も彼の喋る文言はかなりこちらの「助言」が盛り込まれている為、素人がやりがちな失敗や現実的ではない計画はないだろうが。
先日の条約違反の蛮行から妙に私は苛立っている、平静さを欠くのはよくない、自分の感情を抑えなければ。
「集合!集合!整列っ!」
今日は珍しく軍隊にいそうな人の号令が聞こえた。
飲み物を啜っていたので慌てて全部飲み干して整列する。
「いっふぁいなんでしょうね(一体何なんでしょうね)」
「シャル君いい食べっぷり、私も持ってきてゆっくり飲めばよかった」
馬鹿正直に味わう事なく流し込んだ私とは対照的にシャル君は冷静に缶詰とスプーンを持ったまま整列していた。
本式の軍隊ならいざ知らず私達の様な真似っ子集団にはそれに合ったスタイルの方が良いのではと最近思い始めた。
わざわざ頭から尻尾まで完全に模倣するのは却って手間に思ってしまう。
「兵員の第一募集から従軍している者以外は解散!!」
「えぇ・・・・」
「最初から呼ばないでよ・・・・」
「慌てて損した」
1000人ぐらいの集団の中で200人から300人ぐらいが残る。
大方は帰っていくのでせっかく整列したのに虫食いにあったようにスカスカになる。
「この連隊でお前達は緩んでいるピカピカの新兵と違って経験者だ!アルデアル自由州の戦士・・・・と呼ぶには少し力量不足かもしれないがお前達は一応精鋭とみなす!」
「俺達が精鋭?痒い褒められ方だな」
「運よく生き残った奴と一緒にされてもねえ、俺はただのラッキーガイだからホンモノさんに申し訳ないぜ」
「見なすと言っている。自惚れるな、意味もなく心外な誉め言葉をかける程、この世界は甘くない事は全員が知っている」
「俺達全員が砲弾恐怖症患者に見えてるんですか~!」
「減らず口を・・・・是非その軽口を戦場に持ち込んで手の震えが止まらない新兵を教導してくれ、さて本題だがお前達に早めのクリスマスプレゼントだ」
「イエス様がついに俺達をこの地獄から連れ出してくれるのか!?」
「そんな訳ないだろ」
「クリスマスプレゼント・・・豪華な飯か?」
「何でも貰えるなら嬉しいですよ!・・・・あ、・・・・ああ、そういう事」
「ん?隊長何でがっかりして・・・・あぁ、成程」
クリスマスプレゼントと聞いて少し胸が躍ったけど偉い人の後ろから現れる既視感のある木箱を見て何となく察する。
重そうなのに慎重に運ばれるそれはきっとご飯でもなければ箱の中でサプライズ登場待機しているキリストでもないのだろう。
「喜べお前等!これからは三人で一丁の時代は終わりだ、三人に六丁の時代だ!」
「うぉおおお!銃だ、銃!」
「あのデカいのなんだ!強そう!」
「でっか、うぉでっか・・・」
残った半数ぐらいの人達が喜んでいる。
喜んでいない人は私達の様にもう貰った経験があるか、強い武器を手にしても戦場で死ぬ確率は大して変わらないと悲観している人達か。
何にせよ今回はハズレ商品がなさそうに見えるので何が来ようと失望はしない・・・と思う。
「さあお前等一端左に寄れ、これから武器を提示していくから欲しい奴らはこちらに来て受領して右端に行け、全員が右端に行けば二回目の受領だ、残念ながら三回目はない」
「質問!既に武器を二つ持っている手が早い人はどうすれば!」
「希望するなら武器を返却しろ、四つ三つ持てる自信があるのなら携帯しろ、趨勢によっては返却を強制する可能性がある事は留意しろ」
「うぉおお太っ腹!」
「質問良いですか?」
「勿論良いぞ、この流れで断る訳無いだろ?」
「ありがとうございます。今の武器に満足している人はどうすればいいですか?」
「何だ満足しているのか?」
「新しい物よりも熟達した中古品が手に馴染む・・・・かもしれませんし」
「物を大切にするその心意気や良し!残念ながらここで売れ残った武器は先ほど解散させた新兵に流れる予定なので、使えない可能性大の奴らに持たせても良いなら特に受領する必要はない」
「ご回答ありがとうございます!」
「よし・・・・・質問はもうないな。最後に補足だ、希望者が多くて足りない場合は話し合いで解決だ、無理ならコイントスで決める。・・・・それではこれより武器の配給を開始する!」
一品目は新品同然のライフル・・・あれはモシ・・・いやちょっと形が違う・・・知らない銃だ。
「こいつはフロロフカだ!弾薬や修理部品がたんまりある!無駄撃ちをしても怒られないぞ!」
「「「・・・・」」」
「おいおい全員大物狙いか?コイントス敗北者には漏れなく残念賞のタワシとして贈呈しよう」
「隊長何か狙い目の物ありますか?」
「銃は今ので満足してるから大丈夫、シャル君が欲しい物があったら手伝いますよ」
「俺も特に、ジュリーを見てると大きくて連射出来る奴は扱いが難しいし、重い物持って鈍足になるより身軽で俊敏に動きたい」
「確かに、私達はまだ小さいですから他の人達より非力ですもんね」
もう少し背も伸びて訓練もしっかりすれば多少重い装備でも俊敏に動けるようになると思う。
曲がりなりにも一年間訓練した私と違って、シャル君は軍事訓練やそれに準ずる物は一切受講していない。
だから装備を増量する余裕もあまりないのだ、よく自分で考えていて偉いと思う、立派だ。
「一品目これで終わるぞ!・・・・さあ続いて二品目はこれだ!」
やはり他の皆にとっての人気所は大きくて連射できる銃だった。
10丁ぐらいしか用意されていないのに100人ぐらいの希望者が殺到してコイントス大会が始まった。
当事者同士でトスをしていたがどうやらその道のプロがいて表裏どちらを出すか意のままに出来る猛者がいたので、次からはわざわざ上官が代表してトスする事になった。
慣れておらずコインがあらぬ方向に飛んで行って慌てている上官や、盛り上がる場は楽しかった。
「よし、残った敗北者の貴様らにはフロロフカを進呈する!」
「受領不希望です。新兵に回してください」
「粋な計らいだ。後で後悔するなよ」
「ご忠告ありがとうございます」
「さて二周目だ、これが最後のチャンスだお前等!」
勝ち取った銃を突き上げて喜ぶ人、一応タワシ枠と言えど中古品の銃から卒業できたのでよしとするコイントス敗北者。
その光景を何処から持ってきたのか追い缶詰を食べながら楽しむシャル君。
「よし、望みどおりにいった者やそうでない奴もいるかもしれないが・・・・まだ終わりじゃないぞ!勝手に解散するな!」
「まだ何かあるんですか~?」
「俺のダチもう帰っちまいましたよ」
「馬鹿が・・・・帰った奴は知らん、戦いは何も銃だけじゃない、これからは余裕で全員分ある補助武器を配給する。銃では補えない部分で頼りになる筈だ」
「お・・・!」
「役に立つのか~?」
補助武器と聞いててっきり拳銃の類を配布するのかと思えば出てきたのは木の棒・・・の先は黒く、違う材質になっている。
訓練時代に模造品を使ってキャッチボールをした懐かしいアレだ。
ここの陣地を攻略する時に欲しかったけど結局他の人に渡った手榴弾だ。
「欲しいです!3・・・いや5個ぐらいください!」
「食いつきが良いな!銃には興味を示さなかったのに、そんなお前は投擲物の女神に愛されるだろう、記念に発注ミスで混ざっていたらしい結束型も進呈しよう」
「やった!ありがとうございます」
「他の奴らは1~3個で希望数を言え!いらない奴も一個は持っていろ!お前が死体になった時に味方が拾って使ってくれるかもしれんからな!」
「破れかぶれ自爆用の間違いじゃねえのか?」
嬉々として五個と仰々しい結束型手榴弾一個を進呈された。
銃と違ってこっちは1個200gないぐらいでそれが5個と大きめの1個でも銃一つ分の重みもない。
教官の座学では基本的にあの戦争に行く兵士は常時3~5個の手榴弾を携帯していて、前線には大型種用の結束手榴弾が随所に設置されていて適宜使われていたと説明された。
でも敵の動きは素早いのであまり役に立たず、熟練兵士は飛びつく敵の口めがけて放り投げて撃退するというかなり危険な方法を取っていたらしい。
「隊長、良ければ使い方を教えてくれないか?」
「ああはい。そっか、感覚的には分かりにくいよね」
「スイッチや紐でもあれば何とく分かるんだが」
「ならすぐに分かりますよ。棒の下の部分のキャップを外してください、回して外します」
「これ外れるのか・・・・あ、紐だ」
「後はもう感覚に任せて紐を引っ張り抜いて点火します、3秒から5秒の遅延で爆発するので慌てずゆっくり投げてください」
「威力はどれくらいなんだ?」
「人間相手は分かりませんが、スノースに対する有効範囲は小型種で1m、中型は10cm、大型は完全密着でも大した効果はなしと教本に書いてありました」
「じゃあ3mぐらいまでは効果はありそうだな・・・・これ頼りになるのか?」
「ここを攻め落とす時に何度もあったらなぁ・・・と後悔しました、特に塹壕まであと少しの所では歯がゆかったです。私達の中で投擲が上手な人に任せれば70mも80mも正確に遠投できるんですから」
機関銃陣地の死角になっていたあの窪みから投擲が実現すればもっと手早く敵の塹壕を攻略出来て犠牲も少なく済んだのにと思わざるを得ない。
今後の戦いでまた同じような事があるか分からないけれど個人が繰り出せる瞬間火力は銃と比べて段違いに高いので頼りにならない訳がない。
「留意しときます、頼る時がこないのが一番だけど」
「そうですね、どんなに強い武器でも使わずに済むのが一番です」
だけれど戦争はそんな甘くはなく、新しい武器が配られた半日後にまた進軍が始まった。
武器を配ったのだから当然その後に何か行動を起こすのは明白だったけれど、胸の内では何かの拍子にあっさり戦争が終わらないかと期待していた。
見事に期待が裏切られた訳だけど。
そこら辺の兵士「ぜんぜんわからない、俺達は雰囲気で武器配って戦争をやっている」
大体皆言われた場所に歩いて行って敵を滅しているだけなの脳筋なんだよね・・・
カフカちゃん周りはかなり真面目に雰囲気で戦争をやっている部類です。