戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
『お前等!子供は二人とも無事だ!手は出されてない!こいつらは前に来たのとは違う!』
『知るかそんな事!!どうせまた前回みたく禄でもない奴の集まりだ!向こうが銃を下ろさない限りこちらにも譲歩はない!』
『今戦ったら子供達も死ぬぞ!』
『どうせ俺達皆飢え死ぬんだ!こいつらも殺して少しでも食料を・・・・・!』
『クソッタレ!』
「中隊長お願いです!皆さんに銃を下ろす様に命令してください!・・・・きっと、きっとそれで上手く行くはずです!」
「どうしてそう言い切れるんだこの甘党が!夢見る子供からいい加減卒業しろ!」
「言葉が分かるんです!さっきから子供の無事とか盗まれるかとか口走ってるから!敵じゃない可能性は大いにあります!」
「子供?子供か!ならこいつを――――!」
『きゃああ!?』
『あ、あいつ!』
『その子に触るなこのクソ下郎共が!』
「中隊長何をしているんですか!?」
『な、何するの、やめて!』
「あいつらが本当にガキを気遣ってるならこいつを盾にしたら銃を下ろすはずだ!」
「そりゃあんまりですよ中隊長!」
「道を踏み外してますよ!?」
「うるせぇ生き残れれば良いんだよ!俺も、お前等も!」
『やめて、やめて放して!いやぁ、怖い・・・怖いよぉ・・・・!』
「そうだ!おい手前ら!この子供の頭に血の噴水が出来る前にとっとと銃を下ろ―――――ごぉお!?」
「な、何をしているんだぁお?!お前は味方だろうガァ!?」
中隊長が一言、武器を下ろせというだけで事が良い方向に向かうかもしれないのに、あろう事か彼は私の言葉を聞いて私の願いとは真逆の方向に動いた。
ずっと、ずっと私達の為に武器を下ろしてと叫んでくれた子を掴んでその命を盾にして周囲を恐喝した。
賛同する仲間や流石に逸脱していると糾弾する人もいたけど、私は言葉による説得を早々に諦めた。
争う事は愚かで嫌いだけれど、それ抜きで人は生きてはいけないと知っている、今こそが暴力の使い所だと判断した。
「人を盾になんかにしないでください!」
「せ、折角の盾が!」
「気でも狂ったか!お前はどっちの味方だ!!」
『何だ!?身内での争いか!?』
『子供を取り合っているんだ!』
子供を盾にしようとした中隊長とそれに同調して銃を突きつけた人を殴り飛ばして捕まった子を取り返す。
当然の如く中隊長と非道な事を模索していた人達は激昂して私にも銃口を向ける。
「子供をこっちに渡せ!可愛い顔をして俺達皆を騙すかもしれないんだぞ!」
「だとしても盾にする事はないでしょう!?他の人もそう思わないんですか!例え子供を盾にしてこの窮地を乗り切って、この戦争に勝って、それで良いんですか!?」
「ああ良いともさ!勝てば全ていい!勝負の土俵さえ立たせて貰えなかったんだ俺達は!どんな手を使ってでも勝つ!」
「無茶苦茶な!」
「うるさい!そうだろうお前等!」
「ああそうだ!」
「・・・・ッ」
「「・・・・・・・・」」
他の人に同意を求める中隊長、ある程度は賛同している人はいるけど半分ぐらいはやはり思う所があるのか歯切れの悪い返事か沈黙を保っている。
明らかな声量不足に中隊長は不安を覚え部下たちの顔を見る、先程までは激情に駆られていた中隊長は部隊内の意識の分裂に青ざめる。
「な、何だよお前等・・・・返事はどうした!」
「・・・・・ッ、・・・ち、畜生!俺はお前に乗るぞクソったれ!」
「じゅ、銃を捨てるな馬鹿!」
「お、俺も乗るぞ!」
「撃ち殺されるぞ俺達全員!またゴミみたいな人生を送りたいのか!」
「でも子供は撃ちたくねえよ!」
『銃を・・・下ろし始めてるぞ』
『俺達を油断させるための罠かもしれない!絶対に銃を下ろすな!』
『何言ってるんですか!向こうが下ろしたんだからこっちも下ろすべきでしょう!?』
『うるせえ!』
『なに、なに?・・・・ど、どうなってるの・・・皆叫んで怖い・・・・怖いよ・・・う、うぅう゛・・・』
「だ、大丈夫だよ、あ『大丈夫だからね、すぐに怖い事は終わるからね・・・・安心して』・・・・・・中隊長!向こう側も・・・銃を下ろしてくれています、今一度、誰かを信じてみませんか・・・?」
「ッ!・・・ッうう!馬鹿な事を・・・・お、俺が死んだら、俺達が死んだら・・・・お前をぶっ殺してやるかなクソォオオ!」
「あ、ありがとうございます・・・!」
震えた手で銃を構えていた中隊長達も投げ捨てこそしなかったものの銃口を下に向けて戦う意思はない事を表明した。
屋根の上から狙っていた人達も口論になって少し・・・・殴り合いになっている人達も見受けられているけど銃を構えている人はいなかった。
『うう、う、うぇええん・・・!』
「あ、・・・だ、大丈夫だよ・・・大丈夫だよ~・・・・泣かないで、泣かないでね、ど、どうしよ・・・」
事態は収束したけど私が勢いそのままに抱いていた子が背中で泣きだした。
子供をあやした事なんてなかったので見よう見真似でそれらしい事をするけど泣きじゃくる声は大きなる一方だった。
「よ、よ~しよし・・・あ、・・・『あの!誰かこの子を頼めませんか、私面倒の見方を知らないんです!』」
『俺達がそこに行くまでその子に指一本でも触るなよ!今すぐ行くから待っていろ!』
『もうとっくに触ってるだろ馬鹿!そのまま抱いてろ!泣かしたのはお前等なんだからどうにかしろ!』
「え、・・・え・・・?」
屋根の上の人達は不慣れに立ち上がって危なっかしく屋根から降りていく。
その前にこの子たちがいた家から人が飛び出してきて泣いている子を抱きしめてあやした。
銃を持った人同士がこんなにも近しい距離にいるのに殺し合いに発展しない光景を見て私は胸を撫でおろした。
少し不満そうな顔をしつつ中隊長は端っこに避けていた。
「お前このチビ、勝手な行動しやがって・・・帰ったら覚えておけよ」
「ご、ごめんなさい、でも中隊長のやった事はいけないです。いけないから同じ事したらまた同じようにします・・・・」
「生意気野郎め、まあ結果的に丸く収まって・・・・いや丸く収まるからはこれからの話し合いにかかっている、ったく何で隊にいる奴でここの住民共の言葉が一番上手なのがお前なんだよ」
衝突寸前だった小競り合いが終わり、暫くしない内に私達は彼ら現地住民に言われて街の中を進んだ。
話し合いがしたいという事で私達の中で一番偉い中隊長を代表にしようとしたけど中隊長はここの言葉が分からなかったので通訳として私も同伴する事になった。
向こうの代表者が現れるまでの待機時間、お互いに居心地の悪く文句を言い合う事となった。
ヴォアナさんみたく思った事を誰であれはっきり言える性格が羨ましい、どうしても上官だという事で言葉に詰まる。
『遅れて申し訳ない、来訪者よ』
「・・・向こうの代表者様のお出ましだ、6、7人の子分付きと来た、こっちは二人だっつうのに」
「まあまあ」
『私はスプルスカと言う、一応名ばかりだがこの教会の神父だ』
代表者が聖職者という事に少し驚きを感じた、生まれてから宗教にはあまり馴染みが無く世間でも影が薄かったのでこのような目立った事をするイメージがなかったからだ。
外が寒いので厚着をしていたその神父さんも上着を脱げばそれらしい服を着ていてホンモノなんだなあと思った。
『さて、君達の事は聞き及んでいる。話は短く簡潔にはっきりと聞こう、どういった目的でここにやって来たのかね?』
「おい、そろそろ俺にも分かるように訳してくれ」
「あー・・・・この人は司祭さんでここの街の代表者で、私達が何をしに来たのか気にしています、名前はスプルスカというそうです」
「俺達はここを占領する為にやって来たと伝えろ」
「・・・・・・・」
「何を躊躇ってる、元々そういう任務だろう」
「こ、言葉を思い出してるんです。急かさないでください」
『何か、我々にとって不利益な事をしに来たのかね?』
「『い、いえ決して・・・いや、・・・そうかもしれません、・・・・・・・私達が何者なのか神父さんはどれくらい知っているんですか?』」
『国の政策で強制移住をした集団の集まり、そして昨今の国からの扱いに不満を募らせ武器を持ち戦う事を選んだ者達・・・・程度だ、合っているかね?』
「『は、はい・・・そうです。私達は戦う・・・戦う過程でここに来ました。でもこれだけは分かって欲しいんです、私達は誰かを殺したり傷つけたりしたい訳じゃないんです』」
『・・・・私「達」というのは少し不適切なように聞こえる』
「『・・・・・』」
「っち、何だ、俺の悪口でも言ったのかこの宗教じじいは?」
神父さんと周りの人達は中隊長を凝視する。
先程子供を盾にした事を根に持たれて・・・恨まれて当然なのだが、自分の言葉が虚偽である事に気付かされて委縮してしまう。
「『確かにそうです。・・・・訂正します』」
『こちらとしても分かって欲しいのは、争い合う気概は一切ないという事だ。昨今の国の扱いで被害を被っているのは私達も同じだ』
「『きょ、協力したりとか・・・?』」
『それは過ぎた期待だ、第一ここに居るのは君達みたくこの厳冬期でも裸で元気に走り回れるわんぱく人間ではないのだから』
「『ごめんなさい・・・・』」
『さて話をはぐらかすのに付き合うのはこれぐらいにしよう、今一度問う、君達はここに何をしに来たのか?』
「『私達は・・・・私、達は・・・・』」
何て答えたらいいのだろう、分からない。
言葉次第では拒絶され、何の成果もなく追い出されることになるかもしれない。
そうなった日には恐らくここを攻め落とすための行動が起こされるだろう。
多くの人が死ぬことになり、あの子達も・・・・小さな子達も戦火に晒される。
でも、私の口先で、話し合いで良い方向に持って良ければ彼らと協力・・・は無理にしても血を流すことなく任務を全うする事が出来るかもしれない。
人の生き死にが私の双肩にかかっているような気分で緊張する。
「『私達は・・・・この街を敵の手に渡らないようにする為にここに来ました』」
『敵、と言えば?』
「『・・・・私達に害をなす人達です』」
『具体的には?その最大手とは』
「『・・・・・・・国です』」
『つまりは国が戦争の足掛かりとしてこの街を利用する前に自分達がそうしようと言う事だ、端的に言えば占領しに来た・・・のだろう?』
「『はい・・・・』」
『・・・・・・』
「『・・・・ダメですか?』」
苦しい事を言っているのは自分でも自覚している。
座っている体が強張って緊張して震える。
神父さんは顔色一つ変えないけど周りの人達からは分かりやすく睨まれて手元が見えない場所に移動していく。
『占領させてくださいという問いに素直にはいとは答えたくない』
「おい、そろそろ通訳しろ・・・話がまるで分からんぞ」
「あ、はい。えっと・・・・占領を素直に受け入れる事は難しいって・・・・」
「条件はなんだ?」
「え?」
「だから条件は何だと聞いている。あれだけ長い会話だ、交渉していたんだろ?」
「あ、え・・・いや、・・・・世間話みたいな」
「世間話!?呑気な通訳だ、主体性がありすぎて困る!まあ取り敢えず条件を聞け条件を」
「は、はい・・・・『神父さん、難しいと言いましたけど、何か条件があれば私達の願いをかなえてくれるという事ですか?』」
『・・・・・・・・・・絶対とは言い難いが神に誓って、私が思う条件を了承してくれるのなら他の村民を全力で説得しよう』
「『その、条件とは・・・?』」
『一般人にも耐えうる鮮度の・・・・食料を、100・・・150トン提供するならば』
『・・・・・「神父さんは、150トン分の食料を供給するなら街を占領してもいいと、言っています」』
「150トン?俺は畑には詳しくないが・・・・それは多いのか?」
普通の大人が食べる食事の重量は幅があれど凡そは一日0.8~1.0kg。
全員が全員大人でもないので雑な概算で考えるなら・・・。
「150トンの量は20万人ぐらいが1日で消費する量です」
「じゃあ10日で2万人か、・・・・悪いが俺の専門外だ、この件は持ち帰って検討すると伝えろ」
「一応私は軽く知識はありますけど・・・・」
「お前の一存ではい、いいえを決められる訳無いだろ、知識があるならここで事前に聞いておくべき事を聞け」
中隊長の言う通りだ、アルデアル全体で消費する作物1日分ぐらいなら安いだろうと勝手に考えて話を進める所だった。
運ぶ手間とか鮮度の問題とかもあるし運輸に関して私は全くの専門外の素人だ。
指摘に同意して私は固く手を握りしめて神父さんに話をした。
「・・・・了解です『神父さん、私達は下っ端の人達なので今すぐ返事は出来ません、ごめんなさい』」
『君はどうなんだね?』
「『え?』」
『君が偉い人ならば私の提案にどう答える?』
「『・・・・・私達や私達の仲間・・・・家族が飢えない限り助けに・・・・なりたいです』」
『君の信じる神に誓って?』
「『・・・・私に、神様はいません』」
『そうか、・・・・では話し合いは終わりにしよう。次に会う時に、君達を友人として歓迎できる事を祈っている』
「『私達・・・私もです』」
言葉通りに私達は特に何をされる事なく街から出る事が叶った。
街から出る途中で子供たちの集団に取り囲まれて食べ物をせがまれたせいで皆飲み水で飢えを凌ぐ羽目になった。
(やはり話し合い・・・・!!話し合いが全てを解決する・・・・!!)