戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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90報告書の賛美ノルマ

宛/山岳共和国/人民空軍/空挺戦略研究部へ

 

題名:輸送機による物資投下の受領報告

 

日時:1952年12月

 

目録

1.受領に成功した物資

2.事前予測との乖離

3.乖離の原因

4.今後の動き

 

 

1.受領に成功した物資

電報で把握している投下物資(12月8日まで)総量の53%近くの回収に成功。

8回実施された物資投下で最も回収率が高かったのは12月3日の73%、最も回収率が低かったのは11月27日の32%。

現在支援しているアルデアル自由州に総計で4000丁の小銃を供給、その他多くの日常用品と作業道具の充足している。

回収に失敗した物資は6割近くが空中投下時の衝撃による破損喪失であり落下傘の改良がまだ必要と思われる。

残る4割、投下物資総量の20%は輸送機が投下をしなかったか、または投下地点を誤って投下したか、気流に流されて回収範囲内にない場所に落下した可能性が高い。

 

2.事前予測との乖離

事前の予測で回収可能な投下物資総量は20%~30%に留まるだろうとの見解を示していたが実際の結果はかなり良好である。

輸送機による物資投下演習は1925年を始めとして1952年現在まで20回程度行われていたがいずれも回収率は10%~30%に留まっている。

今回の作戦で過去一番の回収率を実現できた原因として後述に三つの要素を提示する。

 

3.乖離の原因

一つは地上灯火の視認性である。

アルデアル自由州の周辺はスノース戦争により住民の避難が進められた無人地帯である。

少なくとも周囲30kmでは大きな明かりはなく、空の星も鮮明に見える。

その為、輸送機パイロットが投下予定地点への到達率が高くなり、また投下された物資の発見率も上昇している。

 

二つは技術と技量の進歩である。

1925年の演習では回収率13%と悲惨な結果に終わったが、時代が過ぎ落下傘の改良やパイロット訓練が洗練化された。

後年の演習になるほど回収率は上昇している事からも日々の祖国の弛まぬ努力の現れと言っても過言ではないだろう。

まさしく意志と信念の勝利である。

 

三つは投下物資の捜索範囲とその人員である。

演習では限られた人員と決められた範囲内での回収の為、実際に実行した時との乖離性が生まれるのは必然であると考えられる。

1回あたりの投下でアルデアル自由州では1000人近くの人員を動員し、12時間の捜索時間を過ぎた後も定期的に回収隊を編成し捜索をしている。

演習よりも豊富な人員と無制限な捜索が可能な為、回収率が上昇していると考えられる。

 

4.今後の動き

アルデアル自由州は中央政府の派遣した鎮圧軍の粉砕に成功し多くの小銃や物資を鹵獲した為、武器不足は解消された。

今後は日用品の輸送を増量し、今後投入されるであろう装甲を持った車両を破壊する兵器も新規輸送品として検討するべきと考える。

発着可能な滑走路の建設を進めている為、今年中に車両級の重量の機械輸送が可能になる見込みである。

攻勢に転じた今、将来的に補給の需要が高まる事が予想される為、事前に車両の確保できれば無難である。

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

「お疲れですね同志、淹れたてのコーヒーは如何ですか?」

 

「頂こう、・・・・ん~報告書を書くのは慣れないな、特に党にも目通しされる厳格な書類は」

 

「反革命的な兆候ですね同志」

 

「じゃあ私の代わりに書いてくれ」

 

「同志は素晴らしき革命英雄です感服しています」

 

「はは、こいつめ~・・・・はは・・・」

 

 

山奥にある・・・まあアルデアルはどこも山奥なのだが、それでも特に人がいない場所に壁がない仮設キャンプをおっ建てての執筆作業は酷く疲れる。

ブランクとでも言うのか、党に提出する書類の作成は2年ぶりで手順も忘れている。

というか2年前でさえもそういうのが得意なリュカに投げっぱなしだった気がする。

仕事から逃げて後回しにしたツケを払っている。

 

 

『キシナァ!土運んどけ~!』

 

『また俺かよ親方!畜生こき使いやがって!』

 

「作業の進捗はどうなっているんだ?」

 

「見積もりでは障害物の伐採に2日、完全撤去に4日、整地に5日、休日に2日、ストライキに1日となっています」

 

「戦時下に労働者の権利は認められないぞ」

 

「では革命ですね」

 

「戦争の敗因が内輪揉めとは笑えないな、同じ事の繰り返しは沢山だ」

 

「タヴァーリシチ、ドニェ!」

 

 

同僚とコーヒーを飲んでいる所で獣道から走って来た同志が威勢よく挨拶をしてくれる。

服も着崩してなく、整然としている辺り将来有望な若者の印象を受ける。

 

 

「うん、なんだ?」

 

「報告します、パーペン書記長殿からの伝言を仰せつかっています、詳細が記された親書はこちらに!」

 

「伝達感謝する」

 

「はっ!では失礼します!」

 

「・・・・元気な奴だな、ここから書記長さんの場所まで30kmはあるってのに」

 

「私達であれば苦にはならないだろう?さてどんな用件なのか・・・・・・」

 

「凶報じゃなければ良いんですがね」

 

 

裏面に何か別の事が書いてある上等な紙に目を通す。

足りないのかそれとも節約精神で使い回しているのかは分からないが、先程作成した報告書に洋紙を輸送品目に加えるように追記しておこう。

 

 

「明後日に教会のある街にて・・・・・交渉を・・・先方は食料を必要として・・・・同伴の際の・・・・」

 

「多言語話者はすげえや、俺にはさっぱりな文字だ」

 

「同志、すまないがここは君に任せる。飛行場の建設指導を頼む」

 

 

椅子にかけていたコートを着て、私も連絡に来た彼と同じように30kmの道のりを進む。

戦争中に険しい山道を進むというこの状況は私のよくない思い出が蘇る。

けどこの場所は人も少なくて、のどかで雄大な自然が粛々と広がっているので嫌いにはなれない。

 

 

「もうひと踏ん張りだ、未来の為に、未来の為に頑張るんだ」

 

 

 

 

馬車とトラックが混合した車列が狭い山道を進む。

特に馬車の方は馬の機嫌次第で横道に逸れたり減速したり急加速したりするので車両組はかなり神経を使う事になり辟易としていた。

全てトラックでの移動が好ましいがこのアルデアル自由州には自動車工場なんてないし買い手もいないのである分で何とかしなければならない。

 

 

「議長殿は交渉に臨むつもりだが・・・本当に大丈夫なのか?」

 

「舐められない為にわざわざ派手にこれだけの人員を繰り出しての来訪だ、こっちは1000人はいるんだ」

 

 

同乗者から不安げな話題が聞こえる。

私達は今、占領目標の街の住民との交渉の為に現地に赴いている途中だ。

占領をするのに話し合いというのは不思議な感覚だ、でも犠牲なく目的が達成されるなら軍事的に見れば完全勝利と言っても良い。

だけれど私達の様な兵士集団に交渉を持ちかけるというのも奇妙だ。

親の仇の様に敵視してくるこの国の人間とは思えない程に理性的だ、だから却って不安なのだ。

良からぬことを企んでいるのではないかと。

 

 

「到着したぞ!各員降りろ!」

 

 

荷台の乗り入れ口から街中の景色がやっと見え始めて、降車命令が出た。

立てかけていた銃を手に持って石畳みに積もった雪を踏みしめる。

 

「・・・・ッ」

 

『・・・・』

 

降りて一番先に目に入ったのは同じく銃を持っているここの住民。

普通の人間なのだろう、今は厳冬期なので吐き出される息は霧のように尾を引き、当人の体は寒さで震えている。

それでもこちらを監視して銃を握りしめている、怖さから体が強張る。

 

「良い天気だなおっさん!」

 

『・・・・』

 

「だんまりかよ、愛想悪いな」

 

『なあ見ろよ、あそこの奴ら』

 

『全員同じ格好してんな』

 

『多分偉い奴らだな、取り入ったら良い事あるかな?』

 

『無理だろ、こっち睨んでるんだぜ』

 

「・・・・何語喋ってんだこいつら」

 

確かに馴染みのない言葉で喋っている。

戦争で国が多く滅亡して避難民になった最初期は各々の祖国の言葉で言葉を交わしていたらしい。

時の流れと共に非主流語は淘汰されていったと言われている。

避難民が避難民と言う大きな括りで語られるようになってから、それを受け入れていた国は十数にも及ぶ多様な言語でそれを統括するより一つの決まった言語で統括する事にしたからだ。

イベリア連邦ではフランス語が選ばれ、バルカン連邦ではドイツ語が選ばれ、アドリア国はいずれも避難民の言語は選ばずイタリア語を採用した。

彼らが喋っている言葉はその統括政策で失われた言語の一つだ。

 

 

「最高代表者の来訪に心からの感謝をと」

 

「こちらもお会いできて光栄です、と伝えてくれ」

 

「翻訳者は私達にはなさそう・・・・」

 

 

厳格のある人と話をしているパーペン議長の横には通訳の人が居てお互いの会話を成立させている。

私達には通訳者は用意されていないようでお互いに交流をする事は出来そうになかった、かに思われたが。

 

 

「お姉ちゃん?アリスお姉ちゃん!」

 

「ん、え?カフカちゃん?」

 

 

聞き慣れた声に導かれて振り返るとなぜか両手に小さな子供を何人も携えているカフカちゃんが居た。

この街の子供の様でとても懐かれている様に見える。

 

 

『パンのお姉さんもっと遊ぼうよ~』

 

『こら、困らせるような事言わないの!』

 

『やだやだ~もっと遊ぶんだ!』

 

「『ごめんね皆、また後で遊んであげるから今は許して、お願い!』」

 

『絶対だぞ!』

 

『また遊んでくれるの!』

 

「『もちろん!じゃあまた後でね、ばいばい』―――ごめん、お待たせお姉ちゃん!」

 

 

カフカちゃんと小さな子供たちがどんなやり取りをしているかは分からなかったけどとても仲良くしているのは分かった。

その証拠にさっきまでこちらを睨むばかりだったこの街の住人の人も微笑みをこぼしていたから。

 

 

「何だかアリスお姉ちゃん・・・・雰囲気変わった?」

 

「服かな、これ近いうちにカフカちゃん達にも配給されると思うけどまだ先になるかも」

 

「便利そう・・・たくさん物をぶら下げたり出来るし・・・ポケットも沢山ある・・・どこかの軍服?」

 

「分かるの?じゃあ問題、これはどこの軍服でしょう」

 

「え、ん・・・えーっと・・・アドリア国?」

 

「正解は私達アルデアル自由州のでした!」

 

「え、え?え~!?」

 

「驚いた?私も驚いたの、驚きだよね!」

 

「おいアリンシャス移動だぞ。そっちのは友達か?」

 

「あ、はいそうです」

 

「じゃあ丁度いい、あんた俺達の為の通訳になってくれないか、話し合いに立ち会えって言う割には通訳がいないんだ」

 

「一緒しても良いって事ですか?」

 

「勿論だ、一緒にいないと通訳の言葉が届かないだろ?」

 

「はい、では喜んでお願いします!」

 

「快諾だな、まあ暫くは友人同士で近況報告に花でも咲かせていろ、仕事はこっちでやっておく。会談が始まったら呼びに行くからあんまり遠くに行くなよ」

 

 

1週間前に会ったばかりだから私はそんなでもなかったけど小さく飛び跳ねて喜んでいる感じ、カフカちゃんはそうでもないように見える。

常に最前線で命をかけた戦いをしているんだから私よりずっと一日一日が重くて大して久しぶりじゃない再会でも大事に感じてしまうのだろうか。

 

 

『パン姉ちゃん俺にも大回転飛行機やってくれよ!』

 

『そっちのばっちゃは何が出来るんだ?』

 

「『こら、ばっちゃじゃなくてお姉さんだよ、この人も!』」

 

 

てっきり二人で話をするのかと思いきやさっき一緒にいた子供たちの集団に私も帯同して遊び始めた。

子供扱いされる事には慣れているけど子供を扱う事には慣れてないから困る、それに言葉も分からない。

 

 

「か、カフカちゃん私どうしたら・・・」

 

「抱っこすれば皆喜びますよ、まあ飽きたら喜ばなくなるんですけど、お姉ちゃんは背が高いからそうそう飽きられませんよ」

 

「だ、抱っこ?こ、こう?」

 

『わ~わ、高い!地面が遠い!わ~はは!』

 

「よ、喜んでる?っふ、ふふ・・・」

 

「『ほ~れ飛行機だぞ~!』」

 

『わ~!きゃ、きゃ!、わ~!』

 

「カフカちゃんこの街は・・・この人達は・・・・何なの?ここは避難民の街なの?」

 

「いいえ、終戦直後は1万人ぐらいの人がいたらしいですけど色々あって今は4000人くらいに減ったらしいんです」

 

「どうして?」

 

「国が私達みたいな兵士や避難民の居住区として、『こちょこちょ攻撃!』・・・ここら辺りを確保してたんです。

だから避難民・・・というよりは外国語話者を残して他の人はどこか別の場所に移住したんです。

でも戦争が始まって・・・・『たかいたかい~!』・・・移住も停止して今に至ったみたいです」

 

「なるほど・・・・でも何で彼らは避難民の言葉も分からなければ現地語も喋れないの?」

 

 

私達は避難民同士なら避難民の言葉で話す、そうでない場合は現地語を用いるから大抵の仲間は最低2か国語・・・2つの言語を習得している。

3つ習得しているのも珍しくなく、私は砲兵になる為にバルカン連邦構成国で影響のある地方の言葉を2つ習得した。

新しい言葉を覚えるというのは難しく聞こえるが、仲間内で読み書きを教える風習が出来上がっているのでそこまで苦ではない。

だから猶更この子達・・・は幼いから仕方ないにしろ外にいる大人の住民は少し喋れても良い筈だ。

 

 

「・・・・一応いたらしいですけど」

 

「いた?今はもういないの?」

 

「さあどうでしょう、聞いても教えてくれなかったので・・・」

 

 

子供と遊んでて心からの笑顔を浮かべていたカフカちゃんは私の聞いた事が良くない事だったのか少し笑顔に曇りを見せてはぐらかした答え方をした。

 

 

「お~いアリンシャス、通訳係、出番だぞ!」

 

「あ、はい!『じゃあ皆、遊びはここまで!』」

 

『行っちゃうの?』

 

『ま、また来てくれるのかパンの姉ちゃん』

 

「『何ですかそんな寂しがりな顔をして、皆揃って・・・弱虫ですか、このぉ~』」

 

『うひょひょ!?くすぐるな!』

 

「『そら良い顔になった』」

 

『何だよ!俺の間抜け顔がそんなに面白かったのか!』

 

『無茶苦茶面白かったわね』

 

『うき~!!』

 

「『さよなら笑顔で、悲しい顔をしないでください。ね?約束ですよ』」

 

『やくそく~!』

 

『破ったら地獄行き!』

 

『じゃあまたな~パンの姉ちゃん!』

 

『ばっt・・・でけえ姉ちゃんもなぁ!』

 

 

寒さに震える大人たちと違って子供たちは普通の人間でも余りある元気を持っていた。

最初は痩せている子が多いからあんまり元気がなさそうなイメージだったのに少し侮っていた。

この街の代表者との会談はこの街で一番目立ち、一番大きな建物である教会で行われた。

教会の外には銃を持った警備がいた、私達の仲間や街の住人達が。

子供達との遊び場と違ってそこの空気感は酷く重かった。

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