戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話   作:エルカス

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91雛型の代理戦争

『前線都市』

フロントシティとも呼ばれるその街々は原義的な意味で言えば最前線、戦場になってしまった街の事を指した。

1920年初頭、欧州大戦が終結した直後から始まったスノース戦争の最序盤で人類側はなすすべなく蹂躙された。

ゾイデル海からアストラハンまでスノースが跋扈し、点在する集落は一人の生存者もなく壊滅した。

『前線』と呼べる程の抗戦強度を保ったのは都市やそれに近しい街々であった。

 

1930年代後半になると戦争の激しさも収まり実際に都市が戦場となる事はなくなった。(あったとしても砲撃や戦闘で更地になってしまった)

その中で前線都市の意味も移り変わり、いつしか最前線へ物資兵員を供給する街々が前線都市と呼ばれるようになった。

街は前線に供給する物資の集積場になり、軍隊の駐屯所、宿舎にもなった。

前線都市は大きな経済的商機を手に入れたが、代わりにスノースとの戦いに敗れたら一番に襲われる場所という危機を併せ持った。

 

 

バルカン連邦において、前線都市に最初から定住していた住民は安全な場所への避難か、住み続けるという選択肢が与えられた。

多くは避難を選び、残る事を選んだ住人も数年もすれば前線の後退で強制的な避難を強いられた。

これらは国家の『自国民』に対して行われる対処である。

自国民でない人々の場合は自力での避難をしなければならず、それは所謂『避難民』と同義であった。

 

終戦に伴い前線都市は全てがその役目を終え、衰退か消滅を迎える事となる。

「教会街」に関しては軍属として居住していた住人が全体の半数近くに達していたが、彼らは終戦と共に街を去る事となった。

戦争遂行のサービスに特化していた前線都市は元来の牧歌的な農業か狩猟業への転換を余儀なくされた。

 

前線都市は国家の経済循環システムとしての役割を担っていなかった為、経済危機(ブラックマンデー)の影響を受けることはなかった。

多少の食糧危機は発生したものの、自給で凡そは賄えた上に何も考えずに食料を配給してきた国のおかげで餓死する者は少なかった。

 

戦争遂行の支柱としての役目を終えた前線都市は次に棄民政策の支柱としての役目を果たす事が期待された。

ウォーロック首相の追放政策によって多くの兵士と避難民が無傷の無人地帯への定住を始めた。

事前に行われた予想では追放する予定の人間が膨大な為、無人地帯に住まわせても足りないとの結果が出ていた。

その為、著しい人口減少が起こっていた前線都市にも「再定住」をさせる計画があった。

 

それに際し前線都市に住み続けていた、または(非常に少数だが)戻って来た住人に再び移住か定住の選択肢が与えられる事となった。

当然、社会的に忌避されていた兵士が将来的に溢れかえると聞いた住人に多くは移住を選択、または政府に抗議してお小遣いを貰う運びとなった。

そして先程と同じく、これらは国家の『自国民』に対して行われる対処であった。

 

 

 

 

「互いの利益の為に」

 

『双方の生存の為に』

 

 

ステンドグラスから差し込む光が手を取り合う二人を照らす。

教会街の代表者スプルスカ神父とアルデアル自由州の代表者のパーペン議長は双方の利害が一致し文字通り手を取り合う関係となった。

この和解に喜び、拍手を送る兵士や、可能性ある未来への前進に歓喜する住民がいる。

 

 

『新たな友人に歓迎を。彼らとの出会いは神の思し召しでしょう』

 

 

とっくに神に祈る事をやめていた住民でも眼前に広がる食料の山を見れば信仰を取り戻さざるを得ない。

言葉が通じていれば人の善行を神に無断譲渡するなと不機嫌になる兵士もいるだろうが、彼らは互いに通じ合える手段を持ち合わせていなかった。

もちろん言葉が通じる兵士も十数人いるにはいたがわざわざ指摘する程に彼ら彼女らも心は狭くなかった。

 

 

「それでは総量120トンの食料は月に2度の輸送を3か月間続ける運びでよろしく願いたい」

 

『こちらとしても置き場所に困るので分割しての提供は非常に助かる』

 

 

代表者が細かい示し合わせを行っている中で、外では待機していた移動式自炊車が広場に展開してやせ細った住民に新鮮で暖かな食事を提供していた。

余談だが移動式自炊車はリヤカーに鍋やガスコンロを頑張って乗せて自転車で牽引している物で、これは現在アルデアル自由州で最も先進的な工業品である。

早い話、出来の悪い出店なのだ。

そんな屋台に備え付けられた三つの巨大な鍋からは湯気が無際限に立ち上る。

列をなす人々の注目を浴びると同時によそる人の顔に湯気を浴びせて顔を赤く染めあげていた。

 

 

「『慌てなくても十分ありますから、列を乱さずに並んでください!』」

 

 

食べ物を貰う為に住人は家から持ってきた適当な器を抱えていた。

もう3ヵ月は満腹を感じる食事をしてこなかった彼らにとって器から零れる程に盛られたスープは金塊よりも価値ある宝に違いなかった。

スープが熱々である事を忘れて何人も空を仰いで激しく呼吸をする。

列の後ろに並んでいた子供達は大人のそんな間抜けな姿を見てああならないように気を付けようと静かに思った。

 

 

『温かい物を食べるのはいつぶりだ?あぁ~染みるぅう・・』

 

『最後に食ったのは・・・・っくぅ、先々月だな』

 

『このパン味がするぞ、昨日まで味がしなかったのに・・・何でこんなにも違うんだ・・・・ッ!』

 

『今日限りじゃない・・・3ヵ月も、こんなに食い続けられるのか・・・・本当に、俺達は・・・!』

 

『もう虫を齧る必要もない・・・はは、万歳!アルデアル万歳!俺達の新たな友人に乾杯!』

 

 

「すげぇなここの奴ら、こんな水で薄めたスープに感涙してるや」

 

「余程食う物がなかったんだろうさ、会う奴全員骨が浮いてただろ?服の下はすげえ事になってるぜきっと」

 

「まあかくいう俺達も満足に食えるようになったのはつい最近だけどな、というか満足に食うためにここまで来たんだ」

 

「・・・・・・今、連邦はどうなってんだろうな」

 

「俺達と戦ってるだろ」

 

「そうじゃなくて・・・・各地で食う物がなくなって、無茶苦茶になってるんじゃないかって、ここには俺達が来たが、誰も行く事のない場所はずっと多い」

 

「・・・他の奴らの事を考えるのはもっと豊かになってからにしよう、大した事も出来ないのに全部どうにかしようとするのは傲慢だぜ」

 

「ああ、・・・ああ。」

 

 

有事の際に仕事が与えられる予定だった兵士達は炊き込み場で幸せを嚙みしめる住民達を横目に通り過ぎて行った。

食事の見返りとして街は空き家と一部の土地をアルデアル自由州に貸し出す事となった。

幸運にもそのスペースはとっくの前から使われていなかったので街の財布が痛むことはなかった。

もっとも彼らの財布はとうの昔に空になっているのだが。

 

 

『パン姉ちゃん大盛で頼むよ!』

 

「『はい、熱いから気を付けてね、慌てて零したりしちゃダメだよ』」

 

『俺はそんなに間抜けじゃないぜ!ひゃっはー飯だ、飯の時間だ!』

 

「元気な子供たちだ、それと俺も大盛で頼む隊長」

 

「いや何しれっと混じってるんですかシャル君、ご飯ならさっき食べたばかりでしょ・・・・」

 

「この前、一食抜いたから、頼むよ隊長~・・・あ痛・・・っ」

 

『やっぱり貰えてないや!』

 

『怒られてやんの!』

 

『残念、お兄さん!』

 

『よ、よかったら一口だけあげるよ・・・・?』

 

「『皆このお馬鹿さんの事は気にしないで!鍋底に余ったのを食わせとくから』」

 

「ひもじいぜ隊長・・・・やっぱダメか・・・大人しく洗い物するか」

 

 

兵士の一人が住民の列に混じっておりスープを所望したが、よそっていた人にお玉で頭を殴られて横に退けられた。

その喜劇を目撃した子供は言葉が分からないながらもやり取りを直感で理解して大笑いした。

一口も食べさせてもらえないと思ってしょんぼりした兵士は大人しく後ろで食器洗いの任務についた。

後でよそう人の計らいで器一杯分のスープを提供された時は歓喜して2m程飛び上がって子供たちを驚かせた。

 

 

 

 

「交渉は大きな問題もなく終わったよ、書面に締結内容も残したしお互いの末端にも周知するように釘を刺した」

 

「上出来じゃないか、ひと悶着はあると思ったぞ!」

 

「相手が善良な人で助かった」

 

「宗教家は禄でもないと教わったが案外話は通じるんだな。要求された食料の量さえ交渉できたのは驚きだ」

 

「渡したくない訳ではないが、出来る限りこちらの管理下に置きたい。150トンから120トンに減らしたと言え、彼らが困窮すれば追加の支援を考えている」

 

「自らが困らない範囲内で。いい分別だ、もう私達がいなくとも独り立ち出来そうだな」

 

「いいや、まだまだ力は借りたい。アルデアルはやっと自らの足で歩むことを覚えた赤子の様にか弱い」

 

「もちろん育児放棄はしない。最後まで手伝うつもりだ、帰ってからでもいいが・・・仕事を今からでも始めるか、同志パーペン?」

 

「勿論だ同志アズトナーシャ」

 

「その呼び方も様になって来たな!さて・・・・真面目な話に入ろう。」

 

「・・・・・悪い知らせなのか?」

 

「全体に周知されれば士気に影響が出るぐらいには・・・・悪い知らせだと思う。・・・・・バルカン連邦に対してレンドリース(武器貸付供与)が始まった」

 

「レンドリース・・・レンドリースか」

 

「武器の貸付国は主にアドリア国、イベリア連邦だ。両国ともここぞとばかりに戦争で不良在庫になった武器を排出している」

 

「武器が多少増えれどバルカン連邦の継戦能力はもって今年中と君は予想したが・・・」

 

「武器を供与するのはこの二国だ。次に『人道上の理由』で食料を提供してくれるありがた迷惑の連中は片手で数えられないぐらいにいる」

 

「時間をかけても敵は自重で倒れないし万人が銃を持って我々の敵として立ちふさがって来るようになるという事か」

 

「最悪そう考えて良い」

 

「・・・・・・・勝てる見込みはあるのか?」

 

「ああ、スノースに対して私達が勝ったように、同じように勝てるさ」

 

「それは・・・・随分と敗北に寄った勝利に聞こえる」

 

「・・・・・・その通りだ同志、だけど悲観する事はない。今まで通りならば完全勝利の見込みは皆無だ」

 

「何をすればいいんだ?」

 

「バルカン連邦に対してあと一つ二つの公然たる勝利を得る、それさえ出来れば勝利まで一足飛びだ」

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