戦争が急に終わったせいで無職になった元兵士の女の子が路頭に迷ってしまった話 作:エルカス
「そら、さっさと出て行け!良い顔をしてもお前達はどうにせよ薄汚い兵士だ!仲良くなんて出来るか!」
留まろうとしたけど非番なので小銃も携帯していなくて、勢いと人数差そのままに外に押し出された。
昨日まで暖かい食事を乞って頭を下げていたのに、恐ろしい程の豹変ぶりに恐怖を感じる。
「盗み聞きなんてしようと思うなよ!お前達は所詮部外者だからな」
「・・・・正しい判断をする事を祈ります」
煮え切らない思いもあったけど大人しく強制退去を受け入れる。
そして教会から去る、フリをして隣の路地に入る。
「どうにかして中に・・・二階はあるけど飛んで届くか―――――」
「パンの姉ちゃんそこで何してるんだ?」
「きゃ?!・・・びびび、びっくりした・・・・」
「隠れんぼしてんのか?」
「そこ寒いよ?入ってこないの?」
板が打ち付けられた窓の隙間から中に避難させた子達が小さな顔を覗かせる。
一瞬、先程の人達に見つかったと思って心臓が飛び跳ねた。
それにしても本当にびっくりした。
「あー隠れんぼじゃなくて・・・・ちょっと追い出されてしまいまして」
「え、何でひどい・・・」「ひどくない?」「お姉ちゃん入って良いよ?」
「私はあくまで部外者、知らない人ですから」
「そんな、・・・そんなのおかしいよ」「こんな板外してやる・・・!そしたら入ってこれ、っくぅううう!!」
「あ、大丈夫ですから、心配してくれてありがとうございます。皆さんは自分は身を一番に案じてください」
窓から入れるように数人が木の板を引き剥がそうとするけど、普通の子供には難しいのか少ししなるだけで破壊は出来ていない。
バツ印に打ち付けられた木の板と窓越しに会話をしているのは何だか鉄格子越しに会話している気分になる。
何かを隔てる物はもう御免だ、最悪な思い出が蘇って来る。
「パンのお姉ちゃん大丈夫?苦しそう・・・・」
「お、俺達で良ければ何か手伝うよ!出来る事殆どないけど」
「!・・・で、ではドア越しからこっそり神父さん達と入って来た大人の人が何を話しているかこっそり教えてくれませんか・・・!」
「そんな事で良いの?」
「盗み聞きしたいの?誰か気になる人でもいるの?」
「とにかく頼めますか・・・・?」
直接聞くのが一番だけど数人が会話内容を聞いているから多分伝聞で間違った内容が伝わる事はないだろう。
5、6人がドアや壁に張り付いて会話を聞く、途中で頭に入らなくなったら窓に居る私に駆け寄って内容を全部伝えてくれる。
そして離れた子に代わって待機していた子がすかさず盗み聞きをする。
随分と手際が良いなと感心してしまう、私が思っている以上にこの子達はずっと成長しているのか。
「えっと・・・スプルスカ神父が避難を第一にしてって言って、で他の人がそんな事はどうでも良いって怒って、大きな音がして・・・たぶん殴られたのかな」
「神父さんが大きな声で怒って、それで悪い人はこっちを害して来る?人で・・・戦うならその人達って」
「どこからか別の人達が現れて神父さんに味方して・・・そこからは何言ってるか分からないぐらいに皆喋り始めて」
「多分喧嘩してるんだよ」
想定していた事態にはなっていない事に胸を撫でおろす。
だけどそれで全てが解決できた訳ではない、大きな問題の前の些細な問題の一つ二つが立ち消えただけだ。
今私達は敵と相対している、私「達」に含まれるのは誰なのか慎重に見極めないといけないけど最終的には敵をどうにかしないといけない。
「皆ありがとう!私は大丈夫だからここでじっとしててね、神父さんとかの事はちゃんと聞くんだよ?」
「パンのお姉ちゃん行っちゃうの?」
「戦いに行くの?」
「死んじゃうの?」
「・・・・っ、だ、大丈夫ですよ!私怪我はよくするけど生き残るのはとっても上手なんですよ、また近いうちに会いましょう」
「約束してくれる?」
「もちろんです、皆さんも会いに行ったら死んでましたなんてやめてくださいよ、絶対ですよ!」
「じゃあ約束!」
「約束!」
「約束」
「やくそく!」
窓の鉄格子越しにこの子達に手に触れる、ガラス越しに暖かな感触が伝わってくる。
優しい暖かさに私の冷え固まりかける心が溶かされていく感触がする。
今できる最高の笑顔で別れを告げて私は走った、戦場に行くためじゃない、再びこの場所に戻って約束を果たすために。
「瓦礫の撤去を急げ!埋まった馬鹿共を引きずり出すんだ!」
私達の駐屯地が設置されていた区域も同じく砲撃を受けていた。
砲撃が飛んできた南に近い位置だった為、被害は凄まじく何棟もの建物が倒壊していた。
生き埋めにされた仲間を掘り出すために全力で瓦礫を放り投げる仲間達がいた。
「あのすいません!今状況はどうなっているんですか!」
「はぁ!?こっちが聞きたいよそんなの!話してる暇ないんだ、すまない!」
適当に一人捕まえて状況を聞こうとしたけど向こうも何も知らない。
てっきり前進した部隊が戦いに負けて後退して来たとかそういう出来事があったのかと思ったけどそうではなさそうだ。
慌ただしく動く現場の中で目立つ服を着ている人が目に入った、軍服、参謀部という名前が付けられた私達の中でも頭が良くて偉い人だ。
「あ、あのこれは一体どういう状況何ですか!?」
「何度も言っているがこちらも把握はしていない!先行させた部隊との連絡も取れていない!今小隊規模に編成した偵察隊を出したばかりだ、一人出撃拒否しやがったがな!!」
「了解しました!では何か私に命令をください!」
「命令!?お前は・・・通訳係か!ならここから真っすぐ三ブロック行った先を右に曲がって二ブロック進んだ所に避難した住民の所に行け!」
「行って何をすればいいんですか!」
「北に避難させろ!ここは戦場になる可能性がある!居合わせた部下は言葉が通じなかった、全く面倒くさい手間だ!」
「了解です!」
「よし!武器もしっかり装備してから任務に臨め!」
ブロックと言う聞き慣れない表現に戸惑ったけど運転手をしていた時にルードヴィッヒさんに懇切丁寧に説明された気がする。
どうも海を越えた遠くの発展した地では街が網目状に発展していて、交差点から交差点の間を一ブロックと呼称すると言う。
車に乗せる人達もそれに倣ってそのような言い回しをする事もよくあった。
「また砲撃音だ!」
「砲撃注意ぃいいいい!!!」
「ヒュウウウウウ」
高台にいる人の叫び声で作業をしていた人達は一斉に端っこに飛び込んで伏せる、移動している人達も同じように端っこに移動して中腰で走り続ける。
私も頭を守るように屈んで建物の端っこに沿って兵舎に移動する。
「ボン!」「ボン!」
「があぁ!?」
「い、痛ってえぇ・・・!!」
砲撃の一発が物を移動させていた人達の列に着弾し全員を吹き飛ばす。
爆発する瞬間は目を閉じていて、次に開いた時は5人いた筈なのに4人しかいなくて、しかも残ってる4人の内3人は四肢の何処かがなくなっていた。
雪にダイブして自分の型を取ろうとしている子供の様に彼らが藻掻いている光景は悲痛だった。
逃げるように足早に走り抜けて私は兵舎に飛び込んだ。
「っ・・っ・・・っっくぅう・・・帰りたい、怖い・・・・」
兵舎に飛び込んでまず目に入ったのは部屋の隅で縮こまって泣いている人だった。
新兵かと思ったのに武装を見れば最初の方かからいる熟練兵とも言えるかもしれない。
「な、なんだよぉ・・・俺を笑いに来たのか・・・・!」
「はぁ!?何でそんな事するんですか!?」
その人を横目に自分の預けた武器を装備する。
ホルスターを腰に巻き付けて手榴弾を引っかける。
「お、俺だって、俺だって戦えるのに、でも怖いんだ・・・・!」
「じゃあ外出て埋まってる人達を掘り起こしてきてくださいよ!怪我した人の看病してくださいよ!こんな所で何してるんですか!」
取り出した拳銃のハンマーが起こされていない事を確認してシリンダーの中に弾丸を装填する、一発ずつ、一発ずつ、計六発。
一周全てに弾込めが完了したら景気づけにシリンダーを回してホルスターに収める。
「でも、でもなあ・・・・この音を聞くと思い出すんだよ・・・・!思い出しちまうんだよ、否が応でも!」
次に主武装のライフルを取り出す。
コッキングレバーを手前に引いて一発一発バラバラになっている弾丸を薬室に押し込む。
私の手には有り余るぐらいに大きなライフル弾をまた一つ、二つ、計五発。
「隣にいた奴は・・・気の良い奴だったのに・・・俺が怖いって言ったら手を握ってくれるぐらいに良い奴だったのに!」
レバーを奥に押し込んで薬室を閉じる。
装填を完了した銃を背負って後ろの方にどかす。
空の水筒と食料缶をバックに詰め込んで銃とは逆側に背負う、そして最後に支給された鉄兜を被る。
そのまま走りだそうとしたけど顔を抑えて泣きじゃくっている人の手を持ってその人の顔から引き剥がす。
「頼む・・・頼む、・・・・怖いよぉ・・・・こわいよ・・・・」
「しっかりしろ馬鹿!皆怖いんですよ!私だって怖い!」
「う、うぅう゛」
「こんな危険な所で泣いてないでもっと安全な所で泣きじゃくってください!戦えないのなら戦えないなりのやり方があるでしょ!こんな所で頑張ってる人の邪魔をしないでください!」
「そんな事言われても・・・どうすればいいんだよ!」
「その無駄に豪華な武器を誰かに全部あげて尻尾撒いて逃げれば良いんですよ!アルデアルに戻って畑でも耕してくださいよ馬鹿!」
「いて!?」
最後に泣きじゃくる人を殴打して私は走り出す。
怖がるのは新兵だけだと思ったのに戦いを経験して来た人が極度に怯えているとは考え付かなかった。
だけどよく考えれば知らぬ恐怖より知ってしまった恐怖が勝る事は当然あり得る。
残酷な戦場を知ってしまえば二度も三度も何度もそこに行こうと思う人はいない。
だからヴォアナさんやダルマン君はあんな邪魔な所で怖がり続ける事を良しとせず後ろめたさを感じながらも去って行ったのだろう。
「でも、誰かがやらなきゃいけない・・・私が頑張らなきゃ、折れた人の分まで、死んだ人の分まで、非力な人の分まで・・・!」
砲弾が降り注ぐ道中を私はひた走る。
地面を蹴り、空から降り注ぐ雨を避け、瓦礫を踏み越え、恐怖を超え、舞っていく。
「お願いします助けてください、まだ死にたくないんです、人だって殺してません、だから助けてください」
雪道がそこを通る多くの
その脇でコートを着た兵隊が煙草を吹かしながら裸になった人間達と相対している。
裸になっている人達は呪文のように同じ言葉を唱え続けているがその言葉を聞いても兵隊たちの顔色は一つも変わらない。
「あー煙草うめえな」ぐらいの表情変化はあるかもしれないが。
「えーなんだったか?アルデアル自由州、第二連隊付きの第四大隊・・・・ふん」
裸になった人の所持品である手帳を兵隊は持ったものを投げて置くように、焚火の中に投げ置いた。
決して寒さからではない、その所業に恐怖した裸の人間達、『兵士』達は身震いする。
「こ、降伏したら悪いようにはしないと・・・言われたのに・・・ど、どうか・・・」
「あー悪い、ブルガリアの兵隊かと思ったんだ~。自称軍隊の他称盗賊には捕虜としての権利は・・・・・ないっ!」
「そんなあんまりだ・・・・」
「命だけは・・・どうか命だけは・・・」
「勿論助けたいよ、こちらとしても・・・・だけど規則が厳しくてね・・・・ああそうだ良い事を思いついた!」
尋問をしていた兵隊はわざとらしく大袈裟に驚き裸の兵士達から距離を取る。
顔は笑みを隠そうともせず高笑いしている。
「こうしよう、こちらが目を離して隙に君達に逃げられてしまった」
「は・・・?」
「ほらどうした逃げないのか?今がチャンスだぞ~、ほらほら!」
「は、あ・・・う、うぅうう!!」
傷だらけの体を酷使して一人の兵士が逃げ出す、それに追随して一人二人釣られていく。
折角苦労して撃滅して捕まえた敵をこんな簡単に逃がしていいのかと新兵たちが動揺する。
「い、良いんですか逃がして!」
「良いんだ、逃亡兵は射殺が規則で認められている。・・・ああ、君はそう言えば酷い狙いだったよね~丁度いい練習台がいるじゃないか・・・ほら?」
「え、・・・え?」
「撃つんだよ、あの敵は無防備に背中を向けている上に武器を持っていない、あの恐るべき腕力で捻り潰しに来る事無く逆にこっちから遠ざかっている」
もし捕らえた兵士を処刑しようとするのなら相手は縄の拘束から鉄の錠まで引きちぎって決死の抵抗をする。
だが逆に逃げ出す機会を与え、こちらか遠ざかるように誘導をすれば・・・・・
「バン!」
「っひ、う、撃って来た!?」
「に、逃げろ逃げ続けるんだ!」
「か、隠れる場所も無い!クソォオオ!!」
最初から殺そうとすれば挑まれると言うのに、一度逃がしたら戻って反撃しようとする事ははなくただ逃げ続ける。
思考の誘導と手慣れた語り口を終始聞いていた新兵はこの老兵に畏怖の感情を抱いていた。
1分もしない内に非常に実践的な「動く的」は全て破壊され、新兵たちは射撃の腕と戦場への気構えを得た。
そんな彼らの隣を車両が次々と通過する。
鉄板だらけの車両、小さな大砲を牽引する自動車。
タイヤではなく別の何かを履いて走っている大きな大砲を積んだ乗り物。
そして道の周囲を警戒するように徘徊するアエロサン。
バルカン連邦第四軍はアルデアル自由州の大隊規模の部隊を殲滅し、地域の平定を目指して進軍を続けていた。
*この項目「教会街の戦い(ブライラ包囲戦)」は執筆途中です、参考文献と事実に基づいた中立的な執筆が求められています
『教会街の戦い(ブライラ包囲戦)』
交戦勢力:アルデアル反乱軍
バルカン連邦軍
日時:11月末~12月5日
戦力:アルデアル反乱軍 駐屯部隊、歩兵部隊 2万人~3万人
装甲車12両、火砲20門
バルカン連邦軍 バルカン連邦第一機械化装甲師団『マレシャル』
第4軍(トランシルバニア方面軍) 8万人
戦車98両、装甲車412両
火砲700門(機関砲及び対空砲を含む)
航空機23機
この戦争に捕虜はいなさそうですね・・・・(遠い目)