ププヴィレッジは小さいながらも産業がある。その中で主要産業は牧畜、村長が飼っている羊たちの羊毛や羊肉をププヴィレッジや近隣の村々に卸している。
村長の羊たちは皆大人しい、カービィが背中に乗って居眠りをしていても気にも留めず草を貪っているぐらいには。
「ぷぉ。ひぉ」
「こらカービィ起きなさい。そんなところでお昼寝したら羊に攫われちゃうわよ」
「へへっ、姉ちゃんは大げさだな」
「オーバーじゃないわ。この間、隣の村で暴走した羊たちの群れが行き先もわからず、群れ丸ごと手当たり次第突撃して、柵や家を壊したって話よ。可能性はなくもないわ」
「おいおい、うちの羊たちはみんな賢いんだから」
羊飼いが笛を鳴らすと、羊たちは笛の鳴る方へと歩み始めた。それを察知したのか、カービィはようやく起き上がり、羊の背中から降りた。羊たちは皆羊飼いの笛の音に誘われて、群れを成して後についていく。が、一匹だけは皆について行かず草むらに座って動かなかった。
「おーい、置いていくぞ」
羊飼いはもう一度笛を鳴らしたが、それでもその羊は動こうともしなかった。カービィは心配そうに動かない羊に「呼んでるよ」と羊たちの群れの方に指を指した。けれど羊はカービィを少し見るだけでまたも動こうともしない。
「やれやれ、またこいつか。こいついつも群れと一緒に行動しなくて手を焼いているんだ」
「どうするの」
「出荷を早めるしかないかな。こいつ一匹だけはぐれると危ない目に会うしな」
「そんなかわいそうよ」
「でもほかの羊たちも遅かれ早かれだし、みんなと行動できない羊ははぐれてしまうから」
むぅと納得できないフームはいらだつ。そこでブンは一計を案じた。
「お前、早く行かないと肉にされてカービィにおいしくいただかれちまうぞ」
「フンッ」
「脅してもダメか」
「あなた本当にこのままでいいの?」
フームが羊に問いかけるが、返事は「フン」であった。
「しょうがない、お尻を叩いて動かしてみるか」
羊飼いは持っていた杖の太い方で、反抗する羊のお尻に目がけて叩こうとした。
「おやめなさい!」
「なんてひどいことを!」
急に牧柵から飛び出してきた三人の男女が羊飼いの前に現れ、邪魔をした。
「な、なんなんだあんたら」
「羊の自由を阻害する気か」
「ひ、羊の自由?」
突然現れた男女たちに羊は驚いて仲間の下へ逃げてしまった。それを男女たちはハイタッチで喜びあっている。
「やったね」
「自然を愛する我々の思いの勝利だ」
「思いが通じたのだ」
「あの。あなたたちは何ですか」
「我々は自然を愛するヴィーガンのピー」
「同じくヴィーガンのギィ」
「同じくグウ」
細いアスパラのような女性がビー、サングラスをかけたのがギィ、そして中年女性の風体をしたのがグゥと三人は名乗った。
「ヴィーガンて何だ?」
聞きなれない言葉にブンが質問すると、ビーがさっそくそれに答えた。
「ヴィーガンとは、動物や魚の肉を食べず、植物だけで生きていく自然と共に、自然を愛する人々のこと」
「つまりベジタリアンってこと?」
「ヴィーガンです。野菜を食べて過ごすだけでは世界は救われません。今ある自然や環境を守り、虐待される動物たちを守る活動をするのがヴィーガンなのです。先ほどの羊も羊飼いに痛い目に逢いそうになりました」
「でもそれが俺の仕事だから」
「それがひどいということなのです! 羊だって自由がある、意思がある。食べられるために生きる家畜の運命をかわいそうだとは思わないの」
グイグイと羊飼いに詰め寄るヴィーガンの三人。ブンはどうも胡散臭さを感じて、彼らに一瞥しながら姉のフームに印象を聞く。
「姉ちゃんどう思うあの三人」
きっと姉ちゃんなら「ええ怪しいわね」と言ってくれると信じていた。みんなの知恵袋であるフームならそう言ってくれると。だがフームは言葉に詰まり、なんと彼らの主張に同意したのだ。
「……一理あるわね」
「姉ちゃんこんな奴らのことを信じるのか」
「前に羊が村を襲ったことあるでしょ。その原因が家畜として生きるのが幸せなのかってこと。さっきの羊もそんな一匹かもしれないと思ったら」
かつて狼として生きる羊のアモン、家畜として生殺与奪を握られる生涯を良しとせず牧場の羊たちを引き連れ反逆した事件のことがフームの記憶に強く残っていた。
「ほう。君は我々の理念を理解してくれるようだね」
「そうだ。この辺にレストランはある? 長旅でお腹ぺこぺこなのよ。ヴィーガン専門店があればいいのだけど」
「ヴィーガン専門店はないけどレストランならあるわ。そこの店主レパートリーは豊富だから相談してみるわ」
ブンは納得していないが、姉の言うことをひとまず飲み込んだ。
フームに連れられたヴィーガン三人組は、ププヴィレッジに入るなり手を大きく広げて感激の声をあげた。
「なんて自然豊かな村でしょう」
「工場の汚れた空気がない、都会はここを見習うべきだ」
「車も通ってないから、事故に遭わない。まさに理想の動物との共存ができる。動物たちが自由に過ごせる環境とはこれのことだ」
過去に観光客から
レストラン『カワサキ』に入ると、コックカワサキが軽く驚いた表情で出迎えた。何せその手には、『楽して大儲けできる百の習慣j』という分厚い本をお客なんか来るはずないと思って読んでいたのだ。
「いらっしゃい。あれ~フームさんお客さん呼んできてくれたの」
「カワサキ、彼らヴィーガンなの。肉が入ってない料理作れる?」
「ああ、ベジタリアンね。任せて肉抜きと手抜きは得意だよ」
早速カワサキが厨房に入る。手際と包丁さばきの腕は見事なもので、注文からものの数分で料理が出てきた。ただし、出された料理は、野菜炒めと具が乗ってない素ラーメンという味気ないものではあるが。
「ふんふん美味い。このラーメンのスープ何味?」
「とんこつ味!」
「食えるか!! スープも調味料にも肉は口にしないの私たちは」
ラーメンをどんぶり投げつけられたカワサキ。だがラーメンだけではない、野菜炒めにも不満を述べていた。
「この野菜炒めもやししか入ってないわ。ヴィーガンに対する配慮がなってない」
「だって、俺の料理は基本肉か魚が入っているのが当たり前だもの」
「やめましょこの店。星一ね」
「ええ、そんなぁ」
残した料理をカービィが喜んで吸い込みお腹の中に収めている間に、ヴィーガンたちはさっさとレストラン『カワサキ』から出ようとした。ちょうどそのタイミングで、デデデ大王とエスカルゴンが入ってきた。
「カワサキ、今日は貴様のレストランで食ってやるゾイ。感謝せい」
「とりあえず、すき焼きとかつ丼と生姜焼きを。カタツムリ料理はなしでゲスよ」
デデデたちが肉料理ばかり注文すると、ヴィーガンたちがどこからともなくプラカードを取り出して抗議活動を始めた。
「羊を守れ」
「肉食反対!」
「なんゾイこの活動家団体どもは」
「陛下、これはデモでゲス。陛下の醜い顔を蔑める輩でございます」
「うぬぬ、自分たちの利益を守るため、独裁者を貶める活動家ども。貴様ら全員逮捕ゾイ! 兵士!!」
護衛をしていたワドルディたちが一斉にヴィーガンたちを抑え込み外に連れ出そうとする。だが以外にもヴィーガンたちの力は強く、何匹も重なり合っていたはずのワドルディたちを押し返した。
「我々は決して屈しない」
「野菜を食べろ野菜を!」
「なに? 肉食こそ王の食い物ゾイ。野菜なぞ虫が食うもんゾイ」
「ちょっと少数派の言葉を弾圧する気!」
「出たな自称エコリストのフーム」
「弾圧こそ独裁者の特権ゾイ」
フームとデデデ大王、環境活動問題において必ず対立する二人が火花を散らし始める。
が、ここはレストラン『カワサキ』店主のカワサキがおずおずと二人の間に割って入ってきた。
「あの~睨みあうかご飯食べるかどちらかにしてくれる? 」
「肉料理を作る人は黙ってて」
「これはヴィーガンの聖戦だ。じゃまするな」
「う~ん。ここ俺の店なのに。これじゃあ商売にならないよ」
ヴィーガンたちに追い払われたカワサキ。
もちろんフームも、この状況が好ましいものではない。お腹を空かせたヴィーガンたちを満足させて、デデデたちの弾圧を回避する方法を考えなければ。ふと後ろを見ると、暇も持て余したカービィとワドルディたちが「ワニャワニャ」仲良く残ったご飯を分けて食べていた。
「そうだ」
場所は移り、デデデ城にあるワドルディたちが利用する大食堂にヴィーガンとフームたちが座っていた。
以前ワドルディたちが日頃精進料理を食べていたことを思い出したフームは、ワドルドゥ隊長にお願いして、精進料理を分けてもらうことをお願いしたのだ。
そしてワドルディたちの主であるデデデたちも中央の椅子の席に座って料理が来るのを待っていた。
「なぜワシらもフームたちと食事をする必要があるのかゾイ」
「我々も環境保護の活動に参加しろとフームが言うからでゲス。環境活動家はいつも声が大きいんだから」
「だがワドルディたちが食べるあれは楽しみゾイ」
「確かに、カワサキの料理を食べるよりかはマシでゲスな」
普段食べるカップ麵よりはるかに高価な食事を食べてみたいと、機会を逃して食べ損ねたデデデ大王たちは、舌なめずりをして料理が来るのを待っていた。そして、ワドルディたちが一膳ずつ精進料理が配膳される。メニューは『タンポポの金平』『ツクシと湯葉の炊き合わせ』『
そして壇上にワドルドゥ隊長がいただきますの音頭を取る。
「では今日もいただきます」
「わ、にゃにゃーにゃす」
「これは美しい、これで肉が入ってないなんて」
「どうぞ召し上がってください」
ヴィーガンたちが歓喜の声を上げながら、おずおずと不慣れな箸を手に持つ。その隣で、いつもワドルディたちのご飯に紛れ込んでいるカービィは慣れた手つきで、料理に箸をつける。ヴィーガンたちは隣のカービィの動きをじっくりと観察しながら真似して、それぞれ料理に手を付ける。
まず最初に料理の感想を述べたのは、エスカルゴンとデデデであった。
「ほぅこれはなかなか。特にこの鏑のお寿司は鏑の酸味がアクセントとなってなかなか」
「エスカルゴン、醤油はないかゾイ。少し味が薄い」
「へへ、この繊細なお味がわからないとは。いつも肉料理のこ〜い味付けに慣れている陛下の舌には合わないんでゲスな」
「だがボルン署長のところで食べた料理はうまかったゾイ」
「あれは懐石料理でまったく別の料理でゲス。あーこの無花果の天ぷらもまた格別。へへっ、お子様舌の陛下にこの味の良さがわからないとは、なんとも悲しいことで」
「こんな味の薄いの食べれるか!!」
ついにデデデがしびれを切らしたと思ったエスカルゴン。だが隣にいるデデデは怒りを露わにしていなかった。ではどこからか。怒声の出所は、ヴィーガンのギィだった。
「これは肉が入ってなくて素晴らしいけど、私のお腹を満たせないわ」
「味が薄くて無理」
他の二人も根を上げていた。しかもデデデでさえ半分は食べている精進料理をヴィーガンたちはほんの数口しか口にしていなかった。
「お口に合わなかったの」
「量も少ないし、何より
「肉の食感って、肉を食わねーのに贅沢な奴らだな」
「我々が求めている品質の料理は、この人造ミートです」
ピーがタッパーから取り出した緑色のハンバーグのようなもの。どんなものかとフームが試食しようとすると、いつの間にか移動していたデデデ大王が横から奪い取った。
「どれ……ぐえー、何ゾイこれは。草を燃やしたような臭いがするゾイ」
「どちらかと言うと家畜のえさのような」
精進料理でも口に合わないとなればその未知の人造ミートを使った料理しかない。しかしまったく試したことがない料理をどう調理すればいいのかフームにはどうしようもできない。
「やっぱりもっと活動を拡大しないと」
「その通り、配慮をお願いするより意識を作り替えた方がいい」
「どういうこと?」
「村にヴィーガンの素晴らしさを広めるのです。では」
風を切る勢いでヴィーガンたちが食堂を出ると、村でヴィーガン活動を始めだした。
「肉を食べるのをやめましょう」
「人は昔から植物を食べて生きていました。原始回帰しよう!」
「不健康な肉を食べるより、体にも環境にもいい野菜や植物を食べましょう」
プラカードを持ち、ビラ配りで肉食を止めるように呼び掛ける団体に村の人々は耳を傾け始めた。
「なんだなんだ?」
「へー野菜だけを食べるだけで健康に? やってみようかしら」
「確かに羊も生きているもんな。食べる量を減らすだけでも救える命がある」
彼らの声に同意・賛同する村の人々。フームたちは城から眺めるほかなかった。
「ヴィーガンブーム村にも広がりそうだぜ。でも姉ちゃんあんな奴らに配慮する必要ねえじゃんか。ワドルディたちの料理をけなして残す」
「でも少数派の彼らが生きていける環境づくりをする必要があるわ」
「ぽぉよ」
翌朝、デデデ大王はぐぅぐぅお腹を鳴らしながら重たい足取りで回廊を歩いていた。
昨日食していた精進料理では大食漢のデデデの腹では満たされず、ポテチなどの間食でごまかしていたがやはり肉を食べなければすぐにお腹が空いてしまう。エスカルゴンの部屋の前まで着くと、エスカルゴンが飛び出た二つの目をぎょっとさせた。
「あらどったのよ陛下。眠そうな顔して、眠たいのならもう一度寝たらどうでゲス」
「腹が減って寝不足ゾイ。やはりあの薄口料理では物足りん、肉が入ってないとこんなに目覚めが悪いとは」
「あらら、野菜不足ならぬ肉不足とは。しょうがないでゲスな。ワドルディたちに今朝のメニューをホットドッグから変更させるように伝えないと」
「ステーキが食いたいゾイ」
「え? 朝からいきなりステーキでゲスか。胃もたれ起こすよ」
「ステーキ!」
ぴょこんとカービィが柱の裏からステーキという言葉に釣られて飛び出した。そしてカービィだけでなくブンも一緒に隠れていた。
「ブンにカービィお前たち何をしているゾイ」
「さては陛下の朝食を盗み食いするつもりでゲスな。なんと意地汚いがきんちょ」
「しょうがねーだろ。俺もカービィも昨日の飯じゃぜんぜん腹が膨らまねえもん。姉ちゃんがヴィーガンヴィーガンって叫んで付き合ったけどさ」
「意識高い系運動中のフームは鬼のようで怖いゾイ」
「それは言えてるな」
「それはどうも悪かったね」
後ろからその本人が現れて、デデデたちは驚き腰を引いた。
「朝っぱらからステーキなんてずいぶん豪勢ね」
「ね、姉ちゃんこれは」
「肉食主義者の気持ちを理解しようとする多様性理解の一環としてな」
「と言いたいところだけど、今回は私が悪いわ」
「な、なに?」
「あ、あの強情のフームが」
一度決めたら曲げないフームが誤りを認めたことに、一同驚きを隠せない。
「ははん。さては姉ちゃんも物足りなくて仕方がないんだろ」
「そ、そんなこと」
するとグゥとフームのお腹の虫が城に響き渡るほどの音を出した。
「結局私も人間ってことよ」
「であはは。ついにフームが負けを認めおったゾイ」
「これは記念日、いや国民の祝日となる快挙でゲス」
「今日は気分がいい、城中BBQパーティーゾイ! ロースバラハラミヒレ肉、肉という肉の部位をたらふく買い込んで来い。金は出すゾイ」
「さっすがデデデ。太っ腹なのは腹だけじゃねーのな」
「そう褒めるなエスカルゴン」
「いでで、今のはブンでゲスって。おい首やめろ」
デデデの命令で大量の肉を買いに行かされたブンたち。デデデの使いをされるのに不満はあるがデデデの金で肉が食べられると留飲が下がった。しかしデデデの注文した肉の種類と数、昨日の反動なのか五十人前も買い込めと書かれていた。そんなにあるわけないのにとデデデの暴飲暴食ぶりに呆れていたのだが、なんと十分な量の肉があったのだ。それも格安で。
「ずいぶん安いわね」
「陛下が買いに来てくれて助かったよ。村人たちがヴィーガンブームのおかげで肉が余り過ぎて困っているんだよ。値引きしてもぜんぜんで」
「何ですって!?」
「もうみんなヴィーガンかよ」
店の外に出て改めて村を見てみると、村人たちは皆虚ろな目をして大根の葉を口にしたり、カワサキの店に『動物殺し』のビラが貼られているなど無法地帯の様相を呈していた。
「理解しあうはずの思想が、こんなことになるなんて」
「ヤバいぜ姉ちゃん。早く隊長のいる車に乗ろう」
肉を担いで急いでデデデカーに乗り込もうとする三人。するとガスがじっとカービィをよだれを垂らしながら見つめていた。
「お前、うまそうだな」
「ちょっとガス! 何を言ってるの!」
「いや。ウマ・ソウという名前と間違えてしまっただけで」
「そんな名前のやついねーだろうが!」
「だが確かに、カービィはうまそうだ」
ガスの言葉が呼び水となり、村人たちがぞろぞろとカービィに群がってくる。
「腹減った。でも野菜を食べないと」
「なあカービィって野菜なのか」
「スイカを毎日食べているから、カービィは野菜で違いない」
「そうだ。カービィは丸いから野菜だ。丸いからカロリーもゼロだ」
制止するのが恐ろしく感じ、フームたちはその場で固まってしまった。そこにレン村長が村人たちを呼び止めた。
「皆さんどうかうちの肉を食べてくだされ。そんな状態では倒れてしまいますぞ」
「そうだよ。そんなにお腹が減ってるなら俺のレストランで食べればいいのに。肉は食品偽装しているから、野菜と言い張れるし」
あの二人は職業柄肉を食べなければならないから、正気を保っていたようだ。しかしそれで収まる村人たちではない。
「カービィを食べよう!」
「ヴィーガン料理を食べよう!」
ついに村人たちがカービィの両手両足を引っ張りちぎって食べようと行動を起こし始めた。
「ぴ、ぽよ、ぴぃ」
「やめて、カービィが痛がっているわ」
「植物は痛みがないから問題ない」
もう聞く耳すら持たない。そして村人たちが手にフォークを持ち出し、一斉にカービィに突き立て始めようとした。
ガオーーン!!
爆音とともに白銀と金に彩られたデデデカーが村人たちに向かって突っ込んできた。さすがにあのデデデカーに轢かれてはたまらないと、村人たちは一斉にカービィから手を放した。
「ご無事ですか。何やら村の方が騒がしいと思い迎えに上がりました」
「隊長。お願い車を出して、急いで!」
「はっ、ただいま」
二人は前のハッチにカービィと肉を急いで詰め込むと、車を発進させた。村人たちはカービィを逃がすまいとデデデカーの後ろを追いかけていく。性能は明らかであるはずなのに、村人たちはしつこくついにデデデ城にまで乗り込んでしまった。
「な、何ゾイこの集団は!?」
「公園に並んでいるホームレスもかくやでゲスな」
バーベキューの準備をしていたデデデたち。すでに鉄板は焼けており、後は肉が到着するのを待ち望んでいたのだが、来たのは肉と飢えた村人とは思いもよらなかった。
「みんな急いでこの肉を焼いて。村のみんなに食べさせて」
「ワニャワニャ」
「俺の包丁の腕がなまってきたところだ。俺も手伝うよぉ」
フームの掛け声にワドルディたちといつの間にかついてきたカワサキと共に一斉に動き出す。まずカワサキが買ってきた肉を切り分け、次に肉をハンマーで叩いて柔らかく、味付けの塩コショウをワドルディたちがかけ、次々に鉄板に置き焼き始める。
肉の色が変わり、じんわりと肉の隙間から肉汁が垂れだすと一気に串に刺す。
「お年寄りから子供まで食べやすい大きさに切り揃えたサイコロステーキだよ」
「さあみんな食べて」
「に、にくは」
「いいから食べるんだ」
フームやワドルディたちが肉を刺した串を使って、村人たちの口の中に肉を入れていく。村人が肉を噛みしめていくと、だんだんと村人の目に生気が戻りだした。
「う、うまい」
「あれ? なんで俺デデデの城にいるんだろう」
みんな正気を失っていた時の記憶がないようだ。やっとこの騒動も終わりと思って、デデデカーに乗っていたカービィを出そうとした、がなぜかカービィがいなかった。
「カービィがいない!!」
ハッチが半分開いていた状態で走っていたため、どこかでカービィを落としてしまったようだ。
すると城の物見にいたワドルディがぴょんぴょんと何か慌てた様子でフームたちを呼んでいた。城の縁からワドルディが見ていた方向を見ると、カービィが脱走した羊たちの群れに襲われているではないか。
「まずい!」
「助けないと」
「あー、おいどこに行くでゲスか」
「放っておけ、肉の取り分が減らずにすむゾイ」
「あっ、そうでゲスね。では私めもご相伴にあずかってと」
ドドドドドドドドドッッッ!!!!
羊たちは地響きのような足音を立てながらカービィを追いかけていた。羊たちは皆息荒く興奮しており、見境なく
「どうして羊が柵を抜け出しているの!」
「しらねーよ。けどカービィを助けないと。みんな止まれー!!」
ブンが叫ぶ。だが羊たちは止まる気配がない。羊たちではなくカービィを救助することに切り替えた。だがカービィは羊たちに踏みつぶされないように必死に走っており、二人の脚では追いつかない。しかもカービィと羊たちの距離は徐々に縮まっており、ワープスターを呼んでも間に合うかわからない。
「メー!」
「ぽよ!?」
カービィの脇に一匹の羊が群れから外れて、呼びかけてきた。あの群れに近寄らなかった羊だ。羊がカービィに接近するとくいっと首を上げて乗れと合図をした。合図の意図を理解し、羊の背中に飛び乗り後ろから迫る羊の群れから脱出した。
これで一安心……ではない。群れの羊たちは未だ暴走している。しかもこのまま走っていくと、崖に落ちてしまいかねない。
「止まって、止まって!!」
「メー!!」
「ぽよ!!」
全員が呼びかけても全く止まらない。羊飼いもいない。止まらない羊たちは崖の端に向かって突き進んでいく。
「ワオーーン!!」
突然狼の鳴き声が響き渡る。腹の底にまで響くほどの深い咆哮が、羊たち全員に伝わり崖の淵ぎりぎりのところでようやくとまった。
「ポッポン」
「無事だったか兄弟たち。そしてカービィ」
狼の声を出したの一匹の目つきの悪い羊だった。かつて同胞たちを率いて反乱を起こした羊のアモンだ。
「なんであなたがここに帰ってきたの」
「兄弟たちを殺した奴に復讐するためだ。そこにいるのはわかっている。出てこい、兄弟たちを守る柵を壊した卑劣漢ども!!」
アコルのにらみつけた先には、ヴィーガンのビー、ギィ、グゥだ。
「我々は閉じ込められている羊たちを解放しただけ」
「羊は自然に帰るのが一番」
「自然だと。自然がユートピアだと思い込んでいるのか。雨風打たれ、弱いものたちは身を寄せ合って生きていく、生きるか死ぬかの瀬戸際の世界。貴様たちの傲慢な思い込みで解き放たれた隣の村の兄弟たちは、さまよい、死に絶えた…………食われる運命よりも残酷な仕打ちを、俺は許さん!!」
目を血走らせたアモンは、猛牛のように後ろ脚を蹴ると一直線に三人に向かって突撃する。
「「「ギッーープ!!」」」
アモンの突進で吹き飛ばされた三人は、姿を変え、羽の生えた豚の生物になった。
「な、なんだ? 人から豚になったぞ」
「まさか、魔獣!?」
「家畜魔獣ギップ様だ。もう少しでカービィを倒せるところだったのに」
「生意気な羊め。お前もカービィと一緒に倒してやる」
三匹のギップは花の間から星の塊を吐き出して、カービィとアモンに攻撃を始める。
バンバンと地面に星形の穴が開き、その威力が思い知られる。
「なんて威力だ。なんでカービィを倒すのにこんな回りくどいやり方をしてんだよ」
「ホーリーナイトメア社から豚肉として出荷されたくなかったら、カービィを倒せと持ち掛けられたのさ」
「まずは村人どもをヴィーガンにして洗脳させて、肉に飢えてカービィを食べさせようとしたのさ。うまくいけば村人は肉は食えずいい気味」
「それが失敗したらて羊たちをカービィ襲わせる作戦。仮に失敗しても、俺たちよりいい生活を送っている羊どももくたばる。成功すれば一石二豚よ」
「根性の腐った豚ども。串刺しにしてやる!!」
ついに怒りが頂点になったアモンが魔獣の姿となって変化し、二本の角をギップたちに向けて放出させる。
「動物愛護だのヴィーガンだの耳障りのいい言葉に」
「姉ちゃん反省は後だ。ワープスターを」
「そうね。来てワープスター!!」
フームが呼びかけると、大きな星の乗り物が空からやってきた。カービィがそれを視認すると、ワープスターに飛び乗り空を駆け回る。ワープスターに乗ったカービィはアモンが放つ角を吸い込む。
『ニードルカービィ』
コピーしたニードルで、ギップたちの足元にトゲを打ち込む。重たいトゲが降り注ぎ、一匹が足を貫かれ、悲鳴を上げた。
「いぎゃああ」
「どうしよう」
「あそこのレンガのところに隠れるんだ」
ギップたちはたまらず、崩れかけたレンガの壁の裏に隠れてやり過ごそうとする。だが、すでにアモンが先回りして待ち構えていた。
「お、お命だけは」
「同じ動物どうし。命の奪い合いは」
「俺は狼だ。豚は狼に食われるのが摂理だろう」
バゴーンと空高く打ち上げられると、追撃とばかりにアモンの角が発射される。
「トゲ千本刺し!!」
それに合わせて、カービィもトゲを文字通り千本を放ちギップたちを挟み撃ちするように押しつぶす。
「結局豚は」
「狼に」
「食べられるのね」
ドカーン!!!!
二人の連携攻撃にやられたギップたちは、肉片一つ残さず爆発四散して消え去ってしまった。
「また旅に出るの」
「狼は羊の中では生きられぬ。それが定めだ」
アモンがカービィの前から立ち去ろうとしたとき、一匹の羊がアモンの前に立ちふさがった。それは群れから外れた羊だった。
「メー」
「群れになじめぬか兄弟」
「メー」
「なら羊を捨てろ。ここから先は過酷だぞ。ワンだ」
羊はすぅっと息を吸う。
「ワォー!」
「行こう兄弟。狼の世界での生き方を教えてやろう」
「ワン!」
「さらばだカービィ。また会おう」
二匹の狼が咆哮すると、丘の向こうへと白の体毛を残して駆け抜けていく。
そして二匹を見送るようにカービィも咆哮する。
「わおーん!!」
みんなカービィの完全新作『星のカービィディスカバリー』はもうやったかな?
カービィが新世界で大冒険! 自然と文明が融合した世界で新しい仲間「エフィリン」とともに、ワドルディたちを助けよう。
カービィシリーズ初の3D操作でステージを駆け回ろう。ステージで見つけた設計図でコピー能力の強化させ、新技ほおばりヘンケイで敵キャラたちをやっつけよう。
『星のカービィディスカバリー』好評発売中!
『次回予告』
皆、ヤミカゲのことを覚えているだろうか。
かつて銀河戦士団の一員だった奴が、どうやらホーリーナイトメア社の送った刺客に追われているらしい。
権謀術数の使い手である奴が身を危険に晒すなど思えないが……その刺客は陛下が造った城に立てこもっているようだ。
どうやら私も忍者のように忍び込む必要があるようだ。ふふっ、腕が鳴るな。
次回もカービィを見守ってくれ。