終末に少女は世界の終わりを旅して廻る【完結】   作:皇我リキ

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魔王の世界

 前略。世界は滅びました。

 

 街を炎が包み込む。

 

 

 それは、地獄のような光景だった。

 

 逃げ回る人々。

 叫び、嘆き、悲しみ、絶望を絵に描いたような、非情な世界。

 

 

 押し寄せる魔物。街が燃える。世界の終わり。

 

 そんな世界で私は──

 

 

 

「──フハハハハハハ!!! そうか、貴様が勇者ナオキか!!」

「──おのれ!! 良くも俺の故郷を!! 許さないぞ!! 魔王イヴチャン!!」

 ──私は、魔王になっていました。

 

 

 

 どうしてこんな事になってしまったのでしょう。

 

 

 

 前略。世界を滅ぼしました。魔王イヴちゃん爆誕。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 時は少し遡ります。

 

 

 その世界は魔王軍の侵略で滅びかけていました。

 

 否、人口の七割を損失した時点で殆ど滅びたと言っても過言ではないでしょう。

 

 

 

「魔王軍の次の狙いはこの場所。しかし、私は観測者……無闇に人類の行く末に手を出すのは良くないですね」

 終末を見届ける為、私はそこに居た。

 

 

「おねーちゃん遊んでー!」

「おねーちゃん頭から変な音するー!」

「おねーちゃんこれ泥団子あげるー!」

「子供は何処の世界でも純粋ですねー。頭を叩くのは辞めなさい」

 そこに居ただけの、つもりだったのです。

 

 

 

「フハハハハハハ!! 私は魔王ハデス!! この街を滅ぼせ!!」

「助けておねーちゃん!!」

 そうして街に現れた魔王軍。

 

 しかも魔王直々にご登場。

 

 

「……っ。その子を離してください」

「私は魔王。そんな事をする訳がないのだ!!」

 そして私は──

 

 

「離しなさい!」

「馬鹿め。そんなにこの小さなガキが大切か。ならば目の前で惨めに殺してやろう! 人間の絶望の表情こそ、私の──」

 言い切る前に、吹き飛ぶ魔王の頭。子供を即座に取り戻し抱き上げる私。

 

 

「──離しなさいと言った筈です」

 ──私は、やってしまった。

 

 

 

「……あ、魔王倒しちゃった」

「おねーちゃんありがとう!」

 私は、人類を救ってしまったのです。

 

 

 

 それはまずいでしょ。

 

 

 

「それはまずいでしょ!!」

 大失態でした。

 

 私は人類の行く末に干渉してはいけません。

 個人を助けるならともかく、これまで何度もやってしまっていますが、今回は滅びの元凶である魔王を私が殺してしまったのです。

 

 

 これは良くない。

 

 

 

「──良いですか、子供達。今から鬼ごっこをします」

「うん!」

 なので私は決めました。

 

 

「私は悪の魔王という設定です。貴方達は、泣き喚きながら逃げなさい」

「分かったー!」

 私が──魔王になると。

 

 

「子供は純粋で良いですねぇ。……では、始めましょうか」

 私は子供を追い掛けます。

 

 

 そこに、彼が居る事を知っていたから。

 

 

 

「待てゴラァ!! このクソガキぃ!!」

「わー! 魔王怖ーい! きゃっきゃっ!」

「そこまでだ!! 魔王!!」

 逃げ回る子供の前に立ち、剣を私に向ける一人の青年。

 

 遅れて盾を持ったタンクと、魔法の杖を持ったウィッチ、身軽な姿のシーフ、弓を構えるアーチャーの五人パーティ。

 

 

「なんだ貴様!! この魔王イヴちゃんに消し炭にされたいようだなぁ!!」

「俺は勇者ナオキ!! この世界を救う男だ!!」

 彼は勇者ナオキ。

 

 一週間前に王国で勇者に選ばれて旅を始めたばかりの駆け出し勇者でした。

 

 

「あれ? 魔王の名前ってハデスじゃなかったか?」

「その筈だけど……。もしかして、魔王は二人いる!?」

「それでも、私達がやらないとこの世界は救えないわ!」

「そうだ。俺達は世界を救う為に旅に出たんだからな!」

 普通にイヴちゃんと名乗ってしまったのはダメでしたね。このポンコツヘッド。

 

 

「フハハハハハハ!!! そうか、貴様が勇者ナオキか!!」

「おのれ!! 良くも俺の故郷を!! 許さないぞ!! 魔王イヴチャン!!」

「なんでちゃん付け!! そう名乗ったけど!!」

 剣を構え、突進して来る勇者ナオキ。

 

 いやいや、あなたレベル1でしょうが。私がハデスだったらもうこの時点であなた死んでますからね。

 

 

「ふん!!」

「グハッ!!」

「勇者ナオキぃぃいいい!!」

 私はナオキを片手で跳ね飛ばす。滅茶苦茶痛そうですね。ごめんなさい。

 

 

「他愛もない。……興醒めです!! この街の侵攻は終わりにします!!」

 私はそう言って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人間達には魔物達が撤退していくように見えたでしょう。

 

 

「な、なに……!! 待て!! 魔王イヴチャン!!」

「フハハハハハハ! 人間、取るに足りないぜ!!」

 私は何をやっているんでしょうか。

 

 魔王っぽい事を言って、私はその街を離れました。

 

 

 やってしまった事は仕方がない。私は魔王としてこの世界に存在するしかないのでしょう。

 自分がやった事なので責任は取らないといけません。

 

 

 まずは魔王城からですね。

 

 

 

「──つ、強過ぎる。我等四天王がこんなにも簡単に!」

「これからは……このイヴちゃんが魔王です。何か文句があるのなら、死んでもらいます」

 中略。私は魔物の王になりました。

 

 

「まずはあなた! そう、貴方です四天王の一人! 半魔人マコト!」

「はい。私は四天王の一人マコト。新たなる魔王、イヴチャン様。なんなりとお申し付け下さい」

「この世界には勇者が居ます。素晴らしい素質を持った勇者です。あの勇者ナオキという勇者。……貴方はスパイとしてあの勇者パーティに入り、彼等の力となるのです」

「え、殺すんじゃないんですか?」

「殺しちゃダメですよ!!」

「勇者は敵では!?」

「いいえ!! あの勇者は素晴らしい素質を持っています。つまり、将来使える駒になると思う訳ですよ!! なので、貴方が丹精込めて育てるのです!! そしてこの魔王城まで連れて来なさい!! 分かりましたか!? 分かりましたね!? 魔王イヴちゃんの命令は絶対!!」

「わ、分かりました!!」

 私は何をしているのでしょうか。

 

 

「そして貴方はテントウムシになりなさい!!」

「なんで!」

「テントウムシになって村の人達の食物に住むアブラムシを討伐するのです!!」

「なんで!?」

「アブラムシは人間の好物なのです(大嘘)。それを奪う事により、人間の指揮を低下させます」

「さ、流石魔王イヴチャン様!! 分かりました。これより私はテントウムシになります!!」

 あまりにも酷い嘘に騙される四天王。

 

 

「そして貴方は人間の家のトイレを次々と掃除するフンコロガシになりなさい!!」

「マジで意味が分からないけど魔王イヴチャン様の言う事なら間違いはないのですね!!」

「そして貴方は……今すぐ爆発して故郷の母親の元に帰りなさい!!」

「分かりました!! しかし爆発する意味──うわぁぁあああ!!!」

 そして突然一人脱落する四天王。

 

 

 

「ふふふ、完璧な布陣ですよ。魔王イヴちゃんの世界征服は目の前です!! フハハハハハハ!!」

 こうして、魔王イヴちゃんの魔王生活が始まったのである。

 

 

 

「……何してんですか、私は」

 やるだけやって、魔王の椅子でふんぞりかえる私。衣装もちょっと魔王っぽくしましたよ。格好良いですね。

 

 そうじゃないでしょ。

 

 

「しかし、やはりこうなった以上はやり通すしかない訳です。私は人類の行く末に干渉してはいけませんが、それは滅びないように手伝っていけないだけではなく、私が滅ぼしてもいけません。……つまり、そう。私は……!! 今……!! 存在がもう矛盾している……!!」

 崩れ落ちました。

 

 

「もう自爆するしかねぇ……」

「魔王様! マコトから連絡です!!」

 私が魔王城の自爆スイッチを押そうとしたその時、部下の魔物がそんな連絡をしにやってくる。

 

 危なかった、危うく爆発オチになるところでした。

 

 

「要件は」

「無事に勇者パーティに潜入。勇者を魔王城に導く作戦に入る。との事です!」

「順調のようですね。良いでしょう、次の作戦に入ります」

「はい!! 魔王イヴチャン様!!」

「そのイヴちゃん様って呼び方辞めませんか? あ、もしかしてイヴ()()()ではななく《イヴチャン》だと思われてます?」

 自己紹介の時に自分をちゃん付けで呼ぶのは良くない。私はまた一つ賢くなったのです。

 

 

 おわり。

 

 

 

 おわりません。

 

 

 

 

 魔王イヴチャン様の世界侵攻が始まりました。

 

 

 

「キャー! 家の畑のアブラムシが大量のテントウムシに食べられているわー! 作物があまりにも元気に育っていくー!」

「なんか俺の家のトイレをフンコロガシが掃除していったんだけどー! いやなんか怖い!!」

 人々は魔物の侵攻に絶望の声を上げます。

 

 

「こ、これは!! 俺様が王国に献上した酒に少量ずつ入れる事で地味に国を乗っ取るために作り上げた毒薬の解毒薬じゃないかー!! 誰がこんな恐ろしい事を!!」

「逃げ出した凶悪犯が知らない間に独房に戻っているー!? 一体何があったというのだー!!」

「僕は事故で両足が使えなかった筈なのに朝起きたら足が動くようになっていたー!!」

 人々は恐怖のどん底。

 

 

 魔王イヴチャン様は、この世界を滅ぼす恐ろしい存在なのでした。

 

 

 

 中略。

 

 それから数年の月日が経つ。

 

 

 

「まさか、ここまで本当にやって来るとは思いませんでしたよ。……勇者ナオキ、そして裏切り者のマコト」

「お前の悪行もこれまでだ!! 魔王イヴチャン!!」

「俺は裏切ったんじゃない。お前が間違っていると気が付いた、それだけだ!!」

 なんだかんだあって最終戦になりました。

 

 

 略し過ぎたのでこの現状を少し説明します。

 

 

 魔王である私からの差し向けで、半魔人であるマコトを仲間に入れた勇者パーティ一行。

 

 マコトは勇者パーティと長い月日を共に過ごす中で、自らの裏切り行為と葛藤していました。

 そんな中、四天王の一人()()()()()()がナオキやマコト達勇者パーティの前に立ち塞がります。

 

「何を仲間面してるフンコロ! 教えてやるガシ。ソイツは──マコトは我等が四天王の一人なんだフンコロガシ!!」

「な、なんだって!?」

「本当なのかマコト!?」

「お、俺は……。ち、違う! 俺は!!」

「マコト」

「ナオキ……」

「俺はマコトの事を信じるよ」

「ナオキ……!!」

「こ、この裏切り者フンコロガシー!!」

 なんか良い話だったのにフンコロガシのせいで台無しですね。誰ですかフンコロガシを登場人物に入れたの。私でした。

 

 

 そんな訳で私を裏切ったマコトを含めた六人の勇者ナオキパーティ。

 

 マコトの案内で魔王城に辿り着き、四天王の一人テントウムシを倒してここに居ます。

 

 

 

「気を付けろ、ナオキ。この魔王は前魔王ハデスを亡き者にしてその力で魔王軍を我が物にした恐ろしい魔王だ」

「分かってるぜ、マコト。でも俺達は! 魔王を倒して世界に平和を取り戻す!! そうだろ皆!!」

「「「おう!!」」」

 武器を構える六人。

 

「小癪な。血と肉の塊にしてやりましょう」

 私はそう言って両手を持ち上げ、掌に魔力を集めました。

 

 黒い雷となった魔力を勇者ナオキに向けて放つ。

 

 

「ナオキ!!」

 盾を持ったタンクがそれを弾いた。同時に、アーチャーとウィッチが私に矢と魔法の火球を向ける。

 

 

 対象──現世界《物質》《魔力》解析鑑定──。対物理シールド、対魔力シールド展開。

 

 

 矢と炎は、私の前に生成された盾に阻まれました。

 

 

 

「フハハハハハハ!! その程度か人間!!」

「……人間を舐めるな。遅い!」

「……ほぅ」

 火球に紛れ、シーフが私の背後を取る。

 

「死ね……魔王!」

「十三億年早いですよ、私に勝とうなんてね!!」

 私はナイフを振りかざすシーフの腕を掴み、迫ってきたマコトにその身体を投げ付けました。

 

 そして、ナオキの剣を人差し指と中指で掴む。

 

 

「く……!!」

「止まって見えますよ」

 そのまま指を捻って剣を折り、私は勇者ナオキを蹴り飛ばしました。

 

「ナオキ!!」

塵芥(ちりあくた)と成り果てるが良い」

 そしてその手を天井に伸ばし、私は周りの魔力を集めて巨大なエネルギーの塊を形成する。

 

 バチバチと雷のようにエネルギー体から魔力が漏れて、白の床を粉々に砕き始めた。

 

 

「こ、これが……魔王の力なのか」

「私達じゃ……勝てない」

 絶望に顔が歪む。

 

 

「アッハッハッハッ!! そうだ!! その顔が見たかった!!」

 もう私はノリノリでした。若干どうやって収拾をつけようか悩んでいます。

 

 

 

 しかし、今の私は魔王イヴチャン。

 この世界を混沌に陥れる(予定だった)魔王ハデスの代わりを務めなければいけない。自分がやった事の責任くらいは取れ。

 

 ただ、それなりの所で負けてあげないと人類大変な事になってしまいますし。適当に「うわー」とかどこかで言わないといけませんね。

 

 

「絶望しろ!! これが力だ!! 争う事の出来ない絶対的な破壊!! お前達はここで滅びるのだ!!」

「俺は諦めない!!」

 蹴り飛ばした勇者ナオキが立ち上がった。

 

「俺は勇者だ。……俺を信じてくれた人達の為にも、こんな所で負けるわけにはいかない!!」

「フハハハハハハ!! 言葉だけで何が救えると言うのだ!!」

「それでも、俺は勇者だ!!」

 剣を持って走る。

 

 無駄の多い走り方。隙を突いて倒してしまうのは容易い。

 

 

 しかし、気持ちが伝わってきました。

 彼が本気でこの世界を救おうとしている気持ちが。それだけは、本当に強いという事が分かります。

 

 

 その気持ちを踏み躙るのは、なんだか心が痛むので──

 

 

 

「ふん!! 雑魚が!!」

 ──私は少しの間、勇者ナオキパーティを痛ぶりました。

 

 

 それでも彼等なら立ち上がってくると、信じられたからです。

 

 倒しても倒しても倒しても、彼等は立ち上がってくる。

 まるで何度滅びても文明を築く人類のようで、私は少し嬉しかった。

 

 

 ボロボロの勇者ナオキを守る為にタンクが体を張り、ウィッチとアーチャーもナオキを守る為に奮闘する。

 シーフとマコトが私の隙を作れるように動いて、遂にナオキは折れた剣を私に振り下ろしてきた。

 

 

「どうして争う!! どうして争う!!」

「この世界が……好きだからだ!!」

「……っ」

 折れた剣を私は受け止めて、それでも勇者ナオキは私を真っ直ぐに睨む。

 

 強い気持ちが伝わってきました。

 私にはない、強い気持ち。すこし、羨ましい。

 

 

「……これが、力」

 その剣が光を放つ。

 

 折れた部分から伸びた光の剣。それが、私の胸を貫いた。

 

 

「魔王イヴチャン、お前の負けだ……!」

「ぐ、ぐわー!! この私が遅れを取るとは!!」

 剣を引き抜かれ、私はよろめいて崩れ落ちる。

 

 別に避ける事も防ぐ事も出来ました。

 けれど、なんでしょうね。気持ちに負けたんでしょう。そういう事にします。

 

 

 しかし自己修理に時間が掛かるタイプの壊し方をしやがってこの勇者。末代まで呪ってやりますよ。

 

 

「……良いだろう、この世界は貴様らにくれてやりましょう。けれど、これだけは覚えておくが良いですよ!!」

 言いながら、私は玉座の裏に向かって歩きました。念の為に()()を用意しておいてよかったぜ。

 

 

「貴方が好きと言ったこの世界も、いつか簡単に手からこぼれ落ちでしょう。精々足掻いてみせなさい。ふふ。……フハハハハハハ!! さらばだ!! 勇者ナオキ!!」

 用意しておいた捨て台詞を吐きながら、私は用意しておいたアレ(城の自爆スイッチ)に手を掛ける。

 

 

「待て!! 何をする気だ魔王イヴチャン!!」

「精々足掻くが良い!! 必殺!! 城の自爆スイッチのボタン!!」

「マジで何をするんだ魔王イヴチャン!!」

「ナオキ! こっちだ、脱出するぞ!!」

 元四天王であったマコトが先導して、勇者ナオキパーティ一行は城を脱出する。

 

 

 同時に私は城の自爆装置を押しました。我が(ハデスからパクった)魔王城は自爆して粉々になります。

 

 ドカーン(擬音)。

 

 

 こうして魔王イヴチャンは討伐され、世界に平和が戻ったのでした。

 

 

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

「……こんな事あります?」

 瓦礫の中で、私は自分を治しながら問い掛ける。

 

 

 

 なんだかんだ人間に手を貸してしまった気がしますが。

 

 こんな事もあります、という事で。

 

 

 

 前略。

 私の──魔王の世界は滅びました。おしまい。

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