終末に少女は世界の終わりを旅して廻る【完結】   作:皇我リキ

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小さな世界

 扉が開く。鈴の根が鳴る。

 

 人が一人住むには少し大きいくらいの、沢山の棚が並ぶ建物。

 棚には食糧や日常品、雑誌。この場所は様々な物を購入する事が出来る場所だ。

 

 

「いらっしゃいませー」

 人が入って来ると、私を含めた()()はこう口を開く。

 

 

 ここはコンビニエンスストア。

 

 

◾️◾️◾️(店舗特定防止の為編集済み)チキ下さい!」

◾️◾️◾️(店舗特定防止の為編集済み)円になります」

 なんでも売ってるし、なんでも買えるし、なんならここで一ヶ月くらい過ごせるような場所。

 

 

 そんな、何処かにありそうな小さな世界だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 前略。

 

 

 人類の行く末を観察する為には、その世界での通貨が必要な事が多い。

 

 世界によっては大陸を移動するのに船や飛行機に乗る為お金が掛かる。

 私は重くて泳げないですし、足からジェット噴射が出て空を飛ぶ機能もありません。

 

 この姿が故に人に紛れて行動する事を余儀なくされるので、つまりはお金が必要という事。

 

 

 

「バイトだりぃ〜」

 そんな訳でイヴちゃんは絶賛コンビニのバイト中でした。

 

 

 中略。

 

 

 

「イヴちゃんさー、彼氏とか居ないの?」

「仕事中ですよ、アカネさん」

 そんな訳でバイト中。

 

 時刻は夜の十時前。どんな季節でも外は真っ暗。良い時間。

 

 

 コンビニがあるような世界は大抵、それなりに安定しています。

 そしてそれなりに安定してあるので、この時間は大抵自宅にいる人が多い為お客さんは少ない。

 

 それでも、お菓子が食べたいジュースが欲しい、小腹が減ったお酒が飲みたいアレが足らないコレが必要。

 様々な理由でこの時間にはほとんど開いてない店の代わりに、ちょっとお値段高めでもこの時間に空いているコンビニという場所は便利だ。

 

 だから、こんな時間に働かされる人が居るわけです。

 

 

 

「いや、そんな真面目な事言いながらイヴちゃんソシャゲやってるじゃん!」

「暇なんで」

「暇ならお話しようよぉ!!」

◾️◾️◾️(ゲーム特定防止の為編集済み)の周回に忙しいので」

「お仕事中だよ!?」

 キレの良いツッコミを入れて来るのは、バイト仲間のアカネさん。ピッチピチの女子大学生。

 

 

 学生はお金が必要な生き物で、友人との付き合いに飲み会にお洒落。

 様々な理由でこの女子──アカネもバイトをする私の仲間でした。

 

 

 それなりの付き合いである彼女の事を一言で表すなら、お喋りさん。

 

 仕事そのものはちゃんと取り組むのですが、相手がバイト仲間ならともかくお客さんとも普通に会話をし始めるタイプのお喋り大好き女子です。

 

 

「ねー、お喋りしようよー」

「彼氏なら居ません。これで良いですか」

「話をスパッと終わらせようとしないでよ! 彼氏なら居ません……って来たら、私が! えー、イヴちゃん可愛いのにって返して、イヴちゃんが、私なんてそんな……って返す所でしょ!?」

「解像度が低い。やり直しです」

 私はナルシストなのでそんな自分を肯定しない事はしない。

 

 

「あー、確かに。イヴちゃん若干ナルシストだもんね。彼氏出来ないのそれが理由かな?」

「はっ倒しますよ!?」

 言い方があるでしょうが言い方が。

 

 

「そもそも仕事中だという事をお忘れなく。どうしてもお喋りしたいのなら、一人でどうぞ」

「分かった!」

「分かった!?」

 何が。

 

 

「イヴちゃんさー、彼氏とか居ないの? 彼氏なら居ません。どうして? 私はあまりにも美しいので男性一人にどうこう出来る存在ではないのです。でもイヴちゃんはそれで良いの? 寂しくないというと嘘になりますね。だったら! いえ……私の美しさは国の宝なので私を取り合う事はこの世界の終焉を意味するのです。そんな、それじゃイヴちゃんは! 孤独ですけど、私には貴方がいますから……アカネ。イヴちゃん!!」

「やめーや」

「痛!! チョップは辞めてよチョップは!! え、滅茶苦茶痛い!?」

「これは人を玩具にした制裁です」

 本当に一人でやる奴が何処にいるんですか。ここに居たわ。

 

 

「えー、ここからが良いところだったのに!」

「むしろあそこから続きがあるんですか!?」

 怖い。止めて良かった。

 

 

「……で、そう言うアカネさんは彼氏が居るんですか?」

「あ、お話付き合ってくれるんだ」

「一人で喋られると大変な事になる事が分かったので仕方なくです」

「イヴちゃんのツンデ──チョップは辞めて」

「ほらとっとと話せよ」

「えへへー、実は居るんだよねー」

「あら、初耳です」

 彼女は割と多めの頻度でバイトのシフトに入っているので、少し驚きです。

 

 

「こんな所でバイトなんてしてる場合なんですか?」

「彼氏も普段忙しくてあんまり遊べないんだー。でもね! 明日久し振りのデートなの!」

 言いながら、アカネは目を輝かせました。

 

「なるほど、それでこんな話を持ち掛けてきた訳ですね。自慢したかった訳ですね」

「そう!!」

「少しは否定せーや」

「痛ぁ! なんで肩を揉むのぉぉおおお!? 肩凝りがぁ!! 肩凝りが改善されていくよぉぉおおお!!」

 イヴちゃん式スペシャルマッサージをくらえ。

 

 

「で、明日は何処に?」

◾️◾️◾️(施設特定防止の為編集済み)ランド!! 一泊二日なんだぁ」

 明日のデートに思いを馳せ、頬を持ち上げるアカネ。

 

 余程楽しみなのでしょう。普段よりも、彼女の声色が高い。

 

 

「それは楽しんできて下さい。中々チケットを取るのも大変な場所だった筈ですし」

「えへへー、そうなんだー。彼氏が取ってくれたの!」

「優しい彼氏さんなんですね」

「うん! 中々会えないから、会える日は記憶に残る思い出にしたいって言ってくれるんだ!」

「青春が眩し過ぎてメインカメラが焼ける……」

「なんで突然サングラス掛けたの!? お仕事中だよ!?」

「お仕事中だよ、はあなたが言っていい台詞ではありませんが?」

 彼女にとって、今がとても楽しい時間なのは間違いありません。

 

 

 輝かしい青春の一ページ。安定した世界だからこそ、こんな普通に笑える誰かとの一時は心地が良いと思いました。

 

 

 中略。

 

 

「アカネさん、時間過ぎてますよ」

「あー、本当だ。もう終わりかー。イヴちゃんと話すの楽しいからバイトの時間あっという間だね」

 十時半になって、アカネの就業時間は終わります。

 

 ここからは私一人で勤務。時間が時間なので、お客さんも来ませんしね。

 

 

「お仕事中ですよ」

「もう少し残ってよっかな──痛!」

「明日デートなんですから。今日は早く帰って万全な状態で挑みなさい」

「イヴちゃん……。うん! 分かった」

 そう言って、アカネはレジ裏で着替えてきました。

 

 本当なら明日デートと分かっていたらもっと早く帰らせたかったのですが、そもそも私にそんな権限はありません。

 

 

「気を付けて帰ってくださいね」

「うん! あ、お土産期待しててね!!」

「お土産は金になる奴でお願いしますね」

「さ、最低! あはは、一銭にもならない変なの買って来る!!」

「いらねー」

「またね!」

「はい、それではまた」

 お客さんも居ないので、私はコンビニの外でアカネを見送ります。

 

 

 安定した世界。

 それでも、突然の事故や事件がないわけではありません。

 

 だから、ただ無事を祈りました。

 私がそれに直接関わるのは、おかしな話ですからね。

 

 

 

 なので──

 

 

「──彼女の家付近の交通事情と防犯カメラをチェック。不審者なし、暴走車なし。明日の雨天レーダーに懸念なし。交通網の懸念を徹底的に排除。スマホをハッキングして寝ている間にはヒーリング効果のある音を流し、絶対に寝坊しないようなアラームをセット。……よし、私がしていいのはこのくらいですね」

 ──私は手を出しません。

 

 

 そう!! 手を出しません!! 

 

 

「手は出してませんよ、えぇ。もし付近に不審者が居ても? それはこう私の活動に支障が出るかもしれないので排除するだけです。はい。別に彼女のデートが上手くいこうがいかまいが? 人類の行く末に関係なんてありませんからね」

 言いながらコンビニ店内に戻り、私は溜め息を吐きます。

 

 

「良いですねぇ……純粋って」

 私にはそういう感情は理解出来ません。そこまで高性能ではないので。

 

「おねえたまを思い出しますね……」

 私の姉ロボットは博士にゾッコンでした。だからでしょうか、女の子の恋愛感情的な物に弱いんですよね。

 

 

「あ、お客さん。……いらっしゃいませ」

 ふと、お店にお客さんが入ってくる。

 

「うぃ〜」

 お客さんは酔っ払いのおじさんでした。

 

 こんな夜中なので、外に出ている人は限られています。

 

 

 飲み会の後とか家で飲んでて変な感じになってしまった人でしょうか。

 何故か手には発煙筒のような大きさで赤いボタンが着いた棒を持っていました。宴会の一発芸の道具ですかね。

 

 

 先程、周囲の監視カメラをハッキングした時にも見付けていたので特に不審な点はないでしょう。

 

 ただの酔っ払い。

 私は──そう思っていました。

 

 

 

「うぇーい、ついに完成したぞぉ!」

「お客さん、ここはコンビニですよ」

「へへへ、お前さんも見るかい?」

「完全に出来上がってますね……」

 かなりアルコールが回っているのか、お客さんはフラフラとレジ前まで歩いてきてその場に崩れ落ちる。

 

 手に持った何かのボタンのような物がついた棒はそのまま。

 

 

「はい、お水ですよ。しっかりしてください。お家に帰れますか?」

「へへ、もう帰る必要なんてないんだぁ。コレが完成したからなぁ」

「コレ?」

 不敵な笑みを浮かべるお客さんが掲げる、ボタンの付いた棒。

 

 

「コレは?」

「聞いて驚け!! 世界破壊爆弾だ!!」

「世界破壊爆弾???????????」

 どうしてそんな物騒な名前の物が突然出て来るんですか。

 

 

「これを押した時|◾️◾️◾️が◾️◾️◾️◾️◾️し◾️◾️◾️◾️◾️により◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️となり◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️《多発世界終末回避の為編集済み》が起きて!! この世界は終焉を迎えるのだ!! ついに完成したぞ!! これでこの世界は終わりだぁ!!」

「なんでそんなものを作ったんですかぁ!?」

「よく聞いてくれた!!」

 終末スイッチ(俗称)のボタンに親指を掛けながら、お客さんは声を上げた。

 

 待て、その指を離せ。

 

 

「俺はその辺の一般企業の平社員だ」

「その辺の一般企業の平社員がどうやってそんなこの世の終わりみたいなスイッチ作っちゃったんですか!?」

「俺は所謂社畜でな、来る日も来る日も残業残業。会社に忙殺され続け四十年。いつかは結婚出来ると思ってた、いたって平凡な家庭を築けると思っていた!! けれど、毎日毎日職場と家以外はただ往復するだけの時間!! 気が付いたら人生の半分以上がもう終わっていたんだ!! 俺はこんな世界嫌だ!!」

 そう言って、お客さんはスイッチに手を向ける。待て、早まるな。

 

 

「落ち着いて下さいお客さん!!」

「うるさい!! お前に俺の気持ちが分かるか!! 四十年仕事以外の時間は家で寝るだけ。こんなのは人間の生活じゃない!!」

「それはそう!! 本当にそう!! だけどとりあえずそのスイッチから手を離しましょう!! 話はそれからです!! てか仕事しかしてないのになんでそんなもん作れちゃったんですか!!」

「仕事以外の時間全てをこの世界破壊爆弾に費やしたのだ!! 完成に十年を費やした!! この十年だけは俺の人生は楽しかったと言えるだろう!! 何せ完成すれば世界を終わらせられるんだからな!!」

「あまりにも悲しいでしょうがよ!!」

 油断していました。

 

 まさかこんな安定した世界で突然終末が訪れると誰が予想したでしょうか。

 

 

「さあ終わらせよう!! 皆さん終末でーす!!」

「辞めてーーー!!!」

 そんな終わり方があってたまるか。それに──

 

 

「何故止める!!」

「せめて!! せめて後二日待ってくれませんか!?」

 ──それに、明日はアカネが楽しみにしているデートの日。デートを楽しみにしていた彼女の顔がどうしても頭を過ぎる。

 

 

「二日ぁ!? 知るか!! 俺は今すぐこの世界を終わらせたい!!」

「そう言わずに!! もしかしたら二日待ったら良い事が起きるかもしれないじゃないですか!? ほら、こんな所に居るよりも最後の晩餐的な!? どうせなら持ってるお金全部使い果たしてからパーっといきましょうよ!! パーっと!!」

「どうせ金なんて使えないからこの世界破壊爆弾の為の費用以外は全部世界の恵まれない子供達に募金したわ!!」

「根は良い奴じゃねーかよ馬鹿野郎!!」

 良い人が恵まれない世界、確かにこんな世界は滅びて然るべきなのかもしれません。

 

 

 いやいや待て待て。

 

 

「でもほら、明日を楽しみにしている人が沢山いるんですよ? この世界には」

「そうじゃない奴も沢山いるんだ」

「それは……」

 正しい。そう思いました。

 

 世界は安定しているように見えても、何処かでネジが外れ掛けているものです。

 何かの衝撃でそのネジが外れて、バラバラに壊れていくのを私は何度も見ました。

 

 

「……そうですね。私にあなたを止める権利はないです」

「よし!! じゃあ、この世界を終わらせよう!!」

 そう言って、お客さんは終末スイッチに親指を乗せる。

 

 

 このボタンを押すだけで世界は終焉。

 

 

「でも、終わらせる前に一杯如何ですか?」

 そう言って、私は缶コーヒーをお客さんに手渡しました。お店の商品ですが、私は自分の財布からお金を出してレジを通します。

 

 

「これは私の奢りです」

「最後の晩餐って奴か」

「チキンもありますよ」

「要らないね。けど、コーヒーは貰う」

 そう言って、お客さんはコーヒーを手に取った。まだ少し熱いので、そのまま手に持っている。

 

 

「お喋りしませんか」

「コイツを飲み切るまでなら良いぞ」

「ありがとうございます。……これは知り合いの話なんですけどね」

「それは自分の事を話す時の文句だろう?」

「いえ、本当に知り合いの話ですよ。バイト仲間のA子ちゃんのお話です。彼女はお喋りさんで、よく仕事中なのに話しかけてきます。とても迷惑なバイト仲間ですね」

「仲が良さそうだな」

「どうでしょう。側から見たらそうかもしれません」

「友達なんじゃないのか?」

「……どうでしょう」

 これまで色んな世界で、色んな人々と関わってきました。

 

 けれど、私はこの世界に居るだけで、結局同じ世界をずっと歩く事は出来ない。

 別れるのにも慣れてしまった私にとってアカネのような存在が自分にとってなんなのか、呼称しずらいのが現実です。

 

 

「嫌いなのか?」

「嫌いではありません。好意的ですよ。少し面倒ですが」

「そんな風に言えるなら、友達なんだろうな」

「友達……か。……では、その友達なんですが。明日デートなんですよね」

「へぇ」

「へぇ、じゃなくて……。明日、デートなんですよ。あまり沢山会える相手ではないらしくて。でも、予約の取りにくいテーマパークの予約を取ってきてくれる優しい彼氏さんらしいくて」

「それで?」

 お客さんはコーヒーを飲み終えました。

 

 その指は、まだ終末スイッチに指を掛けている。

 

 

「……お願いします。そのボタンを押すのを辞めてくれませんか」

 私はお客さんに頭を下げました。

 

 恥とかプライドなんてロボットの私にはありません。必要もないでしょう。

 けれど、友人を思う気持ちはあっても良いものだと思いました。

 

 

 だから、何度もあった別れを辛く思うことも出来るのです。

 

 

 

「……あの子に、そんな終わり方をしてほしくないんです」

「友人個人の願いとして、正しいな」

「だったら!!」

「でもそれはその子個人に対しての気持ちだ。俺を含めて、明日なんて来ないでくれと思う奴は山ほど居る……けど──」

 そう言って、彼は終末スイッチから手を離しました。

 

 

「明日が来て欲しいと願う奴も沢山居るんだ。……そういう奴が、俺みたいのを止めて、世界は真っ直ぐ進んでいくんだなぁ」

「お客さん……」

「よーし、辞めだ。世界を終わらせるのは辞め辞め!!」

 言いながら、お客さんは立ち上がる。

 

 

 そして、私に終末スイッチを手渡しました。

 

 

「これは君にあげよう」

「こんな物騒な物いりませんけど!?」

「君に、持っていて欲しいんだ」

「わ、分かりました」

 私に終末スイッチを渡すと、お客さんは棚からおにぎりを取ってレジの台に置きます。

 

 

「チキンもくれ」

「はい。ご来店ありがとうございました」

 そうして、お客さんはお店を出て行きました。

 

 

 

 今日も明日も、平和な日が続きます。

 

 

 

「お土産だよ!! イヴちゃん!!」

「うわ、マスコットの耳。いらねぇ……」

「そんな事言わないでよ!! ほら、イヴちゃん似合ってるー! 可愛くなったねー!」

「私は最初から可愛いですが!?」

「なんで偶に凄いプライド剥き出しにするの!?」

 アカネは二日間のデートをとても満喫して無事に帰ってきました。

 

 

 これで良かったんですよね。

 

 

 きっと──

 

 

 

 

「──そう……ですよね」

 ──きっとあの日、私が彼と話さなければ、こんな結末にはならなかった筈だから。

 

 

 

 その後、私はお客さんと再会します。

 

 

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