終末に少女は世界の終わりを旅して廻る【完結】   作:皇我リキ

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終った世界

 その世界の終わりは突然でした。

 

 

 誰が何の為に、もしくは自然か、神の怒りか。

 

 始まりは何でもない田舎の学校だったという説がデータ上の定説です。

 

 

 

「なんだあれ? 不気味だな」

「腐ってる人のコスプレ?」

「ゾンビだよゾンビ」

「まさかー」

 学校の校門に現れた一体の()()

 

 学生がネットに流したその動画が、確認出来る最初の()()でした。

 

 

 校内に潜入した()()は、生徒や先生を次々に襲います。

 襲われた人々は()()と同じになって、次々と人々を襲い始めました。

 

 

 それがこの終わりの始まり。

 

 

 ソレは小さな国から世界中に広がっていく。

 

 

 

 この世界にはもう安息の地なんてありませんでした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 半壊したビルの間を走る。

 

 

「イヴ!! 走れ走れ!!」

「走ってます走ってます!! 待って下さいアズマさん!!」

「ったく。……先に行け」

「え、ちょ……」

 私の背中を押して、背後に掌をかざす一人の男性。

 

 

「燃えろ……!!」

 次の瞬間、()()による発火現象がビルの間を燃やし尽くしました。

 

 何かの呻き声が聞こえる。

 

 

「……っ」

「魔力の使い過ぎです。無茶しないでください」

「……仲間を守る為だ。それより、行くぞ」

「は、はい。大丈夫ですか? アズマさん」

「大丈夫だ」

 男性──アズマは、黒い髪に爪を立てながら表情を歪ませた。言葉と表情が合致しない。

 

 原因は魔力使用による頭痛。

 この世界の人間は魔力を使用する事が出来ますが、その使用には身体に膨大な負担が掛かります。

 

 先程のようなレベルの魔法を使おうとすると、常人なら気を失うかそのまま死んでもおかしくない。

 

 

 この世界の魔法は精々が鍋に火を付けるとか、銃弾の威力を上げるとか、その程度の物でした。

 

 

 

「全員無事か?」

 建物の中。

 

 アズマはこの終わりかけた世界で生き延びた人達を集めた一つの集団のリーダーです。

 

 強力な魔法が使え、精神も肉体も鍛え抜かれている人物。

 

 

「一人噛まれた……すまねぇ」

「──っ、くそ!!」

 ──そして、その優しさ故に誰もが彼に着いて来ました。

 

 

 それでも、守れない物がある。

 

 

 

「アズマ……俺、死にたくねぇよ」

「あぁ、そうだな」

 ソレに噛まれた者は例外なくソレになってしまい、もう二度と人に戻る事はない。

 

「俺、まだ……だ、ぁ……あ」

 座り込んでいた青年が白目を剥いて口を開き、暴れ始めた。アズマさんは彼を押さえ付け、頭に銃口を向ける。

 

 

「すまねぇ」

 破裂した火薬の音だけが、建物の中で木霊した。

 

 

 

「アズマさん……」

「囮作戦……()()だ。付き合ってありがとな、イヴ」

「いえ……」

 私達──アズマの仲間達は、この世界でもがきながら生きています。

 

 文明が崩壊してから、食糧の調達は命懸けになりました。

 

 ソレらの五感は弱く、大きな音や直接視界に入らない限りは襲って来ません。

 しかし、ソレらは爆発的に広がって世界中の何処にでも居ます。山に入って野鳥を捕まえようとしても出会す程でした。

 

 

 そんなソレらに見つかった場合、逃げる事だけが人類に残された選択肢です。

 

 足は早くないですが、一度大きな群れに見付かると何処からともなく湧いて来てソレらに囲まれて終わり。

 

 

 誰かが大きな音を立てて囮になるのは、大勢が生き残る為に考えられた術でした。

 

 

 

「もうやってられないわよ!!」

「おい、こら大きな声を出すな」

「だって!! こんなの!! このままじゃいつか皆アイツらみたいにされるだけじゃない!! もう嫌……こんなの嫌!!」

 女性が一人大声を上げて、建物を出ていく。

 

 

 誰もソレを止める者は居なかった。

 

 そんな体力も精神も、誰にも残されていない。

 

 

「俺が……」

「辞めとけアズマ。お前は疲れてるだろ」

「だが」

「良い口減らしだ」

「お前な!!」

 仲間の一人に掴みかかるアズマさん。

 

 けれど、誰もその仲間を咎めようとはしない。口にしないだけで、皆が同じ事を思っているから。

 

 

 

 その後直ぐに、女性の絶叫が建物を揺らす。

 

 

 都市は廃墟となった今、ソレ達の小さなうめき声以外の音は聞こえない。

 誰かが悲鳴を上げればそれは静かな街で悪目立ちさせて、沢山のソレを呼んでしまうのだ。

 

 

「ここはもう危ない。移動しよう。なぁ、アズマ」

「……あぁ」

 それでも、彼等は生きなければならない。

 

 

 人であるから。人である内は。足掻かないといけない。

 

 

 

「私が先導します。アズマさんは疲れてるでしょう」

「お前も一緒に囮をやっただろ。変わらない筈だ。……何でお前はそんな無理をする。もう辞めてくれ。仲間が居なくなるのは怖い」

「それはアズマさんもですよ」

 正論パンチで黙らせる。

 

 そもそも私は噛まれた所で、元々人間でもないし血も肉もないのでソレになる事はない。

 

 

 人類を助けてはいけない──とはいえ、この世界で私を仲間にしてくれたアズマさんへの個人的な恩が私にはありました。

 

 

 ソレらに囲まれて、どうしたものかと固まっていた時に、彼は命懸けで私を助けてくれたのです。

 事実上意味がなかったのだとしても、彼の想いには私は答えなければいけません。

 

 それが、私がこの世界に存在するという事だと──そう認識したいから。

 

 

「俺は……。ただ、皆を助けたいから」

「その優しさが誰かを殺す事もあります。あなたを失ったら、ここの人達は心の支えがなくなって終わりでしょう。……すり減った心でも、身内で争わないだけマシなんです。それは、あなたが居るからですよ」

 こういう世界では直ぐに人は他人を売る。

 

 

 今彼等がそうならないのは、彼の精神的な支えと肉体的な実力による実積があるからでした。

 

 彼に着いていけば大丈夫。

 そんな小さな動機だけが、極限状態の彼等彼女等を繋ぎ止めている。

 

 

「あなたは失われてはいけない」

「イヴ……。いや、だが──痛」

 チョップ。

 

「え、痛い。凄い痛い。怖」

「大丈夫、私最強ですから」

 いざとなれば、彼だけでも救う事が私の選択肢にはありました。

 

 

「早く進めよ」

「ほら、行けって」

「少し待って下さい。安全を確認してからです」

「腹減ったよ」

「お前いつもあんま食ってないだろ、くれよ」

「あ、いやでもコレは……」

 この人達を救う選択肢を用意出来ないのは、私の身勝手なのでしょうか。

 

 

「や、ヤツらだ!!」

「誰か囮になれよ!!」

「お前!! お前またやれよ!! なぁ!!」

 私はアズマさんに助けてもらってここに居ます。

 

 そして、彼以外はこうして他人に対して冷たい態度を取る事が多い。

 この事に関して特に思う事はありません。ロボットなので心が傷付いたとかのたまう事もありません。

 

 けれど、観測者でなくこの世界に個であるとするなら、私が一番に優先するべきはアズマさんしか居ない。

 

 

 これは間違っているのでしょうか。

 

 

 私が勇者を、コンビニのバイト仲間を、雪の世界の狩人を──私が助けたのは、間違いなのでしょうか。

 

 

 

 分からない。何も分からない。

 

 

 

「嫌だ!! 来るな!! 助けてくれ!! 嫌だぁぁあああ!!」

 絶叫が木霊した。

 

 

「おいお前!! 俺が!! 俺が悪かった!! 俺が悪かったから、助けてくれよ!! なぁ!!」

「それは……」

 私には彼等を助ける事が出来る。

 

 

 この世界からソレらを根絶やしにする事だって出来る性能が私にはあって、行使しない理由はまだ言い訳でしかなかった。

 

 でも、それをして良いのかもどうかも私には分からない。

 

 

 誰も私には教えてくれない。

 

 

 

「二人だけになってしまいましたね。……冗談を言っても良いですか?」

「はは、辞めてくれよ……。こっちは参ってるんだ」

 崩れ落ちて、頭を抱えるアズマ。

 

 

 気がつけば、仲間は居なくなって二人きり。

 

 仲間だった人達が全員ソレと同じになってしまって数日。

 

 

 アズマは最後の缶詰を開けて、それを持ち上げる。

 

 

「食べるか?」

「必要ありません。あなたが食べてください、アズマさん」

「食えよ。コレが最後だからな」

「必要ありません」

「食えよ……」

「ですから、必要な──」

「食えよ!!」

 大きな声が木霊した。

 

 

「アズマさん……?」

「……悪い。でも、食ってくれよ。……頼むよ」

 アズマさんは私に頭を下げてくる。

 

 けれど、そんな事は出来ない。

 

 

「……私は、食べなくても大丈夫なんです。本当にそういう存在なんです。だから、その缶詰はアズマさんが食べて下さい。お願いします。あなたは食べないと、生きていけません」

「そんな事は分かってるんだよ……」

「え?」

 何が分かっているのか。

 

 

 彼には何が分かるのか。

 

 

「俺は死ぬ。そんな事は……分かってるんだ」

「死にません。あなたは! 私が──」

「お前が人間じゃない事も、分かってるんだ」

「──なら、なんで!!」

 私はアズマさんの肩を叩いた。

 

 私が人間ではない事がバレるのはいつもの事です。けれど、いつもいつも、特定の人達は私の事を受け入れてくれた。

 だから、私はその人達にだけは報いようと、助けようと動いてしまう。

 

 それが間違っているのか、私には分からない。

 

 

「なら、なんで? ならなんで……俺以外の奴を助けてくれなかったんだよ」

「ぇ……」

 歪んだ表情で、彼は顔を持ち上げた。

 

「お前には力があった筈だ!! 俺よりも強い力が。皆を守れる力が……あった筈だ!! なのに……なんで!! なんで助けてやらなかったんだよ!!」

「それは……その、だって……私は……あなたに助けて貰ったから」

 彼と出会ったのは数年前。

 

 沢山のソレに囲まれて、けれど私はソレに襲われようが壊れる事はない。

 諦めて消えるまで耐えようとしたその時、彼は必死になって私を助けてくれたのです。

 

 

 私は人類の観測者。

 

 けれど、この世界にいて良いのなら、この世界に存在する一つとして、許されるなら、恩を返したり、友達と笑い合ったり、そういう事をしても許されるって──

 

 

 

「お前は見捨てたんだ……俺達を」

「ち、違います。それは!!」

「何が違うんだよ」

「それは……」

「言えよ。何が違う。俺以外をなぜ助けなかった。何が違うんだよ!! なぁ!! 言えよ!!」

 分からない。

 

 

 何も分からない。

 

 

「私は……」

「俺だけ助けて、それで満足か。他の奴はどうでも良くて、お前は!! 俺さえ助けれれば良かったのかよ!? なぁ!!」

「いや、だって……私はアズマさんに……」

「俺が助けたからか? お前を、助けたからか。……そんなの!! 当たり前だろ!! 俺にはその力がある。だから、お前を助けた。……皆を助けたかった!! なのにお前は!! その力があるのに、誰も助けない!! なんでだよ……なぁ、なんでだよ!!」

 その力が私にはあった。

 

 

 彼等彼女等を助ける事が私には出来たし、この世界の終焉を回避する事だって私には出来る。

 

 

 

 隕石が落ちる事を知らせる事も出来た。魔物達を全て葬る事だって出来た。押してはいけないボタンを止める事も出来た。

 

 でも、私はソレをしなかった。

 

 

 個人を助ける為に一つの命を奪い、気紛れで世界の行く末に介入して、友達の幸せを願って私は──

 

 

 

 私は──

 

 

 

「何故だ……教えてくれよ、イヴ。なんで皆を助けてくれない。助けてくれなかった。……俺だけ助けるなんてよ、そんな……自分勝手だろ? エゴだろ? 俺は、そんな風にして欲しくてお前を助けたんじゃない……!!」

「私は──あ、アズマ。来ます……」

 声を出し過ぎたのでしょう。

 

 ソレらが私達の場所を嗅ぎ付けてきた。ここも早く出ないと囲まれる。

 

 

「この話は後です。今は逃げない……と」

 アズマさんの手を取ろうとして、弾かれた。

 

「アズマさん……!!」

「俺はもう良い」

 言いながら立って、彼は銃を持って歩き始める。

 

 

「何処へ……」

「一匹でも殺して、何処かの誰かの為に……そうありたいと俺は思ってるんだ。別に誰だって良い。俺は……ただ、皆が笑顔でいて欲しかっただけなんだよ。特定の誰かだけじゃなくて、皆がな」

「私は……」

「お前には、分からないか」

 そう言って、彼は扉を開いて駆け出した。

 

 

 建物の外に出る。

 

 ソレらが集まってきた。

 

 

 私は手を伸ばす。けれど、どうしたら良いのか分からない。

 

 

 

「俺達は終わっちゃいない!! いつか必ず、俺達はまた立てる!! だから!!」

 弾が切れるまで銃を乱射した。

 

 

「……お前は、いつか()を救ってくれよ」

 街が燃える。

 

 

 対魔力シールド展開。

 

 

 

 彼が放った魔法により、廃墟都市は一瞬で炎に包まれた。

 

 

 ソレらが呻き声を上げて倒れていく。

 

 

 彼も、灰になった。

 

 

 

 私はその灰の上に立っている。

 

 

「私のエゴなんでしょうか。身勝手なんでしょうか」

 エドワード達を助けたのも、勇者なおきを導いたのも、アカネのデートを守ったのも、全部私の身勝手だった。

 

 

 分かっています。

 

 

 いや、分かりません。

 

 

 正しい行動なのか、間違っていたのか、誰も教えてくれない。教えてくれなかった。

 

 

「何が……いけなかったんですか」

 ノイズが走る。

 

 

 

 ──やあ、コンビニの店員さん。

 

 声が聞こえた。

 

 

 削除した筈のデータが再生される。

 

 

 辞めろ。

 

 

 私にソレを見せるな。

 

 

 

 

「──っ、あ……」

 私は別の世界に居た。

 

 

 その世界で、私はコンビニで働いていて、世界を終わらせる事が出来る物を発明した一人の男性とお話をする。

 

 

「……お願いします。そのボタンを押すのを辞めてくれませんか。あの子に、そんな終わり方をしてほしくないんです」

「友人個人の願いとして、正しいな」

「だったら!!」

「でもそれはその子個人に対しての気持ちだ。俺を含めて、明日なんて来ないでくれと思う奴は山ほど居る……けど──」

「明日が来て欲しいと願う奴も沢山居るんだ。……そういう奴が、俺みたいのを止めて、世界は真っ直ぐ進んでいくんだなぁ」

「お客さん……」

「よーし、辞めだ。世界を終わらせるのは辞め辞め!!」

「これは君にあげよう」

「こんな物騒な物いりませんけど!?」

「君に、持っていて欲しいんだ」

「わ、分かりました」

 彼は世界を終わらせる事を辞めてくれました。

 

 

 

 その数日後、私はバイト終わりの帰り道に彼と再開します。

 

 

 

 歩道橋の上で。

 

 

「あら、こんな所に」

「やぁ、コンビニの店員さん。奇遇だ」

「本当に」

 彼は私を見て笑いました。

 

 

「友達のデートはうまく行ったのかな?」

「そのようです」

「それは良かった。……なぁ、店員さん」

「はい」

 彼は、歩道橋の柵を乗り越える。歩道橋の高さは四メートル弱。そうでなくても、トラックが迫って来ていた。

 

 私は手を伸ばせなかった。伸ばさなかった。

 

 

「俺は、どうしたら良かったのかな」

 そう言って、彼は歩道橋から飛び降りる。

 

 走って来たトラックが彼を弾いて、引き摺って、彼だった肉片を沢山の車が磨り潰した。

 

 

 

「私は──」

 どうしたら良かったのでしょうか。

 

 

 助けられたのでしょうか。助けて良かったのでしょうか。

 

 

 ミカエルも、ジョージやピーターも、私をナンパして来た名前も知らない男性も、彼も、アズマさんの仲間達も。

 

 

 私はどうしたら良かった。どうしたら良い。どうしようもない。

 

 

 顔も名前も知らない人達も、大切な仲間も、友達も、その家族も、私には関係なくても、この世界の誰かであって、全員を助ける事なんて出来ない。私はそもそも、その為に存在している訳ではない。

 

 

 

 なら私はなんで存在している。どうしてこんな事を続けている。

 

 分からない。誰も教えてくれない。答えてくれない。

 

 

 私は──

 

 

 

「世界なんてもう……」

 懐から、何処かの世界で誰かに貰った()()()()()()を取り出した。

 

 

「……見たくない」

 ボタンを押す。

 

 

 壊れればいい。自分ごと。

 

 無くなればいい。世界ごと。

 

 

 消えてしまえばいい。そうしてら、分からなくていい。

 

 

 

 さようなら。

 

 

 

 ──讖滉ス薙↓逕壼、ァ縺ェ謳榊す縺ィ繧ィ繝ゥ繝シ繧呈、懃衍縺励∪縺励◆縲ゆソョ蠕ゥ繝「繝シ繝峨↓遘サ陦後@縺セ縺吶?

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