【完結】推しのレネ・コスタさんが実は地雷系だった件   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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中編①【レネ・コスタはやっぱり可愛い】

 

 

 意外なことに、決闘当日まで妨害という妨害はなかった。

 相変わらず周りの視線が痛くて痛くてたまらなかったし。すれ違う度に舌打ちされるのはほんと居心地悪かった。

 

 コスタさんはコスタさんで俺から離れようとしないし。

 愚痴吐くし。菓子たかられるし。愚痴吐くし。

 キープ候補の男子のこと話してくるし。

 

「はーーーーーー」

「うわめっちゃ長い溜め息っすね」

「五月蝿いよパリス。いいから手進める」

「進めてるっすよー」

 

 専属エンジニアである後輩パリスがケラケラ笑いながら端末を操作する。

 今は決闘前の最終調整。あと十数分で決闘が始まる。

 7対1なんて本当に勝てるのかと何度も考えたが、後悔しても仕方ない。なんとかやるしかないのが辛いところだ。

 

「あい! 新装備のフィッティング終了っす!」

「ありがとう。無理言って間に合わせてくれて助かるよ」

「いえいえ。我らがジークフリートパイセンのためならこれぐらい。レネちゃんをハートキャッチしたという事実との板挟みで嫉妬パワーマシマシで仕上げましたとも!」

 

 そう、このパリスという男もレネちゃんファンクラブの一員である。

 

「ねえ確認なんだけどバグとか仕組んでないよね?」

「失礼な! これでもメカニックの誇りはありますとも! それに先輩が負けたら俺の成績にも響くし」

「響かなかったらどうしてたの」

「さあ? 開幕早々爆死させてたかもしれないっすね」

「ねえほんと大丈夫だよね?」

 

 大丈夫っすよーとフニャフニャな後輩に不安がつのる。

 パイロットの生殺与奪はメカニックが握っていると言っても過言ではない。

 十全なる戦闘はメカニックあっての物なのだから。

 

「全セクション調整完了っす。頑張ってくださいっす」

「軽く言うな。7対1なんだぞ?」

「それがなにか? 先輩ならチョロいっしょ」

「軽く言うなぁ………」

 

 信頼の現れだとしても。この決闘前の緊張は未だ慣れない。

 しかし軍属となればこんなことはザラになるのかもしれない。

 パンパンと頬をはたいて気を引き締めた。

 

 コクピットハッチ閉鎖。

 モビルスーツコンテナ、格納完了。

 

「先輩、コンテナ移動させますよ」

「了解。んっ!」

 

 コンテナごと愛機のモビルスーツが連絡用リニアレールを滑走する。

 また凄い速さで動くんだこれが。

 

 ものの数分揺られ、決闘の場である戦術試験区域4番。廃墟ステージに到着した。

 

「指定位置到着。周辺に障害となるオブジェクトなし。コンテナオープン。射出タイミング、先輩に譲渡したっす」

「了解。JP02、ジークフリート・ゴルドライン。ハインドリー・シュベールト、出撃する!」

 

 コンテナから1機のモビルスーツが飛び出す。

 

 確かな重さが地面に新たな足跡を残し、堂々たる姿で空を仰いだ。

 

「ふぅ………」

 

 不思議なものだ。

 先程まで緊張していたのに。ここに立つとスッと身体が冷えて落ち着いていく気がする。

 

『これより、双方合意の下。決闘を執り行う。立会人はペイル寮寮長、エリザ・スチュアートが執り行う』

 

 決闘の始まりを告げるエリザの声。

 彼女たち決闘委員会のメンバーはラウンジでこの戦いの行く末を見守っているのだ。

 

『決闘方法は7対1のデスマッチ戦。勝敗は相手チームのブレードアンテナを全て折ることで決するものとする──両者、向顔』

 

 エリザの合図でコクピットに対戦相手のリーダーにしてコスタさんのキープ1号のアーノルド・ハルマーの顔が写される。

 

「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」

「操縦者の技のみで決まらず」

「「ただ、結果のみが真実!」」

 

 互いの意思表示と共に、フィールドの天井スクリーンが無機質なものから曇り空に姿を変えた。

 

決心解放(フィックス・リリース)

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ジークの反対側。

 レネちゃんファンクラブチームの7機が砂ぼこりを上げながら前進する。

 通常タイプのハインドリーが2機、下半身がタンク型のクリバーリが2機。そしてジェターク社製MSのデスルター2機と、アーノルドが乗るディランザ1機で構成されていた。

 

 全機が胸の装甲にレネ・コスタのイラストが刻印されており。レネに対する愛情の深さが感じられた。

 周りから見ればただの痛モビルスーツなのだが。

 

 そんな痛モビルスーツチーム。

 ディランザ以外は全て肩にビームキャノンやミサイルポッドなどの中遠距離仕様にカスタムされている。これも全て対ジークフリート用に調整されたものだ。

 

「いいかお前ら。ゴルドラインは接近戦を得意とする。無闇に近づくな。弾幕を張り、可能な限り損害を与えたあとにアンテナを破壊しろ!」

「しかし上手く行きますかね? いくら相手が接近戦仕様とはいえ」

「おいおいこっちは7機だぜ? 余裕っしょ」

「馬鹿者!」

「「ウヒッ!」」

 

 レネちゃんファンクラブ団長の一括に全員が震え上がった。

 

「相手はホルダーのグエル・ジェタークと凌ぎを削る猛者だ。未だトップ4以外に敗北したことはない。レネちゃんがセッティングしてくれたこの舞台を無駄にするな! 各機、奮起せよ!」

「了解! レネちゃんラブラブ!」

「レネちゃんの可愛さは宇宙一ぃぃぃ!!」

「「「うおおおおおレネちゃぁぁぁぁん!!」」」

 

 暑苦しさはフィールドを貫通し視聴している生徒にまで届いた。

 今頃画面の奥のレネちゃんファンクラブも熱狂に包まれていることだろう。

 

「しかし団長。奴めレーダーに移りませんよ?」

「尻尾巻いて逃げたんじゃねえか? 多勢に無勢ってさ!」

「情けねえ。男なら正面で来いってんだ!」

「へえ。1人に7人で襲いかかってきてよく言うよ」

「「っ!?」」

 

 声、何処から? と思った瞬間。

 背後の瓦礫から何かが飛び出した。

 

 全身がマントに包まれた何か。

 その機体をすっぽりと包んでいたマントがパージされ、中からモビルスーツが現れた。

 

 ファンクラブチームが使用しているハインドリーに似ていたが。それと比べて細身のボディをしており。ハインドリー特有の鶏冠状のブレードアンテナに加え、両耳に追加でブレードアンテナが後方に伸びている。

 左手には鋭角的なシールドをたがえ、腰にはブレードが1本刺さっていた。

 

 薄水色に紫という高貴な雰囲気を持つカラーリングで。両肩からマントをたなびかせたその姿はまさに騎士のよう。

 

 ジークフリートのハインドリー・シュベールトだった。

 

 シュベールトは腰からブレードを抜刀。スラスターを吹かし。後衛のクリバーリに向かう。

 

「ステルスマント! 待ち伏せ!?」

「慌てるな! この距離ではリーチは届かない! 蜂の巣して………」

 

 そう、ブレードは届かない。

 シュベールトが取り出したブレードはビーム発生機能を持つ実体剣+ビームブレード。

 近づく前にクリバーリの重武装を当てる方が早い………はずだった。

 

 次の瞬間、2機のクリバーリは肩のビームキャノンごと頭を吹き飛ばされていた。

 

「「「は?」」」

 

 伸びた、伸びていた。

 

 2倍どころか3倍の長さに。

 

 奴が剣を振り抜いた瞬間ブレードがしなり、刃がワイヤーを機転に分割。一つ一つの刃が小さなビーム刃を形成し。鞭のようにしなってクリバーリ2機の首をはねたのだ。

 

 余りに一瞬の出来事にファンクラブチームの思考がフリーズする。

 その瞬間を逃さないジークフリートは即座に鞭を元のブレードに戻してアーノルドのディランザに接敵。虚を突かれたアーノルドだったが、なんとか肩のシールドで受け止めることが出来た。

 

「団長、なんですかあの鞭みたいなのは!」

「知らん! 新武装だと!?なんと小癪な、なんだ!?」

 

 シュベールトのビームブレードが出力を上げた。

 ビームは光を増し、ディランザの肩部シールドをゆっくり溶断していく。

 

 非実戦仕様だというのにこの出力。

 学園所属のモビルスーツはコクピットに攻撃できないというプログラムが内蔵されているとは言え、アーノルドが肝を冷やし、動きを止めさせるには充分な迫力を持っていた。

 

「だんちょー!!」

「馬鹿、近づくな! 遠距離から撃て!」

 

 左翼に陣取っていたハインドリーが手持ちのランタンシールドに取り付けられたランスを突き出した。

 

 ジークフリートはディランザの肩部シールドを溶断しながら左手のシールドの裏に装着されていたビームライフルを発砲。

 非実戦仕様の緑色のビームがハインドリーの右腕と左脚を持っていった。

 

「うわぁー!」

「トム! くそっ! 離れろ貴様!」

「いいよ」

 

 蛇腹剣を引き抜き、ディランザを蹴り飛ばし直ぐ様無傷のハインドリーに向かう。

 ハインドリーはその場でビームライフルと右肩のビームキャノンを連射するもシールドと蛇腹剣で防がれる。

 

「なんだこいつ止まらねえ! うわぁっ!!」

 

 右腕に蛇腹剣が絡まりそのまま引っ張り込まれ、ジークフリートはその勢いのまま前のめりになったハインドリーの顔面に飛び膝蹴りをぶちかまし、首をへし折った。

 

「3機目………ん?」

 

 背後からロックオン警報。

 先程倒れたハインドリーの肩キャノンがこちらを向いていた。

 撃たれるビームに微塵も怯むことなく。その残ってる頭に狙いを定め。確実に処理した。

 

「一瞬で4機。馬鹿な」

「団長、どうするんだ!?」

「い、一時退却! 体勢を立て直す! 陣形を整えて再攻撃を」

「団長奴が!」

「!!?」

 

 シールド裏のビームライフルと蛇腹剣がアーノルドの足元を砕いた。

 

「こいつ!」

「悪いけど、逃がす気はない」

 

 シュベールト()の名を持ったハインドリーがファンクラブのモビルスーツに刃を突き立てる。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 流石のゴルドライン先輩でも多勢に無勢だろう。そういう認識を持つものと。

 いやそれでもジークフリートは勝つよ! と言う者たちで。校内の賭け事の比率は7:3が妥当だった。

 

 だが総じてみな唖然とする。

 両者が接敵してからわずか1分で。7機のうち4機のモビルスーツが屠られた。

 隠れ蓑からの奇襲という奇策が上手くはまったとはいえ。その戦いは誰の目から見ても圧倒的だった。

 

 果たしてファンクラブチームに勝機はあるのかぁ!!」

「え、今の全部パリスのナレーション?」

 

 さっきからなんか通信越しに騒いでるからなんのこっちゃと思いながら戦ってたけども。

 

「というわけでこのまま無双しちまってくだせぇっす! 賭け金は俺の物っすよぉ!!」

「薄情者だなぁ」

 

 仮にもファンクラブメンバーでありながら賭け金はこちらに全ベットとは。なんてやつだ。

 

 後方で観戦してるパリスに呆れながらも敵のビームを弾いていく。

 

 流石に正面切ってやりあうのはリスキーだからとパリスに内密に頼んでいた対赤外線マントと、かねてより依頼していた蛇腹剣。

 

 ファンクラブチームが考えているステルスマントはレーダー探知を欺瞞させるものだが、特殊部隊で使われるような高級品は調達出来なかったので。下位互換の対赤外線マント。これは単純に熱量を欺瞞するもの。

 これを十全に使うために機体をレーダーに発見されないギリギリの出力でスタンバイ&瓦礫に身を潜めてなければならないというなんとも博打的な賭けに出たわけだが。

 

「こうも上手く行くとは。我ながら驚いてるよ」

「ジーク先輩らしからぬ戦い方ですね。もっと正々堂々を是としてるだと思ってましたっすけど」

「プライドをへし折りたかった」

「うわー。ひでーっすね」

 

 当たり前だ。こちとらフラストレーション溜まりまくりだったんだ。

 向こうも同じことを考えていたんだから華麗に圧勝してやりたかった。

 僕だって怒る時は怒るんだよ。

 

 デスルター1機が射程内。シールド裏のライフルで牽制しつつ蛇腹剣で脚を凪払い。そのままアンテナごと頭を踏み潰してやった。

 残り2機。

 

「どーっすか! メカニック一同で作り上げたバルムンクの味は!」

「素晴らしい出来だね。これこそ僕が求めてたものだ。しかし竜殺しの聖剣(バルムンク)なんて大仰過ぎないかな。素直に蛇腹剣かビームスネークソードで良いと思うけど」

「なに言ってんすか! ジークフリート先輩にこれ以上ない相応しいネーミングはないじゃないですか!」

 

 僕はジークフリートと名付けられたただのドイツ系スペーシアンなんだけどなぁ。

 かの偉大な英雄を振興してるだけの御家でしかないのに。

 

「かっこつけって思われないかなぁ。シャディクあたりに『ハハッ、洒落たネーミングだね』って笑われそ」

「そうぼやきつつ相手の腕をはね飛ばす先輩こえーっす」

 

 自慢のバルムンクがデスルターの右腕をライフルごと切り裂いた。

 このバルムンク。蛇腹剣として機能するだけでも凄いのに芯となっているワイヤーが電子信号によってある程度操作可能と。ただの鞭では出せない斬撃機動を叩き出している。

 

「くるなくるなくるな! うわーーー!!」

「はい6機目」

 

 苦し紛れに突き出されるシールドをまたまた腕ごと斬り落とし。先端が実体ブレードとなっているシールドでアンテナを斬り飛ばす。

 

 残りはアーノルドのディランザのみとなった。

 

「なんだ、なんの悪夢だ。7機いたんだぞこっちは!」

「そう言われても現実を見てくれとしか」

「くそっ! 背後から奇襲だなんて。レネちゃんに恥ずかしくないのかよ!」

「全然。それより君たちは7機で襲いかかってくるんだからそっちの方がコスタさんに恥ずかしいんじゃないかな」

「言わせておけば!」

 

 アーノルドは大型ヒートブレードを振り下ろすもそんな見え透いた大振りに当たるわけもなく横に避けた。

 だがそれは織込み済みとアーノルドは舌なめずりをした。

 

「かかったな!」

 

 本命は至近距離からのビームライフル。

 直撃コース最短距離。シールドは間に合わない。

 

 だが放たれた緑色のビームは肩から伸びる薄紫のマントによって弾かれた。

 

「なっ、対ビームマント!? うわっ!」

 

 バルムンクがディランザの両手を削ぎ落とし、そのまま流れるようにバルムンクを首に巻き付けられた。

 

 あとはバルムンクにビームを流せばたちまち首が落ちるだろう。

 

「なんだよなんだよ! そんな新装備盛り沢山積みやがって! この金持ち野郎が!!」

「たしかにそっちからしたらズルいだろうね。これだけの戦力差を短時間で一掃されて。文句の一つや二つ出るのも無理もないと思う」

 

 だけどね。

 

「ただ結果のみが真実。それがアスティカシアの決闘だ」

 

 ディランザの首が宙を舞った。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「7対1。本当に勝っちゃいましたよ」

「うひゃー、これは圧倒的だね。はい、件の中心レネちゃんはこれ予想通り?」

「いやいやいや。流石にここまでワンサイドゲームなのは予想外だし」

「彼の実力を疑ってた訳ではなかったが」

「想像以上だったね」

 

 グラスレーの寮長室で5人の女子がジークフリートの決闘を観戦していた。

 レネと同学年のイリーシャ・ブラノ、メイジー・メイ。

 二年のサビーナ・ファルディン、エナオ・ジャズ。

 5人ともそれぞれの層にファンを持つ学園のアイドルグループ的な存在にして、シャディク隊、シャディクギャルズ、シャディク派閥などと呼ばれるグループでもある。

 

 一重に女性との交遊関係が派手なシャディクがハーレムとして囲ってるのでは? という噂がもっぱらだが。事実としては純粋に実力派な面々が偶々女子ばかりだった、ということとなっている。

 

「あまり男子関係のトラブルは控えろレネ。こっちやシャディクに飛び火されたら敵わん」

「うるっさいなぁ。私はチヤホヤされたいの!」

「だけどジークフリート先輩にホの字だったりしないのー?」

「最近口を開けばゴルドライン先輩のこと話してるよね」

「え、二人ってそういう?」

「ちっがうし! ジーク先輩はキープの1人でそれ以上でもそれ以下でもないっての!」

 

 勝手知ったる面々であることもあってレネは最初から素のモード。

 ジークがキープ3号になるまでは彼女らがレネの愚痴を聞いていたりしたのだった。

 

「どうするのレネ。これで自信つけた先輩に告白されたら」

「ないでしょ。ジーク先輩素の私のこと苦手みたいだし」

「でもなんだかんだ言って破天荒なレネに付き合えてるんだから。大した奴だと思うよ」

「だよねぇ。ジーク先輩ほんと良い男だよね」

「そ、そうだねぇ」

 

 実はレネがジークを脅迫していることはシャディク隊の面々には話していなかったりしている。

 相対的にジークの評価が上がっていることにレネはなんとも変な気分になっている。

 

「あっメールだ。ジーク先輩?」

「なになに? やっぱ告白!?」

「うるさいメイジー。えーと何々」

 

『思いの外短時間でボッコボコにしてしまったので。相手チームのアフターケアお願いしたい。勿論嫌じゃなければで』

 

 送られてきたのは称賛を求める物ではなく相手へのフォロー。

 普段から称賛をねだられるレネは少しだけ呆気に取られた

 

「ほんと出来る男だねジーク先輩」

「単純に報復を恐れてるだけなんじゃない?」

「………行ってくるわ」

「行ってらっしゃーい」

「ゴルドライン先輩も労ってやれよ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 決闘も無事に終わり。コスタさんにすれ違い様「おめでとう、お疲れ様」と労いの言葉を受けてから。3ヶ月の時が立った。

 

 決闘の勝利条件「コスタさんといても五月蝿く言わないで欲しい」という条件が受理されたお陰か、白昼堂々コスタさんと過ごしていたり。屋上のベンチでランチ(僕に買わせた&作らせた弁当)タイムをしたとしてもなにも言われず。陰湿な妨害もなく過ごせた。

 

 コスタさんへの扱い、対応も慣れてきたのか前ほど苦痛を感じることも少なくなり。

 

 まさに順風満帆と言える学園生活を送って………

 

 いたわけではなかった。

 

「ジークフリート! 俺と決闘しろ!」

「ゴルドライン、私と決闘を!」

「俺と決闘しやがれ!」

「決闘!」

「決闘!」

「「「決闘!!!」」」 

 

 次から次へと。無限湧きの如くコスタさんのシンパが僕に決闘を仕掛けてきた。

 

 五月蝿く言うのではなかったのか? と当然の疑問を投げてみたものの。

 

「五月蝿く言うなと言われたのは決闘に負けた7人であって俺たちは関係ない」

 

 だと。なんと身勝手な。

 それでいて直接的な妨害に打って来ず飽くまで決闘の形で挑んできたのは、コスタさんにバレて嫌われたくないからだという。

 なんとみみっちいのか。

 

 そんなことで週に2、3回、多くて4回はモビルスーツに乗って決闘を行った。

 賭けの内容はどれもコスタさん関連。

 コスタさんに近づくな、コスタさんに馴れ馴れしくするな、等。

 挙げ句の果てにはコスタさんと別れろ! 付き合ってすらないのにどうやったら別れられるのか教えて欲しい。

 

 何人か手強い相手もいたけど、経験と実力差にレネちゃんファンクラブの面々はまったく歯が立たず。

 決闘に負けた代償として「これ以上関わらないこと」、中盤から+金銭を巻き上げてコスタさんへの供物に変えてあげた。

 

 最初こそ「カッコいいとこみたいな、頑張れ♪」と悪魔のようだったコスタさんも流石に途中から「一旦休めば?」と心配されてしまった。

 一緒に過ごしてみてわかったけど、コスタさんって案外根は良い子なのでは? と思い始めた。

 

 まあ、ぶっちゃけ意地だった。

 なんで何も知らない奴にとやかく言われるんだとか。

 口で言ってもわからないなら実力で捩じ伏せてやろうとか。

 ストレス発散的な意味合いを込めてそれはもう完膚なきまでに敗北を刻み付けてやった。

 

 襲いかかるモビルスーツの腕、足、頭を次々と撥ね飛ばしまくり。

 複数戦も何度もこなし、並みいる敵を千切っては投げ。

 

 無数のモビルスーツの屍というスクラップが積み上がった結果。過去のアスティカシアの例に見ない半年での戦績50勝を達成し、学園側から表彰された。

 

 そんな連戦連夜の結果。

 

「エホッ、エホッ」

 

 体調を崩して風邪を引きました。

 疲労による免疫力低下。むしろよくもった方だと医者の方から処方箋を渡されて今に至る。

 

 重症なのか1日寝ても気だるさがまったく抜けない。

 風邪なんていつぶりだろうか。

 頭痛い、身体痛い、喉も痛い。

 飲み込む唾が凄まじく不味い。

 

 コスタさんどうしてるだろ。心配………

 いや、今頃他のキープくんと宜しくやってるだろう。新しいキープも出来てるに違いない。

 

 次に会う時はもういらないから、なんて言われるかも。

 

「………なんか嫌だ………」

 

 風邪を引くと極端にネガティブになる。

 黙って寝よう。あれ、そういえば薬飲んだっけ? ご飯も食べてないけど………

 身体痛くて動きたくないな。

 

 こんな時フィクションなら可愛いヒロインが看病に来てくれるというが。あのコスタさんがそんな面倒なことするとは思わない………

 

 プルルルル、プルルルル。

 

 ………誰? 

 

「もしもし」

「おっすー。ガラガラだな声。いま部屋の前にいるんだけど、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ。エフっ」

 

 電話の相手はウィリーだった。

 なに? 看病にでも来てくれたのか? 

 

「そゆこと。色々買ってきたから開けてくんね?」

「…待って」

 

 生徒手帳を操作して部屋のロックを開けた。

 可愛いヒロインではなく親友が来てくれたとはいえ。なんとも嬉しいものだなぁ。

 

「入るぞー。おうおう、風邪引いても絵になるなお前は。まるで眠りの森の美女だ」

「冷やかしなら帰ってよ」

「おう、直ぐに帰るさ。あとは彼女に任せる」

「彼女?」

「ジーク先輩、お邪魔しまーす」

「!!?!?」

 

 白昼夢または幻聴か!? 

 視線をずらすとビニール袋を手に持つコスタさんが。

 

「コスタさん!? いっ、つぅぅ」

 

 大きい声出したから頭が響いた。

 

「ほら無理に起きない起きない。じゃレネちゃんあと任せた」

「ありがとうございますウィリー先輩」

「えっ、ちょっと」

 

 僕の静止を振り切ってササーっとウィリーが部屋から消えた。

 残ったのは僕とコスタさん。え、ほんとなにこれ? 

 

「なんのよう」

「看病」

「本音は?」

「看病だって。祝50勝するぐらい無茶した先輩を労いに来たの。ほら、ゼリー食え」

 

 差し出されたゼリー飲料の蓋を取ろうとしたが、力が入らない。それを見たコスタさんが変わりに蓋を開けてくれた。

 

「薬とかなんかあんの?」

「そこの袋」

「これ?」

 

 お腹に物を入れて、薬を飲んだら幾分か楽になった。頭にはってくれた冷えピタが気持ちいい。

 

「なんで来たの」

「何度も言わせんなって、看病に来たの」

「こんな何も出来ない奴に時間割かなくていいじゃん。他のキープくんのとことか、新しいの作ればいいじゃない」

 

 なんてこと言ってるのか。自分からこんなこと。

 行かないで欲しい、作らないで欲しいなんて思ってるくせに。

 

「あたしはこう見えて面倒見良いの。ファンサは毎日欠かさずやるし。サインだって必ず書いてる。ファンクラブメンバーの顔と名前だって、頑張って覚えようとしてるんだよ。チヤホヤされたいから全力で頑張ってるの。だから風邪引いた先輩を心配するのは別に変なことじゃないから」

「キープだからだろ」

「それは、ある。あと先輩いないと最近つまんない」

「え?」

「パシリと愚痴も言えないし」

「あーそう」

 

 安定だな。だけどこんなことでも何故か嬉しく思ってしまう。

 

 安心したから? 彼女が来てくれたから? 見捨てられてないってわかったから? 

 なんだかんだ単純だなぁ僕は………

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ウィリーから「ジーク結構やられてるっぽいから行って元気付けてやってくんね?」と誘いを受けた。

 

 部屋に来てからかいの一つや二つ入れてやろうと思ったが。予想より大分つらそうに見えたジークを見てそんなよこしまな考えは一気になくなった。

 

 気付いたら甲斐甲斐しく普通に看病してる始末。

 

「らしくねぇ」

 

 今のレネはなにもしなくても大抵の物が手に入る。

 お金、食べ物、人気、そして恋愛さえも。

 

 数多の男を虜にしてやまないレネ・コスタが1人の男の看病に行くなど。

 ましてや相手に本性がバレていて、どんな媚びも意味がない相手なのに。

 メリットなんて欠片もない癖に。申し訳なさだけが先行してしまっている。

 

 メリットと言えばジークもだ。

 最初こそ軽い気持ちで煽ったが、途中で止めても「大丈夫だから」といって彼は愛機ハインドリー・シュベールトを駆った。

 そこまでする必要はないし、彼にメリットなどない。身体が壊れるほどに酷使する意味などない筈だ。

 レネ・コスタになびかなくなった彼が。

 

「なんでそんな頑張ったんだよ」

 

 彼に訪ねた。聞かずにいられなくて思わず出てしまった。

 答えるのも辛いだろうにも関わらず、朧気な視線のままジークは唇を動かす。

 

「いいところ、見せたかった。柄にもなく、カッコいいとこ見て欲しいとか」

「見せてどうするんだよ。惚れると思ったわけ?」

「まさか………でもワンチャンないかなって、もしかしたら思ってたかも。自覚してないだけで」

 

 うわ言のように呟くジーク。

 意識がはっきりしてないのか、思ったことが全部口に出てるような風に見えた。

 

「んだそれ。結局お前も他の奴とそう変わらないじゃねえか」

「買い被りだよ………僕だって君の本性見るまで、みんなとそう変わらなかった。騒げなかっただけで………遠くから眺めて、満足してて。見てるだけで楽しかった」

「いまは楽しくねえの」

「最初は嫌だったけど、楽しんでるよ。こんなのもワルくないな、って」

 

 愚痴を聞かされ、パシられ、トラブルに巻き込まれ。

 平凡な日々は遥か遠くに行ってしまったけど、なんだかんだ行って充実していた。

 

 この日々を手放したくない、そう思える程に。

 

「僕はコスタさんと一緒にいる時間が、段々楽しくなったんだ」

「………」

「コスタさんは、違うんだろうけど」

「……気晴らしぐらいには思ってるし」

「居場所になれてるのかな?」

「調子のんな」

「いふぁいいふぁい」

 

 キューっと鼻を摘まむレネ。

 満更でもないジークに溜め息を吐いた。

 

「そいえばさぁ。私を好きになったきっかけっていったいなんだったわけ?」

 

 あの時倉庫で聞かず仕舞いで何度か聞いてもはぐらかされ続けられてきたが。

 いまのジークなら答えてくれるかも知れないと弱ってるところを誘導尋問してみた。

 

「………4月末ぐらい。ウィリーに『推しの決闘あるから見ようぜ』って誘われて」

「決闘………ああ」

 

 その時レネは三年生に難癖をつけられていた。

 私の彼氏を奪いやがって、恥をかかせてやると。

 

 なんのことだか身に覚えはなかったが。そいつはレネのファンになってから疎遠になって関係が消滅したという。

 レネにとっては初めての決闘で。相手は三年のパイロット科ということもあって、あの時は結構苦戦したが。なんとか辛勝をもぎ取った。

 

「あの時は無我夢中で、可愛さの欠片もなかった決闘だった気がしたけど」

「そう、だね。だけど、何としてでも勝つって思いが、画面越しでも感じられたんだ。どんなにピンチになっても、泥臭くて格好悪くても、にげずに諦めないで戦い続けたコスタさんが。凄いなって………」

「あんま思い出すな。私らしくなかったんだから」

「アハハ。それでね、その後勝ってからコクピットから出たコスタさん、凄い喜んでたでしょ。全身で嬉しさ現して、やったー! って。小さな子供みたいにピョンピョン跳ねて喜ぶコスタさんを見て。凄く眩しかったんだ。その時から好きになってた。周りがちやほやしてるなか全然興味なかった癖に。一目惚れってほんとあるんだね」

 

 熱に浮かれたように喋り続けるジークにレネはどんな顔をすればいいかわからず顔を背けた。

 

 レネは自分が他人から嫌われるようなことをしていると自覚している。

 周りからに猫かぶり、痛い子、腹黒など言われても「ええその通りですが何か?」と肯定出来る。

 だがそれでもやめない。チヤホヤされたいというのはレネ・コスタのレゾンデートルだ。

 

 だから目の前で赤の他人の惚気を延々と聞かされるような。糖分高めの睦言タイムに胸焼けを起こしかけた。

 作った物ではなく、あの時は本当に嬉しかった。その核心を突かれていたことに。

 レネは反論することが出来なかった。

 

「帰る」

「ん、ありがとう」

「あのさ」

「?」

「………なんでもない。おやすみ」

「おやすみ」

 

 振り替えることなく部屋を出る。

 後ろでオートロックの音を聞いてレネはドアに寄りかかった。

 

「はぁぁぁ」

 

 長く、熱のこもった溜め息だった。

 

『今でも私のこと好きなの?』

 

 よく言わなかったとレネは自分を褒めた。

 どうかしてる。自分はレネ・コスタ。

 自分から矢印を向けなくても勝手に周りが持ち上げてくれる。愛を向けてくれる。

 

 なのに確かめようとした。少しでも不安になってしまった。これは汚点だとレネは自分を罵倒した。

 

「別に、キープが減ったら困るだけだし。愚痴パシリいなくなったら困るだけだし………はぁ」

 

 もし今のレネをファンクラブの面々が見たら何事かと血相を変えたことだろう。

 

「顔あっつ………」

 

 覆った手の隙間から覗く、真っ赤に実ったその顔を見てしまったら。

 

 

 

 






 今回は早足になったとは思います。でもダラダラながくなるよりはヨシとして。
 今まで看病イベントなんて書いたことなかったから楽しかったです。

 中編が終わり、次は後編最終回!………になるように頑張ります!
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