【完結】推しのレネ・コスタさんが実は地雷系だった件   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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「お前は次が最終話だと言ったな」
「そ、そうだ。宣言通り終わらせてくれ………!」
「あれは嘘だ」
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



中編②【レネ・コスタは踏み出したい】

 

 

 アスティカシア学園の歴史に残るであろう夢の決闘50連勝を叩き出した僕、ジークフリート・ゴルドライン。

 

 1日2回決闘は当たり前。対複数戦は当たり前を勝ったものの無理がたたって身体を壊し、まさかのコスタさんに看病をしてもらうという。ファンが知ったらたちまち血涙なイベントが発生。

 そのおかげなのか。はたまた偶々タイミングあったのかは定かではないが次の日は嘘のように全回復した。

 

 んで。決闘委員会から正式に発表があり。

 ジークフリート・ゴルドラインのレネ・コスタ関連の決闘の一時中止。以降再開したとしても回数制限を儲けるとのこと。

 

 レネちゃんファンクラブでもウィリーが「これ以上はレネちゃんに嫌われるぞ。マジで」という一言で苦虫を潰したようになりながらも渋々了承したという。

 

 あと、余談だけど。アスティカシア学園のメカニックあたりがしばらく騒がしくなった。

 理由としては、僕がモビルスーツを壊しまくったから。

 

 最初に言ったとおり。複数戦は当たり前でそいつらも軒並み切り裂いてしまい。

 最初はほぼ頭部破壊だけで済んだが後半になるにつれて僕もイラついたのか破壊の仕方が雑になり。ダルマからの首はねも少なくなく。コクピット以外はもう酷い状態で。

 

 一番酷かったのは42回目の決闘の時。連戦による疲労でバルムンクが折れた時。

 

「チャァァァンス!!」

 

 と言いながらビームサーベルで突撃してきた時だ。

 

 あの時の相手はなんともムカつく奴で完全にプッツンしてたからビームサーベルでコクピットを除き針串刺しの刑にしてやった。

 なんでわざわざ接近してきたんだろうね? 馬鹿でしょ。

 

 そんな過去に例のない損傷規模に学園は大騒ぎ。基本生徒間の問題に放任気味な学園上層部の大人たちも見過ごすことが出来ず、発端であるレネちゃんファンクラブはお小言を受けたとか。

 僕も一応注意を受けた。やりすぎだと。

 

 僕のせいじゃないのにと言いたかったのは内緒ね。

 降りかかる火の粉にも限度があったし。

 

 そこからはファンクラブからの妨害は嫉妬の目線だけに収まり。激動の3ヶ月が嘘のように平和になった。

 身体も回復し、モビルスーツにも乗れるようになった俺はというと。

 

「セィィッヤ!!」

 

 愛機シュベールトで決闘に馳せ参じていた。

 

 いや休めよ! と言いたいのはわかるが。もう身体は回復していて。コスタさん関連ではないからノーカン。

 

 そして相手は。

 

「オラッ! 甘いぜ先輩! このグエル・ジェタークをそこいらの雑魚と一緒にしないで欲しいなぁ!」

 

 パイロット科2年。現ホルダーにしてジェターク社の御曹司、グエル・ジェタークからの挑戦だった。

 

 なんでも僕の無双っぷりと3ヶ月決闘に手出しが出来なかったことの我慢と鬱憤で完全に火がついたらしい。

 かくいう僕も手応えのある決闘をしたいと思ったから喜んで承諾した。

 

 グエルくんの乗る専用ディランザは僕のシュベールトと比べると汎用的だった。

 性能を限界まで引き上げ。ノーマルのディランザとは正しく一線を画す専用ディランザは正に暴れ馬。本気を見せたディランザは並のパイロットでは性能に振り回されてろくに動かせない。

 

 マゼンタに黒のカラーリングを施し。トロフィーのような頭部アンテナの後ろには羽根飾りと派手な外見は彼の自身の現れと同時にジェターク・ヘビー・マシーナリーのフラグシップMSとしての誇りだった。

 

 もちろんそれを操縦する本人の腕前は学園でも抜きん出ており。どちらかといえば特化型カスタマイズを施した寮長三人組のモビルスーツと対等に渡り合えているのが彼の実力を現している。

 

「蛇腹剣、過去に見ないユニークな武装だが。ただそれだけだ!」

 

 現に変幻自在のバルムンクの蛇腹剣軌道を獲物であるビームパルチザンで巧みに弾くのがなによりの証拠だ。

 

「たくっ。なんなく弾いてくれちゃってさ! ほんと強いよ君は」

「光栄だな! アスティカシアの首切り王子にそう言われたら!」

「それやめて本当に!」

 

 首切り王子。

 ざっと数えて100機以上のモビルスーツをその蛇腹剣で斬り飛ばした俺に付けられたあだ名だ。

 不名誉というか不気味というか。入学してからこんなネーミングをつけられるなんて誰が思っただろうね。

 

 さて。決闘から7分たったが、互いに目立ったダメージを与えられず一進一退。

 

 お互いにミドルレンジからのライフルの応酬。

 近づいたと思えば離れ、離れたと思えば近づいていく。

 

 見てる人たちから見たら焦れったさに胸をかきむしるところだろうが。

 当事者の僕らからしたら一瞬も気が抜けない緊迫状態が続きっぱなし。

 

 グエルがパルチザンを持って突進、と思いきやシールドからビームトーチを投擲。

 シールドで弾く動作に間髪入れずアンテナ目掛けてパルチザンを突き出すがバルムンクで機動を反らした刃が顔の横を掠めた。

 

 そこからパルチザンを回転。連続で放たれる斬撃に左のマントが千切れ飛ぶ。

 距離を取りバルムンクで凪払いながらその隙間を縫うようにライフルのビームがディランザを狙い撃つ

 

「ハァッ! 最高だな! 実力者となんの遠慮もなく力を競い合える! そこらの雑魚と戦うのとは訳が違う。本物の決闘だ!」

「なんだいそれ。そのそこらの雑魚で50連勝した僕に対する嫌みかい、グエルくん!」

 

 バルムンクを突きの構えで打ち出す。

 面ではなく点、伸縮機構で伸ばされたバルムンクの連続突きはディランザのマゼンタボディに無数の傷を刻み、ビームライフルを縦から割ってやった。

 

「いや、正直驚いたんだ。あのジークフリート・ゴルドラインが女に現を抜かすとはな!」

「そうだね! 僕もそうなるとは思わなかったよ!」

「あんたみたいな立派な奴が、あんな媚び売り腹黒女の何がよかったんだ? もっと良い女居たんじゃねえのか」

 

 あれ、コスタさんの本性バレてる? 

 流石グエルくん。鋭い。

 

「語るつもりはないけど。恋愛とかそういうのっての突然やってくるものだよ。僕にとってそれがコスタさんだったってだけ。グエルくんもそんな時が来るんじゃないかな」

「俺には関係ない話だ」

 

 グエルはジェターク社の未来を担う者。

 将来監査機関カテドラルのエース部隊。ドミニコス隊に入って栄光を掴むのも本人の希望を込みでもジェターク社のため。

 

 恋愛でさえ。親が決めた相手が宛がわれる政略結婚。

 グエル自身も社の為に当然だと思っている。

 その必要性も、他は不要であることも。

 

 バルムンクをソードモードにしディランザの懐に潜り込む。

 ビームバルカンを残った対ビームマントで防ぎ、パルチザンとかち合った

 

「わからないよ」

「なに?」

「いつか。グエルくんがとんでもない相手に惚れるかもしれない。そしてその子を中心に人生が変わるかもしれない。その子のために、全てをなげうつ時だってあるかもしれないよ」

「ありえない。俺はグエル・ジェタークだぞ」

「ありえないなんてことはこの世にないよ、グエルくん。現に僕はゴルドライン財閥のジークフリート・ゴルドラインだ。何が起こるか分からないからこそ人生なんだから!」

 

 バルムンクを手から離し、パルチザンがそのままシュベールトの右腕を切り落とす。

 だが勢いがついたまま唾競ったディランザはそのままシュベールトに突っ込み、2機は密着した状態で前に転がり込んだ。

 

「こんなふうに、ね!」

「なぁっ!?」

 

 その場で一回転し、シュベールトが上になった瞬間ハイブーストでディランザを背中から地面に打ち付けた。

 ディランザの中のグエルくんは揺さぶられて思考が止まる。その刹那を見逃さず。シールド先のブレードがディランザのアンテナを砕き割った。

 

《勝者ジークフリート・ゴルドライン/ハインドリー・シュベールト 56勝4敗0分》

 

「いっっよっしゃぁぁぁ!! グエルくんに勝ったぁ!!」

 

 通信越しに喜びを露にする僕を見てグエルくんは身体の力を抜いてシートに寄りかかった。

 

「何が起こるかわからない、か………」

 

 少なくともジークフリートのようになることはないだろう。

 父親が敷いたレールの上を走る。

 それが何より最良の道であることを、グエルは知っているのだから。

 

 ──この時の彼は知らない。

 

 そんな下らないと思っている恋を前に。

 自分の人生が流転することを………

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 グエルとの決闘に白星を上げた僕はグラスレー寮屋上で賭けの商品であるジュースを傾けていた。

 変わることのないアスティカシアの青空スクリーンを眺めながら、久しぶりの純粋な力と力のぶつかりあいに満足気にホッと息を吐いた。

 

 しかし本当にグエルくんは強い。バルムンクも変幻自在に見えて単調化してるのかな。気を付けないと。

 

 そんな僕の制服は普段の深緑から白基調の制服に変わっていた。

 この白制服こそ学園No.1のホルダーである証である。

 

 この後コスタさんが「ホルダーおめでとう! 褒美としてこのレネちゃんが直々にパシリに行ってやる首洗って屋上で待ってろバーカ!」という思わず二度聞きするご褒美を待っている。

 

 地味にコスタさんから何か貰うなんてなかったなぁ。

 大抵僕がなんか買ってくるばっかりだったし。まあそれはそれとして楽しみである。

 

 思わぬ褒美にホクホクしてる僕のポケットの端末に着信が。

 

「もしもし父さん?」

「息災か、ジークフリート」

「うん。少し前に風邪で倒れたけど元気だよ」

「聞いたぞ。ゴルドラインの息子が学園のモビルスーツを軒並みスクラップに変えたとな」

「アハハハハ」

 

 電話の相手は実家にいる父さんだった。もうそっちまで噂が行ってるとは。

 アスティカシアのパトロンの一人だから行ってもおかしくないけど。

 

「あ、父さん。実はさっきホルダーになったんだ」

「ほう。ジェタークのご子息を破ったのか」

「まあね。真向勝負というのはアレだけど」

「勝利は勝利だ。フッ、ヴィム・ジェタークの悔しがる顔が目に浮かぶよ」

 

 あー、あの眉間に皺よってるグエルパパ。

 グエルくん怒られてないといいけど。

 

「で、どうしたの。態々父さんから電話なんてさ」

「ああそうだな。可及的速やかに伝えなければならないことがある」

「………なに?」

 

 冷えるような。遊びなしの真面目な父の声色に自然と背筋が伸びる。

 

「────たい、学?」

 

 ジュースが手から零れ落ち。飛び散った液体が純白の靴にかかった。

 

「え、ちょっと待って、なんで退学!?」

「厳密には早期卒業扱いだ。お前は予定していたカテドラル設立の対テロ部隊に向けての訓練に入って貰う」

「………カルメルア隊」

「そうだ。学園のカリキュラムはもう充分な筈だ。既にハークとスチュアートのご子息にも連絡が行っているだろう」

「待ってくれ! 卒業後って話だったじゃないか! なんでそんな行きなり」

「先方からの決め付けだ。私もそれに了承した。これは決定事項だ。異論は認めん」

 

 身体が冷えに冷えた。

 もう卒業? まだ半年あるんだよ。半年ぐらい待っても良いじゃないか………

 

 だがここで声をあげて反対しても変わらない。

 通用する相手ではないと僕が一番わかっていた。

 

「わかった。いつ出発?」

「2週間後だ。本来なら1週間だったが、学園で思い残すこともあるだろう」

「わかった。準備する」

「頼むぞジークフリート。なんとしても戦力になれ。そして母さんを、パトリシアを殺したアーシアンに鉄槌を!」

「父さん」

 

 静かに、父の言葉を遮った。

 

「僕らが憎むのはテロリストだ。アーシアンじゃない」

「………準備は済ませておけ」

 

 プツッ、ツーツーツー………

 

「はぁ………」 

 

 先程から一転。重苦しい溜め息が漏れた。

 

 確かに軍に入隊するという希望はあった。

 だけどこんな一方的にこっちの意思とは無関係に勝手に決められて………

 

「憎しみと差別は違うんだよ。まったく………」

「ジーク先輩?」

「!!」

 

 レジ袋を片手に持ったコスタさんが小首をかしげて僕を見ていた。

 もしかして聞かれてた? 

 

「どうしたんですか? なんか似合わない顔してますよ」

「開幕失礼だな。なんなの似合わない顔って」

「少なくともホルダー成り立てがして良い顔じゃないっすね。あーあジュース落としてるし。うちの制服半ズボンでよかったですね。白、目立つし。ほら、早くベンチ座ろ! 私お腹ペコペコ」

 

 おおおう。展開が早い。

 相変わらず強引なコスタさんに引っ張られベンチへ。

 

「ジャジャーン! 購買の激レアフード! イベリコ豚カツサンド、三種の珍味を添えて!」

「うわ出た! なんか詰め込みすぎて逆に品がないやつ! え、これ買えたの? コスタさんそれ勝ち取ったの?」

 

 コスタさんが持ってきた豚カツサンドは1ヶ月に一回売店で売られる幻の品で争奪戦必須。

 コスタさんが荒波に揉まれながらセールス商品に群れる叔母さんみたいなことをしたのかと想像してみたがあまりにも現実離れし過ぎて笑った。

 

「なに想像してるかわかんねえけど。これは私のファンがくれたものだし。10個ぐらいあったけど流石に3個だけにした」

「あー、だと思った。その行く先が憎きジークフリートだと思うと少し可哀想に思える」

「大丈夫大丈夫。投げキッスでしっかりファンサしたから」

「怖い女だなぁ」

 

 乾いた笑いをしつつ貰えるものは頂くとしよう。

 相変わらずアバンギャルドでインパクトのある見た目におもむろにガブリ。

 

「んーー」

「どう、美味しい?」

「ほんと何故かベストマッチしてるんだよね。ほんと納得行かないけど」

「アハハ。あむ、んーー美味しい!」

 

 キャビアをこぼしつつ豪快に食べるコスタさんは猫を被ってる時の可憐さは感じられない快活な女の子だ。

 3ヶ月。あの時巻き込まれてから今まで苦労はあったけど。楽しかった。

 

 そんな生活が唐突に終わる。そう思うと胸にズシリと重りがのし掛かるように胸が痛くなる。

 

 黙々とカツサンドを食べていく。

 コスタさんも何か話すわけでもなく黙ってカツサンドを食べ続けていく。

 沈黙のなか最後の一口を食べ終え、コスタさんが口を開いた。

 

「ジーク先輩」

「ん?」

「学園から居なくなるって、マジ?」

「聞いてた?」

「ごめん。先輩から話さないならそっとしようと思ったけど。無理だった」

「いや。話そうとは思ってから。むしろありがとう」

 

 ジュースをグイッと一息に飲み干した。

 胸の重りがほんの少し取れた気がして、スラスラと話せた。

 

「僕が小さい頃、両親が地球に視察に行った時にアーシアンの反政府ゲリラのテロにあったんだ。父さんもその時一緒に居て、母さんが目の前で撃たれたって。テロリストは巡回していたモビルスーツに殲滅されたらしいんだけど。母さんはそのまま死んでしまって」

 

 葬式の時の。悲しみと憎しみに満ちた父さんの顔は今でも忘れられない。

 それから父さんはアーシアンへの弾圧を支援するために多額の金を援助した。

 父さんは元々アーシアンを差別的に見てたが、母さんが死んでから酷くなって。

 

 僕もモビルスーツのパイロットになることを強いられた。母さんの仇を撃て、アーシアンを許すなって呪詛を植え付けられながら。

 

「アスティカシアのパイロット科になったのも父さんの意思だ。卒業までに優秀な成績を取ったら、カルメルア隊に入れるようにしてくれるって」

「カルメルア隊って確か」

「うん。カテドラルに所属するドミニコスとは違うエース部隊。対テロリスト専門独立治安維持部隊、カルメルア隊。卒業後にウィリーやエリザと一緒に入隊する予定だったんだけど。早まったんだってさ。父さんはカテドラルが決めたって行ってたけど、どうかな。僕は逆に父さんが早く入隊させようと進言したんだと思う………憎きアーシアンを殲滅するために」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ジークが話してくれたゴルドライン夫妻が襲われたという事件はその時結構有名になっていた。

 

 勿論レネも見たことあるニュースだったが、当時まだ幼かったレネはあったということは知っていても忘れていた。

 だからこそジークが母親を失っていることなんて気付くことはなく過ごしていた。

 

「先輩は、アーシアンを恨んでんの?」

 

 宇宙に住むスペーシアンと、地球に残っているアーシアンでは致命的な格差がある。

 ジークがそんな差別的な人には見えないが。もし彼が憎悪を抱えたまま学園生活を過ごし。アーシアンを殺すために腕を磨いているのではと、レネは怖くなったのだ。

 

「恨んでないよ。恨むのはテロリストだ。そこにスペーシアンもアーシアンもない。僕はね、テロによって自分みたいな子が生まれないように戦いたい。そのために軍属に行こうと思ったんだ」

「理想的ですね」

「綺麗事って言ってもいいんだよ。でもアスティカシアに来て、戦い方を磨くだけじゃなかった。学園は本当に楽しかったし。ウィリーやエリザ、そしてコスタさんにも出会えた………だから寂しいな、もっと居たかった」

 

 自嘲気味に笑うその姿は痛々しくて、レネはどうして良いかわからなかった。

 ファンの前で可愛らしい声で応援することは出来ても。本当に傷ついている人の声のかけ方は知らなかった。

 

「ごめんねコスタさん。変な空気になっちゃった。僕は部屋に戻るよ。送ろうか」

「もう少しここに居る」

「そっか、じゃあまた明日」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだけど。シャディク知ってた?」

 

 寮長室でレネは2本目のカツサンドを豪快にムシャりながら仕事をしているシャディクに問いかけた。

 いまここにいるのは彼とレネのみだった。

 

「義父さんから小耳に挟んだ程度かな。ただグラスレーと連携してるドミニコスと系統が違うから詳しくはわからないけど」

「やっぱり先輩の親父が根回ししたんかな」

「ハーク先輩とスチュアート先輩の親も賛同したようだよ」

「まったく大人って奴は」

「随分苛立ってるなレネ。そんなに彼がお気に入りだったのかい?」

「………」

 

 そんなんじゃねえと言ってやりたかったが。言っても容易く丸め込まれるのと、嘘でもそういうことを言いたくはなかった。

 

「シャディクの方からサリウス代表に掛け合って欲しい。先輩はまだ卒業したくないって言ってる」

「無理だね。僕に彼を止めるだけのメリットと手立てを義父さんに示せない。例え僕からお願いして義父さんから口添えしたとしても望みは薄いだろう。ここまで急な人事接収だ。既にデリング総裁にも話が通ってるだろう」

 

 グラスレー社CEOの右腕であるシャディクであれ。子供の言い分を鵜呑みにするほどサリウスは息子に甘くない

 シャディク個人としてももう少し彼と学園生活を過ごしてもよかったという気持ちがあるにしろ。まだ子供の枠組みである彼にも限界がある。

 

「じゃあもう駄目なのかよ」

「残念ながらね。でも悪いことばかりではない。カルメルア隊に入隊するのはドミニコス隊に入隊するのと同じぐらい名誉だからね」

「だけど、納得いかねー!」

「フフッ、君にしては相当な入れ込み振りだな。もしかして、惚れた?」

「ングッ!?」

 

 イベリコ豚カツサンド三種の珍味を添えてが気管に入った。

 極上の味もこうなればただの不快感の塊でしかない。

 何度も咳き込みお茶で流し込んだレネの顔は咳き込み過ぎてなのかそれとも違う要因なのかは不明だが真っ赤だった。

 

「バ、バッカじゃねえのシャディク! 私が一人の男にそこまで感情向けるわけないじゃん!」

「おや、君のキープは彼氏候補の為だと小耳に挟んだのだが」

「噂だ噂! ジーク先輩はただの顔の良いパシリだし! 愚痴吐き場だし! それはまあ素の私にも優しいし、楽しいと言ってくれるし。あんななりで私に良いとこ見せるために50戦やらかすアホだけどそれはそれで可愛いとこあるし、顔はいいし………あーだからただのキープだ! 他と同じの!!」

「語るに落ちるって言葉知ってる?」

「五月蝿い! てかシャディクに恋愛動向言われる筋合いないし! 女遊び激しいなんて言われてるけど実はデリングの娘に長年片思いして拗らせた挙げ句一歩も前に踏み出せないヘタレピュア童貞野郎の癖に!!」

「やめろレネ。その言葉は俺に効く」

 

 そのあとシャディクは精神ダメージで寝込んだという。

 

 

 

 

 

 ジークに衝撃の事実を知らされ、シャディクを再起不能にした日の2日後。

 あれから考えに考えたがまったく答えが出てこないでいた。

 

 頭がグチャグチャになっている。

 

 さっきはジークの為と言いながら本当にジークの為だけなのかと頭の中で誰かが言ってくるのをレネは首を振って掻き消す。

 頼みの綱であるシャディクに頼れない以上本当に打つ手がない。

 

 ジークの卒業は止められない。

 このまま黙って送り出すしかないのか。

 イライラが溜まる一方でむしゃくしゃして走り出した。瞬間に誰かにぶつかって盛大に尻餅をついた。

 

「わぷっ!」

「あら大丈夫?」

「だ、だいじょーぶでーす。レネちゃん結構頑丈だから~♪ (くっそ誰だよ! このレネちゃんにぶつかってきた奴は!?)」

 

 明らかにレネが加害者で理不尽極まりないがそこは媚売り子猫の鉄仮面を被り続けたレネ、咄嗟の猫かぶりもお手のものである。

 

 さて、そんなふてぇ野郎は誰だと表は笑顔、裏は暗殺者の顔で顔を上げると。

 

「うおっ」

 

 深紅のロングヘアーをたなびかせる美少女、ペイル寮寮長エリザ・スチュアートだった。

 流石のレネも認める美少女、いや美女の手を取り立ち上がるその姿は正に王子と姫のようで。

 

(ふ、不覚にもドキっとしてしまったぁ。てかレネちゃんを前に全然表情変えないんだけど。ペイルって氷キャラしかいねえの?)

「レネ・コスタさん」

「は、はい」

「今時間あるかしら」

「え、あーと。ありま」

「あるのね、じゃあ行きましょう」

(は、はや! 私まだ答えきってないし!)

 

 即断即決。レネの手をガッチリ離さないまま近場のカフェテリアに雪崩れ込みコーヒーを注文する。

 店内は伽藍堂でレネとエリザの2人だけだった。

 

 エリザは特に何か話すわけでもなく正面からエリザをジーと見ていた。

 

(気まず! なんだよこれ、なんでこんな展開に? てかなんか喋れよ鉄面皮め!)

 

 念じるもそのクールな双眼は絶えず揺るがずレネをロックオンして離さない。

 

「あ、アハハ♪ 学園三巨頭の1人のエリザさんとお茶出来るなんてぇ、レネ感激ですぅ。それでどんな用で………」

「猫は被らなくていい。君の本性はもう知っている」

 

 一刀両断。血すらつかない切れ味にレネはゼロコンマ秒心臓が止まった(気がした)。

 だがこんなことで皮を脱ぐほどレネ・コスタは甘くはない。

 ここ半年ずっとキャラを貫いてきたのだ。疑惑だってかけられ慣れている。嘘も突き通せば真実なのだから。

 

「な、なんのことかなぁ。レネちゃんわからなーい♪」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………………………なんか喋れよぉ!!」

「押して駄目なら引くべきかなって」

 

 無理だった。

 まるで断頭台に埋め込まれてギロチンを見せつけられながら尋問されてる気分だった。

 

『お待たせしました。コーヒーです』

「ありがとう………」

 

 給仕ハロから取り出したコーヒーを飲んで一息付くエリザとミルクと砂糖をこれでもかと入れて飲むレネ。

 もはや隠す気など毛頭なかった。

 

「ジーク先輩が話したの?」

「やっぱりジークは貴方の本性を知ってたのね。合点が言ったわ」

「質問に答えてよ!」

「最初からよ。私、人を見る目はあるから。一目見た瞬間『あっ、こいつ腹黒いな』って。確信持ったのは3ヶ月前のジークだけど」

「先輩ぃ………」

「安心なさい。ジークは一言も喋らなかったわ。彼は誠実だもの」

 

 そんなことはレネも知っている。

 ヘタレと言えばそれまでだがジークは若いながらも紳士的だ。

 女性に慣れてる訳でもないのにがっつく訳でも消極的な訳でもなく絶妙な気遣いをしてくれる。

 気付けば荷物を持ってくれていたり扉を開くときは開けて先を促したり。座るときに椅子を引いてくれたり。

 

 そして嘘が下手なことも。

 

「それで? 私を捕まえて何話そうって訳?」

「あっ、一人称は私なのね」

「腰折るないちいち!」

「話したかったの。ジーク程の男が夢中になる貴方とね」

「話すことなんかないでしょ」

「あるわ。あなたジークのことどう思ってる? ただの使いっ走り? それとも男避け? 案外好いているとか?」

 

 グイグイと遠慮なしに問い詰めてくるエリザを前に自称百戦錬磨のレネもタジタジに。

 展開が早い。というより、凄い詰めてくる。クールビューティーな彼女がまさかこんな積極的とは。

 

「た、ただのキープだし」

「キープって手元に保管しておくって意味だけど。真実はどうなのかしらね。彼氏候補って噂は嘘なのか本当なのか」

「あぁもうなんなんだよ! もしかして先輩、ジーク先輩のこと好きだったりしちゃいますぅ?」

「好きよ」

「っ!!?」

 

 間髪入れずの肯定に目を見開いて固まるレネ。

 何処から来てるかわからない不安と寒気が襲いかかる。

 

 もし本当にそうならレネに勝ち目はあるのか。

 相手はジークと一番仲が良いと言っても過言ではない。一年の頃からウィリーを含めた三人で切磋琢磨と青春を過ごした仲なのだから。

 

「友達としてね」

「へ?」

「唯一無二の親友として、私はジークフリート・ゴルドラインの事が好きなの」

「………」

「安心した?」

「し、してねえし!! 全っ然してないし!!」

 

 嘘だ。あれほど硬直した身体が熱を取り戻したように熱くなった。

 これほど格好が悪いレネ・コスタが今まで存在しただろうが。いやいない。

 

「あなたって、意外と可愛いのね」

「レネちゃんはいつだって可愛いし!」

「フッ。ジークが惚れるのもわかる」

「先輩は私の外見だけで惚れた訳じゃ」

「知ってる。彼に聞いたから」

(私にだけ話したんじゃねえのかよ………)

 

 先程とは違う謎のムカムカを沈めようと少し覚めたコーヒー(砂糖ミルクマシマシ)をグイッと飲み込む。

 

「てかほんと何ですか先輩。ほんと何が目的なんですか」

「カッとなって誘った」

「オイ!」

「冗談よ!」

「オイぃ!!」

「あなたって面白いわね」

「ンモォォ!!」

 

 完全に手の平の上で転がされてレネは絶賛不機嫌。

 いつもなら手の平で転がす側の人間のレネが言いようにされてることに納得が行かないレネはなんとか反撃の糸口を見つけようと画策する。

 

「もう一度聞くけど。ジークのこと、好きなの?」

「あんたに言う筋合いないし」

「でもジークはあなたのこと好きよ」

「そ、そりゃあ私はレネ・コスタだし」

「そうね、ジークはレネちゃんではなくレネ・コスタを好きになったのだから」

「むず痒いこと言うな」

「事実だもの。3ヶ月前、あなたとジークに何があったのか知らないけど。ジークのあなたに対する反応が劇的に変わったわ。一日目はもう地獄という顔。決闘騒ぎに入った後は少し良くなって。連戦連勝の時は疲れ果てても彼は楽しそうだった。そして彼が学園から離れなければいけないと知って、今まで以上に思い詰めるようになってしまった。あなたと離れたくないのね」

「よく見てますね」

「大好きな友達だもの。だからかな、私やウィリーといる時より楽しそうな顔をするジークを見てあなたが羨ましく思えたの」

 

 ここでようやくエリザが本心を出してきた。

 嫉妬、というより寂しい気持ち。

 決して恋とかではなく信頼や親愛でも、彼を大切に思っているのは事実だった。

 

「あなたが本当に性悪なクソビッチなら何としてでも後顧の憂いを絶とうとしたけれど」

「怖いです先輩」

「ごめんなさいね、よく言われるわ」

 

 言われるなら直してください、とレネは言おうとしたがやめた。

 言っても直らない、彼女のそれは性根なのだ。

 

「ご馳走さま、女に奢られても嬉しくないだろうけど、奢らせてね」

「いえそんな」

 

 生徒手帳で会計を済ましたエリザはレネを待つことなくカフェテリアを後にしようとした。

 

「あの!」

「?」

「私は、どうしたらいいですか。どうしたら先輩の助けになりますか」

 

 もはや藁にもすがる思い。

 タメ口を引っ込めて目の前のジークの親友に訪ねるレネの顔は真剣そのものだった。

 

「いま、ジークはグラスレーのMSハンガーに居るわ」

「え?」

「私たちが学園を去るまで二週間。手続きとか色々忙しくなるから、卒業までの一週間はほぼ潰れるわね。だから、悔いは残さないようにしなさい。人って悔い()があるとなかなか前に進めないから」

 

 余りにもスマートな感じに去るエリザに若干見惚れたレネは我に返ると同時に「あれ上手いこと言ったつもりなのか?」と無表情の裏に隠された先輩の顔を想像してみる。

 

「………悔いが残らないように」

 

 それはジークだけのためか? 

 と思ってブンブンと激しく首を振った

 

(違う。私はレネ・コスタだ。私のしたいようにする。私の欲しいものは何でも欲しい。だから!)

 

 カフェテリアを飛び出し全力疾走。

 ふわふわの2本のビッグテールが激しく揺れる。

 向かう先は勿論、グラスレー寮のMSハンガー

 

 こんな全力で走るなんていつ以来だろう。

 こんなのレネちゃんらしくない。こんな必死になるなんてレネちゃんらしくない。

 

 だけどレネ・コスタらしくはある。

 必死になって努力して、メイクやオシャレを勉強し、周りにチヤホヤされるためなら妥協などしない。

 

「もうちょっとバルムンク自由に動かせない?」

「えーまだパターン増やすんすか!? これ以上は逆にラグりますっすよー」

「ジークせんぱぁぁぁい!!」

「え?」

「おっ?」

 

 今年一番聞いたであろう声にジーク、ついでにパリスがハインドリー・シュベールトのコクピットから這い出てきた。

 

「あれ、コスタさん?」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

 

 全力疾走から大声を張り上げて酸欠状態になるレネ。

 

「レネちゃんだ!」

「誰に会いに来たんだろ」

「いやゴルドライン先輩の名前呼んでたじゃん」

「またあいつかよっ」

「レネちゃん、あんなのより俺とデートしない?」

 

 MSハンガーの男どもはレネちゃんが来たことで作業を中断してでもそのご尊顔を拝もうとしていた。

 そんな有象無象など眼中にないレネは彼を見上げる。

 

「どうしたのコスタさん。待ってていま」

「せ、先輩!」

「ん?」

「私と、私と!」

 

 思いっきり息を吸い込み、レネは前のめりになりながら声を張り上げた。

 

「私とデートしろぉぉぉぉーー!!」

「………えぇ!!?」

 

 

 

 






 この馬鹿やろう!!

 はい、心の中のザラくんにトゥヘア!された作者です。
 また筆が進みすぎました。愚かな私を許してください( ;∀;)

 そして水星2期までに終わらないことが確定してもうほんと愚かです。

 友人にこの事を話したら「進撃の巨人なんて何回ファイナルシーズンしてんだって話なんだから大丈夫大丈夫!」と言って励ましてくれました。
 私は果報者です。
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