僕自身がスケベになればいいのでは?   作:PhaseShift

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峰田の個性、もぎ取って投げるだけじゃ勿体なくね?と思った結果生まれた。






001

 

 

 

 うん。決意した。

 憑依した直後に見せられた漫画のコマの数々。「ここは漫画の世界なんだろうけど、僕はあんなスケベキャラになりたくない。僕自身がスケベになる!」と努力した。

 "ヒロアカ"は全く読んだことないからよくわからんけど、トレーニングしただけ成長できる世界だと思ったので色んな技術を身に付けた。しっかり修行した結果、そこそこ戦えるレベルに仕上がったと感じている。

 そう、僕の中3までの人生は"勉強"と"鍛錬"漬けだったと言っていい。そして自分の力を十全に生かせる職、ヒーローを志したのは自然な事では?

 少し今までを振り返ってみるが、特に違和感はない。

 

 

 

「そういえばアイマスにこんな子居たね?」

 

 

 

 取調室のマジックミラーで、自分の顔をまじまじと見るまでは。

 

 

 

 なんだこれ、ウケる。

 え? アイマスの忍者アイドル、こんな感じだよな?

 思わず頬に触れる。頬は自分の個性のようにモチモチすべすべだ。確かにきっちり三食食べるようにしたし、お風呂入る時はしっかり洗顔してるし、きっちり22時には寝て6時に起きてたけどここまで変わるか。個性社会の肉体、凄いぞ。

 

「……話を続けていいかな」

「嫌です」

「それはなぜ?」

「さっきから同じ話を5回もしてるからです」

 

 まだマジックミラーで自分を愛でてた方が建設的だ。

 だが目の前に居る刑事さんはそんな事お構い無い様子。

 

「君こと峰田実は朝7時頃、垢離里駅近くの喫茶店に居た。間違いないな?」

 

 ま~た始まったよ。

 僕は取調室の机にべちゃりと頬をくっつけた。

 モチモチしすぎた頬とこいつを殴り殺したいと思う頭を少しでも冷やしたかったからだ。

 

「ありません」

 

 あそこのお茶もお団子も美味しかったなあ。

 また行きたいなあ。

 

「君は駅前で大きな爆発音を耳にし、個性を使って移動した。間違いは?」

「だから個性使ってないって」

「じゃあなぜ300mも離れた場所に10秒足らずで現れているんだ!」

「フツーに走ったの!」

「また性懲りもなく嘘を……」

 

 嘘じゃないもん!!

 スパイダーマンでも言ってたぞ!

 スーツが無いと何も出来ないヤツはスーツを着る価値なんてないって!

 だから鍛えてるんだよ個性無しでも戦えるように!

 

「……じゃあもしそれが本当だとしてだ。君はヴィランと交戦したな?」

「しました」

「理由は」

「最初は逃げ遅れた人を助けたりして邪魔にならないように動きました。でもよくわからんヒーローが纏めてやられた後、誰も来なかった。シンプルに死人が増えると思ったので仕方なく戦いました」

「個性も使わずに?」

「使わずに」

 

 ……。

 

「監視カメラとか残ってないんですか?」

「残っていない。君も知っているだろうが、電気系の個性だったからな」

 

 軒並み壊れて映像残ってないのかー。

 

「僕が個性使ったら絶対に痕跡残ると思うんですけど」

「現在調査中だ」

「僕の個性で出る威力じゃないと思うんですけど」

「それを判断するのは君ではない」

 

 これ詰んでません?

 解放されるまで時間かかるかなぁ。

 

「個性の使用は罪だ。雄英高校だからといって見逃されると思うなよ」

「だから使ってませんって」

 

 入学式サボりの上に大遅刻かー。

 僕の席残ってるといいなぁ。

 

「余裕だな」

「えー? いやまあ、僕の個性は使った痕跡がしばらく残るはずなんで心配してないです」

 

 なんだか刑事さんが騒いでるけど、ここはエネルギー温存だ。

 頬を机に付けたまま目を閉じた。

 

 

 


 

 

 

 体感3時間は寝てたかな。

 突然起こされて警察署の駐車場に叩き出された。

 

「悪いわね、待たせちゃって」

 

 デッッッッッッッッッッ!?

 

 そこで待っていたのは暴力的な性の塊だった。

 凄い、本物だ。目の前にあの18禁ヒーローミッドナイトが居る……。

 雄英で教師やってるって本当だったんだな。

 

「初めまして。雄英高校の教師、ミッドナイトよ」

「峰田実です……よろしくお願いします」

 

 差し出されたリュックを受け取ると、ミッドナイト先生は蠱惑的に笑う。

 

「どこ見てるのかしら?」

 

 はっ……はぁ~~~~~!? そのクソエロコスチュームで自己主張された張りのあるクソデカおっぱいなんて見てませんけど!? 見てませんけど!?

 

「ふふ。とりあえず乗って。話は車の中で」

「はっ……はい」

 

 ……。

 

「今何時ですか?」

「15時くらいね。ご飯は食べたって聞いたけど、お腹空いた?」

「いえ、滅茶苦茶食べさせてもらったので大丈夫です」

 

 うわー。

 何回シコったかわからんヒーローが隣で車運転してる。

 事前に鞄返してもらってよかった。

 

「まあ、太っ腹ね。あなたに対するお詫びかしら。ちなみに何食べたの?」

「うな重です! 5杯おかわりしてやりました」

 

 釈放? される前に滅茶苦茶食べてやったぜ。

 流石静岡。うなぎがハチャメチャに美味しいね。

 

「うな重を?」

「はい!」

「5杯も?」

「……? はい!」

「あなた見かけに寄らず男の子ね……精が付いた事でしょう」

 

 ……。

 なんか車内がエマニュエルな雰囲気なんですけど。

 ちらりと横を見たらぺろりと唇を湿らせるミッドナイト先生と目が合ったので慌てて視線を逸らした。

 なんか……なんかこれ良くない気がする!!

 

「それだけ食べさせてもらったなら、警察の皆さんは許してあげなさい」

「え?」

「彼らは疑うことが仕事だし、今回はちょっと峰田君が特別過ぎたわね」

 

 ……。

 

「貴方の個性もぎもぎの粘着球、及び()()()()()()()()()()糸とか手裏剣を含めた物質は現場に行くまでのルートと現場で観測できなかった。これ、結構早い段階で警察もわかってたらしいわ」

 

 え? じゃあなんで?

 

「普通、何らかの理由で個性が使えなくなったヒーローはね、倒れた鉄柱を使ってヴィランを殴り倒さないのよ」

「……」

 

 そうだったのか……。

 

「結局それは峰田君の火事場の馬鹿力って事で処理された」

「なんか軽いですね」

「……それで、どうやったの? 先生凄く気になるんだけど」

 

 うーん。

 シンプルにクソデカ鉄柱の表面を()()()で覆って真上からぶん殴っただけだからなあ。覇気については言わない方が良い――……アッ。

 あの、ちょ、太ももをすりすりしないでもらっていいですか?

 

「き、気合です」

「気合?」

「いっいいいい意志の力です! 滅茶苦茶強めに覚悟とか決意したりクソデカ感情を抱えると滅茶苦茶パワー出るんですよね!」

 

 なのでそのすりすりもうちょっと続けてもらっていいですか?

 ……終わり?……そう……。

 

「意志の力……なるほど。ヴィランとは結構言い争いしたって聞いたけど」

「はい。あいつなんか無敵の人?っぽくて」

「ああー……」

 

 

 

 

『おいヴィラン! なんでこんな酷い事をするんだ!!』

『全部気に入らねーんだよッ!! ぶっ壊してやる!!』

『ガタガタうるせぇえええええええええええええ!!』

『ゲぴっ』

 

 

 

 

「理不尽!」

「いや、制服お釈迦にされたんで……」

 

 電気ビリビリ、殴る蹴る、吹っ飛ばしまで喰らったおかげで僕の服装は指定ジャージの上下である。倍率300倍を乗り越えて入った学校の制服だ。袖を通した時には少しうるっと来てしまったくらい。

 そんな夢の一歩の証がボロボロになったので結構メンタルに来ている。

 

「ミッドナイト……先生」

「なぁに?」

「僕は処分を受けますか?」

 

 車はすでに止まっている。

 

「どうしてそう思うの?」

「わからないんです。とりあえず個性を使わないで自分にできることをしました。最初に駆け付けたヒーローがやられてから、誰も来なかったからです。でもそれが、正しかったのか、ミスをしていたのか、取り調べ中は誰も教えてくれなかった」

 

 不安は一息で吐くに限る。

 すると先生はマスクを外し、僕の頬に手を当てた。

 

「峰田君、いい?」

「ひゃい」

「どうして貴方の体は動いたのかしら」

 

 え?

 

「喫茶店でリラックスしてる途中、駅で爆発音がした。喫茶店の監視カメラに映ったあなたはすぐ駆け出して……横転したバスの乗客の避難を手伝った。後ろで戦っているヒーローを信じて」

「……」

「でも彼らはヴィランに一歩及ばず、更に被害が拡大する。乗用車を簡単に投げたり、ヒーローをクレーターに埋めたりするようなヴィランが暴れまわる」

 

 そうだ。

 あいつが勝利のドラミングをした後、まだ人が乗ってる車に手を掛けた。

 

「貴方は次に、どうしたの?」

「走りました」

「走って、その次は?」

「……無我夢中で、飛び蹴りしました」

 

 僕とあいつの戦いが始まった。

 

「そうね。何かを考える前に体が動いた」

 

 ……。

 

「それはきっと、ヒーローになるための第一歩」

「!」

「大丈夫。貴方はきっと、いいヒーローになるわ」

 

 正直な話。

 ヒーローになりたい理由は自分の力を一番活かせるし、あわよくばヒーローファンの性癖を捻じ曲げてスケベヒーローの頂点に立てるかもと思ったからだ。

 

「雄英は貴方のようなヒーローの卵を歓迎する!」

 

 雄英高校の駐車場からは、聳え立つ校舎がよく見える。

 両手を広げるミッドナイト先生もまた。

 

 ああ、今ばっかりはなんだか、僕もヒーローになってもいいんだなと安心できた気がする。

 やはり先人は偉大だ。僕も先生の様に……。

 

 

 

 

「ね。ハンドルネーム、スケベ忍者くん?」

 

 

 

 

 ヒエッ。

 

 

 






2023/02/27 8話の記述と矛盾する部分を修正


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