僕自身がスケベになればいいのでは? 作:PhaseShift
「ぷひー」
スマホを仕舞い、体から空気を抜いた。休む時は休む。これ鉄則だからね、うん。表面焦がされただけでよかったよ。少し食べて安静にしてれば回復なんてすぐだ。そういうことにしとこう。
「おっ。お疲れ峰田。芦戸もな。ほらこれ差し入れ。買ってきたぜ」
「いいの? サンキュ」
客席に戻ってきた上鳴君からミネラルウォーターを受け取った。めっちゃのど乾いてたので助かる。
「……マジでピンピンしてるのな」
「まあこれくらいはね。骨折れてるわけでもないし」
「峰田のグーパンちょー痛いんですけど?」
「痛いようにしたからな!」*1
「峰田無いわー」
このこのと蹴られたけどそんなの効かん効かん。
「ていうか峰田のあのドロッとした感じ久しぶりだったわ」
「その節はすいませんでした。靴舐めます」
「罰になってなくない?」
「ヴ」
耳郎さんの心無い言葉が僕の胸に突き刺さる。
「……ま、あれが峰田の強みだしいいんじゃない?」
当事者の芦戸さんがそう言ってくれると助かるんだよな。戦ってるとたまにテンションぶちあがる事が多いのは今後の課題……いや治るのか? ヒーロー活動中にあんなんやったらすっぱ抜かれないか? むしろミッドナイト先生路線で行くか? 正直もう手遅れな気もするけど考えるだけ考えてみよう。我慢したら爆発しちゃいそうなんだよね。
「さて、次に峰田の餌食になるのは誰かなー?」
「三奈ちゃん言い方!」
「峰田はどっちがい「ヤオモモ」めっちゃ即答じゃん」
えっ!?!?!?
「何"口が勝手に"みたいな顔してんだよ」*2
「脳直だったんだね……」*3
「私たちはもう慣れたけど……あんまりいい事じゃないのよ、峰田ちゃん」*4
「ッス……」
さて、次の対戦相手の品定めでもしようかな。
派手にフィールドぶっ壊したから時間も稼げたし。
「峰田」
「どした瀬呂くん」
「マジな話どっちが勝つと思う?」
んー。
「ヤオモモ」
「え、マジ?」
「峰田、マジな話っておっぱいの事じゃないんだぞ?」
上鳴君のありがたい指摘、痛み入る。
でも君とは一旦腰を据えてお話しないといけないらしい。
……それはまあ置いといて。
「うん。本当にヤオモモが勝つと思ってる」
周りを見るとみんなが「え、なんで?」みたいな顔してたのでびっくりした。バクゴーすら「は?」って顔してるからよっぽどなんだろう。なんでや。
「いやだって……ダークシャドウどうすんだよ」
「うん……そこに尽きるよね」
上鳴君とみどりゃーの言葉で気付いた。そういえばダークシャドウどうすんのか問題があったっけ。とりあえず持論から延べようかな。
これは師匠と僕が修行の末に辿り着いた一つの仮説なんだけど、と前置いてから……割と物議を醸すかもしれない発言をした。
「
「存在……」
「しない?」
うん。
「どんな個性にも限界か、弱点か、欠点がある。なんていうんだろう……心掛けというか、"一見すると強すぎんだろそれって個性にも必ず隙はある、勝ち筋を探せ"っていう考え方なんだけど」
……。
「常闇君のダークシャドウ、物理無効だし伸縮自在だしそこそこ速いんだけど……絶対からくりというか、条件があると思うんだよね」
「例えば?」
「みどりゃー?」
「えっ。ちょ、ちょっと待って!」
僕に話を振られたみどりゃーは持ってたノートをパラパラめくり、目を血走らせながら読み込んでブツブツ呟くモードに入った。オタクやん。なんというかいつもの事なのでみんな慣れつつある。ちょっと怖いけど。
「パワーにムラがあって、姿かたちが……強そうな時と弱そうなときがある?」
「そう! あいつちょっと弱い時とクソ強いときがあるんだよ。なんでだろうね?」
「……」
格闘自習についぞ常闇君は来なかったけど……普段の授業、障害物競走に騎馬戦でしょ?……本戦出場者が決まってからもう時間が経ってるから、ヤオモモもそこそこ当たりはつけてるんじゃないかなぁ。
「"何故?"を解明して対策を立てることにおいて、ヤオモモは特に秀でてると思うよ。この場合の"何故?"はダークシャドウの強さの秘密、あるいは弱点だね」
「なるほど。ダークシャドウの秘密について豊富な考察を用意できるという事か!」
「そういうこと。まさかヤオモモが無策でダークシャドウに挑むわけ無いし、いっぱい回答を用意してるんだろう」
多分だけど。
「スピード勝負になると思う」
「スピード勝負ゥ?」
「ヤオモモが用意した回答で正解を引き当てるのが先か、ダークシャドウがヤオモモをぶっ飛ばすのが先か」
……お。
「
Aぐみの とこやみくんは
ダークシャドウを くりだした!
「おれの ダークシャドウは
きさまのそうぞうを りょうがする!」
ダークシャドウの バレットパンチ!
「ええ、だからこそ……
てきかくに じゃくてんをおさえます!」
やおよろずさんの そうぞう!
うみだされたのは……
せんこうしゅりゅうだん!
しゅうこうくっせつ ハイチーズ!
ダークシャドウは おびえている!
とこやみくんは
めつぶしじょうたいになった……
やおよろずさんの そうぞう!
うみだされたのは……
ヤオモモキャノン!
あんしんとしんらいの ばくはつりょく!
とこやみくんは たおれた……
「うおおおおおおおおおッ!!」
「ヤオモモつええ!」
「あのピカって光る奴なんやろ?」
「閃光手榴弾じゃないの?」
「ああ! 光に弱かったのか!」
「なるほどな……変にムラがあるのも納得だわ」
次の対戦相手はヤオモモか。
「うーむ」
常闇君との戦いは思わず声が漏れるほどにスマートだった。まさかの初手でメタを引き当ててくるとは運が良かったのか、確信があったのか、それとも正確な予測が的中したか……。
隣でガリガリとノートに書き込みまくるみどりゃーから漏れ出る"陰"のオーラを軽く手で払いながら、軽くヤオモモとの戦いを想像する。取れる手はいくつかあるけど、いかんせんヤオモモの取れる手段が豊富に過ぎる。地球上の非生物の数が本人のサイズをある程度無視して出力されるのがもう滅茶苦茶だ。
しかもお嬢だからかはわからないけど、火器の扱いに慣れてると言っていいだろう。常闇君をノックアウトした、あのヤオモモキャノンは彼女の慈悲だ*5。僕なら7.62mmのゴム弾を曳光弾交えつつミニガンでバラまくか、スタンモードにしたパルスキャノンで丸焼きにする*6。
……えっ。今気づいたけどさ、僕あれと戦うの? 考える時間与えた分だけ対策の数を立ててくるような相手と? 向こう側にある程度手札を知られてる状態で?……おかしいな。ヤオモモを省エネでぶっ飛ばせるヴィジョンが見えない。
A組が歓声に沸く中、僕は一人冷や汗を流していた。ヤオモモの個性の恐ろしい所はヤオモモのボキャブラリーに含まれるアイテムなら無条件かつ実用に足る速度で出てくるという事だ。しかもそこに格闘自習で鍛えた、反射神経を含むフィジカルが加わってくるという事で……もしかしたら僕は、格闘自習で化け物を生み出してしまったのかもしれない。
でもまあやる事は常闇君VSヤオモモの時と一緒だ。ヤオモモが僕に対する効果的な対策を引き当てるのが先か、僕がヤオモモをぶっ飛ばすのが先か。考える時間も与えずに叩き潰す。これしかないな。ちょっとリソース割こう。
「……」
イイ、な。強い女性は好きだ。師匠みたいな……んふへ。あ、やべ。我慢我慢……頭を振って考えを元に戻す。こうして何度も間隔を空けて戦うのは初めてだからか、集中が途切れがちだ。疲れてるは言い訳にならないぞ実。ヴィランの前でも同じことを言うつもりか。
……?
「みどりゃー? もう控室行くの?」
「ちょっと用事が!」
ふむ。まあいいか。
さて次は……切島君とB組の子?
「上鳴くーん、次の切島君の対戦相手の個性わかる?」
「お? ああ、鉄みてーに堅くなる個性だってさ。個性被りがどうだとか言ってたし」
さんきゅと返し、ほとんど傷の無いフィールドを見下ろす。
なるほど。ほぼミラーマッチか。
……ちょっと気を抜いて休もう。
思ったよりこのトーナメント、ハードになりそうだ。
切島君と鉄哲君の戦いはそれはもうシンプルな殴り合いで終わった。終盤は鉄哲君が切島君の胸板をボコボコにぶん殴り、切島君が咆哮しながら全部受け切って、スタミナが尽きた鉄哲君にとどめのアームハンマーで叩き潰すという幕引き。ターン制の美学を感じる熱い戦闘に会場も盛り上がった。
ぶっちゃけ話をすると……格闘自習に出てきた時の彼にはみどりゃーと一緒に皆のサンドバッグになってもらっているのだ。もうその辺の男子高校生が繰り出すような温い打撃はもう硬化した彼の体に通用しないだろう。ていうか通用するならそれはメンタルで負けてる証拠なので、根性から鍛え直しである。
今回は全ての攻撃がクソ重たくて硬いアイアンパンチだったのでノーカウント。鋼材であんだけぶん殴られて「痛ェ!」で済むなら上々である。物理攻撃は十分っぽいので、次は上鳴くんの電撃に耐えようね。
ちなみに僕と葉隠ちゃんは急に"上院議員と雷電のあのシーン"を見せつけられて爆笑していた。
「……お。どこ行ってたの?」
「ちょっとね」
隣に戻ってきたみどりゃーは多くを語らない。
麗日さんのとこかな。
「次、ある意味最も不穏な組ね」
「……ウチもそう思う」
ワイトもそう思う。
「堅気の顔じゃねえぞこいつ! 爆豪勝己!」
「バーサス……こっち応援したいぜ! 麗日お茶子!」
ワイトも個人的には麗日さんを応援したい。応援したい……けども。勝負事だ。弱い奴から蹴落とされる。麗日さんは根性もイイ線行ってるとは思う。でもバクゴーに勝てるかと言われると厳しいな。
「ちなみに緑谷君、先ほど麗日さんに伝えようとしていた爆豪君対策とは一体……」
「短期決戦の速攻だよ。……かっちゃんは強い。戦えば闘うほどに温まって強力になる個性だ。きっと峰田君が警戒してるのも……」
「ん。否定はしない」
「……速攻で、浮かせる。突然の無重力にはいくらかっちゃんでもすぐに対応できるわけない」
まあ唯一の勝ち筋だよな。
問題はそれを理解しているバクゴーが近寄らせるわけ無いって事。
「スタートォッ!」
「麗日さんの個性はこのトーナメントのルールじゃ一撃必殺だけどさ」
「うん! 事故でも触れられたら浮かされる……だからかっちゃんは回避じゃなくて迎撃を選ぶ」
麗日さん、真正面から突撃
……で、一発モロに爆破を食らう。
……。
「後ろを取った!」
「へぇ、変わり身か。爆風使ったのかな」
僕よりよっぽど忍者してそう。
……でも流石バクゴー。タッチの寸前で気付いて的確に爆破。
こりゃ勝負あったかな。バクゴーの火力の推移でも見るか。
それからはまあまあワンサイドゲームだった。途中、麗日さんの作戦に気付かないタイプの勘違いプロがブーイング起こした挙句相澤先生に強めの怒られを喰らって社会的に死んだり、麗日さんが死角に蓄積させていた破片を自由落下させてワンチャン取りに行ったけどまあ……。
相手が悪かったね、よりも功夫が足りないねって感じだった。あの爆破のダメージよりも、モロに食らった瞬間吹っ飛ばされるのが辛いってのが理解できてなかったんだろう。バクゴーが嫌なのは接近される事。だから相手はノックバックさせてくる。ではどうすればいいか? 答えはまだエンジンがかかり切らない序盤、爆破に対して芯をずらしつつ、爆破の勢いに負けないくらいのスピードで突っ込んで、爆破のために伸ばした手を思いっきりタッチする……くらいしか思いつかない。
……流石に脳筋過ぎるかな。
麗日さんは切島君に対するガンメタだし、僕は麗日さんの事を秒殺出来るから出来れば上がってきてほしかったんだけど、そんな都合のいい事は起きないか。
「あ、バクゴーお疲れ様」
「るせーんだよクソ団子」
相変わらず不機嫌そうな顔で客席に戻ってきたバクゴーはなんと僕の隣に座ってくれた! やだ……もしかして隣に座ってくれるの初めてじゃない? バクゴーの肩を二度叩いてGGと伝えると、かなり殺意の籠った視線をお返ししてくれた。視線だけで基本シカトである。
みーくんシカトは悲しいからやめてほしいんだけど。
「バクゴーもよくか弱い女の子に対して思い切った爆破出来るな!」
「……どこがか弱ェんだよボケ」
おお。
バクゴーったら素直じゃないんだからもう。
「ねね、バクゴー。麗日さん強かった?」
「……」
シカトはやめてクレメ――
ん?
……みどりゃー?
感想、評価、ここすきありがとうございます。
全部モチベに繋がってます。いやもうほんとに。
皆さんが想像してる100倍は励みになってます。
https://misskey.io/@Saber_aria
作者のmisskyioアカウントです。主に日記ですが、フォロワー増えたら更新や進捗報告でもしようかなと思います。作品のネタバレはしませんけど質問自体は歓迎です。missley.ioユーザの方は気が向いたらよろしくお願いします。
次回、みどりゃーVS轟君。