僕自身がスケベになればいいのでは? 作:PhaseShift
感想、ここすき、よろしくお願いします。
感想とここすきの数だけ書く気力が湧いてくるので。
両肩が重たい。
息を吸うにも一苦労だ。
でも私は、いや、多分この会場に居る人たちは目の前の戦いをいつまでも見ていたい。肩が重くても、息がし辛くても、涙がぽろぽろと零れかけても、心の底から声援を送る。私の推しと緑谷君の叫びが、闘志が、迫撃の熱が、きっと私達の心に伝播しているんだ。
ああ。この会場の
きっと舞台の二人が絞り出している。
緑谷出久。男性。センスは最初の頃よりマシになったか。その一方で持ち前の分析力を元にした機転は多分クラスで一番……癪だけど多分僕以上。そしてそのクソが付くほどの真面目さと真剣さ、そして
「出し惜しみはしない」
幸い、目はバクゴーほどじゃない……いや。ストレート、左フック、回し蹴り、月歩で歩きながら三段蹴り、踵落としと仕掛けて全部避けたり防御された。声は出てないけどずっと口が動いてるから多分読まれた?
「……ッ!?」
予備動作無しで思いっきり地面を踏みしめてフィールドを粉々に破壊し、宙に浮いた破片を連続で蹴りだした。やったこと無いから流石に避けられないだろ。
「TEXAS SMASH!」*1
放たれる剛拳。
初見の技に対応してくるとか嘘だろお前!?
暴力的な拳圧が瓦礫ごとぶっ飛んできたので横に捻りながら連続回避。
まぐれ? 博打? それとも……。
コストに粘着球を……――
「CAROLINA SMASH!」*2
「鉄塊!」
「ッずぁ……!!」
砕いたフィールドの残骸をそのまま突き破って現れたみどりゃーに対して鉄塊でジャスガをかましてから、両腕を上に弾かれたみどりゃーの胸に手を当てて、
「……おらぁッ!!」
武装色の覇気を込めた掌底をぶちかました。
瓦礫を破壊しながらぶっ飛んでいくみどりゃー。
砂埃で見えないけど白線は……超えて無さそうだな。
でもわかった。あのナンセンスボーイのみどりゃーがあの一瞬で適切な対策を
簡単な話だ。
見てから考えた上で対処された。
ただその秒数が圧倒的に短かっただけで。
みどりゃーお前……。
「五感強化してんなァッ!!」
返事は砂埃の中から全力投擲された礫だった。
首を捻って避けると同時にみどりゃーが剃にも劣らぬ速度で右ストレートを叩きこもうと、
した瞬間だ。
僕の肺から全部の空気が無くなった。
「かへぁッ……!?」
え、な、ちょ、え?
何何何何何怖い怖い怖い怖い。
胸に凄まじい衝撃。やばい、肺の空気が抜ける。
何だ? 何を食らった? 考えろ実、お前は素で感覚が鋭いだろ。
礫? 違う、さっき避けた。
拳の圧? 違う、右拳に必殺技ほどのエネルギーは無い。
飛び道具か? 多分そう。でもどうやって……!?
なんとか右ストレートはブロック。
一瞬視界が塞がった瞬間に僕の腹へ、みどりゃーの左膝が突き刺さる。痛すぎ。膝蹴りのために僕を押さえつけている両腕を握りつぶそうとするとするりと抜かれた。謎過ぎる。ムカついたので左小パンで咎めてから前蹴りで緑谷を蹴飛ばし、回し蹴りで頬を思いっきりぶち抜いた。
馬鹿野郎何回師匠との練習でゲロ吐いたと思ってんだ舐めてんじゃねえぞ。
がら空きのボディに左ブローをぶち込み、みどりゃーのつま先を思いっきり踏んづけ、ようとしたけどこれは避けられた。カンが良いなマジで。いや見られてるのか。
でも致命傷を避けようとし過ぎて一点しか見えてない。
ガードの隙間を塗って、右のアッパーを思いっきり叩き込む。
やっぱ信じられるのは前ステ昇竜拳ってワケ。
ブッパも当たれば読みってね。
……いやブッパって訳じゃないんだけど。
「よっしゃ」
思いっきり力籠めたから僕も追撃が出来ない。
みどりゃーはなんとか受け身を取ったけど片膝が笑ってる。
今のうちに息を整え、残心。
「……」
見聞色の利きが悪い。僕の見聞色は今を捉える事に特化している……が。現にみどりゃーが何をしたのか把握できなかった。
ダメだ。
さっきのやり取りで自覚してしまった。
もう自分を騙すことじゃ隠せない。
僕はもう――
――間違いない、ガス欠手前!
「ふー……ッ! ふー……ッ!」
今動けば僕を倒せるのに、あの残心の長さはそうとしか考えられない! 一回のやり取りで呼吸を整えないと僕と戦えないレベルまで来ているんだ! 今のアッパーも峰田君が万全だったら今のでノックアウトされていた。僕が視界を揺らされている程度で済んでるのがもうおかしい!
立とうとした。
膝が震える。
「……ッ!!」
無理やり立ち上がった。もし僕の後ろに誰かがいたなら、膝が震えてるだけでも不安にさせてしまうから。歯を食いしばり、震える足に平手を入れた。そして四股を踏むように片足を上げ……思いっきり下ろす。
僕と峰田君が崩した舞台が地響きと共に震えた。破片がパラパラと落ちていく音が聞こえ……――動くッ!! 今の峰田君に呼吸の隙は与えない! 峰田君に足技はダメだ。鉄塊でジャストガードされたらもう動けなくなる!
「なら真正面から拳で……ッ!!」
僕は地面を蹴り、姿勢を低くして突っ込んだ。
峰田君は何故か困惑しているみたいだけど、このまま突っ込む!
「鉄塊!」
だよね!
「ブレーキ!」
「!? もきゃん!?」
拳を寸止めにし、間髪入れずに振りぬいた。峰田君の鉄塊はジャストガード……技の発動からコンマ数秒が一番硬い! 彼自身があまり攻撃を受け止めるタイプじゃないからだ! そこを突く! そのままジャブを数回、そして右ストレートを入れる時にアレで再び胸を攻撃して体勢を整えさせないように……整えさせないように!
組みついて膝! 肘! アームハンマー!
ワンバウンドした峰田君にそのまま……――
「忍法」
組んだ両手で感じる、
畜生畜生畜生畜生畜生畜生ッ!!
まだ1捥ぎあったんだッ!!
「空蝉の術」
最低限のコストで最大の効率を与えてしまった……!!
「あっ」
僕の体が宙に浮く。
視界がスタジアムから見える青空を写した。
峰田君の足払い。ダメだ、両手が塞がってる。
……避けられない!
「腹と背中に力入れな」
ぞっとするほどに可愛い笑顔で、僕のお腹に手を当てる。その瞬間に感じる異物感。そして衝撃で僕は地面に叩きつけられた。ストロボを焚かれた時のように視界がチカチカと明滅する。
「……ふーっ……ふーっ」
ダメだ。
立ち上がらないと。
死んでしまう。
僕も、僕が救おうとした人も。
「……」
ゆっくりと体を起こす。
どうして攻撃してこないんだろう。
でも都合がいい。このまま体勢と息を整えて……。
「みどりゃー」
「……!」
脇に手が差し込まれて、無理やり立たされた。
え、誰?……峰田君が? どうして、試合中なのに。
「あーあーこんなボロボロになっちまって」
「????????????」
君がそうしたんだろう?
え、僕負けた? 負けちゃったの?
もしかしてさっきの一瞬で決着がついたのか?
「やっぱ粘着力も最悪だね。すぐ取れちゃうじゃん」
ぺりぺりと、両手を拘束していた粘着球が剥がされる。
その感触でやっとこれが現実なんだと理解した。
「……えっ、試合終わった?」
声が戻ってくる。スタジアムの声だ。でも歓声じゃない。どよどよと困惑しているようだ。僕のジャージの砂埃を払う峰田君に、僕は困惑しか返せない。
「まだ試合中だよ」
「え、え?」
峰田君は僕の胸倉を掴んで、おでことおでこを突き合わせた。ごちんと痛みが走るけどそれよりも峰田君睫毛が長くて本当に女の子みたいだまるでガンを付け合うような姿勢であっばばばば。
「みどりゃー」
「ヒョエ……」
「僕に全部、叩きつけてくれるんでしょ」
「エッぇぁっ勿論だよ! 手加減なんてしてない!」
「僕と君は今、ヴィランとヒーローじゃない」
「え?……う、うん……そうだね」
「僕は峰田実で、君は緑谷出久だ」
「……?」
「上手く説明できないけど、さっきまでのはなんか」
「?」
「なんか
掴んだ胸倉が乱暴に放され、たたらを踏む。
あの峰田君が試合中にどうして。
いや違う。
どうしてあの峰田君が。
あの戦うの大好きな峰田君が。
試合を一旦切ってまで言いたい事って。なんだろう。
「!」
目が合って、気付いた。ヒーローが負けたら死ぬぞと囁く、二人で過ごす居残り練習の時みたいな鋭い視線じゃない。学食で何を食べるか話している時の目だ。常闇君と瀬呂君と小テストの結果を見せ合ってる時の目だ。余計な事を言って相澤先生に叱られてる時の目だ。誰かの頭をピコハンで叩いてる時の目だ。僕の背中を叩いて「みどりゃーみどりゃー」と声を掛けてくる時の目だ。
「僕を……」
僕なんかを友達と言ってくれた時の目だ。
泣くな泣くな泣くな。全部見せるんだろ。
全力で! この舞台を! 楽しみながら!
「もう一回やろう!」
「……うん。勿論!」
示し合わせたかのように二人で笑い合う。
なんとなく、峰田君の言いたいことが伝わった。
僕も言語化できたわけじゃない。
真剣勝負なことに変わりはない。
負けたら死ぬって思う、心意気も変わってない。
でも今、この勝負だけは!
「SMASH!!」
「よっしゃァッ!」
「君を倒すためには!」
荒れ狂うみどりゃーの攻撃を避け、落とし、たまにやり返しながら。
「飯田君みたいに速く!」
お互いに打撃を与えあう。
「麗日さんみたいに柔らかく!」
前はパンチ一発で伸びてたのに。
「かっちゃんみたいに、力強く!」
今じゃ僕にボッコボコパンチしてくるもんな。
お互いに涙目だ。痛いからなのか嬉しいからか。
もうね、ちょっとよくわかんないな。
「君みたいな――」
突きが絡め取られた。
ヤバい、本腰入れないとヤバい!!
「――大胆さで!!」
地面に叩きつけられた衝撃で目を覚ます。
やりやがったなこの野郎。喰らえみどりゃー。
穴から抜け出して思いきり跳躍し、体を思いっきり捻る。
「飛んだ!?」
「しゃあっ!」
今なら出来る気がする。
余計な力が抜けた今なら。
「嵐脚!」
「ッ!? TEXAS...SMASH!!!」
よっしゃ出たァッ!!
真空で出来た特大の刃がみどりゃーに降りかかる……けど打ち消されたか。みどりゃーが立っている部分だけ地面に刀傷が無い。このまま月歩で加速して……!
「来い!」
「うそぴょん」
「えっ!?」
みどりゃーに当たる直前、みどりゃーの左半身に回り込む形で落下軌道をずらした。その瞬間にわかった、あの謎の衝撃の正体!
「見ぃつけた♡」
ジャージの袖にすっぽり入った、みどりゃーの左手だ。なるほど、中でデコピンすればある程度指向性を持たせて僕の胸をぶん殴れるな。要するに空気砲。まだまだ粗削りだけど……。
「!?」
思いっきり左袖を引きちぎり、そのままの勢いでみどりゃーの顔面を思いっきり殴り飛ばした。
「ぐぁっ!?」
「剃」
「ゲホァッ!?」
剃の速度でぶちかますショルダーチャージ。
赤い彗星も真っ青の衝撃だろうね。
「今! Oklahoma SMASH!!!」*3
「きゃあっ!?」
急にみどりゃーがきりもみ回転を始めたのでふっ飛ばされた。
慌てて姿勢を整えると。
目の前にみどりゃーが。
「DETROIT SMASH!!!」
みどりゃーが距離を取ったら、次は速攻。
もう読めた。これでとどめの一撃だ。
「紙絵」
パンチをスカし、たたらを踏んだみどりゃーの脇腹を思いきり蹴り上げ、そのまま腹部に一撃を仕掛ける。
「指銃」
「あっ」
「――獣厳!!」
指銃の速度で打ち貫く超ヘビーなパンチをモロに浴びせ、みどりゃーを床に叩きつけた。
……。
「……」
みどりゃーは動かない。全然動かない。目を閉じて集中してみるけど、もうみどりゃーの炎もちらちらと燻ぶるだけのようだ。
長かった。疲れたな。
ミッドナイト先生を見つめた。
試合終了かは審判が判断する事だ。
僕は……僕が終わらせるわけじゃない。
ああ、うん。もうちょっとだけやりたかった。
「……」
「ミッドナイト先生?」
「まだ終わってないわよ」
え?
「前を向いてあげなさい、峰田君」
……。
「僕は」
嗚呼。
「まだまだやれるぞ!」
あれは火だ。
見覚えのある火。
轟々と燃え盛る炎。
「……は、はは」
そしてこの
これ、
心操君、君は……君は、僕の世代のトップヒーローは多分お前だよって言ってたね。それは違う。とんでもない勘違いだよ。僕なんかじゃない、みどりゃーだ。君も間近で感じただろ。だからあの時、胸倉掴まれても動けなかったんだろ。
次代の英雄、聖火を受け継ぐランナー、平和の象徴。
「主人公……」
少しだけ震えた。
僕が読んでいなかった漫画。
その主人公がみどりゃーか。
「次で終わらせよう、みどりゃー」
「うん、僕もありったけ籠めるよ」
よかったと……心からそう思う。
「剃!」
「DETROIT...」
全くもう、原作はどんなんだったんだろうね。多分バクゴーがブチキレるタイプのライバルで。ということは優勝はバクゴーか轟君かな? あーいや、きっとみどりゃーが勝ってたと思う。だってそっちの方が良い。漫画っぽい。
「SMASH!!!」
みどりゃーなら多分大丈夫だろう。
きっとこの世界は、ハッピーエンドだ。
「えっ」
大して力が込められてない右の拳を、左手で受け止めた。左手も左肘も左肩も全部クソ痛いけど、全然平気。こんなんマジでほんと大丈夫だから……大した事無い拳だから……なーんてことを思いながら、驚愕に顔を歪めるみどりゃーにそっと声をかける。
「そう、威力を中途半端なところで発散させりゃいい」
「峰田君、腕が……」
「自損覚悟は君の専売特許じゃない」
その思い込みが敗因だぞ、みどりゃー。
「……!?」
中途半端に突き出されたみどりゃーの右手をボロボロの左手で力いっぱい保持し、それ以上の打撃を抑えておく。そして顔を青くしたみどりゃーの頬をぷにっとして、たこちゅー型に変えてあげた。ふふ、可愛いっていうか愛嬌ある顔してるよね、みどりゃー。
「安心して。握り潰すほどの握力はもう無いよ」
「!」
血反吐吐くくらい仕込まれた六式も。
大きな傷が絶えなかった武装色の修行も。
現在を捉えることに特化した見聞色の感覚も。
全部全部、この一撃を完成させるための布石だった。
「みどりゃー、その代わりにイイこと教えてあげる」
「
「ッ!?」
顔面を掴む手の形を、変える。
「僕の指は竜の爪!!!」
もう暴れても無駄だ。
「底知れぬ友を導くための、〝爪〟!!!」
全部丸ごとモギっとモギたて!
「竜爪拳」
ありッッッたけの武装色硬化ァッ!!!
「……竜の、鉤爪!!!」
視界が瞬く。
みどりゃーは……もう動かない。
「緑谷君、戦闘不能!」
……ふへ。
「峰田君の勝利!」
やったぜ。
「峰田君?」
……きゅぅ。
「峰田君!?」
長かった体育祭も次で一旦終わる予定。