気がついたら、こんな時間がたっちゃったっ……!!
今回特に好き勝手に過去捏造をしているので、地雷の方は注意してください。
「ねっ!!短冊、書いた!?」
「あの校門のヤツ!?書いた書いた!!彼氏と書いたんだけどさ!!偶々願い事が——」
朝のHR前、姦しい声が教室に響く。声の主達は彼氏がどーのこーの願い事がやいのやいのと恋愛トークに花を咲かせている。そしてそんな少女達の傍、教室の隅で寝たフリをしながらその会話を盗み聞きしているまた別の少女。
(ケッ、リア充共が……。)
彼女は心の中で悪態をつく。彼女の周りには七夕のイベントムードを消滅させる陰鬱な謎フィールドが展開されていた。
(毎年毎年、七夕とか短冊とかはしゃいじゃってさ。つまんねーの。そもそも七夕なんて織姫と彦星とかいうバカップルが——)
以下数行に渡って七夕への罵倒が続く。
しかしその実、彼女は登校時に校門前の人だかりを見て普通に羨ましがっていた。典型的な逆張り陰キャのそれである。
(はぁ、でも、私が一番つまんねーな。)
罵倒を連ねた後に、自己嫌悪に陥る。自分がただ嫉妬しているだけという自覚があるのだ。本当は友達と遊びたいし、あわよくば恋人だって欲しいし、そしてそんな人たちと願い事を書いて盛り上がりたい。でも彼女にはそれはできない。
(願い事、か。)
彼女は自嘲気味に笑う。
七夕の願い事は、未来に想いを馳せて行う願掛けのようなものだ。自己肯定感の低い彼女にとって、未来とは上がりも下がりもない暗澹とした一本道。そんな人間の願い事なんて高が知れている。
(私の人生も、願い事と同じでずっとつまらないままなんだろうな。)
彼女は自身の未来を想像する。普通に学校へ行って、それとなく進学して、とりあえず就職。きっと、そんな人生を送っていくのだろう。
(普通すぎる。つまらなすぎる……。)
どんより。まさに絶望だった。
彼女は深いため息を吐き、顔を上げる。どうやら気付かぬ内にHRが始まっていたようで、担任が教壇に立ち挨拶をしているのが見えた。
「よし、今日の日直は……廣井だな。廣井、号令を頼む。」
(日直、よりにもよって今日……。)
担任は笑みを浮かべながら彼女——廣井きくりの方を見てそう言った。
きくりは二度目の溜息を吐いて、席から立ち上がる。
「起立。」
今日は七月七日。きくりにとっては、なんの変わり映えのない、いつものつまらない一日だ。
「礼。」
七月七日
背に掛けた鞄の肩紐をそれぞれ両手で掴み、俯きながらとぼとぼと帰り道を歩く少女、廣井きくり。当然前方は見えていないのだが、慣れた道のりなので足取りが迷うことはない。
横断歩道を渡り、道行く自転車を避けながら歩道を歩き、そうして駅前へと差し掛かったあたりできくりは足を止めた。
(なんか、聞こえる……?)
聞き慣れた街の喧騒の中に、異質な音が混ざっているような気がした。耳を澄ましてみると、確かに何か聞こえる。きくりは正体を確かめようと歩みを進める。
そうして歩くこと数分、音の発生源は案外早く見つかった。駅前の広い歩道の隅で、何かを囲むように人集りができていた。その中心には4人の男女が楽器を持って立っている。そう、路上ライブだ。
(ああいうの、初めて見たな。)
存在は知っていても、自分には無縁だと見向きもしなかったもの。きくりにとっては音楽がまさにそれだった。
観客が一人くらい増えてもいいだろうと、興味本位で人集りに近づいていく。そして、じっと演奏を見つめる。楽器はドラムが一台とギターが三本、他の物より弦が少ないギターが一本あるが、きくりには違いは分からなかった。メンバーはそれらを慣れた手つきでかき鳴らし歌っている。演奏されているのは聴いたこともない曲だったが、彼女を惹きつけるには十分だった。
彼らの中には確かに笑顔がある。有り体に言えば、『楽しそう』だった。
(すごいなぁ……。)
きくりは純粋に感動していた。こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか。無意識に口角が上がり、リズムに合わせて身体が揺れる。
(私にも、これができたなら。)
仲間がいて、笑顔があって。
きっと、それはきっと、退屈なんてない楽しい日々になるのだろう。
(…………)
きくりはギュッと手を握り込む。
彼女の表情は、今朝のような陰鬱なものではない。決意に満ちた、一人の少女の物だった。
(私も……)
今日は、七月七日。
(私も
『つまらない』彼女が、
文字数。
ちなみに投稿者は、某軽音部のアニメでベースの存在を知るまでは本当にギターとドラムだけだと思ってました。同じように思ってたのは投稿者だけじゃないはず……そうだよな皆?