世界一幸せなトレーナーとエアグルーヴ   作:たわけ

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たわけ「不審者に俺はなる!!」エア『は?』

「俺、不審者になろうと思うんだ…」

 

 

 

『は?』

 

 

夫の突然の狂言に思わず言葉を失った

 

私の現役時代からなかなかに独特なトレーニングは計画するし、結婚後子どもが産まれてからもなんやかんや楽しそうに過ごしておりその独創性については私も高く評価するところである

 

が、今回は一体なんのつもりなのか

 

 

『どういう意味だ?』

 

「子どもたちの安全を守るためにね」

 

まったく回答になっていないどころか余計に分からなくなった

 

『はぁ』

 

「うちの子達が俺らがいないときにどんな対応するか気にならないか?」

 

『それは、まぁ』

 

「だから家にカメラ設置して様子みてみようよ」

 

『それであなたが不審者役にかって出ると?』

 

「うん」

 

『ふむ…』

 

「だめ?」

 

『ダメとは言わんが…あまり子どもたちに不安な思いはさせたくないだろう』

 

「だからこそでしょ?一回恐い思いしとけば今後は気を付けるようになるだろうし」

 

『それもそうだが…』

 

 

大方先ほどのバラエティ番組に影響でもされたのだろう

 

私としては子どもたちが恐がることはもとより、危険なことをさせたくないというのが一番だった

 

よく考えてもみて欲しい

まだまだ幼く善悪の区別もつけられない好奇心旺盛なちびっこたちが家の中で何をしてしまうのか…アドマイヤだけならまだしも怪獣二人も一緒なのだ

 

しかしながら彼の言い分にも一理あるのは確か

 

どうすべきか、一通り考え抜いて口を開く

 

 

『ショパンは一緒に連れていくぞ』

 

「うん」

 

 

[newpage]

 

 

さすがにいきなり仕掛けるのはかわいそうだし、正直言って無意味だ

 

まずは対策と対応を教え込むところから始める

 

 

「いいか?お父さんとお母さん以外の人が来てもドアを開けちゃダメだぞ?もちろんおじいちゃんたちとかは良いんだけど」

 

ちびs「はーい」

 

「もし恐い人が入ってきたら急いで奥の部屋に逃げるんだ、静かにな」

 

ちびs「うん」

 

 

 

こんな内容を数日間に渡って教え続ける

 

 

そして当日

 

 

 

「ごめんな、お父さんとお母さんちょっとお出かけしなきゃいけないんだ」

 

『本当はお前たちも連れて行きたいのだがな…』

 

「10分くらいで戻ってくるからさ、いいこにして待っててな」ナデナデ

 

『ちゃんといいこに待っていられたらオヤツはにんじんプリンにしよう』ナデナデ

 

ちびs「やったー!」

 

 

「それじゃあな」

 

 

ガチャガチャ

バタン

 

---------------------------------------------------------------------------

 

「よし…」

 

『カメラはちゃんと作動しているようだな』

 

車の中で妻と娘と待機して約10分後

 

「それじゃ、行ってくるわ」

 

強めに香水をつけ、黒のジャージに黒のマスクでザ不審者といった服装で自宅の玄関を目指す

 

娘たちには匂いで俺だと分かってしまうかもしれないからな

 

 

まずは手始めに玄関のドアをガチャガチャする

 

 

 

ガチャガチャ!

 

 

シップ「あっ!ぱぱきた!?」ダッ

 

マイ「ほんと!?」ダッ

 

結翔「かーさん?」ダッ

 

 

 

 

車の中で見守る母は心配で胸がいっぱいだった

 

『おいおい…あれだけ言ってあっただろうに…』

 

耳にタコができるほど言いつけてあったのに娘たちは疑うこと無く玄関まで猛ダッシュ

 

 

 

 

そして玄関までたどり着くと…

 

 

ピーンポーン

 

 

小さな子どもたちでもギリギリ見える位置にあるインターホンの画面

 

 

そこに写っていたのは大好きな母でも優しい父でもなければ祖父母でもない

 

全身黒に身を包んだ、絵本で見た泥棒だったのだ

 

マイ「あっ、おとうさまじゃないよ!」

 

姉が気づくも時すでに遅し

ルーラーシップはボタンひとつで鍵を解除してしまった

 

シップ「!ぱぱじゃない…」ビクビク

 

開いてしまったドアの向こう側には、やはり父ではない謎の男性

 

 

3人の頭の中では両親からの指示などとうに消え去ってしまっていた

 

 

シップ「う…うぅ…」グスグス

結翔「うぅ…やだやだ…」グスグス

 

弟たちは恐怖に怯え床に腰を下ろしてひたすらになき続けていた

 

そして、その前に立ちはだかるは幼いウマ娘

 

 

マイ「だあれ?」ビクビク

 

自分も今すぐにでも泣いてしまいそうなのを必死に堪えて尋ねる

 

しかし男は答えない

 

答えないどころか一歩前に踏み出し、自分達に近づいてくる

 

こわい、こわいけれどみんなをまもんないと…

 

泣きそうになりながら、耳を必死に絞りしっぽをいつもの倍以上に太く膨らませて威嚇をする

 

どうしてもこわくって後ずさりしてしまう

 

男は「う"う"ぅ」とうめき声をあげながらまた一歩近づいてくると頭に右手を伸ばしてくる

 

 

 

一方で彼女らの父はというと…

 

あぁ…ごめんな、こわいよな…

マイ…さすがお姉ちゃんだ……

やばい…泣きそう……まだちっちゃいのに…一生懸命弟たちを守って……

今すぐにでも抱き締めて撫でてやりたい……

 

 

 

マスクの中は涙でびちゃびちゃ、泣くのを我慢して唸り声は出る、気持ちを押さえきれず娘に近づく

 

最悪のコンディションだった

 

 

 

これ以上続けては結局正体がバレてしまう

 

欠片ほど残っていた理性でそう判断してマスクを取る

 

 

「じゃーん!お父さんでしたー!」グスグス

 

『まったく…あなたが泣いてどうするんだ』

 

 

あっけらかんとし何がなんだか分からず困惑する子どもたち

 

一瞬の静寂が部屋を包んだかと思いきや

 

 

ちびs「うわあぁぁん!」ダッ

 

「うわっ」ギュー

 

「ごめんな恐い思いさせて…ごめんごめん…」ナデナデ

 

シップ「ぱぱぁ…」グスグス

マイ「うー…おとうさまぁ……ごわがっだぁ……」グスグス

結翔「とーさん…どろぼーさん……きた」グスグス

 

 

互いにもうこんなことはしないと、強く考えるきっかけとなったのだった

 

 

 

 

結翔「かーさん、いっしょねる」テチテチ

マイ「まいもいっしょにねるもん」テチテチ

シップ「しっぷも!」テチテチ

 

「……この人数は無理じゃね?」

 

しばらくの間ギチギチのベッドで家族仲良く眠ることになりました

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