世界一幸せなトレーナーとエアグルーヴ   作:たわけ

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女帝の娘は寂しいようで

ある日の夕飯時

 

 

待ちに待った金曜日の夜

 

仕事を終えて帰宅し、愛妻エアグルーヴの手料理を彼女と3人の娘たち、それから息子と共に囲む

 

上の子たちは揃いも揃って成長期

それに合わせるように食事の量もどんどん増えていくのだ

末娘のショパンも少しずつ離乳食に慣れはじめ、固形物を食べるようになってきた

 

毎日まいにち妻には苦労を掛けるが、子どもたちが口いっぱいにご飯を頬張って美味しいおいしいと笑顔を浮かべる姿は親として何より成長を実感して嬉しい瞬間である

 

しかしながら、だ

今日はテーブルの一角で暗い雰囲気が漂っている

 

我が家イチのやんちゃ娘ルーラーシップだ

いつも元気いっぱいのシップが耳を垂らし、不機嫌オーラ全開でつまらなさそうに食事を摂る姿なんて見たことがなかった

 

 

「こら、シップ」

「ちゃんと野菜も食べなさい」

 

シップ「や!しっぷやさいいらない!」

 

「ダメだ食べなさい、せっかくママが作ってくれたんだぞ?」

 

シップ「うー…いらないもん!!」イヤイヤ

 

「まったく…ほら見てみろショパンはちゃんと野菜も食べてるぞ?」

 

「ショパン、あーん」

 

ショパン「あー」アムアム

 

「おいしいねぇ」ナデナデ

 

緑色でいかにも野菜たっぷりな見た目の離乳食を春翔の手で口元に運ばれ小さなお口を大きく開けて食べていた

大好きなお父さんに食べさせてもらってご機嫌なようだ

 

「ショパンはいいこだな~好き嫌いしなくて、偉いぞ~」ナデナデ

 

シップ「!!」

 

「ね?次はシップの番だよ」

 

シップ「やっ!!いらない!!」ダッ

 

『シップ…』シュン

 

ウマ娘パワーを存分に活かし、テーブルをバンッと叩いてリビングへと走っていってしまった

シップお気に入りのライオンのお皿にはまだ半分以上食事が残されている

 

「シップ!まだ残ってるぞ!」

 

シップ「やっ!!ぱぱきらい!!」ミミシボリ

 

「なっ!?」絶望

 

『ふむ……』

 

 

シップと春翔とのやり取りにビックリしてしまった子どもたちのケアをしながらエアグルーヴは考えた

 

 

 

 

 

 

[newpage]

数時間後

 

 

 

入浴を終えて妻の待つ寝室へと足を運ぶ

少しだけ開いたドアの隙間から中をのぞくと…

 

 

シップ「うぅ…ぐすっ……ままぁ…」グスグス

 

『よしよし…大丈夫だぞシップ…大丈夫だ…』ダッコ

 

シップ「まま…」グスグス

 

『パパは怒ったりしていない…おまえのことを嫌いになんてなったりしないさ』

 

シップ「ほんと…?」

 

『あぁ、本当だ』

『ママは嘘なんか吐かないだろう?』

 

シップ「うん…」

 

『さっ、いいこだからねんねしような…』トントン

 

 

しばらくして娘を寝かしつけ終わったエアグルーヴが手でこちらに来いと合図してきた

 

少しだけ目を細めて左手はシップの胸に置いたままで右手人指し指を唇に当て「静かに」のジェスチャー

 

『ようやく寝てくれた』

 

「…ごめんなエア……いつもこんな…」

 

『…謝るべきは私にではなくシップではないか?』

 

「やっぱり言い過ぎたよな…」

 

先程の愛娘との口論を回顧して言う

 

『そんなことはないさ』

『あなたの言い分は正しい。この年から好き嫌いなどあっては子どもたちの将来が心配だ』

 

「マイは好き嫌い無かったからさ、結翔もニンジンは苦手だけど…」

 

『そうではないぞ』

『春翔さんは1つ勘違いをしている』

 

「えっ?」

 

『シップは食べることが大好きだろう?いつも3度の食事におやつも楽しみに食べている』

 

「それは知ってるよ、だから残したの変だなって」

 

『あれはな、食べ物は関係ないんだ…とはいえ好物のニンジンは1つ残らず食べきっていたがな』

『原因はあなただ…春翔さん』

 

「へっ?俺?」

 

まさかのシップの夕飯残しの原因は俺、と言われさすがに狼狽え

何かシップの気に障ることをしてしまっただろうか?

ケンカなんてしてないし、朝だって見送ってくれた

いつも構ってちゃんで甘えん坊なシップ

子どもたちには好かれていると自負していたのだが…

 

ダメだ、まったく見に覚えがない…

 

 

『今回は私にも非はあるからな…素直に教えてやろう』

 

「頼むっ!」

 

『やきもちだろうな』

 

「やきもち?」

 

『あぁ』

『我が家にはシップ含め4人子どもたちがいるな』

 

「うん」

 

『あなたも、もちろん私も、みんな分け隔てなく大切に思い、愛しているだろう』

 

「当たり前だろ!」

 

かかり気味に答えると、しー、静かに、と注意をうける

 

「!わるい…」

 

幸いにも娘はぐっすりだ

 

『だが、それは我々の勘違いやもしれんぞ?』

 

「?」

 

『ショパンが喋れるようになってからというもの随分と可愛がっていないか?』

 

「!」

 

『最近まで末っ子だったシップは上2人に比べて手がかかることもあったし私たちも構ってやれていた』

『そうでなくともアドマイヤなんかとよく遊んでいたのは知っているだろう?』

 

「うん…」

 

『でもな、近ごろよく結翔とアドマイヤが一緒にいることが多い。姉にも兄にも構って貰えず、大好きなお父さんはショパンに夢中』

 

「…」

 

『これではさすがにシップがな…』

『もちろん、ちゃんと時間を割いてやれない私も悪いことは確かなのだが…』

 

「そう…だよな……うん、言われてみればその通りだ…」

 

『そう気を落とさないでくれ』

『これも経験だ。育児の醍醐味であり、難しいところでもある。一緒に乗り越えていこう』

 

「!あぁ」

 

優しく、心強い言葉をかけてくれた妻の手元

布団を捲れば、くぅくぅと可愛らしい寝息を立てて眠るシップの姿

妻の方を向いて丸まり、左手で短いしっぽを掴んで親指をちゅうちゅうと吸っているのは寂しさ故だろうか…

よく見てみれば妻に似た目元がほんのり赤い…長いこと泣いていたんだろう…

見れば見るほど、考えれば考えるほど…胸が締め付けられて苦しい…

 

「エア…」

 

『うん?』

 

「今日は俺がシップと寝るよ」

 

『…あぁ、それが良い…起こすなよ?』

 

妻の母性に包まれていたシップを優しく抱き寄せ、自分の腕の中へ

 

シップ「ぅ…うぅ……」

 

『ふふっ、嫌そうだな?』

 

「そりゃ、エアと比べられたら柔らかくはないからなぁ…我慢してくれ」ギュッ

 

寝顔から分かってしまうほど嫌そうにする娘を優しく抱いて掛け布団を肩まで掛ける

腕枕をしているため俺の胸から上は露出しているが構わない

愛する娘がいるからな

 

どうにもヤンチャで暴れウマ娘な娘だが、将来は隣で眠る母のように強く気高く美しい女性に、ウマ娘に成れることが伺えるような整った顔立ちだ

 

『くれぐれも寝ている間にシップを潰したりしないようにな』

 

「分かってるよ。大切な宝物を自分で壊したりするもんか」

 

『そうだな、おやすみなさい春翔さん』

 

「おやすみ」チュッ

 

妻が電気を消してくれたことを確認してからシップの頭を優しく撫でて眠りにつく

 

「あいしてるぞ…しっぷ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[newpage]

 

翌朝

 

 

全身によく分からない不快感を覚えて起床したシップ

 

おかしい

 

ままとねんねしたはずなのに…

 

 

いつも柔らかく暖かい母の身体ではなくガチガチと筋肉質な男の胸元が広がっている

 

シップ「うぅ…やっ…やっ…」

 

「ん、しっぷ…?」

 

シップ「ぱぱ?」

 

「おはよ、シップ」ナデナデ

 

シップ「おはよう」

 

 

昨晩のことを思い出してしまい、なんと声を掛ければ良いのか分からなくなっていると、娘の後ろから助け船が

 

『おはようシップ』

『実はな、パパが怖い夢を見ちゃったようでな?助けてやってくれないか?』

 

シップ「ぱぱこわいの?」

 

『どうにも、シップがパパのことを嫌いになってしまう夢だったみたいだ。優しいシップはパパのこと嫌いになんてならないよな?』

 

シップ「うん!」

 

シップ「あのねぱぱ、しっぷぱぱだいすき!」

シップ「ままもだいすき!」

 

「!」

 

もう目はとっくに冴えているはずなのに目の前は何も見えなかった

 

聞こえてきたのは、呆れたように笑う妻の声と胸元から聞こえる幼子の可愛らしい声

 

この温もりは絶対に手放さないと改めて誓うのだった

 

 

 

 

 

シップ「ぱぱはなみずばっちい!いたいよぉ!ままがいい!!!」

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