世界一幸せなトレーナーとエアグルーヴ   作:たわけ

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ちびっこたちの日常1

これは、

 

かつて女帝としてターフの上で絶大な人気を誇ったエアグルーヴと、そんな彼女の杖として一生を添い遂げる契りを交わしたトレーナーの四宮春翔

 

2人の間に生まれた4人(うちウマ娘3名)の日常のお話

 

 

 

 

 

 

 

 

[newpage]

 

マイ「ふわぁ~あ…」アクビ

 

両親が眠る寝室とは別に4人の子どもたちの寝室

爽やかな朝日がカーテン越しに長女のアドマイヤグルーヴを照らした

 

弟も妹たちもまだ眠っている

優秀なお耳も反応していないため、きっと両親も夢の中だ

 

音を立てないように気を遣いながらドアを開け、お手洗いに向かう

 

まだ誰も活動していない家の中はまるで普段とは別空間のようで、ささやかな緊張とワクワクドキドキが幼い彼女の心を占めていた

 

 

マイ「う~ん……」

 

お手洗いを済ませ、自分のお布団に戻ったアドマイヤはなにやら頭を悩ませていた

 

寝れないのだ

 

これは、仕方がない

しょうがないのだ

 

誰に言い訳するでもなく自身に言い聞かせるように、「しょうがない、しょうがない」と小声で呟きながら歩く

 

 

少しだけひんやりした廊下をてちてちと、先ほどトイレに向かったときよりも速く歩みを進めるととある扉の前

 

耳をぴこぴこ、尻尾も嬉しそうにふりふりと

 

扉を開けて目の前にある大きなベッドによじ登ると、大好きな両親の安らかな寝顔

 

抱き合うように眠る両親の間を目掛けて、掛け布団の足元から小さな体を前進させる

 

無事に、両親に抱かれるようなポジションを取ると、頭を撫でられた

 

『ふふっ……また来たのか?』ナデナデ

 

マイ「えへへ」ブンブン

 

「まいはあまえんぼさんだなぁ……」ギュー

 

ラッキーだ

いつもは母だけがアドマイヤに気がつくのだが、今日は父も目を覚ましたようだ

 

マイ「おとうさま、くすぐったいよ?」

 

今よりももっと小さい頃からそうだ

2人の間に眠りに来たアドマイヤに、父である春翔は愛おしそうに頬擦りをする

まだ寝起きで髭を剃っていない父の顔はジョリジョリとアドマイヤのふわふわな頬っぺたをくすぐるのだ

 

その時間がアドマイヤはお気に入りでもあった

…まあ妹のルーラーシップは嫌がって逃げ出すことの方が多いのだが

 

さっきまで眠れなかったのが嘘のように、2人の温もりに包まれて穏やかな寝息をたてるのだった

 

 

 

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『はぁ、またか…』

 

土曜日の昼間、お昼ごはんを食べ終わってからお昼寝をするまでの時間にエアグルーヴは何度目か分からないため息をつく

 

子どもたちがわちゃわちゃと騒ぎ立てている

ここは自宅であり、ただうるさいだけならばエアグルーヴとて微笑ましく見守れるのだが、生憎それだけで終わりそうにはない

 

毎日のことではあるのだが、この時間帯はエアグルーヴにとっては謂わば「魔の時間」なのだ

 

エアグルーヴお手製のお昼ごはんをたらふく食べ、お腹いっぱいになった子どもたちは午前中にたくさん遊んだのも相まって急な眠気に襲われる

 

でも、まだ遊びたい

 

矛盾した2つの感情によりかなり不機嫌になりやすいのだ

つまり、ケンカに発展しやすい

 

今日が日曜日であれば夫が子どもたちの相手をしてくれるし、平日であってもそこまで大きなケンカにもならない

 

しかし土曜日はそうはいかない

 

普段は幼稚園に通っていてこの時間帯は家にいない長女のアドマイヤグルーヴが、土曜日は自宅で過ごすのだ

 

仲良しな子どもたちであるが、そうなると当然のように「お姉ちゃん争奪戦」が始まる

 

お姉ちゃん大好きな結翔は何をするにもアドマイヤグルーヴと一緒、テレビも絵本もお絵描きも、とにかく全部を一緒にやりたいのだ

そして四宮家の大怪獣ことルーラーシップもお外で思いっきり体を動かして週に2度しかない姉との時間を楽しみたい

ショパンはあまり気の強い方ではないため2人の争奪戦に参加することは無いが、いつもどうしていいか分からずおろおろしている

 

大体は口論によって争奪戦が行われるのだがこの日は違った

 

シップ「ううー!やっ!!しっぷとあそぶの!!!」ドンッ

 

ガンッ

 

感情的になったシップが結翔を叩いてしまったのだ

 

結翔「うぅ……うわあぁぁぁん!」グスグス

 

『!?』

 

マイ「ゆうくんだいじょうぶ?」ナデナデ

 

台所で昼食の片付けをしていたエアグルーヴはとっさに子どもたちのもとへと駆け寄った

 

『結翔?どうした!?大丈夫か!?』ダッコ

『何があったんだ!?』

一番的確に状況を把握しているであろうアドマイヤに尋ねた

 

マイ「しっぷがね、ゆうくんのあたまごつんってしたの」

 

シップ「やっ!しっぷわるくない!!ゆーとがおねーちゃんとるんだもん!」グスグス

 

この状況にびっくりしたのだろう

アドマイヤ以外の子どもたちも皆泣いていた

 

今のところ目立った外傷は見当たらないが、アドマイヤの話によれば頭を殴られたようだ

子どもとはいえウマ娘の力で殴られたのだ、もしも脳に何か影響があったら…

 

急いで実家と病院、それから夫に連絡をして病院に連れていく準備をする

その間に保冷剤をタオルに包んで結翔の頭を冷やしてやるのも忘れない

 

シップへのお説教はまた後でだ

 

 

 

 

 

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5分とたたないうちにたまたま実家に帰省していた妹のリンがひとまず結翔以外の子どもたちと留守番をしに到着した

 

 

玄関前でリンにバトンタッチすると同時にウマ娘の脚力を存分に使って病院までの道のりをひた走る

怪我をしたのは頭のため、極力揺らさないように気を付けながらだ

 

『大丈夫か結翔?気持ちわるかったりしないか?』

 

結翔「ここ、いたい…!ずきずきするの」

 

シップの拳が当たったであろう箇所を押さえ、顔を歪めて言う

 

『もうそろそろ病院に着くからな…!』

 

 

 

 

 

 

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病院に着くと電話で状況を説明してあった分、迅速に対応してもらえた

検査の結果、特に大きな心配ごともなく軽い脳震盪と打撲との診断だった

 

改めて病院で頭を冷やしてもらい入院などもなくそのまま帰ることに。

途中から来た夫の車に乗せてもらい家まで戻る

 

「とりあえずなんともないようで良かったよ」

 

『あぁ……』

『私が、ちゃんと子どもたちを見れていなかったから』

『今さら何か起こるわけでもないと、油断していたから、こんなことになってしまった……母親失格だ…』

 

忙しいトレーナー業を営む夫を支える身として、日々の家事育児の大変な時間帯はエアグルーヴのワンオペだった

ただでさえ膨大な量の家事に加え、やんちゃ盛りの子どもたちの様子まで見なければならない。

いつもなんだかんだ仲良く過ごせていたからと、今日も大丈夫だろうと、多少の気の緩みがあったことを心の底から悔やんでいた

 

「そんなことない」

「俺こそいつもエアに任せっきりで……大変なんだよな、すまない、一人で背負わせて……」

 

春翔は忙しい日々のなかで貴重な休日は子どもと妻のために使っていた。それは、もちろん大切な家族と一緒に過ごしたい思いもあるが、多くは妻への恩返しのつもりでだった。

 

家に居られる時間が長くなく、家のことはほぼ全て任せっきりになっている妻に少しでも楽をしてほしい、心から楽しめる時間を過ごしてほしい

その心で週に1度の休日を使っていたが、だからと言って残りの6日間、エアグルーヴの負担が軽くなるわけでもない

春翔もまた、息子に怪我を負わせてしまったこと、妻に辛い思いをさせてしまったことで罪悪感に苛まれていた

 

 

『仕方がないだろう。春翔さんは、忙しいんだ。いつも私たち家族のために働いてくれて…充分だぞ』

 

 

緑に囲まれた自宅が見えてきた

きっと両親も留守番に駆けつけてきたのだろう、駐車場に見慣れた車が停まっていた

 

いまからするべきは後悔や謝罪ではない

気持ちを切り換えて我が家に足を踏み入れた

 

 

 

 

 

 

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ガチャガチャ

 

お母様「あら、おかえりなさい。結翔くん大丈夫だった?」

 

『ええ、軽い打撲でした』

 

お母様「無事で何よりだわ、さっ結翔くんもオヤツ食べましょ」

 

甘えるように私に抱きついていた結翔を母に託してリビングに向かう

 

きっと、顔に出ていたのだろう

結翔以外の子どもたちの顔が強張るのを感じた

 

『シップ』

『結翔に言わなければならないことがあるな?』

 

シップ「や!しっぷわるくない!!」

シップ「ゆーとがわるいもん!!」

 

『…普段から言っているだろう』

『人に暴力を振るうのはいけないことだと』

『ウマ娘がヒトに力を使えば、怪我をするだけではすまないのだぞ!!』

『なぜ分からないんだ……相手の気持ちになって考えてみろ!シップも痛い思いをしなければ分からないか?』

 

 

「エア、ちょっと言い過ぎ」

「シップ、なんで結翔を叩いたりしたんだ?」

 

シップ「ゆーとがおねーちゃんとったの!!」

シップ「しっぷもおねーちゃんとあそびたかった!!」

 

内容はなんとも可愛らしいが事案が事案だ

しっかり学んで貰わねば困る

 

「それは分かるよシップ」

「大好きなお姉ちゃんと遊びたいんだよな?でも結翔もマイと遊びたかったんだ」

「パパもママも、皆で仲良くしようっていつも言ってるよね?」

「仲良く出来ないのか?人を叩くのは仲良しがすることなのか?」

 

シップ「ちがう……なかよしできるもん」

 

「ホントに?もう絶対叩いたり蹴ったりしないか?約束できる?」

 

シップ「やくそくする」

 

「よし、ならこの話はおしまい」

「ちゃんと結翔にごめんなさいしような?」

 

シップ「ゆーと」

シップ「ごめんなさい…いたいの、ごめんなさい」

 

お母様「うん、素直でいい子ね♪」

お母様「せっかくだからおばあちゃんも外で走っちゃおうかしら♪」

 

マイ「まいもおばあちゃんもはしる!」

 

シップ「しっぷも!!」

 

『まったく…本当に分かっているのか?』

 

「大丈夫だよ、今回のことはシップだってダメなことって学んだだろ」

 

『それなら良いが……』

 

「エアも一緒に走ったら?」

 

『いや、今日は見るだけにしておこう』

『久しぶりにしっかり走ったのでな』

 

「そっか」

「それなら今日は寝る前にマッサージもしないとね」

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