世界一幸せなトレーナーとエアグルーヴ   作:たわけ

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リハビリと2人目のこと

とある日の深夜

 

「っ!」

「はぁっ…はぁっ…いた…い…はぁっ」

 

夜行性の動物しか活動していないような時間帯

刺されるような痛みで男の目が覚める

 

呼吸をすることすらままならない身体では救いを求めるのも叶わなかった

 

痛み止めの薬を手に取ることも、それを服用することも今の彼には自力では出来ない

 

申し訳ないと思いながらも隣で眠る妻に助けを求める

身体の奥深くから絞り出すような声で…普段の彼女なら聞こえたかもしれない

だが今は深夜、平時より健康的な生活を送る彼女が目覚める時間ではない

そのうえ彼女は家事に育児に夫の世話に心も身体も消耗しきっていた

そんな彼女に男の声は届かない

 

「はぁっ…ふぅっ……えあっ…えあっ…」

胸が痛くて満足に呼吸が出来ない

この体では指先で触れることもできない

 

「え、あっ…っ!はぁっ…はぁっ…はぁっ」

 

もうダメだ、諦めて朝が来るまで耐えよう

そう決意をした時だった

 

ぶるるるる ぶるるるる

 

ウマホのバイブレーションでベッドが震える

 

夫の投薬にあわせてアラームを設定しているのだ

 

『ぅん…』

 

まだ眠いだろうにおぼつかない手つきでアラームを止めると体を起こして男に目をやる

 

「はぁっ…えあ…」

『!』

『からだ、痛むか?』

「う、ん…」

『すまない気づいてやれなくて…いま薬を飲ませてやるからなもう少し我慢してくれ』

 

がさごそと薬を準備しウォーターサーバーで水の用意もする

薬が少しでも速く効くように、と祈りながらぬるめの水温に調整しているのは彼女しか知らない

 

『からだ、起こすぞ…』

背中とシーツの間に細い腕を入れ夫の上体を起こす

『口、開けてくれ』

錠剤を口に放り込みぬるま湯も溢れないように調整しながら流し込む

 

「んくっ…」

 

『飲めたか?』

「うん…ありがとう…」

 

『薬が効くまではこの体勢でいよう』

 

隣から抱き締めながらゆっくりと背中をさすってくれる妻の手が暖かくて優しくて

 

自分でも気づいていなかった

 

『春翔さん?まだ痛むか?』

『辛いよな…すまない…もう少し早く起きていれば…』

俺の頬を撫でて苦しそうな表情をする

『大丈夫だぞ…すぐ楽になるからな…そんなに泣かないでくれ…』

「えっ…?」

『うん?』

「おれ…泣いて…」

『…また気づいていなかったのか』

『はぁ…いいぞ…いっぱい泣いて』

『そうだ、せっかくだから膝枕もしてやろうか』

「ちがうよ」

『?』

「ちがうんだ…」

「そうじゃ、なくて…」

「なんか…おれもわかんないけど…」

『そうか…』ナデナデ

「エアが…あったかくて…」

『…そうか…』ナデナデ

 

 

 

 

「…もう…大丈夫だ…ゆっくり…寝てくれ」

『…本当か?』

『忘れてないだろうな。私はあなたの"大丈夫"は信用していないと』

「…やっぱり大丈夫じゃない、から…このまま寝たい…かも」

『あぁ、寝かせるぞ…』

 

再びベッドに身を預け力を抜くと

 

『おやすみなさい』

 

美しい顔が近づいてきて…

 

ちゅっ…

 

『眠れるまでこうしていよう』ナデナデ

 

頭を撫でられながら手をさすってくれる

 

『大丈夫だぞ…ずっとそばにいるからな…』

 

妻の温度に溶かされながら微睡みに落ちていく

 

 

[newpage]

 

『ゆっくりでいいぞ』

 

『そうだ…その調子だ…』

 

平日の昼下がり

 

妻と娘に見守られながらリハビリに勤しむ

 

まずは腕の曲げ伸ばしから

 

暖めながらゆっくり

 

お母様「おやつの準備出来たわよー」

マイ「おやつ~!」バタバタ

『私たちも休憩にしよう』

 

みんな『「いただきます!」』

 

マイ「おいしー!」モグモグ

お母様「本当に美味しそうに食べるわねぇ。喜んでもらえてよかったわ」

『ほら』

「あむっ」モグモグ

 

マイ「むぅー!ふたりばっかりずるい!まいも!」

マイ「おとうさん!あーん!」

「あーん」モグモグ

「うん、美味しいぞ。ありがとうマイ」

マイ「おかあさん、まいもあーん!」

『ほら、あーん』

マイ「あーん」モグモグ

お母様「ふふっ、仲良しねぇ」

 

お母様「そういえばお腹の子の名前は考えたの?」

『えぇ、結翔です』

お母様「ゆうと君ね」

「はい、人との縁や結びつきを大切にしてほしいと思って」

お母様「予定日までもう少しだし早く身体治さないとね」

「はい」

『一緒に頑張ろうな』

 

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