世界一幸せなトレーナーとエアグルーヴ   作:たわけ

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変化は突然に

とある平日の朝

3児の父であり、エアグルーヴの夫である春翔はどうにも慌てていた

 

「ごめんっ!ほんっとーにごめん!」

「やっぱり今からでも予約を変えてもらって…」

『たわけ、検診くらい1人で問題ない』

「でも『ほらっ、さっさと行ってこい!』」

『学園のウマ娘たちの将来がかかっているんだぞ』

「なんかあったら連絡してくれよ!?行ってきます!」

 

 

この日はエアグルーヴの第4子の検診だったのだが、春翔は学園で大切な会議があり同行できないのだ

 

 

子どもたちは実家に預けて病院へ向かう

 

 

帰りの足取りは、少し重く感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[newpage]

春翔side

 

 

「ただいまー」

『おかえりなさい』

マイ「おとうさまおかえり!!」ギュッ

結翔「とーしゃんおかーり!」ギュッ

「うん、ただいま」

「エア、大丈夫だったか?」

『あぁ、大丈夫だ』

「そっか、良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからというもの、妻の様子がなんだかおかしかった

 

何か奇妙なことをしているとか、体調が良くなさそうとか、そういうのではなくて…なんか変

 

簡単に言うなれば、不自然

だった

 

 

 

例えばこの時間

今までなら子どもたちを寝かしつけ、俺たちも床についてだらだら話をしながら眠りについていた

 

今は、隣の妻との距離が近く、頭を俺の胸板に擦り付けてしっぽも俺に巻き付けて甘えるような仕草を見せている

 

他にも妻が作るときの食事が以前よりも豪華だったり、子どもたちにもたくさんハグをしたり

 

付き合っていた頃や新婚の時ならいざ知らず、急にコレだ

 

 

驚いて呆然と彼女を見つめていると

『…撫でてくれないのか…?』

 

…上目遣いってズルいと思う

 

「ふふっ、どうしたの?疲れちゃったか?」ナデナデ

 

彼女の艶々とした籤通りの良い髪に指を通して訊ねる

 

 

 

しばしの静寂と瞳の揺れ

 

 

いつもと変わらぬ心臓の拍動がやけにうるさく感じた

 

 

「……なにか…あったのか…?」

『…いや…この子が動いていてな』サスサス

「そっか、安心したよ…元気かい?」サスサス

 

 

 

 

そんなことが日常になってきたある日

 

彼女の口から驚きの言葉が出る

 

 

 

『なあ、墓参りに行かないか?』

「へっ?こないだ行ったばかりだろ?」 

 

まだ秋に入ったところ…お盆に墓参りは済ませたばかりだ

 

 

『……そうではなく…あなたの、春翔さんの……産みの母親の墓だ』

 

「…」

 

『…』

 

「…」

 

 

理解が、出来なかった

 

なぜ彼女がそんなことを言い出すのか

 

なぜこんなタイミングなのか

 

なぜあんなやつの墓参りなんて行くのか

 

 

なにも、理解できなかった

 

 

俺の過去を知っているならばそんな発言には至らないはずなのだ

そして彼女は知っている…俺の全てを

傷も…トラウマも

 

 

「…なんで?」

 

自分でも驚くほど冷たく震えた声が出た

怯えさせてしまっただろうか

 

『…やはり、いや、だよな』

 

『すまない…場所だけ教えてくれれば1人で行くから』

 

「そうじゃなくて…なんで、何しに行くの?」

 

 

『…よく考えたら、挨拶がまだだったからな』

『それに…感謝を伝えに、な』

 

「は?」

 

 

普通、ふつうに考えて、だ

自分の配偶者を傷つけた人間に挨拶や感謝などあるものだろうか

 

俺なら無理だ

エアを傷つけたやつなんて死んでも許せない

 

 

嫌われている訳でも無いだろう…ならば、どうして

 

 

「…感謝って?」

『…あなたを産んでくれたことに対するものだ』

 

『私も母になり、子を産むことの大変さは身をもって体験した…あなたにとっては、もちろん私としても、憎い相手に変わりはない…だがその点についてはどうしても感謝したいんだ』

 

 

本当にそれが目的なのだろうか

 

挨拶なら結婚したときで良い

感謝ならマイが産まれたときでよかったはずだ

 

どうしてもと言うならばお腹の子が産まれてからでも

 

 

 

何が、目的なんだ…?

 

 

俺に言えないようなことか?

 

 

なんで

 

 

どうして

 

 

分からなかった…なにも

 

出会いを含めて10年以上も共に過ごしている彼女のことが

 

分からなかった

 

最愛で最大の理解者、味方であるはずの彼女のことが

 

信じられなかった

 

 

べつに墓参りに行ったとて何かあるわけではない

利益も、不利益も、だ

 

 

 

「そう…か…」

『…あぁ』

「…分かったよ…2人で行こう」

『ありがとう…』

 

 

 

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彼女の異変はそれにすら留まらなかった

 

 

 

「そういや、次の検診はいつなの?」

『来月の18日だが』

「オッケー予定開けておくよ」

『いや、その必要はない』

「…といいますと?」

『今度から検診は私一人で大丈夫だ、あなたは子どもたちを見ていてくれ』

「えっ?でも」

『いつもお母様たちに頼るのも悪いからな』

「そ、うか…?」

『あぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、義父母に連絡をとってみるも原因は分からず、お義母さんにもエアの言動を話したがさほど不自然にも思っていないようだった

 

俺がおかしいのだろうか…

 

 

立ち会い出産も敢えなく断られてしまった

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