エアグルーヴの第4子の出産予定日を再来月に控えたある日の出来事だった
いつも通りの日常
朝起きて
家事をして
朝ごはんを食べて
買い物に行って
昼ごはんを作って食べて
子どもたちと遊んで
お昼寝に付き合って
また少し残った家事をして
夕食を作って食べて
風呂にはいって
風呂でも遊んで
寝る前にホットミルクを飲んで
歯磨きをして
眠る
この日もそうなるはずだった
今日は楽しかった、とか
明日は何をしよう、とか
そんな話をしながら夢の世界に沈んでいく…はずだったんだ
風呂からあがった後、なんだか顔色が悪いように感じた
大丈夫かと尋ねれば
大丈夫だと返ってくる
さすがに不安で、頻りにお腹を抱える妻からの要求は無視して電話をかけた
病院と義実家に
病院で落ち合うことになり、子どもたちには悪いがもしかしてのことを考えて準備を整えてすぐに車を出した
病院に着くと、すぐに彼女は運ばれていき出産することになった
彼女からの同意を得ることが出来ず出産に立ち会えない俺は廊下でまだかまだかと落ち着かずにいることしか出来なかった
だってそうだ、何が起きたのかも分からず、何をしたら良いかも分からない
妻は、お腹の子は無事なのかも分からない
予定より2ヶ月も早いんだ
ながいながい時を経て扉が開き看護師の1人が出てくる
俺は彼女に訊ねた
妻は、子どもは無事なのか
彼女は言った
「お子さんは無事です」
[newpage]
彼女の言葉が…理解できなかった
子ども"は"?
そんな、その言い方なら妻は?エアグルーヴは?
問い詰める時間も貰えずに彼女は戻っていく
呆然と立ち竦む俺の傍らで義母は普段とは正反対の暗い顔をしていた
涙も垂れていたかもしれない
なんだ?
なんで泣いてるんだ?
なんで
どうして
また暫くして扉が開き、医者と共に女性が出てきて病室まで移動していく
他に患者はいない、やけに簡易的な個室だった
真っ白なベッドの上に
血の気のない、真っ青な顔の女性
妻がいた
なんだ、生きてるじゃないか
大丈夫じゃないか
変な言い方しやがって
そう、思っていた
否、
思いたかった
なぜ…誰も祝福しない?
なぜ…皆俯く
俺の、彼女の子どもが産まれたんだ
新しい命が誕生したんだ
ベテランの看護師の手から妻のもとへ産まれたばかりの幼いウマ娘が渡る
妻はそれを慈しむように眺め抱き締めた
赤子が泣いて、震える体で、慣れたようにお乳をあげる
『…げんきで……いてくれよ………』
目が充血していた
食事に満足した赤子は保育器に移され、俺の手は妻の右手に捕まれていた
『なあ、』
「…うん?」
『………こどもたちを…………よろしく…頼むぞ………おとうさん……』
目に涙を浮かべた彼女は、そう言い残して深い眠りについた
ぱたん
俺の腕を掴んでいた彼女の右手が無機質な白に落ちる
血液が抜けていくような感覚
異常なほどの吐き気と目眩に教われ体が震える
倒れ込むようにしてベッドに眠る妻に触れる
いつも優しくて抱き締めてくれていた体は、俺を抱いてくれない
頬に手を添えても、膨れっ面をしてくれない
触れればピクピクと忙しない耳は動かない
どうして
どうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
悪魔のイタズラか
神はそれほどまでに俺が憎いか
羽の生えた天使が嫉妬したのか
どうして
彼女を連れていくんだ…
[newpage]
彼女にすがり付くように泣く俺を看護師たちがよけて妻をどこかへ連れていく
やめてくれ
おねがいだからつれていかないで
そんな声は届かなかった