世界一幸せなトレーナーとエアグルーヴ   作:たわけ

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愛は途絶えることなく

夢だと思った

 

 

 

死後の世界というのはこういうものかと

 

 

 

頭がほわほわして寒くも暑くもない

 

 

 

真っ白な世界

 

 

 

私のベッドに倒れ込む夫の姿を見て

 

 

 

きっと夢枕にでも立っているのかと

 

 

 

だって私は死んだはずなんだ

 

 

 

あの子の誕生と引き換えに

 

 

 

ショパンを産み落として死んだはずなんだ

 

 

 

だから、これは夢か死後の世界

 

 

 

目の前の夫が、愛する人が

 

 

 

私を見て涙するのも

 

 

 

彼の体温も

 

 

 

声も

 

 

 

全部

 

 

 

ニセモノのはずなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[newpage]

 

 

 

嘘であってくれと願った

 

 

 

愛する妻の死なんて

 

 

 

ただの夢だと

 

 

 

悪夢だと

 

 

 

願った

 

 

 

悪魔も神も天使も

 

 

 

すべてを恨み、憎しんだ

 

 

 

これは

 

 

 

夢か

 

 

 

現実か

 

 

 

妻が

 

 

 

永遠の眠りについたと思われた妻が

 

 

 

こちらを見ている

 

 

 

これは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[newpage]

 

 

「え、あ…?」

 

「エア、グルーヴ…?」

 

「分かるか?」

 

『…あ、なた…?』

 

「そうだ…少し、待っていてくれ」

「医者を呼んでくる」

 

 

目の下に立派なクマを着けた医者が、先日涙をこぼしていた新人看護師を連れて病室まで走ってきた

 

 

医者「エアグルーヴさん!大丈夫ですか?ここがどこかわかりますか?」

 

 

『びょう、いん』

 

「そうだ、病院だ」

 

『な、んで…?』

『わたしは…しんだ、はずじゃ…』

 

「助かったんだ」

「あのあと、先生たちが手術してくれて、エアグルーヴは助かったんだ」

 

『ほんとう、か?』

『いきてるのか?』

 

「本当だよ、生きてるよ」

「ショパンも元気だ」

 

エアグルーヴのベッドの隣

 

ショパン ウマ娘 4月23日

と書かれたプレートのある保育器に愛娘は眠っていた

 

 

『そうか…夢じゃ、ないんだな?』

『よかった…よかった…』ポロポロ

 

「あぁ…本当に…よかった」ポロポロ

 

 

 

そのあとはいくつか検査をして、皆が来てくれた

 

 

 

お母様「よかった…私より先に逝くのかと…よかった」ポロポロ

 

『しんぱいを…おかけしました…』

 

お父様「本当だ…まったく…」ポロポロ

 

リ、カ「お姉ちゃん!!」グスグス

 

『おまえたちも…しんぱいをかけたな…』

 

マイ「おかあさま!!」グスグス

 

『あどまいや…げんき、だったか?ゆうとと、しっぷも…』

 

結翔「げんき!」

 

シップ「うー!」ピコピコ

 

『なら…よかった…』

 

 

お母様「エアグルーヴ、とにかく安静にして、ゆっくり休みなさい」

お母様「何かあれば手伝うから」

 

『ありがとう、ございます…』

 

お母様「それじゃあ、また来るからね」

 

『はい』

 

 

お母様に子どもたちをもう暫く預かって貰うことにした

 

 

皆が帰って、再び夫とふたりきり

 

 

夫の長い指が私の耳をなぞる

 

 

ぴくっ

 

 

「ふふっ、うん、夢じゃない、よかった」

 

『…どういう、こと、だ?』

 

「あの日さ、エアが死んじゃったとき、耳をさわっても反応がなくて…あぁ、ホントに死んじゃったんだぁって」

 

「だから、ピクピクしてくれると安心する」

 

『そうか…』

 

「…」

 

『…』

 

「…」

 

『…』

 

「…」

 

『…すまなかった』

 

「…」

 

「…何が?」

 

『…あなたに、黙っていたこと…』

 

「…何を?」

 

『…何も、聞いてないか?』

 

「うん、たぶんだけど」

 

『…あのな、実は…あの日、あなたが大事な会議で私が1人で検診に行ったことがあっただろう?』

 

「うん」

 

『あの日にな、医者から言われたんだ…難産になる可能性が高い、産むならば命を落とすことも覚悟しておいてほしいと』

 

「!」

 

『…迷いはしたんだ…あなたに、言うか否か』

 

『でも、思いの外早く結論が出た』

 

『あなたには黙っておこうと、秘密にしようと』

 

「…なんで?」

 

『…話したらきっと、あなたはあの子を、ショパンを諦めようって言うと思ったから』

 

「っ!」

 

『でもっ!そんなの、耐えられない…愛するあなたとの子を、いま正にお腹の中で生きている子をっ、殺せないっ…』ポロポロ

 

『そんなことっ…するくらいならっ…私がっ、しんだほうが…って』グスグス

 

「…」

 

『…だからっ、ごめんなさい…』グスグス

 

「…」

 

『…』

 

「…そっか」

 

「…俺も、ごめん」

 

「ちゃんと、気づいてやれなくて…」

 

「…ありがとう、エア」

 

「ショパンを守ってくれて…」

 

「エアの言う通りだ…俺はきっと堕ろそうって言ってた…赤ちゃんはまた来てくれるかもしれないって」

 

『…あぁ』

 

『あなた』

 

「うん」

 

『おねがいだ』

 

『力一杯、私を抱き締めてくれ』

 

「…うん」ギュッ

 

『…もっとだ』ギュッ

 

『ふふっ、苦しいぞ…』ギュッ

 

「エア、愛してる」

 

「二度と、あんな思いしたくない」

 

『…少しは私の気持ちもわかってくれたか?』

 

「へっ?」

 

『私はアレを二度も体験したんだ…誰かさんのせいでな』

 

「ご、ごめん…」

 

『…ゆるさん』

 

『償い続けろ…一生…』

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