プルルルルルル プルルルルルル プルルルルルル
ツーツー オカケニナッタデンワバンゴウハ…
「はぁ…」
もうすでに何度目かも分からないため息
スマホの画面に写るは数えきれない程の『エアグルーヴ』への発信履歴
その全ては赤文字で記されており、一度も連絡が着いていないことが容易に伺える
男は慣れた手つきでLANEのトーク画面を広げると予測変換だけで成立するのでは?と言っても過言ではないくらいには見慣れた文章を打ち込んで送信する
どこにいるんだ?
安全な場所なのか?
食事や睡眠は充分に取れているのか?
子どもたちは元気なのか?
怒っていてもいい、俺のことが許せないなら嫌いになったならそれでもいい
ただ安全なのかどうかだけでも教えてくれ
たのむ
しばらく画面を凝視するも返信どころか既読すらつかない
最初の何通かは見てはもらえたのだが
いつもは賑やかな家には男が1人
庭の植物たちに水をやり愛でる者たちはいない
キッチンに立ち家事をする妻の姿もない
食卓には穴が空くほどに読み返した妻の書き置きがひっそりとあるだけ
「もう限界だ、かぁ…」
子どもたちが遊んでいるはずのリビングもオモチャ一つすら転がっていない
いつも皆で楽しく過ごしている浴室にも
安心して眠る寝室にも影一つなかった
どうしてこんなことに
なんて言えるはずもない
だって再三妻に言われ続けてきたことなんだ
完全に俺が悪い
「はぁぁああ…」
つらい
いや、彼女の方が辛かったのだろう
だからこうなった
[newpage]
ことはしばらく遡る
『こら!シップ!!何度言えば分かるんだ!』
『そんなことをしてはダメだといつも言っているだろう!!』
シップ「や!!しっぷわるくない!!」
シップ「ぱぱー」ギュー
『はぁ…あなたからもなんとか言ってやってくれ』
「あはは、しょうがないよまだ幼いんだし」ナデナデ
「分かんないよなぁ?シップ」
シップ「ままきらい!!」ギュー
「こら、そんなこと言っちゃだめだろ?」ナデナデ
シップ「やだもん!!」ギュー
「ママにごめんなさいしなさい」ナデナデ
シップ「うー」ギュー
「シップ?」
シップ「…ごめんなさぃ…」
「よしよし、いいこだな」ナデナデ
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その日の夜
寝室にて
『なあ』
「んー?」
『いくらなんでも子どもたちに甘すぎないか?』
『あなたもちゃんと叱ってやってくれ』
「んなこと言ったってさ、あんなちっちゃい子に言っても伝わらないだろ?」
「頭ごなしに叱ったって可愛そうじゃないか」
『それでもだ』
『幼いからこそしっかりとダメなことはダメだと教え込まなければ』
『大きくなってからとか、幼稚園に入ってお友達にケガを負わせてからでは遅いんだぞ』
「わかってるよ」
『っ!』
『分かっていないから言っているんだろ!?』
『子どもたちが何かをすればそれは親である私たちの責任なんだぞ!?』
『大切な子どもたちにはちゃんと育って欲しいんだ!』
「それは俺も一緒だよ」
『だったら!』
「でも」
「べつに叱るばかりが教育でもないだろ」
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そして昨晩
寿退社する同僚の送別会で大層酔って帰ってきた俺を出迎えたのは、またしても妻の怒鳴り声と娘の泣き声だった
「ただいま~」
「どうしたぁ?シップ」ダッコ
シップ「うぅ…ぱぱ…ひっぐ…ぐすっ…」グスグス
「またママに怒られちゃったかぁ?」ダッコ
「いつも怒られてばっかじゃ嫌になっちゃうよなぁ」ナデナデ
「かわいそうに…よしよし…」ナデナデ
『!?』
『っ!なんだその言い方は!!もう知らん!!勝手にしろ!』
[newpage]
そしてシップを寝かしつけた俺は寝室へ行くとシャワーも浴びずに眠ってしまった
そして朝目が覚めて
この置き手紙だ
最初はどこかへ出掛けているか庭で水やりでもしているのかと思っていた
しかしそれにしてはなかなかに帰りが遅い
それで食卓を見てことの重大さをはじめて理解したのだ
「っ!はぁ…どうすれば…」
未だに返信はなくどこにいるのかも分からない
実家にいるのではないかとも思うが、彼女にはアシがない
子ども四人を連れて公共交通機関を利用したとも考え難いだろう
しかし可能性はゼロじゃない
ダメ元で実家に連絡を取ることにした
プルルルルルル プルルルルルル
お母様「もしもし?」
「もしもし」
「夜分遅くにすみません」
「そちらにエアグルーヴたちが来ていませんか?今朝から置き手紙だけを残して居なくなって…安否も分からなくて…」
お母様「…あの娘には黙っていてと言われているのだけれど…心配は要らないわ」
「ということは…」
お母様「ええ…でもお互い離れて少し頭を冷やしなさい?大丈夫よ、あの娘は私が何とかするから」
「…よろしくお願いします…」
お母様「ええ、おやすみなさい」