クズな自分を愛してくれたあなたへ   作:サラメンス

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入院をして暇なので初投稿です。


1 始め

自分という生き物は失敗作だ。私はある日を境にそう思うようにして、ずっと生きていた。

だって、そうしないと自分の置かれている境遇を許容する事が出来ないから。自分が悪いから、仕方が無いのだ。

ずっと、ずうっと。そうして偽って毎日死ぬために生きている。はず、だったのに。

 

兄に出会って、私の中で消えていたはずの何かが戻って来た。私は聞いた。鬱陶しいと思われてしまう恐怖心は合ったけれど。それでも、抑えきれなかった。どうしてそこまでしてくれるのか、と。兄は少し苦虫を噛み潰したような表情をした後に、今度は真剣な表情で私の目を真っ直ぐ見て言い聞かせるように言った。

 

「だって俺は兄だからだよ」

 

その言葉は私に深く刺さった。兄とは妹のことを無条件で庇護する存在なのだとその時確信をした。今度は胸の中に温かい気持ちが戻ってきて、それと同時に僅かな痛みを感じた気がしたけれど、私はそれに気付かないふりをした。

 

 

今日も酷く退屈な学校を終えて帰宅した。どうせやることもないので少し遅い昼寝でもしておこうかと思った。いつもと何も変わらない予定でも思い浮かべながら居間に入ると、俺は驚いた。

 

椅子に座って何やら陰鬱な様子で両親が話し合っていたからだ。普段なら両方とも仕事をして帰るのは夜遅くになるはずのに今日に限って、しかも二人そろって一体何だというのだ。

 

「座りなさい」

 

関係がない。そう思って足早に部屋に行こうとした俺に低く平坦な声で父が話を振ってきた。俺に話しかけてくるなんて、どういう風の吹き回しだろうか。

 

「早く」

 

困惑していた俺を急かすように、母からも父と似た雰囲気を感じた。はいはい。心の中で呟きながら俺は席に着いた。

 

我が家に家族が出来るという話を聞いて俺は二度驚いた。俺が物心ついた時から両親が仲良く話している姿を見た事が無い。何なら俺が産まれたことも何かの間違いなんじゃないかと思う位だった。なのに、外面だけは良い。昔はそっちが正しくて、家の中が嘘で、そんな風に思っていた。そんな風な甘い幻想はすぐに崩れた。

 

淡々と説明は続く。正確には子どもを引き取るということであったが、それにしても驚いた。なんでも、母の妹の子らしいのだが、その人が交通事故で亡くなってしまったそうだ。

どうやら父親が判明しておらず、周囲からの反対があったそうだが、それを押し切って出産。結果として半ば絶縁状態となっていたということだ。

 

そして残された子どもをどうするかということで我が家にお鉢が回って来たらしい。

 

「本当に迷惑な話だよ。キミの所はどこもそうなのかい。あんまり俺を困らせるな」

 

「は?大体な話妹は昔から頭がおかしかったのよ。論理的な話が出来なかった。私だって勘弁してほしい」

 

険悪な雰囲気になってきた。しかし、俺がその場を止めようとも思わずその場で黙って様子を見ていた。そこから数十分静かな口論が続き、やがてそれは終わりを迎えるようだった。

 

「はぁ。本当に仕方が無いな。決まったことだ。それに、金は親戚である程度は出すんだろ?」

 

「みんな考えることは一緒。面倒くさいことに関わるくらいなら金ぐらい払うわ。私たちだってそうしたかったのに」

 

「いいだろう。こき使ってやればいい。少しでも何かの足しになればいいだろう」

 

「そうね。やっと考えが一致したわね。今週末迎えにいくわよ」

 

そうして結論は出たようだった。どうでもいい。どうせ俺が何か言っても一蹴されるだけだ。あいつらは根本的に俺に対して興味が無いのだ。何となしに外を見てみると、夕暮れはすっかり闇に支配されていた。思ったよりも話は長かったようだった。そうしてまた今日も出前を取った。

 

 

そうして今日という一日が終わり、明日が始まる。ベッドの中で目をつぶりながら考えたことは勿論、新しくできる妹のことであった。

 

もうすぐ日常が変化する。そうしたらくだらない毎日に少しは楽しみが湧くのだろうか。学校だろうが、家だろうがずっと独りなのは変わらない。

 

きっと皆何かを我慢しながら生きている。だから俺は自分のことを特別不幸だと思ったことは無い。これが当たり前のことだから。自分という人間に価値などない。だからこういう結果になっているだけなのだから。

 

「なんで貴方みたいな人と結婚したのかしら。その神経質な所本当にいつもイライラする。それなら一人で暮らしていればいいじゃない。頼むから私を困らせないで」

 

「うるさい。キミは出来もしないことを何回も何回も。聞いていて飽き飽きするよ。大体な話、厄介な話を持ってきた癖にそれを悪びれもせず人のせいにばかり。その妹と血のつながりを実感するよ」

 

「ちょっと、どういうこと?私があいつと?冗談だとしても二度とそんなことを言わないでちょうだい」

 

「あーはいはいわかりましたよ。すぐ被害者面をして気持ちよさそうで何より」

 

「煽ってるよね、絶対。その減らず口を叩くのをやめろ」

 

「「・・・」」

 

また下で口論が聞こえる。この夫婦は顔を合わせるたびに喧嘩をしている気がする。いや、夫婦という肩書さえなければ赤の他人以下だろう。

俺は布団にくるまって目を閉じた。次に目を開けるころにはこの悪夢は覚めているはずだ。

 

 

ジリリリリリリリン!!!!!!

 

いつも通り無機質な音により目を覚ます。今日も一日が始まる。頭が痛い。カーテンを開けるとやはりというべきか、曇り空が辺り一面に広がっていた。

 

晴れた日の無神経な太陽も嫌いだが陰鬱な日が好きなわけではない。頭はまだ覚醒しきってはいないがもうずっとやってきていることだ。準備は勝手に進む。一人でゼリーを飲み込みながら質素な朝食を終える。最後に温かい食べ物を食べたのはいつだったっけ。ここには俺しかいない。

 

雨が降ると天気予報が言っていたので、傘を持っていくことにする。俺の友こと自転車の休息の日だ。

 

数十分歩くと学校に近づいてきた。笑顔で話しながら登校する生徒を見て、楽しくないのに下を見てなんとなく笑った。気持ち悪いなぁ。俺。

 

 

余裕を持っていたつもりだったが、どうやら思いの外そうでもなかったらしい。足早にしながら校門に入る。靴を履き替えていると何やら知っている顔が俺に話しかけてきた。

 

「やっほー、優等生くん。普段ここ見ない顔だけどもしかして遅刻かな?かーなかな?」

 

「すみません。ちょっと今は急いでいるんです。水野さんも僕なんかに気にせず」

 

「んー?だから私のことは綾乃って呼んでよー。言ってるじゃん」

 

「いえ、僕なんかにそんなこと言われても迷惑かと」

 

このやけになれなれしい女子は水野綾乃と言う。何かにかこつけて俺にちょっかいをかけてくる。本当に何故俺に話しかけてくるのか。高校デビューで染めたであろう茶髪と顔はちょっと、いや結構可愛いのに。

 

「だからさー、同じクラスなのに何も話さないのもったいなくない?人生一度きりだしやりたいようにやってるだけだし。ね?」

 

こちらに顔を近づけ、曇りのない眼でこちらをじっと射抜いたため反射的に目を逸らしてしまった。

 

「こらー目を逸らさないの。あれ?もしかして慣れてないのかな?ふふ」

 

 

一瞬真面目な目をしたように感じたが、やはり俺を揶揄っただけなのだろう。顔が燃えるように熱い。というかこんなことをしている場合ではない。さっさと教室に。

 

キーンコーンカンーンコーン

 

あ。

 

「あーあ、もう遅刻確定だから喋りながらゆっくり話そうよ。いっぱい聞きたいことあるんだー」

 

こういう日もあるか。

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