クズな自分を愛してくれたあなたへ   作:サラメンス

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展開遅い&更新遅くて申し訳ございません。次話かその次か辺りで書きたいとこまで行けると思いますので、お待ちいただければ幸いです。


3 接近

 先ほどまでが嘘のように彼女は前の姿を見せてくれた。元気いっぱいでクラスの人気者。そういうイメージ。やっぱり気のせいだった。そう思おうとしているのに何故だか頭が頷いてくれない。どうしてだろうか。

 

「ほら着いたよ。お腹減ったねぇ」

 

やっぱり可愛い。さっきのはやっぱり気のせいなのだろう。俺にすらこんな笑顔を向けてくれる女の子が悪い事なんて考えるはずがない。

 

昼休みも半ばにかからないかぐらいの時間帯になってきた。出てくる時よりも人が少なくなってきてくれてとてもありがたい限りだ。席はちらほら空いている。

 

「丁度窓側の席が空いてるしここ座ろうよ。机くっつけよ。ね」

 

彼女の言う通り近くに人も少なく丁度いい場所だと思った。友人とご飯を食べること。俺の中の小さな夢が一つ叶った瞬間である。なんか、こう青春って感じがする。

 

「ありがとうございま、ありがとう」

 

そう言いながら席に着く。一瞬間違いそうになった。何というか、第六感のようなものが働いた。先ほどの姿を想像して身体が身震いした。

 

彼女はもう既に座っており弁当の風呂敷を広げていた。なんというか、女子という感じであるピンクとかを想像していたのだが、現れたのは予想に反して武骨な黒の弁当箱であった。

 

「私だって今日こうなるって知ってたらもっとちゃんと作ってたから。別に料理できないとかじゃないし」

 

そう言いながら開けた弁当は年頃の女子らしくコンパクトにまとまっていたものの、中にはギチギチに茶色いハンバーグやら唐揚げやらがその場を占拠していた。美味しそうだった。

 

「もしかして毎日自分で作ってる?」

 

「まぁ、一応。大体冷凍食品だからこんなの全然難しくないけど」

 

彼女は謙遜しているが本当にすごいと思う。少しでも長く寝たいからと適当に済ませている俺には到底無理な話だ。学校にも家にも居場所がない俺が全てを忘れられるのは寝ている時だけだった。

 

仲良くするような努力をしていない俺が悪いってことぐらい一番わかっている。でもやり方がわからない。

 

「すごいですね。俺なんか毎日適当にコンビニで買ったりで」

 

嫌な思考に移る前に思ったことを口にする。本心からの一言だった。

 

「知ってるよ」

 

「え?」

 

「いやいや何でもない。さ、とりあえずご飯食べよ」

 

不穏なる声が聞こえた気がするがただの気のせいだった。

 

「じゃあはい。口開けて」

 

どういうことだろうか。彼女は箸で掴んだ唐揚げをこちら側へ向けながら待っている。

 

「えっと?自分で食べられるけど」

 

「箸が1セットしかないことすっかり忘れてた。でも今日緊急時だから仕方ないよね。ほら、あーん」

 

「ちょっとちょっと、待ってよ。それは交互に食べたりしたらいいんじゃないかな。なんか間違ってること言ってる?」

 

顔が熱くなる。自分が対人経験が余りないという自覚がある。だからと言ってそれは、その。まるで恋人同士でやることのように思えてならないのだ。

 

周りの目も気になる。クラスで目立たないあいつがなんで。彼女の近くにいるために全く釣り合いが取れていない。そんなことを思われてる。そんな気がしてたまらなかった。頭が痛くなってきた。

 

「悟くん、今は時間あんまり無いよ?ほら、それにね、私たち友達でしょ?」

 

「う、うん。わかったよ」

 

俺は観念して食べることにした。正面には感情の読めない目でこちらをじっと見る彼女がいた。黒い。ダメだ。顔が熱くて味が分からない。

 

「ほら、どんどん食べよ」

 

そうして次々と俺の口の中に食べ物を入れていく。淡々と。そんな姿を見て俺だけが浮足立っているのではないかと感じた。俺はきっと恥ずかしさやら何かでどうにかなっている。客観的に見た姿を想像してそのイメージをかき消す。

 

きっと彼女はこういうことによく慣れているのだ。これもあくまでも善意。弁当を忘れた哀れなクラスメイトへの奉仕。スッと思考がクリアになって行くのを感じた。俺も淡々としていればいいのだ。

 

どこか作業的に与えられる物を咀嚼していく。ところで彼女は昼を摂らないのだろうか。先ほどからずっと俺が与えられるばかりで食事をしている様には見えない。ああ、彼女は優しい人だ。そしてその優しさにいつまでも甘えてはいけない。俺はやっぱり分相応に生きなければならないのだ。

 

「ありがとう。ごちそうさまでした。もう大分食べちゃったと思うけど残り食べたほうがいいんじゃっ!?」

 

話してる途中で何故か箸を口の中に突っ込まれた。ぐちゃぐちゃ。そんな汚い音が自分から鳴らされている。俺の口内を無残に蹂躙し、浸食する。

 

「もがっ。あお、ええ」

 

抗議の一言でも上げてやろうとするも形にならない。苦しんでいるであろう俺を見ている彼女は笑っていた。口を弧のように描き、三日月を思わす。

 

一瞬の様にも、永遠の様にも感じられた時間はその時突然終わった。

 

「ごめんね。私箸の使い方下手で。まだ食べ物あると思ったら何も無かったね。本当にごめん」

 

そういう彼女は箸を片手に持ちながら本当に申し訳なさそうな表情をしていた。目じりを下げ、緊張した顔立ちであった。そうか、わざとじゃないのか。笑っていたように見えたのも勘違いか何かだろう。

 

「いいよ、寧ろこっちこそごめんね。こんなことさせちゃって。ご飯は美味しかった。ごちそうさま」

 

「いや、本当にごめん。暴走しちゃった。何か形に残る物じゃないとだめだよね。こういうのって。口だけじゃダメ」

 

箸を弁当箱の上に置き両手を合わせて再度謝ってくる。実際弁当に関してはとても美味しかった。冷凍の物ばかりとは謙遜していたがそうでもなく例えば卵焼きなんかは特に美味しかった。塩と出汁の味が良く効いてたと思う。多分。

 

「弁当を貰っただけでもこっちがお返ししなきゃいけない立場というか。卵焼きとか美味しかったよ。すごく。だからそんなかしこまられると困るかな」

 

「ほんと!ありがとう。そうは言ってもらったけど本当に申し訳ないからさ。良ければまたお昼とか食べない?今度はちゃんと作るから。コンビニ弁当はちょっと心配だし、ね?」

 

花のような笑顔を見せて彼女は笑った。続けてそう提案をした。正直言うと、ありがたい。しかし二つ返事をすることができない。彼女に対して何となく底知れぬ物を感じてしまったことと、やはり周りの目が気になるのが理由だ。

 

「やっぱりお弁当美味しくなかった?さっきのはお世辞だったの?私今度は美味しいもの作ってくるから。だから、お願い」

 

「わかったよ。でも負担になると思うし、とりあえず明日は大丈夫だから。何日かに一回でも行けそうな日にでも」

 

「私は別に負担じゃないよ。一人も二人もあんまり変わんないし。だから、良いでしょ。気遣ってくれるのは助かるけど、本当に申し訳ないと思ってるから」

 

今回の事を彼女は相当重く受け止めているらしい。苦しかったのはそりゃ事実だけど時間に換算すればそんな長くないだろうし、それにわざとじゃないと言っていた。そして反省もしているのだ。これ以上を望むのは良くないと思うんだけど。聞いてくれないだろうなぁ。

 

罪悪感さえなければきっと俺に話しかけても来なくなるだろう。俺と彼女はやはり住む世界が違う。きっと言えば作ってくれるだろうが強制になってしまう。そんなのは良くない。じゃあどうすれば。

 

「えっと、じゃあさ、連絡してくれない。行けそうな日にでも。水野さん、連絡先交換できる?」

 

あちらからの連絡となれば彼女がもういいかなと思ったタイミングでその内終わるだろうし。問題は連絡先を交換できるのかということだけだが。

 

「もっちろん。悟くんは何やってる?RINEとか?」

 

「あー、それはやってるんだけどあんまりやり方とかわかんなくて」

 

「じゃあさ、私に貸してよ。パパパッとやってあげるから」

 

心配は杞憂に終わった。やはり社交的そうな見た目通りで電子機器にも詳しいようだった。正直助かる。程なくして俺の手元にスマホが戻って来た。この中に彼女の連絡先があるのだと思うと少しワクワクしている。

 

「メッセージ送っといたよ。テストテスト―」

 

「今確認する」

 

『こんにちは~。これからよろしくねm(._.)m』

 

『こちらこそ、よろしく』

 

「うん。大丈夫だね。何か他にも用事ありそうなら連絡するからねー」

 

「ありがとう。本当に助かったよ」

 

「あぁ、そう?ならさ、

 

キーンコーンカーンコーン。チャイムの音が鳴る。

 

「今何か言おうとした?」

 

「いや、いいや。じゃーね。ありがとう。またね」

 

なんでもないならいいんだけど。彼女は手早く弁当箱を片付け、そうして自分の席の方へ去って行った。俺も足早に自分の席に戻ることにした。誰かに迷惑を掛けてしまう前に。

 

またね、か。今の事は夢でもなんでもないという実感が湧いた。普段はこの間でボーっと寝たふりをするのだが何となく、そんな気持ちにはなれなかった。

 

吸い寄せられるように彼女水野の方へ視線を向ける。彼女は男女混合の所謂一軍グループに居て談笑している。皆、俺とは違ってキラキラとしている。やはり、先ほどのはただの気まぐれであったのだろう。

 

ふと感じる振動。それは自分には縁がないと思っていたRINEの通知であった。勿論、水野からである。

 

『私の方見て、どうしたの?なんか気になった?』

 

驚いてすぐにあちらを向くと彼女がこちらに小さく手を振っていた。俺はもう、何が何だかわからなくなった。なんでもない、とだけ返信をして机に突っ伏した。

 

ふと、俺の唾液が付いた箸について思い出した。汚いものを渡してしまったな。そう考えると途端に羞恥で顔が熱くなるのを感じた。最悪だ。あんなものを渡してしまって、俺は変態ではないか。それだけでも回収して洗って返したいと考えたが、あのグループに話しかけに行く難易度を考えてすぐに諦めた。

 

 

俺は絶望していた。

 

雨だ。大雨だ。午後の授業が始まってちょっとしてからだろうか。少しずつ強さを増していき、丁度帰宅の時間である今現在ではバケツをひっくり返したようなことになってしまっている。

 

俺は確かに傘を持ってきた。朝しっかり天気を確認した。そのはずだったのに。

 

「傘がない」

 

帰宅部としてここに来るタイムは結構早かったはずなのだが、あるべきものがそこから消えている。ビニール傘はこういう時に割を食う。こういう時に備えて用意していた折り畳み傘はつい最近無くした。

 

最悪だ。本当に。濡れて帰る判断をさっさとしなければいけないのだろうが、中々下駄箱から出る踏ん切りがつかない。

 

そんなこんなをしていたらそこそこの時間が経ってしまっていた。人気も少なくなっている。もう決心の時だろう。雨はやむ気配がない。そのまま一歩踏み出そうと考えた、その時だった。

 

「あれ?どうしたの?」

 

振り向くとそこには水野がいた。一人でいる姿は珍しい。普段は友達と帰っているはずなのだが。どうしたのか。なんて言うと意識をしているように思えるかもしれないが彼女たちは目立つのだ。他意はない。

 

「いや、なんでもない。じゃあ、また明日」

 

「ちょっと待って」

 

そう言ってここから出ようとしたところで腕を掴まれる。

 

「一緒に帰ろ。私は傘あるからさー」

 

俺には彼女が女神に見えた。

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