クズな自分を愛してくれたあなたへ   作:サラメンス

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4 邂逅

 未だ衰えを見せない雨は轟々という音を鳴らしながら俺たちへ降りかぶっている。俺は今水野と一つの傘に入りながら一緒に下校をしている。正に渡りに船であった。

 

だが、水野の持ってきた傘というのがあんまり大きいものでは無いので結構近づいてしまっている。折り畳み傘なのだろう、模様は意外にも紫のアジサイだった。そこまで可愛いとは思えない。陽キャの彼女からはやっぱり想像できない物なので、もしかしたら高校デビューしただろうかと思った。

 

というか肩と肩は密着してしまっている。近い。相合傘だということを意識してしまうと途端に恥ずかしくなってきた。大丈夫だ。意識しなければ。

 

「ありがとう。本当に助かったよ」

 

本心からの言葉で、そう思った。あの時部活をしている友達と別れた帰りだったようで、そこで偶然下駄箱で項垂れていた俺と鉢合わせたのだった。

 

「しっかし、災難だったね。忘れたわけじゃないんでしょ?朝持ってきてるの見たよ」

 

「そのはずなんだけどね。多分誰かに持ってかれたよ。何回か探しても無かったから」

 

しかし許せない話だ。水野がたまたま声をかけてくれたからどうにかなったものの、そうでなければビショビショに濡れて寒い中で帰宅をする所だった。

 

「私も盗まれたことあってから折り畳み傘にしたんだよね。まぁ、私のおかげで濡れないから感謝してねー」

 

ふふーん、と得意げな表情でこちらに顔を向けてくる。俺の方が背が高いのでこちらが見下ろす形になっている。しかし至近距離で顔を見ると本当に整っていると感じる。まつ毛なっがい。伏し目の時とかすっごいし。

 

「もしかして、私に見惚れちゃった?うふふ。いーよ、いっぱい見ても」

 

やばい。普通にバレてた。慌てて目を逸らす。というか近いのが原因だ。年頃の可愛い女の子が至近距離にいて正常な判断を下すことは困難である。いや、別に遠くても可愛いのは間違いないだろうけど。

 

「ごめんごめん。傘ありがとう」

 

そんなことを言いながらさりげなーく傘の場所は固定しつつ自分だけをやや外に避ける。男子であり、背は一応俺の方が高いため傘を持っている。ところが、

 

「こらこら、濡れるでしょうが。ダメだって。風邪ひくよ?」

 

あろうことか彼女は腕に身体をギュッと密着させてきた。まずいまずい。温かみを感じる。それ以外にはもう何も考えられない。

 

「ア、ハイ」

 

「あ、そこ水たまりあるから気を付けてね」

 

「ハイ」

 

「悟くんきょどりすぎだよー。私もしかして可愛すぎか!?魔性の女なのか!?」

 

「可愛いよ、水野は」

 

あまり考えずに出た一言だった。彼女は言われ慣れているのだろうなとそう考えて反応を見ようとすると、顔が赤かった。そうしてそっぽを向いた。これはもしかして逆転のチャンスか?

 

「うぅー。この女たらし。しかも今私の事呼び捨てした―。そんなこといっぱい色んな娘に言ってるんでしょ。もう!」

 

「そんなことは無いんだけど。本当に思っただけだし」

 

俺も顔が赤くなってるのだろうがそんなの知った事では無い。適当にゴリ押す。とりあえずこの場を上手く切り抜けたい。

 

「っー!あ、ありがと。お礼はちゃんと言うから」

 

こちらを掴む腕の力が少し強くなった気がした。

 

*

 

「そういえば俺の家の方に来てもらってるけど、家こっち側でいいんだっけ」

 

雨は先程よりも更に強まってきていた。少し歩いて身体の熱さもやや治まった、そんな時にふと疑問に思った。もし仮に家が逆方向とかなら大変申し訳ないことになる。

 

「いやー、全然大丈夫だから。悟くんは気にしなくて大丈夫だよー」

 

なんというか、微妙に話が噛み合っていない気がする。これは恐らくそういうことなんだろうな。こうなれば聞くしかない。

 

「正直に答えて欲しいんだけど、家の方向こっちじゃなかったりする?」

 

返事は、無い。そんなに答えにくい質問だっただろうか。仕方が無いのでちょっと大きな声で。

 

「水野さん!」

 

ビクッと一瞬動揺したかのように思えたが次の瞬間にはそれを感じさせない、いつもの口調で話した。

 

「うん、そうだよ。ところで、そうだとしたらどうするの?」

 

雨はまだ止みそうにない。何かしらの雨具は買わなければいけないな。そうなると、この先のルートを考えてコンビニが歩いて何分か後にあったのを思い出した。

 

「ここからちょっと行ったらコンビニがあって、そこで傘か何かを買っていくよ。そこで解散ってことでいいよね?」

 

「へぇ。都合のいいとこまで来たら私は捨てるんだ。ふぅん」

 

いつもの調子で意味の分からないことを言う。捨てる?どういうことだろう。

 

「そんな、捨てるだなんて。ただ、水野さん女の子だし。あんまり暗くなってからになるとよくないと思って」

 

「嘘嘘、ジョーダンだよ。びっくりした?私のこと考えてくれてたんだよね。ありがと」

 

なんだ、冗談か。ちょっと焦った。こっそり顔を見てみたが、いつもの様に笑う彼女がいた。

 

「びっくりしたよ。良かった。冗談で」

 

「場所はこのまま真っ直ぐでいいんでしょ?」

 

あまり行きはしないけど大体その辺に合ったとは記憶している。こういう時に文明の利器ことスマホを使いたいんだけど、片腕が塞がっているので微妙に使えない。まぁ、大丈夫なはずだ。

 

「うん、たしかそうだね。そんなに時間かからないと思う」

 

「それじゃ、さっさと行きましょ。あ、足元には気を付けてね」

 

彼女は優しい。それに気遣いが出来る。俺が傘にだけ集中しているのを見て、そんなことを言ってくれたのだろう。とてもありがたい限りだ。おかげで大雨なのに靴はそこまで濡れていない。

 

そんなことを話していたらそう時間はかからずに目的地にたどり着く事が出来た。傘を畳みたいのだが、何故か屋根があるところに来ても彼女は腕を離そうとしていなかった。

 

「えっと、傘畳みたいから」

 

「あー、ごめんごめん。忘れてた」

 

そんなことを言いながら彼女は腕を離した。名残惜しい、そう感じてしまった自分の下心が嫌になった。しっかり傘から水を切って彼女へ渡す。

 

さてと、さっさと買って帰ろう。俺はやや足早に店の中に入った。

 

「さっきの冗談だと、本当にそう思った?」

 

*

 

少し割高だか背に腹は代えられない。俺はとりあえず応急処置にとビニール傘を選んだ。その内目立つデザインを買うか折り畳みを買うかしなきゃな。またこういうことがあっても困る。

 

「あっざしたー」

 

覇気のないバイトの声を背に受けここを後にする。今日は色々あった激動の一日だった。疲れた。しかし、水野はなんで俺みたいなやつに関わってきているのか。謎だ。ついさっき買った傘を差して俺は帰路に着く。

 

「おーい。悟くん」

 

驚いた。もう帰ったとばかり思いこんでいたのだが、コンビニに用でもあったのだろうか。

 

「え?なんで?」

 

「ほら、まだ挨拶してなかったじゃん。帰りの。さっき急に行っちゃったじゃん」

 

律義だなと思った。その為だけに待ってくれたとは。本当に申し訳ないという気持ちしかない。情けないなぁ俺って。自己嫌悪に陥りそうになったがそんなことをしていてもしょうがないので簡潔に終わらせる。

 

「あー、そうだったか。待たせてごめん。じゃあ。さよなら」

 

「うん、また明日。あとRINEするからきちんと見てね。じゃあね」

 

手を胸の前で控えめに振りながら来た道の方向へ進んでいった。俺も少し恥ずかしかったが手を振った。流石にこれが俺宛てではないということは無いだろうから。

 

しかし彼女はまたという言葉をよく使う。そんなことを言われるとどうしても期待してしまう。明日も話せるといいな、そう思った。

 

*

 

家の近くまで来て気が付いた。家の前に知らない人が立っている。女性、だろうか。この雨の中、傘も刺さずにぼうっと突っ立ってる。近くには小ぶりのトランクケースが一つだけ。

 

もしかして、幽霊か?非現実的な考察をしてしまうほどにはそれは不気味だ。上から下まで黒一色のワンピースに黒のケープだろうか。装飾品の類は何もつけていない。顔も髪の毛が張りついているのと、俯いていてよく見えない。

 

通報したほうが良いだろうか。いや、でもそれで一般人だったら申し訳ないことに。うーん。どのみち、家には入るしかないので覚悟を決めるしかないか。

 

一応警察への連絡の用意はしておいて俺は彼女?の近くへ行くことにした。

 

「えっと、こちらに何か御用ですかね?」

 

近づいて声を掛けてみると、ガバッと顔を上げてこちらを見てきた。というかすごい美人だ。切れ長の瞳から俺を見るその視線は絶対零度の如き冷たさであった。さしたる感情すらも感じる事が出来ない。

 

「皆川悟様とお見受けいたしましたが、お間違いなかったでしょうか」

 

「ああ、そうだけど。君は?」

 

そこまで俺が言うと彼女は何の躊躇いもなく膝を突こうとした。おいおいおい。ここ外だぞ。というか一体何なんだ。慌てて止めさせる。案の定、服はぐっしょりと濡れていた。そこで気付く。

 

「とりあえず、誰でもいいから家の中入って。風呂に入らないと風邪ひくよ。ほら、早く」

 

「ああ、そういえばそうでしたね。わかりました、寛大な心、感謝いたします」

 

そう言って深々と頭を下げてきた。長い一日は、どうやらまだ終わりそうにないようだ。

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