クズな自分を愛してくれたあなたへ   作:サラメンス

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最近「ご都合主義」のタグを付けさせていただきました。この作品は作者の書きたいように書いているものです。そのため、展開的に荒かったり強引さを感じることがこれまでも、これからもあるかと思います。
ですが、そんな作品を応援してくださる読者様のおかげで書けています。この場を借りて感謝をさせていただきます。ありがとうございます。
長々とすみませんでした。


6 氷解

「しかし本当に驚いたよ。明莉さ、明莉。すごく大人っぽいし」

 

「はい、お兄様。そう言っていただけるととてもありがたいです。人と話す機会があまり無いもので。迷惑などかけていないでしょうか。変なところなどは」

 

「大丈夫だよ。気にしないで」

 

「ありがとうございます。何かあればいつでも言って下さい。直します」

 

そんな様な俺の前で考えなくてもいいような疑問を口にしてくる。話した時間は全然多くは無いがそれでも明莉の人となりについては何となくわかった。

 

彼女は自己評価が異常に低い。卑屈とまで言っても良いと思う。だが、その理由が分からない。まだ話を全て聞いた訳でもないが、それにしても境遇がおかしい。彼女のせいではないとしたら昨日聞いた親の存在であろうか。

 

会話が一段落ついたからか、所在なさげに身体を縮めながら正座をする彼女。顔は俯いている。不安なのだろう。怖いのだろう。未知の空間が自らの害にならないか。だからこうした態度を取るのではないか。そう思った。

 

ここは今日から君の家だよ。だからそんな風にならなくても良いよ。そんなことを言ってあげたいのだが、それを俺が言う資格はない。俺は結局親の庇護下では生きていけない一学生だからだ。早く高校を卒業して独り立ちしたいのだが。

 

俯いていて気が付いたが、彼女の髪がまだ乾いていない。それなりに長い髪が背中やそこらに張り付いている。女性の髪は命だとはよく言うものだが、もしかしてそういったことを意識したことも無かったのではないのだろうか。

 

「あのさ、髪乾かして来たら。さっきは何もわからなかったし、事情を聞きたかったからすぐ呼び出しちゃったけど。行って、いいよ」

 

「いえ、気持ちは有難いのですが、しかし私のようなものがそんなことをする必要があるのでしょうか。わかりません」

 

きょとんとした顔でこちらに視線を預けてくる。本当に意味がわかっていないとばかりの様子だ。本心なのだろう。何というか、俺から強引に動かさないといけない時もこれからありそうだなと思った。

 

「俺からのお願いなんだけど、だめかな。濡れたままだと髪痛んじゃうよ」

 

「わかりました。お気遣いありがとうございます。速やかに行って参ります」

 

そんなことを言いながら軽いお辞儀をし、足早に洗面台の方へ駆けて行った。しかし、まぁ。結構大変だな。俺のことは嫌ってはいないと思うのだが、まだ怯える対象という認識なのだろう。

 

当然だと思う。この短期間か、下手したらずっとひどい仕打ちを受けていたのなら、自分以外信じられるはずも無いと思う。だとしても、明莉には幸せになって欲しい、自分と何となく重ね合わせてしまってそう思った。

 

遅い。ボーっと待っていたが既にもう10分は経っている。ドライヤーの特徴的な音も聞こえてこないし。もしかして何かあったのだろうか。心配だ。

 

そんなこんなで行ってみると、そこにはコンセントの刺さっていないドライヤーを手に持ったまま、棒立ちしている彼女の姿を発見することになった。

 

*

 

「お手を煩わせてしまって大変申し訳ございません」

 

「気にしなくていいから、本当に」

 

結局のところ、ああなってしまった原因としては彼女が使い方を分からなかったのが原因だ。最初に感じた利発そうな印象は間違ってはいなかったのだろうが、やはり絶望的なまでの家庭環境の悪さにイライラしてしまう。

 

俺がつい先ほど椅子に座らせて後ろで髪を乾かした。やはり遠慮をされたが、俺がそうしたいからだと言えばあっさりと頷いてくれた。自分の意志は徹底的に殺す割に俺からのいう事であれば聞く。そんなアンバランスさがある。

 

手入れなどする時間や暇が無かったのだろうが、その割には髪の毛は艶もあり綺麗だった。一応許可を取ったが手櫛でも絡まることは無く下まで落ちていく。若さのたまものか。

 

俺がやった理由は本音としても危なっかしいという理由もあった。流石に初めて使うのならある程度の手本は見せる必要がある。温風とか色々危険だし。俺もそんな経験は無いので上手くできたかについては何とも言えなかったが、最低限彼女よりはよく出来たと思う。

 

今、俺たちは鏡の前にいる。明莉が座っていて俺が背後に立っている。そんな構図だ。もう髪は乾かし終わった。またリビングに戻って話の続きでもしたい。なのだが、彼女は先ほどから口を開こうとしてはすぐ閉じるという動作を繰り返している。

 

鏡を通じてそれが見えてしまう。きっと何か話したいことでもあるのかなと思った。だからこの無言の時間を俺から終わらせようとは思わない。少し経って、意を決したかのように下唇を噛んで、そうして話し始めた。

 

「あの、その、私は、ええっと」

 

「いいよ。落ち着いてゆっくりでいいから。深呼吸でもして」

 

「はい、ありがとうございます。すーっ。はーっ。ふぅ」

 

荒い呼吸をしている。落ち着かない様子に反射的に俺は背中に手を当ててそっとさすってしまった。妹とは言え、今日初めて会った人にそんなことをしてしまった。他はなんだかんだで異常事態に対処するためのいわば、仕方のないことだったが。

 

「ごめんね。辛そうだったから。嫌だったよね」

 

「その、できれば止めないでいただけますか。その、とても落ち着きますので」

 

離そうとした瞬間を感じたのか、そんなことを言われて止める人間がどこにいるのだろうか。彼女が嫌では無いなら。そう考え俺はそのまま行為を継続する。女性らしい膨らみというよりは、どことなく薄さを感じさせる。何となく感じていたことだ。女性にしてはやや高めの身長の割に軽かった。食事も満足に取っていなかったのだろうか。

 

「ありがとうございます。そしてすみません。かなり落ち着きました。それでなんですが、お兄様は私の事を歓迎すると言って頂きました。本当に嬉しかったです」

 

そこまで言って、彼女は後ろへ振り向く。俺を少し見上げる形になる。顔の距離が近くなっている。泣きそうな顔で目を震わせて、喉を鳴らす。

 

「しかし、私は不安なのです。私は何もできません。頭もよくありません。この通り、貧相な身体です。ですから、何も返せないのです。ですので、私に何かをしていただく必要もありません。大丈夫です。大丈夫なんです」

 

俺は明莉に思い切り抱きついた。いなくならないように、自分でもわかる強めの力で。喉を震わす声にならない声が聞こえた。

 

「俺はまだ、明莉のことをよくわかっていない。勿論俺の事だって全然わからないと思う。でも、聞いて欲しい。明莉は自分で言うようなそんな最低な人間なんかじゃない。だから、いなくならないでほしい。俺の我儘だけど」

 

「私は、私は!」

 

しばらくの間そうしていただろうか。身体をそっと離す。痛かっただろうが、本当に申し訳ない。でも、こうでもしないといなくなってしまいそうな、そんな気がして

 

「泣いて、いるのですか。私の為に」

 

「俺は泣いてるのか。そっか。でも、明莉だって」

 

俺は視界がぐしゃぐしゃに歪みながらも、それでも至近距離なのだからそれぐらいわかる。俺と同じく、泣いている。感情の奔流で冷静でいる事が出来ない。

 

「昔からさ、親がなんか変で。俺の事なんかなんとも思っていないようで、話も全然できなくて。嫌われてて。寂しくて。俺の我儘なんだけど、自分の事ばっかりで最低だと思うけど、それでも兄として。家族になってくれないかな。明莉にも我儘を言ってほしいんだけど、ダメかな」

 

「そんなの、私にとって都合が良すぎます。よろしいのでしょうか。そんな」

 

「俺はそうしたい。それに無理強いは出来ないけどそうしてほしい」

 

心からの気持ちで、そう言った。俺は温かい家族が欲しい。ちゃんと話がしたい。笑ったり、泣いたり、喧嘩したり、それでも最後は仲直りをして。そんなような。

 

「勿論です。私も同じ気持ちです。貴方と家族になりたいです」

 

あぁ、今日は一生忘れられない日になる。この日、やっと俺は妹という名の本当の家族に出会える事が出来たのだから。明莉は泣きながら、それでも笑っていた。

 

*

 

「あの、こんなことを言うのも差し出がましいとは存じますが、髪をとかしていただけませんか」

 

先ほどとあまり相違ない体制で、今度は髪をとかしている。俺としてはするつもりは全く無かったのだが、自分の意志を出さない明莉自身からのお願いだったので聞かないなんてことは出来ない。

 

彼女もやはり年頃の女子だからだろう。持ち物の一つにヘアブラシがあった。それを拝借して現在進行形で行っているのだが、俺がやっていいのかという疑念が付き纏う。

 

「ところでさ、俺全然手馴れてないし下手だと思うけど本当に良いの?」

 

「勿論です。髪を乾かしていただいた時もとても良かったです。もっとも、お兄様のご迷惑でなければですが」

 

おずおずと不安そうな目を鏡越しに合わされては何も言えない。それに今拒絶すれば彼女は何をするかわからない。まだ不安定なのは間違いないのだから。もし今度やるときを考えてやり方でも調べておこうか。そんなことを考えた。

 

「俺の事を頼ってくれて嬉しいよ。他に何かあればいつでも言ってね」

 

「そうですね。話させていただきます。ありがとうございます」

 

髪の毛に集中しつつも、何となしに鏡を見る。平凡な自分と、まだ大人にはなっていないが美しさを感じさせる妹がいた。表情に硬さはある物の悪感情は無い。

 

そして俺に頭を預けてくれている。少なくとも今回の一件で少しは信頼を勝ち取れたと思う。ならば、その信頼は決して裏切ってはいけない。そう思った。

 

「そういえばさ、折角兄弟になれたんだからさ、こう、フレンドリーに話してくれても良いんじゃないかなって。全然気にしてないけど」

 

「これまでずっとそうしてきたものですから、すぐに変えられるものでは無いです。すみません。その、距離を感じるとは思いますが、私は全然そんなつもりではなくて」

 

「あー、そういうつもりで言ったわけじゃなくて。気にしないで。うん。俺も中々慣れるものだと思ってないし。変なこと言ってごめん」

 

沈黙がここら一帯を支配する。どうやらやってしまったらしい。

 

「一応終わったよ。一応細心の注意を払いながらやったつもりだけど」

 

「ありがとうございます。完璧だと思います。流石ですね。お兄様は」

 

きちんと顔を向けられ、彼女からのお礼をもらう。本心だと良いんだけどそう思ってなくても言ってくれそうだ。髪もとかし終わったので手持ち無沙汰になった。何か話そう、そう思ったそんな時だった。

 

「気持ちのいいものでは無いですが、それでもお兄様には聞いていただきたいことがあります。私のこれまでについでです」

 

真剣な表情をする明莉。俺もそれについては聞きたいと思っていた。話したくないのならそのままでもいいと思っていたが、そちらからの提案ならきっと決心がついたことなのだろう。俺は返事をしようとした。だが。

 

すぐにわかった。俺たち二人しかいなかった空間に入った雑音。次いでガチャッとドアを開ける。帰ってきたのだ。両親が。

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