陰の実力者と二週目主人公。   作:korotuki

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 更新です!
 二期も安定して面白いですね……!


011 偽の陰

   

 昨日、うちの生徒が襲われた。

 

 いや正確に言うなら襲いに行った(・・・・・・)、というのが正しいのだが……

 

「王女が妙に血の気が多いのは、いつの時代も同じか」

 

 今現在魔剣士学園はお昼休憩の時間。俺ことアガレスは学校の屋上で佇んでいた。

 考え事をするのに最適というのもあるが、同時にこっそり屋上を利用しようと企む生徒に対する抑止力としてもここにいるのだが……まぁ些細なことだ。

 

 パンを一口食べる。個人的には米の方が好きなのだが、土地柄もあってかやはりこちらでは小麦を使った食品の方が主流らしい。

 

(ここ数日から急に現れたシャドウガーデンを名乗る人斬りの噂……十中八九、教団の仕業だろうな。てか本人たちから申告があったし)

 

 噂が出始めてすぐの頃、"ニュー"を名乗るシャドウガーデンのメンバーから「"シャドウガーデン"を騙る人斬り集団が出ているが、当然私たちは何も関与していない」という説明を受けたことを思い出す。

 

 それに対し情報を鵜呑みにしてはいなかったが、そこで昨日襲われた生徒――アレクシア・ミドガルからの発言(シャドウがそいつらを殺した。またそもそも襲撃者は男だったなど)によって。俺は確かにこの人斬り事件がシャドウガーデンではなく、それを騙る教団の仕業であると知ることが出来た。

 

(問題は、そもディアボロス教団はなんでわざわざシャドウガーデンを騙って一般人を殺して回ってるのか……)

 

 シンプルに考えれば、悪名を被せるか。シャドウガーデン自体を炙り出そうとしてるかの二択だが……うぅむ?

 

「……ここにいたのですね」

 

 ふと、背後から声がかかる。

 

 誰も来ないはずの屋上で声をかけられたことに少し驚きつつも振り抜けば。そこにはミドガル魔剣士学園の制服をきたお団子ヘアーの女子生徒がいた。

 

 反射的に教職として入場禁止の屋上へと入ってきた彼女へと注意の言葉が口から出そうとしていたが、ふとその丸眼鏡の奥から見えた魔力の光を見て。彼女の正体に合点がいった。

 

「ニューさんか? 制服似合ってるな」

「どうも。それで、騎士団と貴方の方で何か掴めましたか?」

 

 顔をピクリとも動かさない彼女――経歴を信じるなら、悪魔憑きによって今までの全てを失い朽ちかけていたところをシャドウに救われた子たち――に少しの寂寥感を感じてしまう。

 

「教団が動いてるって話しか聞かないな。ローランは潜入中だから何とも言えないし」

「そうですか」

「あとはまぁ……教団が、アンタらを炙り出すか。汚名を着せようとしてるぐらい?」

 

 俺の発言に、特になんとも思っていないようにニューさんが同意するように頷く。

 

「その可能性が高いでしょうね。先日、実働隊を捕縛したのですが……」

「…皆。薬と洗脳で壊されてたと」

 

 教団の尖兵。その多くは捨て子や拐い子を教団が掠め取り、"教育"を施された【ディアボロス・チルドレン】と呼ばれる集団だ。

 

 正気を喪失してしまった操り人形"3rd"から、正気を保てた"2nd"。そして教育の結果強い力を持つに至った"1st"とそれぞれ階級がある。……どのみち胸糞悪いことには変わらない。

 

 だがまぁ、よくある事(・・・・・)ではあるが。

 

「どうされました?」

「……いや、で。わざわざ来たってことは共有事項でもあるのか?」

 

「はい、王都で。ネームド・チルドレンの【叛逆遊戯】のレックスが確認されました。とアルファ様からの伝言です」

 

 ネームド・チルドレン……確か、ディアボロス・チルドレンの中でも特に功績を上げたものに贈られる。名前の通りの"二つ名(ネームド)"持ち。

 

 実力に関しては、昔かち合った言っていたローランが「アンタなら問題ないだろ」とのことなので。まぁ気にしなくてもいいか。

 

「ありがとう。ローランが戻ってき次第、こちらも情報を渡す……あと。俺の炎の提供も」

「ではそのように。失礼します」

 

 その言葉を最後に、ニューさんは屋上から姿を消す。

 

 ふと屋上に繋がる扉を見やると、鍵が空いているのを確認できる。お得意のスライムスーツの形状変化に任せたピッキングで、ここに侵入してきたらしい。

 

「……外からはいいんだが、内は意外とザルなんだよな。魔剣士学校」

 

 時計を見るとそろそろ昼休憩も終盤。そろそろ戻るころかと思った時。

 

 

 

「おっ!屋上空いてるぜ!!おーいみんな…あ……」

 

 鍵がかかっていたのならそのまま撤退出来たのだろうが、空いていたことにより階下の仲間に呼び掛けながら屋上に入ってきた男子生徒と目があった。

 

 そのまま彼はしばらく固まっていたが、ドタドタと複数人が階段を駆け上がる音が聞こえてきたかと思うとバン!と扉を閉め、体全体を使ってブロックした。

 

「俺だけでぇ!!勘弁してもらえないでしょうかァ!」

 

「その意気やよし。10秒待ってやる」

 

「みんな逃げろォ!!!」

 

 男子生徒の勇気に免じてやると、彼は悲鳴のような大声を上げ。その言葉から状況を理解したのだろう仲間たちは騒ぎ声とともに来た時と同じようにドタドタと降りていった。

 

 そんな青春の1ページを眺めながらも脳内で時間を数え、終わる刻を待つ。

 

「………フゥ…。よし」

 

 『待つ』とは言ったが、『逃がす』と言った覚えはない。

 

 

 


 

 

 

 あの後無事(?)屋上侵入未遂の複数犯を取っ捕まえ、魔剣士学園らしく放課後の自主訓練への参加を言い渡した後……ちなみにその際にヒョロくんとジャガくんが婚約者がいる、また法を逸した行為で調査した女子生徒にチョコレートを渡そうとし。案の定ボッコボコにされたという珍事があったらしい。

 

 シドくん、無関係ならいいんだが…てか二人はなにやってるんだ………。

 

 それはそれとしてシドくんは昨日二人によって「町中で漏らした人」という汚名()を着せられたらしい。正直シドくんが二人を陥れたってたのが真実だとしても俺は驚かない。

 

 益体もない考えだなとそれを振り払うと、俺は目の前で槍を振るうスズーキの姿を見る。

 

「フッ!ホッ……やあ!!」

 

 三連突き、からの薙ぎ払い。

 

 その姿はつい数日前に槍を初めて握ったとは思えないほどに堂に入っていた。

 

 槍はそのリーチと重量で敵を圧倒するものだが、槍使いはそれに振り回されてはならない。それを見事に体現している。

 

 これなら――と考えたところで、スズキは石突を地面にコン!と突き立てた。どうやら休憩にするらしい。

 

「どうだスズーキ、使い心地は」

「どうだと言われても……使ってまだ数日ですよ?」

「その数日でそこまで使えてるなら、大したもんだよお前は」

 

 そうですかね…とクールに振る舞おうとしながらも、喜色を隠せていないその姿を微笑ましく思いつつも。手に分厚いタコ、そして目にはクマがあることを確認できた。

 

 随分と努力したのだろう。そして、それに裏付けされた確かな地力……なら、きっと。

 

「スズーキ」

「なんです?」

「数日後のブシン祭の選抜大会あるだろ?」

「ありますね。クリスティーナも出場するって……」

 

「お前、あれ出ろ」

「…………えぇ!?」

 

 スズーキの大声に思わず顔をしかめる。急に言ったのは確かだが、そんなにも叫ばなくても…とキィンと耳鳴りのする耳を掌で叩く。

 

「む、無理ですよ! ぼくなんかがそんな……一回戦だって…!?」

「無理かどうかは結果が決めることだろ? それに、そこまで鍛練しといて自信がないってのは。最早魔剣士向いてないぞ」

「……ッ」

 

 俺の言葉(はんろん)に、彼は狼狽えた様子を見せる。

 

 神様だって、実力以前に勝つ(やる)気がないやつに微笑んでやれるほど奉仕体質ではないだろう。

 何はともあれまずはチャレンジ、当たって砕けろとまでの無茶を言うつもりはないが……いや骨は下手すると砕けるか。

 

「…何も死にに行け。なんて言ってないだろ?」

「うぅ…しかし……」

 

 今だなお。踏ん切りがつかない様子に呆れそうになってしまうが。俺はスズーキの師匠だ、その程度で投げ出すなんてことは許されない……少し強引だが。

 

「あ、アガレス先生?」

 

 俺はおもむろにそこらに転がっていた指先大の石ころを手に持つ。

 

 魔力伝導率一桁でも行けば御の字であろうそれを、壊れない程度に握り――

 

「スズーキ」

「んな――ッ」

 

 ヒュン、コン、ッカァン!

 

 空を切る音、軽い衝突音、そして甲高い反響音が続けざに響いた。

 

 俺の手からは石ころがなくなっており、スズーキは冷や汗を滴しながら槍を振り抜いた格好で固まっていた。

 

「――!? い、いきなり何をするんですか!」

「確認だよ。――今の(・・)、剣でも出来るやつはそういないだろうさ」

 

 自分がやったことに戸惑いながらも、こちらに詰め寄ってくるスズーキを留める。

 

 起きたことは簡単だ。俺が石をスズーキに向かって投げつけ、スズーキはそれに対して槍を構え振り払い。明後日の方向へ跳ね返された石が近くの物置小屋のトタン外壁に激突。甲高い音が鳴り響いた。

 

 自分へ向かってきた障害を弾き飛ばす……それも剣や魔物の爪牙ではなく、指に乗る程度の小さな小石。

 

「発射された弾丸を避ける、もしくは防御できる魔剣士はそりゃ多いだろうさ。でも、弾丸(タマ)弾きとなればそうはいかない」

「今のは小石です!」

「小石で出来るなら、実力を上げれば出来るさ」

 

 それも演舞ではなく、突発的な状況でやってのけた。

 

 とっさに動ける思考力と、どのように迎撃すればいいかという判断力。そしてそれを間違いなく実行出来る度胸と努力。

 

「はっきり言って、今のお前と同じ芸当が出来る奴はこのミドガル魔剣士学園でも四割といない。これは世辞じゃなくて、短いなりに学年関係なく様々な生徒を見てきた臨時教師アガレスとしての見解だ」

「…………。」

「スズーキが数日前に槍を取ったように……俺を信じてくれないか?」

 

 確かに魔力に関してはまだ一般の領域を出ないだろう。しかし技量だけなら、スズーキは"学生"の域から脱し始めている。

 

 それを自覚し、飛躍への足掛かりにして欲しいんだが……。

 

「……分かりました」

 

 ふと、飲み込んだ中に微かな観念を混ぜ込んだ声音を持ってスズーキはようやく肯定の返答をして。その言葉を聞いて俺は少しだけ安堵した。

 

「なら良し! 紙はこっちで書いとくぞ。なぁに余程くじ運が悪くない限り三回戦までは行けるさ」

 

 それを悟らせないため努めて明るい調子でスズーキの肩をバンバンと叩く。

 

「い、痛いですよ! …その、アガレス先生」

「なんだ?」

 

 自然と上から彼の顔を覗き込む形となる。スズーキの顔にはまだ不安と恐れがあったが、目だけは仄かに輝き始めていた。

 

 

 

「やるからには、勝ちたいです」

「――、当然! そうでなきゃな」

 

 魔剣士としてはともかく、師匠としては未熟もいいとこである俺は。そんな彼に負けないようにしなければと改めて決意を固めた。

 

「それじゃあそんか勝ち気になってくれたスズーキ。俺と一つ約束をしよう」

「な、なんですか? まさか"負けは絶対認めない"とかですか」

 

 約束という言葉になぜか怯えた様子見せたスズーキ。いや別にお前がいきなり優勝できるなんてことは微塵も思ってないがと言いかけた辛辣な自分をねじふせた。

 

「大会前日はしっかりと寝て、大会当日の飯は腹一杯食べる。そして……試合はしっかりと楽しむこと」

「へ……?」

「スズーキ最近寝てないし。食ってる間もどーせ変に考え事して大して食べてないだろ?」

 

 俺の言葉に、スズーキは「なぜバレた」と言いたげな顔をする。バレいでか。

 

「当日コンディションが悪くてサラーッと負けました~。だったら俺もお前もやりきれないからな、いいな?」

「はい……その、努力します」

「よろしい」

 

 物の見事に緊張しているが、言わなかったら俺が言った彼の生活習慣を前日もなぞることになっていただろう。意識して、無理矢理にも体調を整えさせないといけない……はずだ。

 

 うぅん…教師の参考書。もうちょっも読んでみるべきだろうか……

 

「それじゃあ、今日はそんなところだ。頑張れよ~!」

「はい! その…背中を押してくれてありがとうございます!!」

 

 背を向けて去る俺に向かってスズーキがそう言った。

「バカめ、お前が努力してるから。俺も背中を押そうと言う気になったのさ」というのは流石に恥ずかしく、背中越しに手を振るだけですませた。

 

 

 


 

 

 

 夜、それも宵闇といっていい程に遅い時刻。

 

 王都からそう遠くない廃村にある古びた教会、そこにて。夜の闇より濃く醜悪な悪が動こうとしていた。

 

『レックス。チルドレン共による作戦はどうなっている』

 

 寂れた教会のステンドグラスが、そんな悪を月光により辛うじて写し出していた。悪の名は――ディアボロス教団。

 

「問題はねぇ。指示通り言葉もきけねぇ3rdしか動員してあるから情報隠蔽もバッチリだ」

 

 本来は教徒に向けて教えを説くための講壇は端に追いやられ、その代わりにおかれた椅子にドカリと座った全身鎧にローブを纏った人物と。赤髪にその凶暴さを欠片も隠そうとしない粗暴な青年が向かい合い話をしていた。

 

『騎士団内部の内通者による。擦り付け(・・・・)の方は?』

「そりゃあ俺の管轄外だぜ「痩騎士」さん。自慢じゃねぇが上っ面取り繕うのは苦手なタチでな、アンタの方がうめぇだろ?」

『………』

 

 レックスと呼ばれた青年からのからかいを混ぜた言葉に、痩騎士と呼ばれた男は沈黙で返す。

 その態度に肩をすくめながら、レックスは「まぁいい」と話を切り替える。

 

「んなことより、襲撃の前準備はうまくいってんのか?」

『問題は、ない』

 

 先程の自分の回答をそのままなぞらえたような返答はレックスの気分を逆撫でたが。彼はそれを飲み込む。

 

「内部工作については疑ってねぇよ。門番を始末し連絡網を遮断、作戦の要であるアーティファクトを用いて学園内の奴らから魔力を吸収すると同時に戦力を無為にする……そして、あんたがもう一つのアーティファクトによって力を取り戻す」

『分かっているではないか。何の問題がある』

「いるだろ。教師共の中に、とびっきり面倒臭そうなのが」

 

『……アガレス・ヴェネルシンスか』

 

 そこでレックスの言わんとすることをようやっと認識した痩騎士は、僅かに考え込むような仕草を見せるた。それをすぐさま止め。甲冑越しにくぐもった吐息――おそらくは鼻で笑った――を吐いた。

 

『確かに実力もあり、アーティファクトも持っている。だが奴もまた魔剣士には変わらない……切り捨てればいいだけのことよ』

「――そう簡単にいくかねぇ」

『なにか、懸念点でもあるのか? それとも……怯えているのか』

 

「怯えてる…あぁ確かにそうかもな」

 

 高慢さがありありと見てとれるような風貌であるレックスはしかし、挑発ともとれる痩騎士の言葉を意外にもそのまま受け止めてみせた。

 

『ほう……根拠は?』

「ねぇ。強いて言うならカンだ」

『カン、勘と来たか……』

 

 自分でも言語化出来ないことにイライラしているのか不躾な態度でそう言ったレックス。根拠もなく、理由も至極あいまいな物。多くの人は「戯れ言だ」と歯牙にかけなかっただろう。

 

 しかし痩騎士は、しばし顎に手を置き考えると。しばらくしてから口を開いた。

 

『――勘、と言われたなら仕方ないか。追加の人員を要請する』

「おいおい、いいのか?」

『貴様が言い出したことだろう? そも魔剣士の勘なら……私も散々世話になった』

 

 痩騎士はそこで、今まで座っていた椅子ゆっくりと立ち上がり歩き始めた。

 

 その姿は呼び名の通り痩せ細った老人を思わせるような細さだったが、見るものが見れば彼の動きには隙や無駄が少なく。それ相応の修練を積んだものだと分かるだろう。

 

 そのままレックスとすれ違い――その瞬間肩にポンと手を置き撫でた彼は、冷酷さが際立つ。底冷えした声音で囁いた。

 

『私の悲願を果たすために、不安要素は消しておきたのだよ……どんな小さなことでもね』

「……へっ、そうかい。その一助になれて光栄だ」

 

 怖がるどころか、余計に戦意を滾らせたようなレックスの様子をどこか満足げに見た痩騎士は。彼を伴って教会から出ていった。

 

 最後に教会に残っていたのは、痛いほどの沈黙。

 

 

 

 そう、沈黙だけ(・・・・)だった。

 

「…………、」

 

 暗闇から溶け出たように、1人の男が現れる。

 

 特に抜き足差し足をしている訳でもなく普通に歩いているのに、一切の足音や古びた教会の傷んだ木材が奏でる軋む音を出さない……"沈黙を発している"としか言い様がない黒スーツに黒仮面、黒手袋の男は。先程まで痩騎士が座っていた椅子へと腰かける。

 

「良いこと聞けたな」

 

 おもむろに仮面を外した男――アガレスの協力者であるローランは、悪戯が成功した悪童のように笑った。





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