陰の実力者と二週目主人公。   作:korotuki

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お久しぶりです〜!!!


012 始めてのこと。

   

 ミドガルでは年に一度世界最強の魔剣士を決める大会、通称"ブシン祭"が開催される。

 

 それに伴い、ミドガル魔剣士学園ではブシン祭での推薦枠の一つである"学生枠"を争うトーナメントが始まる。基本的には自主参加制のものではあるが……まぁ実質学園最強を決めるこの大会にこぞって参加しようとする者は少ない。

 

 参加するのはそれこそ学園最強を自負する強者か、無理をしてでも理想に邁進しようとする挑戦者か。もしくは――――

 

「…何やってるんだ、シドくん」

 

『ローズ様行けーッ!』

『ところであいつ誰!?』

『街中でウ○コぶちまけたって噂の奴じゃね』

『じゃあクソ野郎だな!!』

 

 一応貴族ばかりの筈なのだが、気性が荒くてなんぼの魔剣士の性なのか。先日嘘か真か街中で便意を催したという疑いがあるシドくんに対し凄まじいブーイングの嵐を浴びせる観客席の生徒たちに、眩しいような呆れたような気持ちを抱きながら闘技場の舞台にいるシドくんに眼を向ける。

 

 ……当の本人にやる気はあるようだが、それは能動的というよりかは受動的な物。内ではなく外に出場した理由がある? 賭け試合で第三者を経由して自分にでも賭けたのか?

 

 いや、さすがにここまで離れてると分からないし。背後関係が不明瞭すぎる……あまり憶測で語るものでもないしな。

 

「…緊張しているのですか?」

「イエ、ソンナコトハ」

「ふふっ。お互い気負わず、リラックスして戦いましょう!」

 

 緊張しているのか上の空なのか、よく分からない感じのシドくんと向かい合っているのは。アイリス王女卒業後【学園最強】の称号を継いだオリアナ王国の王女ローズ・オリアナ……個人的には、確かに総合力ではともかく爆発力ではクレアに軍配が上がると思うのだが…っと今は関係ないか。

 

 とにかく、学園屈指の実力者なのは間違いない。アレクシアと別れたことで忖度の必要もなくなったのか剣術クラスもいぜんと同じように下級へと戻されたシドくんには高すぎる壁である。

 

「……さすがに、負けるか」

 

 優先すべきこともあることだし、と俺は席を立つと。『試合開始!』と叫ぶ心配の声を背にしながら観客席から立ち去る。しかし、アリーナから出ていくことはしない。

 

 離れたことで小さくなっていく歓声――当惑したものが増えているのはなんなのだろうか――に耳を揺さぶられながらも、俺は目的地へと足を進めた。

 

"選手控え室 男子"

 

「おし、ここだな」

 

 何度か道を曲がり階段を降りた先のそう書かれている扉を見つけた俺は。それをガチャリと開け中へと入る。

 

「んお? アガレス先生じゃんどしたんー!?」

「ちょいと激励をな。頑張れよー」

「サンキュー!!」

 

 扉を開け中に入った俺にいの一番に気付いた学生にエールを送る。

 

 そのやり取りが周りへと伝わり結局ほぼ全ての選手に応援の言葉を言う羽目になりながらも、俺は一人の選手――もとい弟子であるスズーキを探す。

 

「…………。」

 

 しばらく探していると、控え室の隅っこのほうに、備え付けの椅子に座り思い詰めたような表情をしているスズーキを発見した。……まぁやっぱり、そうなってるよなぁ。

 

「スズーキ」

「……」

「…おい、スズーキ?」

 

 スズーキの前に立ち何度か声をかけるが、反応無し。すわ試合を前に緊張から気絶したか……なんてことはない。ただ考え事をして視野が狭くなってるのだろう。

 

「スーズーキ~?」

「おわっ…って、アガレス先生……」

「先生を無視しようなんて偉くなったな? ……冗談だ。緊張してるんだろ?」

 

 試しに肩を少し強めに揺らしてやると、顔を上げたスズーキと目があった。目だけで「不安でいっぱいです」とでと語りたげな彼は、少しだけその表情を和らげた。以外にも、その目元の隈の類いはなかった。

 

「寝られたようで何よりだ」

「クリスティーナ姉さん……ホープ本家の方が、僕の出場を聞き付けて『どうせ大した結果は挙げられないでしょうが、せめて体調は万全にして挑みなさい』とハーブティーを差し入れてくれたので、それで…」

「へぇ、いい親戚だな」

「………はい」

 

 ……むぅ、そのまま親戚の話で場を繋げ緊張を解せないかと思ったが。そこでスズーキが黙り込んでしまった。

 

(『緊張するな』って言ったところで、逆効果なのは明白か…うーん)

 

 自分で言うのも何だが、迷いこそすれ。後退りはあまりしない性分の為。こうした奴に対しどうすればいいのか、俺はあまり知らない。激励・発破の類いならまだ何とかなるのだが……

 

「すみません。スズーキ選手ですか?」

「は、はい」

 

 そんなことを考えていたら、トーナメントの運営と思わしき学生がスズーキの前へ駆け足で近付いてきた。生返事をするスズーキと、何故か横にいた俺に軽く会釈をした彼は。手に持ったファイルをパラパラと捲りながら衝撃の事実を告げた。

 

「あなたの次の対戦相手であるキケーン・スルド選手なのですが、対戦を辞退しました」

「え?」

「本人曰く『風水が悪い』とのことです。ハァ……そんな訳であなたは不戦勝。そのまま第二回戦へと進んでいただきます」

 

 頭痛を抑えるように――個人の価値基準を馬鹿にする意図はないが――とんでもない理由でトーナメントを辞退した選手への恨み辛みをこめかみを揉むことでなんとか飲み込んだ運営の生徒は、そのまま言葉を続ける。

 

「ですので、トーナメントの一回戦が終わるまでは待機。その後は二回戦で……先ほど結果が出ました。ローズ・オリアナ選手との試合となります」

「ろ、ローズ・オリアナ…生徒会長!?」

「では、これにて……アガレス先生も、失礼します」

 

 言うべきことが終わったからか、彼はさっさと控え室から去ってしまった……にしても。様子からして本当についさっきの決着だったらしい。やはり変なところで根の強い子だなシドくん。

 

 そして……

 

「そ、そんな。学園最強が相手なんて…!」

「スズーキ…」

 

 まあ案の定と言うべきか、スズーキはただでさえ血色が良いとは言えない状態だった顔色を更に青くしていた。

 

「……棄権、したいか?」

 

 本来なら聞かない方がいいのだろう、しかし聞かなければいけないことだと思った。

 

 その中には無理に戦わせてそこから戦闘行為そのものはのトラウマが~とかになったら目も当てられないという建前の類いはあったが、それよりもスズーキを慮ってしまう心から来るものだった。甘いのかもしれないが、俺も師匠初心者なので大目に見て欲しいところである。

 

「…怖いです。でも生徒会長に負けること自体はそんなに怖くありません。元から実力差がハッキリしていますし、それは最悪諦めがつきます。でも」

 

 スズーキはそこでチラリと俺を見た。

 

「それ以上に、先生にその…愛想を尽かされてしまうことが怖いんです。『変われそうになっている』そんな実感があるからこそ余計に……!」

 

 試合用に刃を潰した槍の持ち手を握ってスズーキがそう言った。

 

 …なんと言うべきなのか、迷ってしまった。試合とは直接関係ないことでナーバスになっていることを叱咤するのも、慕われていることを喜びそのまま激励するのもどちらも違うのではないかと。朧気ながらもそう思った。しかし内心を吐露した弟子に対して何も言葉を返さない、と言うのは一番の間違いであることは分かる。

 

「そんなことは、いや……」

 

 反射的に出かけた否定の言葉。しかしそれは弟子(スズーキ)への言葉ではなく俺のための言葉なのではないのかと飲み込んでしまう。

 

「…正直に言えば俺も怖い(・・・・)

 

 考えた結果出たのは『正直に話してくれたならこちらも正直に内心を話すべき』というひどく曖昧なものだった。友人同士じゃないんだぞ…と内心自分でもナイワーと思ったが、口から出た物は今更取り返せない。

 

「お前が怪我することも怖いし、お前がそこからやる気を失ってしまうのが怖い」

 

「だが、だからと言ってこの機を見過ごせなかった。どんなに修練を積んで実力をつけても、戦いに対する心構えが出来てなかったらただの木偶の坊になっちまう。そうはさせたくなかった」

 

「死ぬことはまず無いし、医者だって近くにいる。この試合はお前が思ってる以上に今後の糧になると考えてる」

 

「…………。」

 

 本当にただ考えたままを口に出している。ふと見るとスズーキの顔は呆気にとられたものではなくひどく真剣なもので、あぁこれは茶化して濁すのはダメだなと思った。

 

「どんなに言葉を着飾っても結局は陳腐なものになるが。俺は『お前のためになるから』としか言えないな」

 

逆に言えば、スズーキのためにとしか考えていない。

 

「いつでも俺はお前を見てる。舞台にいるお前からは見えないかもしれないがしっかり観客席でお前の事を見てるし、どんな時でも目を離さないつもりだ」

 

「んで、どんなことになってもまずは『頑張ったな』って褒めてやるさ」

 

もちろんだが俺も昔からこうだったワケじゃない。へっぴり腰で、生殺の覚悟もなく。喚くだけの存在だった。

そんなのが今ではこんな風に成れたのだから…きっともスズーキもと信じている。

 

「だから、試合に出てみないか? スズーキ」

「………………んぐ」

 

 ん?

 

 

「ングプッ…あっはははは!」

 

 耐えきれなくなった。

 そう行った風にスズーキは大笑いを始めた。文字通り腹を抱えての大爆笑……これは、いや普通に俺がサムいからだなぁ…

 

「…はーっもう! 普段から超然として飄々としてるアガレス先生のそんな様子見てたら、馬鹿馬鹿しくなってきました」

「馬鹿馬鹿しくって、お前なぁ……」

 

 思わずその言葉に異を唱えたくなったが、吹っ切れたらしいスズーキの顔を見たら言うのは野暮な気がして止めた。どんな形でも進めるきっかけになったらのなら嬉しいものだと考えよう。

 

「時間ですよー」

 

 と、そんなやり取りをしていたらいつの間にか時間が経っていたらしい。運営の生徒に促されたスズーキは立ち上がると、初めに見た時は違い至って平坦な様子で大きくノビをした。

 

「それじゃあ行ってきます。感情の緊張(うえ)爆笑(した)を一気に味わったからか、なんだか体も軽い気がしますから…うん。いい槍が振れそうです」

 

 ん、なんだかいい雰囲気だ。

 覚悟を決めたというよりかは吹っ切れた、開き直ったという方が正しいが緊張しっぱなしであるよりかは全然良い。

 

「はぁ~…まあ、何も出来なかったよりかは。マシか――よぉし行ってこい! 最悪骨は拾ってやる!」

「縁起でもないこと言わないでくれます!? でも、行ってきます」

 

 そうして槍を携えたスズーキは控え室から出て行った。

 

 俺も観客席に行かないと、ローズ・オリアナの試合ともなれば速いとこ座席を取っておかなければ。教員専用席があるといっても最悪立ち見になりかねないと立ち上がった。




【アガレスの武器事情】
メインウェポンは勿論剣だがそれだけに頼っていられないので槍を筆頭に多くの武器を使える。
使えるだけなので流派もクソもないので最近はその手の教本を読み込んでいる。

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