「さあさあ! 玉石混交の一回線を終え、少なくとも物見遊山気分の冷やかしどもは消えたであろう第二回戦。ただ今よりその第一試合を始めます!」
『ウオオオオオォォォ――!!』
運営委員会の実況が煽るままに会場のボルテージは上がる。確かに学生であれば誰でも参加できるこのトーナメントでは、そうした勝つ気のない輩がいなかったかと問われれば否定は出来ないがその言葉はあまりにもあんまりではと客席で俺は顔を顰める。やはり血の気が多すぎるのでは……?
「まずは一人! みなもご存じ生徒会長、先の戦いではシド・カゲノーが驚異の粘りを見せましたが。不屈の彼を下した彼女はまさしく攻城兵器のようでしょう!」
「間違いなく学園最強! 今大会最有力の――ローズ・オリアナああああああ!!」
闘技場の入場口からローズ・オリアナが悠々とした様子で入場する。
その表情に緊張と言った雑味は一切なく、むしろ何かいいことでもあったのか心なしかツヤツヤしているようにも見え、降り注ぐ歓声に手を振り返す余裕すらある様はなるほど王族として上に立つ物としての素質を感じさせた。
今のスズーキが挑むには高すぎるとは言わないが少々厳しい相手と言わざるとえない。
少し手に力が篭るが、しかし信じて送り出したからには俺にはもう見てるだけしか出来ないのだとそれを納める。
見守る側になったことはある筈なのだがどうにも落ち着かない。これは自分が入れ込んだ相手だからなのか、それともどこかスズーキのことを信じ切れてないことからくるものなのかは分からないが……今はそんな余計なことに気を捉えてスズーキの姿を見過ごすことはないように己を律するしかないか。
「そして、そんなローズ・オリアナと戦うのはこの男ォ!」
「一回戦はまさかの不戦勝! それは偶然か天運か、そしてその手に握る武器も酔狂か、はたまたこれまでひた隠しにしていた真なる武器なのか!?」
続いていよいよ、スズーキが入場する。
「期待と猜疑を背負ったダークホース!スズーキ・ホープ!!」
観客席からの角度とダークブラウンのその髪によってその表情は見えなかったが、その体運びから緊張しすぎてうまく体を動かせず、そしてこの中々にアウェーな紹介の中でもあの様子なら、雰囲気に吞まれて動けなくなって……も無さそうだと安心した。
弟子がああして自然体で構えているのに、師匠である俺がいつまでもウズウズしている訳にはいかないなと。俺は一つ息を吐き会場を見つめ直した。
「スズーキくん。今日は宜しくお願いしますね」
「えぇ、生徒会長と戦える栄誉。控え室で知らされてから歓喜で打ち震えていましたよ」
試合前にローズ・オリアナが楽しげにスズーキへ声をかける。
「それにしても…珍しい武器を使うのですね。槍使いと戦うのは初めてです」
「僕も握ってから大して月日は経っていません――しかし、実況の方が言ったような奇を衒った酔狂ではありませんのでご安心を」
和やかに声をかけるローズだったが、対してスズーキの口数は多く。そして少々硬い。
体にこそ出ていないが、さすがに緊張をまるで感じていない。とはいかなかったようだった。
「言われずとも分かります。剣と槍ではその理はまるで異なるのでしょうが、それでも根元は同じ武術」
自虐も含めたスズーキの言葉だったが、それを聞いたローズはそう言うと共に剣を構えた。
剣を横にしたその構えにはどこか華があり。芸術の国オリアナの王女らしいとスズーキは思ったが、しかしその構えから放たれる威圧感は劇のような虚仮威しの物ではないと思わず握った槍の柄を握り直した。
「使う武器が物珍しいから、それを使う者も珍妙である――そうとは私は思いませんよ」
「…ありがとうございます」
ローズの気遣いに感謝しつつも、スズーキは気を引き締める。
二人の間に流れる空気が弛緩したものからピリッと稲妻が奔るようなそれに変化したことを察知したのか、審判はその手を振り上げ試合の開始は目前であると合図をした。
「試合、開始!!」
審判のその声と同時、一人が動く。その一人は……学園最強であるローズだ。
(試合に勝って勝負には負けたこの身ですが、ならばせめて優勝をしなければ
初撃に選択したのは一回戦でのシドとの戦いと同じ突進しての突き。槍使いと戦うのは初めてだが、それでも相手はあくまで人間。そしてこの大会での勝利条件は相手を行動不能にするか「まいった」と言わせること。ならば先手をとって初撃で決められば万々歳、ダメでも一撃ならば耐えられるし。距離を取って仕切り直せばいい。
そう考えローズは突きを繰り出した。槍を中断に構えたままのスズーキに、これなら反応もさせずに当てられるかもしれないとローズは思った。
カァン…
ふと、そんな軽い音が鳴る。それはローズが放つ一突きを、スズーキが手首を動かし操作した槍がローズの剣の腹を叩く音だった。
「なっ」
「ッ…ぎょう、こう!」
まっすぐスズーキへと放たれる筈だったその攻撃は、叩かれたことによって追加されたベクトルによって人ひとり分横にズレ。しかしズレた突きをその場で止められるような強いものではない。
そうして二人が交差する。その時ローズが見たスズーキの顔は、高揚とそこから来る野性的な笑みだった。
追撃が来る。咄嗟にそう察したローズはしかし、彼女はすれ違った直後に振り返り防御の姿勢を取るわけでもなく寧ろそこから足に魔力を込めさらに猛烈に走り出そうとする。
(元より攻撃を透かされた無防備な姿勢、どこまでスズーキくんの攻撃を受け止められるか分かりません。ならばこのまま走り抜け彼の間合いの外まで脱する!)
そうしてローズは駆け出す。二歩、三歩とスズーキとの距離が徐々に開き始めたその時、タンッと軽快な音が彼女の耳朶を打った。
(これは…地面を蹴る足音?)
「ッ」
ローズがその音を予測すると、自分の頭の中で「嫌な予感がする」と直感が警笛を鳴らした。ローズがその直感に引っ張られるように背後を振り向くと、そこにはローズの予想通りに地面を蹴り自分との距離を離すスズーキと、今にも自分を打ち据えんと顔のすぐ横に迫った
「オッラア!!」
ガ ゥ ン ! !
自分自身をコマに見立てた回転による遠心力を足した横薙ぎの剛撃。それを咄嗟に腕を前に出すことで防げたのは学園最強として磨き上げてきた魔剣士としての咄嗟の反射だった。しかしそれでも強力な一撃であることには変わらず、一回戦の初撃でシドを吹き飛ばしたローズは。今度は逆に自身が吹き飛ばされることとなった。
「きゃっ!」
自分の体に否応なくかかる勢いを殺すためにローズは地面を転がる。そしてそんな隙だらけの彼女を逃すほどスズーキも甘くはないし余裕を保てない。球のような汗とうるさく鳴る心臓を無視し、今度は上段に構えた槍で跳躍する。
「シッ!」
「そう何度も!」
転がり続けるローズの終着点。その位置へと槍を振り下ろしたスズーキだったが、転がる中でもその狙いを看破したローズは筋力に任せ衝撃を逃がしきる前に立ち上がり槍をかわすと。未だ空中に止まるスズーキへと突きを放つ。
「…っとぉ!?」
「なんと…!」
しかし負けじとスズーキも突き刺さる槍を支えにポールダンスのようにその突きを避け、自由落下に合わせ槍を引く手の筋力によって素早く地面に着地。反撃にと地面から槍を引く抜くと穂に極めて近い位置で持ち直し、先程までのローズのように下からの突きを放つ。
至近距離からの拮抗は難しいと判断したローズはこれを受けきることを諦め、剣と槍が衝突した瞬間に背後へ飛び。今度こそ距離を取る。
「「………。」」
互いの間合いから離れた二人。ローズは槍を受けた腕を見てその拳を握り、痛みや痺れを振り切るように腕を払い。スズーキもゆっくりと立ち上がり槍を中段に持ち直した。
『ワアッ!』
直後、一瞬遅れて事態を認識した観客たちが熱狂の声をあげた。
「すっげえええええなんだアレ!!」
「ローズ会長に一本入れたぞ! あいつ何者だ!?」
「最初に紹介されてたろスズーキ・ホープだ! イヤとんだ無名がいたもんだな…!」
興奮で沸き立つ観客たち。特にトトカルチョでは圧倒的に優位であるローズの初撃を耐えるどころか逆に一撃入れ込み。その後も互角の大立ち回りを演じたスズーキへの様々な声は凄まじいものだった。
「すっごいすっごいじゃん! クリスティーナちゃんあれあなたの所の分家の子でしょー!?」
「え、えぇ……」
(いえちょっと成長しすぎではなくて……!?)
観客席の一角では、試合を見守りまた本人も大会の出場選出であるホープ家本流のクリスティーナ・ホープは。内心大いに驚いていた。
確かに彼女は激励も応援の品も渡したが、それは「名家の末端にあっても努力を怠らないその姿勢に多少なりとも関心したから」であって。決してスズーキが必ず大成するから……ではない。故にその衝撃も、何も知らずに見ていた観客の者と比べて一入の物となっていた。
(でも……)
だが驚くばかりではなく、本家ホープの令嬢として。またミドガル魔剣士学園の生徒として鍛えてきたクリスティーナは目の前の光景が余りにも異常であると感じていた。
(あの子の魔力量は、昔と言っても親戚同士だから何回か鍛錬した私はよく知っている。ローズ生徒会長と張り合えるだけの魔力操作を彼が血の滲むような鍛錬で獲得したとしても、魔力量は一朝一夕で増える物なんかじゃない)
そう考えた彼女の目には、スズーキの背中がどこか揺らいでいるようにも見えた。
(スズーキ、あなた…一体どこまでの無茶を重ねているの?)
「…すごい歓声ですね」
「全部スズーキ君に対する物です。少しは誇らしげにしてみませんか?」
「それも、貴女が“学園最強”を背負ってるからでしょう。卑屈な自分には――どうにも嫌味に聞こえてしまう」
歓声が上がる中でも、壇上の二人はマイペースに会話を重ねていた。もちろん互いに打ち込む隙を探しながらだが。
(くっ、流石生徒会長。確かに自分が
(さて槍相手。どう踏み込んだものでしょうか……)
両者とも、戦う上での戦略を練る。しかしただ待っているだけではジリ貧であり、仮にこのまま試合時間いっぱいまで膠着が続き審判によるジャッジとなれば。初撃を打たれたローズが不利。また諸事情からもスズーキも戦いを長引かせるのは本望ではない。
「それにしても、射程の長さを失念していましたね。思わぬ一撃を喰らってしまいましたが…それも戦略の内でしょうか」
「ないと言えば嘘になります。相手にとっての未知は確実にこちらに取っての優位性ですから――卑怯と思いますか?」
だが、下手に攻めれば手痛いカウンターをもらうことになることは両者ともに承知の上。なのでこうして会話を続けていた。
「いえいえ。私が批判されたら『それなら剣限定の剣術大会に出場すればいいでしょう?』と返しますので」
「ははは……ッ」
普段は優しさを体現したかのようなローズの思わぬ冗談に思わず乾いた笑みを漏らしてしまったスズーキだったが、ふと汗が眼に入り思わぬ瞬きをしてしまう。
「ふっ!」
「しまっ――クソ!」
そして、その一瞬で勝負が動いた。身を屈めたローズは強化した脚力で距離を食い潰さんとスズーキに迫る。スズーキもそれをただで許す筈もなく、槍にて突きを放ち迎撃しようとする。
「シャアア!!」
「見事、ですが――!」
体と手で打つのではなく、前に握った手を筒のようにし手の内で槍を滑らせ。もう一方の手だけで穿つ。扱く。とも呼ばれるその動きにより迎撃は一撃に終わらず、何遍もの刺突がローズに迫るが――
「突きなら、剣と大して変わりませんね」
「それは、少し! 無理があるかと!!」
「面積は対して変わらないでしょう?」
体の動きでフェイントを用い空振りを誘い、強化された視力で眼前の突きを首を窄めてかわし、それでも無理なものは剣で受け流す。学園最強ここにありと示すような止まることない進軍はスズーキの顔を青ざめさせた。
ついに剣の射程にまで接近したローズが横に剣を振るった。槍を縦にしそれを受けたスズーキだが、ローズの魔力によって強化されたその一撃はそれだけで止まる筈もなく、そのまま押し込まれ吹っ飛ばされた。
「クソッ!」
「受ける側はまだ不慣れなようですね、ならそのまま…押し切ります!」
スズーキが剣を受け、ローズが再び迫る。それだけの工程を幾度と繰り返している中で、スズーキはずっと防戦一方だった。もちろん反撃も何度もしているのだが……一度もその全てが避けられるか流されるかで中々主導権を奪い返せない。
(実戦が全然ないから、攻め方しか
彼は内心先程のローズの言葉をかみしめていた。槍に手を出して日が浅いことと、本人の性格が災いし未だにアガレス以外との模擬戦はゼロ。またアガレスもそこまで攻撃側に回っていないことから、スズーキの持つ槍での守りの力はほぼないと言ってもよかった。
(やっぱり学園最強。このままじゃまずい…か)
「このまま、決めさせてもらいますッ!」
「まだまだ、です!!」
槍の柄を中ほどに持ち、ある程度接近戦を意識した構えへと変えるスズーキ。だがそれは対処であると同時に槍の強みである射程を捨ててある程度剣との戦いかたに“付き合う”という袋小路への第一歩ともとれるものだった。
「次はこちらから!」
「――甘い!」
下から上への突き上げを放つも、それはローズの剣を上に逸らされる。しかし一拍もおかずに槍に体を寄りかからせるように振り抜くが、それもローズには躱された。
「これで…ッ!?」
「こちらからと、言いました!!」
自然と背中を晒す形となったスズーキに反撃の一撃をお見舞いしようとする。しかし背中を晒した形であったスズーキの、攻撃をしていた側とは逆の方から突きが飛んでくる。
「なんで、くっ!」
「こんのぉ!」
鋭く輝く穂先ではなく、鈍く光る石突からの一撃はローズの意表を突き。回避こそ間に合ったが咄嗟のそれは避けた後のバランスまでを考慮することは出来ず、直後のスズーキの背中からのタックルはモロに喰らうこととなった。
「ッ………?」
大きく距離を取ることとなったローズは、再び最初の攻防のような追撃が来ると考えたが。一瞬待ってもそれは来なかった。
疑問に思い顔を上げた彼女が見た先のスズーキは――顔を青くさせ大きく息をついていた。
「まさかスズーキ君、魔力が…?」
ローズの問に、スズーキは無言で返した。実質肯定ともされるその答えが示すことはつまり――今の彼は魔力が枯渇寸前ということだった。
「なぜ…いえ、よく考えれば分かりますね。あなたもまた無理をしている…それが肉体的か精神的かというだけの違いですか」
「その“また”が誰なのかは知りませんがまぁ…生徒会長の魔力による防御を抜くには、平時のそれだとまるで足りないので……フゥ」
すぐさまその気づいたローズの言葉に、スズーキも息を整えながら答えた。
元より素質に優れるローズと魔力量に悩んでいたスズーキではその総量に大きな差があり、仮に『一時間戦い続ける』という状況になれば秒間で使える魔力量は必然ローズに軍配が上がる。
「皮肉を言うつもりはありませんが、非才の身なので」
「……なるほど」
「ですが、手加減はしませんよ!」
故にスズーキは“安定”を捨て、後先を考えず――それこそもしも勝利した後に続く試合のことも顧みずに――全力の魔力行使を行うことでこれまでの時間ローズの身体強化と武器強化に比肩していたが。いよいよ魔力も底がつき始めたのが、突然の不調の原因だった。
「ハァ…! …むしろ、望むところッ」
呼吸を整えたスズーキが、先程と同じように構える。だがそれまでと違いその顔に余裕はなかった。それはつまり……試合の終わりが近いということでもあった。次の一撃で最後。両者とも漠然とだがそう感じていた。
(今の僕に小細工を有してられる余裕はない、なら、最速最短で――射抜く)
スズーキは、先ほどローズの突きをイメージする。その速度と鋭さを、体感したそれを我が物とするため。『魔力操作はイメージの戦い』とは師であるアガレスの言葉であり、その意味するところはつまり……
(同じ魔力が激突したのなら、勝敗を分けるのはより明確に【強い自分】を想像できた方である!)
穂先を下にした突きを意識した構えを取るスズーキに対して、ローズがとったのは迎撃の構え、防御を意識したものだった。両者が構えを取った瞬間、観客席から声援は消えた。そしてまるで両者の動きと周囲の空気を写したかのように静まり返った次の瞬間――!
「「ッ!」」
試合開始の時と奇しくも逆、動いたスズーキとその槍の穂がローズめがけて走り出す。どこか自分と似たような雰囲気と、すずーき自身が発する威圧感が彼女を襲うが、それでもローズが引く気は一切なかった。
学園最強というからくる自負か、それとも将来オリアナを背負って立つという王女の責務か。そのどれもか、すくなくともローズには今ここでスズーキとの勝負を降りるという選択肢はない。
(スズーキ・ホープ…この試合をするまでは、失礼かもしれませんが凡庸な生徒の一人に過ぎなかったと記憶していました)
(ですが、今目の前に立つ彼はどうです? 主流ではない武器を巧みに操り、その上で魔力操作は私よりやや下か同格。魔力も出し惜しみせずに振り絞ってなおも私に嚙みつこうとしている)
(――向こう見ずで、見えていないところもありますが)
そこで心中の言葉を切り、改めてスズーキを見る。まさしく決死といっていい彼の姿にローズは今日は驚かされることばかりだと、無限の闘志で死に体の肉体を無理やり動かしていたシドのことも思い出す。
二人を比べることは出来ない。第三者から見ればやられっぱなしだったシドと短時間とはいえ拮抗したスズーキなら後者に軍配が上がるところだが、ローズからしてみればどちらも素晴らしい。尊敬すべきものだった。
(たとえシド・カゲノーとは違い、その槍が私を傷つけるものであっても私は……逃げない!)
先のシド・カゲノーとの試合では、最後の一撃を手向けとする前に審判に止められ。ローズはともかくシドはいたく悔いの残る様子だったことは記憶に新しい。
だから今度は受け止めるためにローズは防御の姿勢を取ったのだった。少しでも彼に悔いを残させないために。
(贖罪などという高尚なものではありませんし、ともすればただの
両者の距離が一気に近づき、そうして激突した。
「な!?」
思わず驚きの声を上げるスズーキの突きに対するローズの回答は、その手のレイピアの根本を用いてのまっこうからの防御であった。
「グッ…!!」
魔力なしの戦いならまずありえない選択肢、確かにレイピアはその見た目に反しロングソードの一撃も受け止めきれる強度を持つが。相手はそれを鼻で笑うリーチを持つ槍であり、何よりその一撃は威力を一点に集約した突き。受け止めるには無理があり、何より受け止めきれずに逸れ自分の体にその穂先が突き刺さる可能性も十分にありえる。
だがそれを『ありえない』から『できなくもない』に変えるのが魔力の存在であり…学園の中でも魔力がトップクラスに優れているからこそ、ローズ・オリアナは【学園最強】の名を持っていた。
「あ、あぁ……!」
スズーキが幻視したのは黄金の城壁。金髪金眼のローズの見目や吹き荒れる魔力も相まり、スズーキの顔に怯えや焦りが垣間見える。
(そうか、平時じゃなくて全力に切り替えたのか。これじゃ僕なんて……ッ)
「引くなよ、スズーキ!!」
しかし負けられない理由があるのはスズーキもまた同じ。ネガティブな思想をガリッと内頬を噛み無理矢理に打ち払い自分を奮い立たせ槍を握る腕、魔力を生むため丹田に一層の力を込めた。
「ウ、オオオオオォォ!!」
「ハアアアアアアア!!!」
吠える二人に呼応するようにぶつかり合う二人の武器からも勢いよく火花が散る。その直後だった
バキンッ!!
甲高い硬質な音とともに、スズーキはローズの背後へと駆け抜けた。
まさかスズーキ・ホープの一撃がローズ・のオリアナの防御を抜いたのかと、いやならなぜ交差した二人は何も言わないんだと。
どよめく観客席をよそにローズに背を向けた形となったスズーキはゆっくりと立ち上がり、その手の中の槍に視線を落とし。ゆっくりと、蚊の鳴くようなかすかな声で言った。
「僕の、負けです」
その手の中にあったのは先端が折れ曲がり穂を無くした槍の成れ果てであり……その宣言から数秒後、天高く弾かれていた穂先がカランと乾いた音で。審判の代わりかのように試合の終わりを告げていた。
【師匠としての経験】
魔王討伐後も残党やら諸外国への象徴としての顔出しやらで忙しかったため、背中を見せたことはあるが手取り足取り教えた経験は実はない。
【スズーキの槍】
剣との品質に差はなく、あくまで使用者の力量の差。
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