陰の実力者と二週目主人公。   作:korotuki

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 舌の根も乾かぬ内の投稿。
 まぁストックあと一個しかないんですけどね(焦)


003 自覚なき初邂逅

「【断炎】!」

 

 炎を纏った幹竹割りが、眼前の魔物を真っ二つに切り裂いた。

 

 さらに返す炎刀で二匹目も切り捨てると、残りの一匹はそのまま逃げ――ようとした所に剣を投げ撃ち脳天を焼き焦がした。

 

「よっと…これで全部か」

 

 ひい、ふう、みいと数を数え、報告された数に釣り合った数の死体がある事を確認し。焼き焦げた魔物の死体から剣を引き抜いた。

 

 この世界で生まれ変わり、教団とシャドウガーデンの衝突に備えての準備期間であるこの数年間。勿論俺は無為に過ごして来たつもりはない

 

 倫理観や常識をこの世界のものへと置き換え、ある程度の名声や自由の利く地位も得た。一応、信頼できる仲間も何人かは作ったが…

 

「取り敢えず、依頼報告に行くか。いやー前世は勇者としての活動が殆どだったから、こーゆうギルドマンムーブ。ちょっと憧れてたんだよなあ」

 

 

 

「…これにて、依頼達成です!お疲れ様でした」

 

「ありがとう」

 

 依頼書の写しと討伐指定部位を提出し、受付嬢のこの一声を持って。魔剣士協会からの依頼は達成された

 

「流石、協会の誇る“火刃”。魔物の危険性も、数も多かったのに…!」

 

「褒めてもなんもでないよ〜?」

 

 感嘆の声を上げる受付嬢に軽く手を振りながら、報酬の入った小袋を受け取る。

 

 “火刃”は通り名みたいなもんだな。

 

 火を纏った剣で戦う様子からその名が付けられたそうだ。

 

 シンプルと言えばそれまでだが、通り名なんて短くて概要が伝わりやすい方がいいから。案外気に入ってる。

 

「そういえば、支部長が呼んでいましたよ」

 

「支部長が…なにか言伝は?」

 

「特に何も。取り敢えず知らせてくれと…」

 

「ふぅん、まぁありがとう。確かに伝わったよ」

 

 受付嬢に感謝を伝えてから、支部の建物内を歩く。

 

 道ゆく途中に多くの人に声をかけられ、挨拶をされるためそれに逐一返す。人付き合いは苦手な方ではないためすぐ疲れる訳ではないが…いや多いな???

 

 俺ってこんなに顔見知り多かったっけか――?まぁ毎日挨拶し続けた結果だろう。

 

 支部長室の前に立ちノックをする。中からの返事を聞いてから扉を開ける。

 

「支部長。何か用で?」

 

「おぉアガレス、お前宛に指名依頼が来ててな」

 

 年齢にそぐわない屈強な肉体の支部長は、俺に向けてそう言った。

 

「指名依頼?そりゃ珍しい」

 

「あぁ、その中でも更に珍しいぞ。なんせ依頼は国からだからな」

 

「国???」

 

「正式には、国王からだがな」 

 

 支部長が、依頼の詳細が書かれていると思わしき封のされた羊皮紙を投げて寄越す。

 

 それをパシッと小気味よい音と共に受け取り広がる。

 

 …確かに王の印だ。確か図書館で法を調べる過程で無断での複製、そしてその利用は極刑にあたるらしいのでおそらく本物なんだろう。えーとなになに?

 

「…魔剣士学園での客員講師ぃ?」

 

「ほう。そんな依頼だったのか」

 

「優秀な選手は必ずしも有能な監督になる訳ではないっていう言葉があるんですけど」

 

「国相手に断れる胆力があるなら構わんよ?」

 

 デスヨネー…。

 

「取り敢えず先方に連絡させてもらいます」

 

「返事は?」

 

「一旦、説明を聞いてからということで…」

 

「『アガレスは前向きに検討すると申して』と……」

 

「虚偽報告はよくない」

 

 こっちを見てニヤリと笑いながらペンを走らせる支部長。流石にウソは書かないだろう

 …まぁ実際木端貴族ならともかく、王家からの依頼なぞ強制と大して変わらないが。

 

「にしても講師ですか…あそこ、確かに“魔剣士”学校とは銘打ってますけど――」

 

「あぁ、実際は貴族のボンボンの巣窟だ。将来ウチに入るのは極一部だろうな」

 

「うまみがない……」

 

「即物的で、対価に見合う金さえくれりゃ上々だ」

 

「相変わらず貯蓄の出来なさそうなことを…」

 

「言ってろ」

 

 互いに肩を竦め、その後は少しな世間話をして部屋から退出した。

 

 

 

 

 

「で、俺のところに」

 

「ヒマだし、ローランは頭が回るからね」

 

「ハァ――、俺も一応稼ぎ頭みたいなもんなんだが?」

 

 協会のラウンジにて、2人の男が向かい合っていた。

 一人は俺で…二人目は、黒いスーツを着た男だ。

 

 黒目黒髪の少々草臥れた様子の彼は呆れたような声を出し、冷淡な視線で俺の事を捉える。

 

「嫁さんと息子さんは元気?」

 

「元気すぎて困るぐらいだ。俺としてはまだまだ休んでてもらいたいんだが、昨日も俺の武器で素振りしてたからな…」

 

「いいことだ。【白黒(はっこく)舞踏(ワルツ)】復活も近そうだね」

 

「勘弁してくれ…」

 

 心底嫌そうに顔をしかめる男に、俺は思わず苦笑した。

 

 …このまま雑談に興じるのもいいが

 

 ふと周囲に人がいないことを一瞬を視線を巡らせることで確認し、自分の目を鋭いものへと変化させる。

 

「…で、近況は?」

 

「アンタのいう“シャドウガーデン”とやらは相変わらず引っ掛からない。教団についてだが――最近は活発だ」

 

「活発?」

 

 口から飛び出たその言葉は、普通に生きる人間の口からは決して出ない――仮に何かの間違いで知り得たとしてもすぐに消されるであろう――単語であった。

 

 女神からの指令としてこの世界に生まれた。ある意味での例外である俺は兎も角、普通の現地人(ローラン)は知らないはずの情報。

 

 しかし目の前の人物はその情報を当たり前のように口にし、会話を続ける。

 

「何故か教団の基地や施設の損害が多いらしくてな。損害の補填と原因究明のため、人や物があっちこっちに動いてる」

 

「それがアンタがいうシャドウガーデンなのかは分からない。だが教団を荒らし回ってる連中がいるのは確かだ」

 

「成る程…すまないな。守るべき者がいる立場の君に、こんな事(情報収集)を頼んで」

 

「オイオイ、流石に命の恩人の頼みを断る程落ちぶれちゃいないぞ?」

 

 人懐っこい笑みを浮かべてそう言うローラン。魔剣士としても一級品の実力を持つが、一国の諜報機関にも勝る情報収集能力とどんなに排斥的な集団にも自然と溶け込み重要な秘密を共有しているのが彼という男だった。

 

お友達(・・・)が言うには、皆高い魔力と高品質の武器と防具を持ってる。並のミスリルの武具じゃ歯が立たないらしい…勿論全員魔剣士だそうだ」

 

「もはや内部情報なんじゃないかなそれは…」

 

「これでも、情報戦専門で売ってるんだ」

 

 ローランにとって表情を変え、保つことなんて仮面を変えるに等しい事なんだろうなと、俺は力に内心驚きっぱなしだ。

 

 彼らを救った事に打算はないと胸を張って言えるが、正直助かり過ぎている。

 

「んでアンタの受けた指名依頼だが、仄暗いものはないな。単純に教育の一環って感じだ」

 

「…君はどう思う?」

 

「俺としては受けてもいいと考えている」

 

「まるで俺に拒否権が与えられているみたいに言うなぁ…」

 

「その気になれば王都丸ごと焦土に出来るやつに強制できる人がいるのか?そりゃスゴい」

 

「対外的にはちょっと強い魔剣士です〜」

 

 昔日のパーティーメンバーとの会話を思い出して少しだけ笑ってしまう。

 

「…で、根拠は?」

 

「期日とやらまで後数ヶ月、そして魔剣士学園の立地は王都で期日の場所も王都だ。正直今回の依頼内容を知ったときはアンタが独自に動いたのかと思った」

 

「生憎とそこまで器用じゃない」

 

「なら、運命に愛されてるな」

 

 ニヤリとした笑みを向けてくるローラン。

 

 運命に愛されてる、か…流石に女神の干渉ではないと思う。あの人は強権を振るう事を嫌うタイプだったし――っと、話が逸れたな。

 

「としても、俺に人にモノを教える器量があるのか…」

 

「論理ならともかく、実践なら問題ないだろ。協会の代表として頼むぜ火刃様〜?」

 

「んな投げやりな…」

 

 …だけどまぁ確かに、協会員として西から東へたらい回しにされることも少なくない現状。どっしりと腰を据えられる立場にいるのは選択肢としてはアリかもしれない。

 

 ――帰りに書店で教育関係の本でも買ってみようか。

 

「そういやまた武器増えたか?」

 

「あぁ!これとか工房の職人が最近代替わりしたんだが前任者の特徴を引き継ぎつつも新たな風を取り入れ――」

 

 ひとまずはローランの武器トークで暇を潰そう。

 

 ……………。

 

 その後王国からの使者との打ち合わせから依頼元である王様からの招集に応じそのまま任命とトントン拍子で話は進んだ。

 

 正確には王自身ではなくアイリス王女だが、俺のものと同じ。しかし数段艶やかな赤の長髪と凛とした表情からは既に王の雰囲気が漂っていたため、大して問題ないだろう(?)

 

 早速今年度からの採用が決まりあれよこれよとマニュアルや授業資料を渡された俺は…

 

 

「はい、みんなが静かになるまで5秒かからなかった。優秀そうで何よりだ」

 

 何故か話を受けた二週間後には学園の講義室の一角で初の授業に臨んでいた。

 

「こちらは、今日からみんなに魔剣士としての心得。また実践形式での授業を担当することになったアガレス先生だ。魔剣士協会“火刃のアガレス”と言えばわかる人もいるだろう」

 

 隣の先輩教師が溌剌とした口調で俺の説明をすると、辺りからざわざわと声が上がる。

 

 流石に魔力で聴力を強化している訳ではないため耳を寄せてのささやきや後ろの座席の声は聞こえないが、前の座席からの声は何とか耳に届く。

 

「えっ!?あの火刃ですか……?」

 

「以前にドラゴンを退けたというあの…!」

 

「協会最高の魔剣士!!」

 

「なんでそんな人が教師を…」

 

「ばっかお前、折角指導頂けるんだから追求は野暮だろ」

 

 むず痒い言葉をもらい少し背にソワソワとした感覚が走る。嬉しいの確かだがこれは…恥ずかしさが勝るな――――ん?

 


 

「あーいーなー、あんなイケメンでしかも強い魔剣士!さぞかしモテるんだろうなチクショー!!」

 

「クソッやはり時代は髪有り…禿頭には人権がないと言うのですか…!」

 

「………………」

 

 上段と下段の丁度中間。なんとも中途半端な席に座っている三人の生徒がいた。

 

 背は高いが軽薄な雰囲気がそれを見事に台無しにしているヒョロ。

 少し筋肉質な体、しかし頭蓋骨の形をそっくりそのまま写し出す頭髪が一気に芋っぽさを加速させる見た目のジャガ。

 

 そして中肉中背、黒い髪に黒い目にパッとしない顔立ちというどこにでもある純朴な青年。シド・カゲノー

 ちなみに発言は上からヒョロ、ジャガ。最後に無言のシドである。

 

 

 

 

(FOOOOOOOOO!間違いねぇありゃ主人公だ!!僕には分かる!!!!)

 

 失敬、少なくとも口からの発声という意味では無言だった。

 

(見える…見えるぞ!彼の主人公力が!!15万、16万…バカな!?まだ上がる……18万5000以上だ――!)

 

 主人公力とは?とシドの思考を読めるものがいたら確実に疑問符を浮かべずにはいられない一人芝居を打った彼は、周囲に聞こえない程度の音量で「クククク…」と静かに笑った。

 

(引き込みたい!何とか、この僕の陰の実力者ロールプレイに!!)

 

 尚、実際に彼が陰の実力者として君臨している事を彼自身は知らない。思い込みって怖いね

 


 

 なんかあの子めっちゃ俺のこと見てくるな…

 しかも心なしか目がキラキラしてる気がする。もしかしてもしかすると魔剣士としての俺のファンなのかもしれない。

 

「………(チラリ)」

 

「?」

 

 試しに青年の方に目配せをして見るが、青年はパチクリと目を瞬かせそのまま視線を逸らした…気のせいだろうか。だったら悪い事をしたなぁ

 

「んじゃあそろそろ授業開始…って言っても、今回は急な依頼だったから。俺は君たちの情報……つまりどの位出来るのか知らない」

 

 そう言い俺は腰に差した剣。愛剣ではなく学園から支給された極普通な直剣を生徒にもよく見えるように掲げた。

 

「みんなでグラウンドに剣持って集合だ!」

 

 最初が肝心ともいうから、インパクト重視で行かせてもらおう。

 

 


 

 

「うん、全員集まったな」

 

 学園の広いグラウンドにて、アガレスはひぃふぅみぃと担当生徒全員がこの場にいる事を確認して大様に頷いた。

 

「そ、それで先生。今回は何をするんでしょうか!」

 

 待ち切れないとばかりに手を上げた男子生徒の一人を見て苦笑してから口を開いた。

 

「さっき言った通り、教えるにしても君らがどのレベルなのか知る必要がある」

 

「だけども素振りの限界回数とか型の熟練度とかでわかることは少ないから――やっぱり魔剣士(おれたち)(コレ)で語り合うのが速いと思ってな」

 

 刃と鞘の擦れる音も発せずに静かに剣を抜いたアガレスは、彼らの前で軽く剣を構えてみせた。

 

「つ、つまりは――模擬戦ですか?」

 

「そうだ…全員、抜剣しな!」

 

 …だが、生徒達は剣を抜こうとはしなかった。不思議に思ったアガレスだが、その時彼の比較的近くにいた生真面目そうな男子生徒が一歩前に踏み出した。

 

「アガレス先生」

 

「なんだい?」

 

「…僕たちは、幼い頃から魔剣士となるために修行を重ねてきました。『一晩で山を駆け、一撃で馬車に競り勝ち、一刀で身丈の岩を切る』魔剣士の教本に書いてある一句ですが――ここにいる大半がそれを成し遂げられる」

 

「そして、今僕が腰に吊るしてある剣は支給品の数打ちの剣ですが。刃引きは一切行っていません」

 

 アガレスに見えるように僅かに鞘から抜き出したその刃は、ギラリと鈍い輝きを放つ。

 

「未だ学生の身ですが、僕達は魔剣士の卵です。それが大事(・・)に成ればどうなるか…同じ魔剣士である貴方に分からぬ筈がない」

 

「…成る程、つまり君たちは俺を心配してるって事だ」

 

 納得がいったという風に何度か首を縦に振ったアガレスは構えを解き、剣の先端をプランと地に下ろし、そして生徒達を見渡し少し考えるような仕草をした彼は…目を瞑った。

 

「君たちの気遣いは分かった…が、それは無用だ」

 

「なっ…」

 

「俺はここにいる誰よりも強い自信があるしそれは事実だ。何より――卵程度に殺されるようなら俺はもっと前に死んでる」

 

 腕ではなく手首の力のみで円を描くようにクルリと剣を回してから剣を握り直し、生徒を指差すように剣を向けた。

 

「遠慮なく来な。そうだなぁ――仮に一撃与えられたら騎士団や教会、魔剣士協会の知り合いに口添えするぞ?」

 

「っ!それは、魅力的だ…!」

 

 一人の男子生徒の声を皮切りに、他の生徒も次々と剣を抜き始めた。

 アガレスが上げた組織名は現在の魔剣士における花形職業であり、騎士団なら騎士。教会なら聖騎士――魔剣士協会はそもそも戸口が広いので特に口添えの意味はない――という地位や名誉が約束されたような理想的なもの。

 

 それに対しての足掛かりが出来るとならばと、多くの生徒は戦意を剥き出しにし剣を構え魔力を纏っていった。

 

(取り敢えず掴みは出来たかな…)

 

 負けることなんて万が一にも考えていませんという顔をしながら内心冷や汗をかいていたアガレスも、学生が怪我しない程度の強化を施す。

 

「一人でも複数でも構わない!持てる限りでかかってこい!!」

 

『オォ――!!!』

 

 雄叫びを上げながら生徒達が突っ込んでくる。それを見たアガレスは小さく微笑み、その後気炎を吐いた横薙ぎの斬撃を放った。

 

「おぉ…すっげ」

 

「く、悔しいけどかっこいい…憧れちゃう!」

 

「そうだねー」

 

 因みにモブ三人衆はヒョロが『消耗した所で行った方が効率いいのでは?』と下衆な発想をしたため待機してアガレスと同級生の戦闘を眺めていた。

 

 ちなみに戦闘の方はと言うと、初めの頃こそ一直線に並び一人一人決闘のような“よーいドン!”で戦っていたが見事に蹴散らされ。現在はアガレスをぐるりと取り囲み全方向から複数人で切り掛かっている。

 

 だがアガレスはその全てを最小限の動きで回避し、いなし。時には身体強化をフルに活かした剛剣で弾き飛ばす。

 

 紅い髪を翻し、剣を振るうその姿はさながら揺蕩う炎のようであり。その光景に魅入られた生徒は更に剣速を上げるが、それでもアガレスには届かない。

 

「クッソ、当たらない!」

 

「隙間をなくせ!頭数を活かすぞ!!」

 

「打開策講じるのはいいけど、当てなきゃ意味ないぞ!」

 

 先程よりも密度の増えた斬撃の束を剣で逸らし、未だ余裕のある声でそう返した。

 

 剣と剣の隙間に体を潜らせ避けきれないものは叩き落とす。若々しい見た目とは裏腹に幾多にも積み重ねられた経験がアガレスの余裕を支えていた。

 

(ほぉー、先生やるなぁ。大人の魔剣士でもフィジカル任せな人多いのに)

 

 平時は黒い自身の瞳を、魔力を利用しての視力強化を使った紅い色へと変えたシド(シャドウ)は。その視線をアガレスの剣とその手元へと集める。

 

「あっ剣が…ッ!」

 

「しっかり握っときなよ?」

 

 完璧な時勢(タイミング)位置(スポット)での弾き防御(パリィ)

 

「剣筋が見当違いの方へ…!?」

 

「いくら強くて速くても、当たらなきゃ――な!」

 

 剣の軌道と速度を読み切った受け流し。

 

「後ろに目でも付いてるのかよアンタ!」

 

「魔力感知は基本だぞ。後は声と風の通りだ!後一応先生な!」

 

「はいよ先っ生!?」

 

 背は晒しつつも隙は決して見せない老獪な立ち回り。

 

(うーん強いね、魔剣士としてというか剣士として強い。デルタあたりなら足止め出来そう)

 

(…そろそろ行くか)

 

 シドは脳裏にフィジカルゴリ押し一辺倒の狩猟大好き娘を思い浮かべ、そこで全身に魔力を通し剣を抜く――あくまでモブである自分の程度まで抑えてだが。

 

「ぼ、僕も行くよ!」

 

「ハァ!?シドあれ見てないのかよ!?」

 

「僕だって魔剣士なんだ!…やってやる、やってやるぞ!!」

 

 手と足を震わせ無理矢理大量に発汗し頬にタラリと汗を流させ、ブレブレの剣先をアガレスへと向ける。

 

(ククク…これこそがモブ式奥義が一つ【無謀への挑戦】!)

 

「し、シド…お前だけ先には行かせねぇぞ!」

 

「それにあの様子だと消耗しそうになくて後々公開処刑喰らいそうですから、今の内に突っ込んどきましょうか!!」

 

「二人とも――!」

 

(決まったァ〜!コレで僕は表情と服が実質黒タイツの背景モブA!カンッペキ……)

 

 内心手を高々と上げガッツポーズをしたシドは、決意を固めるように二人と視線を交わすフリ(・・)をして三人揃ってアガレスへと突撃した。

 

 


 

 

「グ、グハアアアアアアア!!!」

 

「「シド―――!」」

 

(眼はそこそこいいなこの子、それ以外は並…ンン?なんか違和感――)

 

 この後無茶苦茶ボコボコにされた。

 

 因みに結局有効打を与えられなかった生徒はアガレスからのアドバイスを胸に抱いたまま次の講義で居眠りをかまし、アガレスはその日の職員会議で「実にはなってたようだが力を入れすぎ」と怒られた。





 という訳で学園に行ってもらいました。流石に協会所属の魔剣士のままだと接点考えるのがメンド…もとい、大変なので。

【必殺技について】

 基本漢字。文字が増えると威力が増すオサレ仕様。
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