陰の実力者と二週目主人公。   作:korotuki

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 4話使って3万文字ぐらい使ってもアトミック(ねっとり)出来てないヤツがいるらしい。


004 油塗れの歯車

                           

「クッソ、しくったな……」

 

「アナタね。最近ミツゴシ商会を探っているのは」

 

「あ~…破竹の勢いで王国のみならず各国で勢力を伸ばし、斬新かつ革新的なアイデア商品に独自の紙幣制度まで作ってるんだぞ?疑問に思わない方がおかしいね」

 

「そう」

 

 月のみがあたりを照らす丑三つ時、王都のとある裏路地にて二人の男女が向かい合っていた。

 

 一人は黒いスーツに黒い髪、黒い革靴に黒仮面という黒づくめの痩身の男性。先日アガレスと今後の事について話あっていたローランその人だが、スーツは幾つか糸の解れやダメージ加工()が目立ち、ところどころに刀傷を負っていた。

 

 それに対するもう一人は……彼女(・・)もまたローランと同じく黒い姿だがローランを純黒とすれば彼女のそれは闇の中にて煌々と輝く煌黒を基調としていた。

 

 ボディラインがはっきりと浮かび上がる光沢のあるボディスーツに月の輝きにも負けない黄金色の滑らかな長髪はいっそ蠱惑的なものも感じさせるが、その身に纏う魔力とローランの眼前に向けられる漆黒の刀が、彼女がマニアックな娼館の娼婦ではないことを保証している。

 

(恐らくコイツがシャドウガーデンの構成員…戦闘力も高いとは聞いていたがここまであるのかよ。しかも伸縮自在の剣と服とか聞いたことがねぇ)

 

 ローランは出血によって曇る頭を無理矢理働かせ情報を整理する。

 

 事の次第は、アガレスからの要請から数日たったある日の事。

 現在アガレス専属の諜報員としてディアボロス教団、そしてシャドウガーデンについて調べていたローランはミツゴシ商会に眼を付け調査を開始した。

 

 ある時は普通に客として、またある時は商品の卸先の商隊の護衛として、彼は外から情報を集め――

 

“商会の中枢には女性従業員しかいない”

“足取りが素人のそれではないのがチラホラいる”

“稀に素材と商品の釣り合いが取れない”

“売り上げ的には十分な筈なのに有力貴族とのパイプ作りに異様に熱心”

 

 といくつか疑念を深めるには充分な情報を集めたローランは、いざ“内”。

 つまり営業時間外のミツゴシ商会へと潜入しようと商会の裏口に手を掛けようとする……その時だった。

 

『鼠にしては、随分と大きいわね』

 

 背後からの殺気と共に振り下ろされた刃を紙一重で回避したローランは、そのまま逃亡を開始したが――というのが現在の形だった。

 

「魔力を使ってないのにやる……随分とこの街に詳しいのね」

 

「…色とか波長を覚えられると足がつくからな、そりゃどーも。報奨代わりに見逃さないか?」

 

「それは無理な相談よ、情報を探られていたことは分かっていたのに。ついぞ尻尾を掴めなくて網を張れず、屋敷の周辺で待ち構える対処療法でしか対応出来なかった――その時点で、アナタの事を私は高く評価している」

 

「…それは、腕がいいのも考えものって感じだな?」

 

 諦念が混じったような声でローランはそう溢した。

 

 確かに目の前の金髪の女性の眼には、優勢を取っているにも関わらず彼の一挙手一投足を見逃さない鋭い視線を向けており。その油断も隙もない様にローランは大きくため息をつく。

 

「あんたらが、シャドウガーデンか?」

 

「そう言うアナタは。教団の手先かしら」

 

「…寧ろオレは被害者側さ、失ったわけじゃないけどな」

 

 女性の質問に肩をすくめて答える。この様子だとどうやら自分の正体については知らない。だが自分もこのままでは逃げ切れないと判断したローランは覚悟を決める。

 

(言葉にはしなかったが表情や体の動きから否定や狼狽はない…当たり(・・・)か。問題は持ち帰れるか……)

 

 ここで死ぬかもしれない、いや間違いなく殺されるだろう。

 

 だがしかしそれでも、今のまま何も知らずに死んでいくよりはマシだ。諜報員としてのそんな想いが彼を突き動かした。

 

「死ぬ前に教えてくれよ」

 

「…見逃してくれ、とは言わないのね」

 

「秘密主義なのは分かりきっていて、不法侵入したのは事実だからな。私刑(リンチ)されても文句は言えない――だからさぁ、おじさんの頼み聞いてくれないか?」

 

「フフッ…」

 

 仮面越しだが、仕草や体勢や声音を駆使して相手に親しみを感じさせるようにローランは話していく。そこで女性は小さく笑みを浮かべた。

 

「ダメか?」

 

 

 

「――――残念だけど、ダメよ」

 

 瞬間、彼女の持つ剣の先がかき消えると同時にローランの首元に刃が添えられる。それは魔力を使っていない彼が反応できない程の速度で放たれていた。

 

「我らは影に潜み、影を狩る者。影はその一片でさえ陽の下に出るわけにはいかない」

 

「それが標語か?作ったヤツは随分と酔ってるな――ッ」

 

 首に添えられた刀身が僅かに食い込み血が流れる。その痛みに顔をしかめたローラン

 

()を馬鹿にするのは許さないわ」

 

「その彼ってのが、首領か。男性なんだな…馬鹿にしたのは謝るからもっと詳しく教えてくれよ」

 

「…アナタと話していると、いつの間にか全部話してしまいそうね」

 

 呆れ半分驚愕半分な顔をした女性は、ローランの首から刀を離すと両手で握って構えた。微かに見える燐光が放たれる一撃が魔力を伴って放たれることを示唆している。

 

「おいおい、収穫ナシはひどくないか?評価したんなら見返りをくれよ」

 

「ハァ――私の名前はアルファ。それで満足して逝きなさい」

 

 そして、斬撃は放たれた。

 

 

 

 

 

「待ちなよ」

 

「「ッ!!」」

 

 しかしその断頭の一撃は突如として響いた声によって遮られ、同時にカツン、カツンと静かな足音が路地裏に響き渡る。

 

「ケンカにしては物騒だな」

 

「アガレス!?」

 

 紅い髪に翡翠の瞳を持ち、自身の愛剣を腰に帯刀しゆっくりと歩み寄ってくるその人物は。ローランの雇い主であるアガレス・ヴェルネンシスであった。

 

「穏やかじゃないね。ギャングの殺し合いか?」

 

「…………」

 

「だんまり?…表には出せないってワケだ――それとアンタ、知らない顔だが(・・・・・・・)。なんで俺の名前を?」

 

「ッ!あ、あぁ悪いな。有名人だったから驚いちまった」

 

「なら仕方ないな。俺は強くて正しい魔剣士だから」

 

(マジで頭が回ってないな、依頼主にフォローされるとは…)

 

 思わず乱入者の名前を――それこそ親しい間柄のように――呼んでしまったローランだが、アガレスからのフォローもあり咄嗟に誤魔化す。

 

 今ここで、ローランとアガレスが仲間だと知られれば。眼前に女性にアガレスまで敵だと認識されてしまうからだ。

 

「…………」

 

「そこの人が何やったのかは知らないが、殺すことはないだろ?」

 

「…それを決めるのは私達であって、貴方ではないわ」

 

「なら、それを阻止するのが俺の役目だ」

 

 刀を構えたまま警戒心を露にするアルファに対して、アガレスは悠然とした態度で言葉を返した。

 

 ゆっくりと、アルファに見せつけるようにアガレスは剣を抜く。

 

 紅い刀身は夜にあってもなお鮮やかに輝きを放ち、その刃はまるで炎のように鮮やかだった。

 

「アンタがこの人を殺すと言うなら、俺はこの人を守り通す」

 

「――正義の心と剣に誓ってな」

 

「…………」

 

 アガレスからの宣告を受け取ったアルファは暫く悩むような素振りを見せると、刀を収納してアガレスへと向き直った。

 

「やめておくわ。こちらとしても、協会の有力魔剣士とことを構えるのは本意じゃないし。この人には精々私の名前しか知られていないから」

 

「…ならよかった」

 

「ただ、アナタは次会った時は…分かってるわね」

 

「ハッ、骨身に沁みたよ…」

 

 それだけを言い残し、アルファは夜の闇へ溶け込むように消えていく。完全に気配が消えたことを確認したアガレスは、緊張を解くように息を吐くとローランの方を見た。

 

「俺の見誤りだな。甘く見てたよ」

 

「気にすんな、覚悟してた時が丁度今だっただけさ」

 

「だとしてもだ…すまない」

 

 自責の念がありありと感じられる眉と口をぎゅっと窄め頭を下げるアガレスに対し、ローランはこれまで付けていた仮面――目元のみを隠すものではなく顔全体を覆う、のっぺらぼうのような黒色のモノ――を外し頭を掻いた。

 

「――まっ、シャドウガーデンの存在の確信と。あの金髪っ子の名前は“アルファ”って名前だった事は分かったから。それは儲け物だな」

 

「それは…そうだな。これで俺がオオカミ少年じゃないって事がわかった訳だ」

 

「オオカミ少年?」

 

「えっ?あ、あ〜…嘘をつき過ぎて、肝心の時に言った本当のことを信じてもらえなかったって言う。故郷の教訓?みたいなヤツだよ」

 

「成程ねぇ……まぁいいか。とりあえず今日は帰って寝たい。反省会と情報共有は明日とかでいいか?」

 

「了解。お疲れさん」

 

「そっちこそ。療養してくれ」

 

 そう言って別れを告げたローランが路地裏から出た後、アガレスもまた自身の家路につく。

 

「“例の日”までもうそんなに遠くない。準備は万端にしないとな…」

 

 そして、彼は誰にも聞こえないように呟いた。

 

 ――そしてこの夜を持って、物語は大きく動く事となる。

 

 

「王族の誘拐計画はどうなっている?」

 

「アイリス王女はやはりリスクが高いため、アレクシア王女の方へと標的をシフトしたいのですが…」

 

「怠慢だな?…だが、構わない。手柄がないよりはマシだ」

「では、そのように……」

 

「――辿り着いてやる。何をしてでも、ラウンズに…!」

 

 

「アルファ、悪いけど見失った」

 

「仕方ないわ。顔も声も魔力も明らかじゃないもの」

 

「脅しはかけたんだっけ?」

 

「えぇ。でも雰囲気が微塵も折れてなかったから…きっとまた仕掛けてくるわ」

 

「…私がいなかったとはいえ、こっちの情報網に引っからないで潜入まで踏み込むなんて。相当だね」

 

「えぇ。それに彼は最後までその正体を明かさなかった」

 

「私と同じくらい?」

「“天賦”のアナタには届かないと思うけど――とにかく、引き止めて悪かったわねゼータ。戻っていいわよ」

 

「別にいいよ。今やってるのは簡単なヤマだったし――じゃあねアルファ」

 

「えぇ――全てはシャドウと、彼の目指す世界の為に」

 

 

「おうローラン…ってうわ凄いな」

 

「一応反省したんでな。肉体改造と武器の整理をしようかと思ってたんだ」

 

「離れといえどこんなに散らかしていいのか?アンジェ――奥さん怒るだろ」

 

「夫婦揃って武器マニアだから問題はないさ…それより、模擬戦頼んでいいか?」

 

「……いいぜ。形式は?」

 

「魔力使用なしの何でもあり、“まいった”まで続けたい」

 

「――うへぇ…」

 

 

 

 それぞれの思いや目的は違うが、それでも成すべき理想のため。各陣営は動き出す。

 ある権威に焼かれた剣士は私利私欲のため、陰の組織はそれを阻止するため、炎の勇士はその被害を食い止めるため――行動を開始した。

 

「いやーどっかに陰の実力者ムーブ出来る最適な相手いないかなー」

 

 …若干一名、端役どころか主役も主役な人物は。そんなことはつゆも知らずに己が欲望をぶつけられる相手を探している現状は考慮しないものとする

 

 

 

 

 

 

「キャー!ゼノンせんせーい頑張ってー!!」

 

「今日もかっこいいですー!」

 

「これが終わったらお茶しませんかー!?」

 

「…………」フッ

 

 黄色い歓声が周囲を包み込む。女子特有の甲高い声はいっそ音響兵器のように耳を貫き、耐性のない者は思わず耳を塞ぎたくなる程度には不快だろう。

 

 しかし、そんな歓声をその背に一身に受けている当の本人は特に気にした様子もなく――むしろ満更でもないような表情を浮かべながら、片手を挙げてそれに応えていた。

 

 だがその瞬間、反対側――つまりはゼノンとその背後にある女子生徒ばかりが詰め寄っているのとは反対にある観客席からこれまた大音量の。しかし女子の甲高いそれとは真逆の野太い雄叫びが響き渡った。

 

「ウォー!スカした野郎に制裁を!血の制裁をー!!」

 

「アガレス先生!!勝ってくれぇ!」

 

「俺たちの野望!俺たちの悲願!そして俺たちの小遣い全部アンタに賭けてんだ!!」

 

「負けたら承知――いや授業フケてやるからな――!!!」

 

「ここまで浅慮な願い背負わされたのは初めてだな――あと青春謳歌するのは勝手だけど単位は取れるようにしろよー」

 

 女子のそれと比べると浅はかな願望マシマシな歓声を受け取るアガレスは、苦笑いと教師として最低限の注意だけはしておいた。

 

 そして眼前の己の同僚であり金髪碧眼の美丈夫、王国の剣術指南役でもあり上級クラスの顧問も兼任しているゼノン・グリフィと向かい合う。

 

「人気があって羨ましい。僕も同性の生徒とか仲良くしたいんですが…秘訣を聞いても?」

 

「うーん…一緒に行動するのが秘訣と言えば秘訣ですかね」

 

 軽口を叩き合いながらも互いの視線は一切ブレず、互いに間合いを計るようにフィールド内をゆっくりと円形に歩いていた。

 

 学園におけるレクリエーションの一環。魔剣士学園に所属する生徒達により高次元の戦いでの“技と駆け引き”を見てもらおうと開催される、一部上級生と教職員によるトーナメントの決勝戦。

 

 まるで――というか実際そのなのだろう――仕組まれたようにトーナメント表の両極端に設置され、そして予定調和のように勝ち上がった二人による決戦は。今にもそのゴングが鳴らされようとしていた。

 

 無論学生の安全や学習のため魔力の制限や刃を潰した支給品を使っているが、それでもその剣戟は並の学生では到底真似できないほど高度な技術が要されるものとなる。

 

 ――だからこそ、騒がしかった筈の観客たちはいつの間にかたった二人の人間の醸し出す雰囲気に支配されるように固唾を飲んで見守るようになっていた。

 

 そして、そんな空気の中――二人は同時に踏み込んだ。

 

 先に仕掛けたのはアガレス。

 

「シッ!」

 

「流石に、初手ではね――!」

 

 彼は腰に差していた剣を引き抜くと、その切っ先を相手に向けると共に突きを放つ。

 

 刺突――それもただの直線的な攻撃ではなく、フェイントや緩急を使い相手を翻弄する動きで繰り出されたそれをゼノンは難なく回避すると、お返しだと言わんばかりにカウンター気味に鋭い斬撃を放った。

 

 だがその一撃は、アガレスの持つ剣によって受け止められる。

 

 火花が散り、両者の顔が鮮明に写し出されると共にアガレスは体を低くし懐へと潜り込む。

 

 低い姿勢のまま放たれた斬撃がゼノンを襲うが、それもゼノンは難なく受け止めはじき返す。

 

「っと…仕切り直しか」

 

「やるね」

 

 アガレスもその衝撃に逆らうことなく後ろへ飛び退き衝撃を殺しスマートに着地する。

 

『――――――ッ!!』

 

 直後湧き上がる歓声、数瞬の内に繰り広げられた高度な攻防に対する歓声に。二人は聞こえないフリをしながら再び剣を重ねる。

 

 真っ正面からのつばぜり合い。互いの力が拮抗し、どちらも引かない状態が続く――ように演じる(・・・)二人は顔が近付いたことを良いことに小声で会話を開始した。

 

「ウォーミングアップはこのぐらいでいいかな?」

 

「えぇ。こっちも暖まってきた」

 

「それじゃあ、ここからはどっちが勝っても――」

 

「――恨みっこ、なしで!!」

 

 アガレスが力を込めて押し返すと同時にゼノンは後ろに飛んで距離を取る。

 

 アガレスはその瞬間を逃さず、一気に前へと飛び出し剣を振り下ろした。

 

 刃の側面を盾に見立てその剣を受けたゼノンは渾身の力を込めてそれを押し返し、反撃の一刀を放つ。

 

 しかしアガレスはそれを読んでいたのか上体を傾けて避け、傾けた勢いを利用したサマーソルトを顎めがけて放った。

 

「ッ!」

 

「逃がすか!!」

 

 流石にこれは予想外だったのかゼノンも仰け反り避けるも、アガレスはその隙を逃がさず仰け反り幾らか下の位置にあったゼノンの頭部を殴り飛ばす。

 

ドゴォ!!!!!

 

 重たい音と共にゼノンの身体は吹っ飛び壁へと激突しそうになるが、剣に魔力を集中して地面へと突き刺し。その勢いを殺すとすぐさま体勢を立て直した。

 

「キャー!?」

 

「ナイスヒットォ!!!」

 

「ちょっと男子ー!!」

 

 二人の攻防に一喜一憂する男女間の罵り合いに、アガレスは内心『ここの生徒貴族ばっかりというわりには民度悪いな…』と呟きながらも剣を構え直しゼノンの反応を待った――が、次の瞬間。

 

 アガレスの視界からゼノンの姿が消え、絶大な剣気がアガレスの背後に突き刺さる。

 

「んな――こんのォ!!」

 

 後先考えずに背中の剣気めがけて全力の横薙ぎを放ち、刃と刃がぶつかる金属音が響き渡り。アガレスの足下が陥没し周囲の地面がクレーターのように窪んだ。

 

 視線をぶつかる剣の先へと向けると――

 

「…まさか、受け止めるとはね」

 

 心なしか殺気に満ちたのような表情のゼノンが、少し驚いたような声音でそう呟いた。

 

 対するアガレスはというと、額から冷や汗を流しながら頬を引きつらせ苦笑いを浮かべる。

 

 事前に決められたソレを明らかに超過した大斬撃に疑問を抱き、内心でその原因を探る。

 

(まさか、頬を殴り飛ばされただけで怒ったのか――?)

 

 一瞬そんな結論を下そうとしたアガレスだったが、すぐに頭を振り払うと。剣をズラし――力を受け流して決死の状況を脱した。

 

 そのまま地面へと振り下ろされたゼノンの剛剣によって地面は大きく砕け、瓦礫は破片へ、破片は欠片へ。

 

 そして欠片は砂埃へと姿を変え会場一体に土色のヴェールを纏わせた。

 

 アガレスは大きく息を吐くと共にゼノンから間合いを取り、審判の方を見やる。

 

 しかし審判役の青年は激突によって生まれた砂埃の向こうにてオロオロしているようであり事態の解決は望めそうにないと判断すると、アガレスは小さく舌打ちをした。

 

「なら、こっちもそれなりに――!」

 

 アガレスは自身の異能と同じ赤色の魔力は全身を覆い、剣に電子回路のような紋様が走る。剣と身体により一層の強化を施した彼は、砂埃の奥に垣間見えたシルエットへと突進する。

 

「その量は、制限超過じゃないかな?」

 

「それはお互いさまでしょう!」

 

 斜めに振り下ろした剣をゼノンが軽やかな動きで回避すると、剣の軌跡にそって強烈な突風が吹き渡る。その風に髪を揺らしながら、二人は同時に笑みを浮かべた。

 

 会場の床や壁を一蹴りで爆砕させ、交差しながらすれ違い様に斬撃を浴びせ合う。

 

 観客達は二人の戦闘を見て興奮しており、特に女性陣は「きゃー」とか「素敵ー」とか黄色い歓声をあげ――一方男子は固唾を飲んで手元の紙切れを握りしめていた。

 

 片手で握っていた剣はいつの間にか両手で握っており、もしここに魔剣士ではない人間がいる場合。その人物は見るのは二人がその身から迸らせる魔力の色と軌跡のみだったろう。

 

 

 その後数分に及ぶ激闘の末、二人はほぼ同時に距離を離し剣を構えた。どちらも肩で息をしている――という訳ではないが、互いに額にたらりと汗を流した。

 

「そろそろ時間も近い…次で決めようか?」

 

「いいね。そりゃ単純明快だ!」

 

 互いにもっとも威力が出ると確信する剣の型と取り、意識を集中させる。すると剣を中心としてアガレスからは炎が、ゼノンからは金色の騎士のようなオーラが象られた。

 

 魔力の可視化――ある程度の魔力を保有するものが見せる。その魔剣士の実力を保証する現象は、アガレスとゼノンが共に強者である証明である。

 

 会場全体が静まり返り、緊張と期待が高鳴る。

 

 この場にいる全員が固唾を呑んで見守る中。両者は呼吸を整えから剣を振り上げ、互いに駆け出そうと足に力を込め――――

 

 

 

 

 

「ち、中止いいいい!!?」

 

「「ッ!!」」

 

 空間を裂くようなその声にアガレスとゼノンはピタリと停止し、魔力を霧散させる。

 

 二人の中心に位置する場所でその手を振り下ろした審判の青年は、冷や汗をだらだらと流しながら口を開いた。

 

「お二方やりすぎです!これ以上の試合は、審判として見過ごせません!!」

 

 審判の青年はその手刀と瞳を揺らしながらも毅然とした態度でそう言い放つ。それは試合の結果を司る審判としての矜持が成した決意の言葉であった。

 

「これは――減給かな?」

 

「かもしれませんねぇ。はぁ……」

 

 既に闘気を失った二人は剣を鞘に収め、審判へと歩み寄る。

 

『……………?』

 

 てっきりそのまま退場するかと思っていた二人の行動に、観客席から疑問の声が上がる。

 

 審判の真横まで移動した二人はおもむろに審判の手を掴み。天に高々と振り上げる。

 

「少々勝手だが、ここに試合の決着を宣言しよう――!」

 

「今回の試合の勝者は、勇気と責任を持って俺たちを止めてくれた審判!――で、どうだ!?」

 

 ゼノンとアガレスの突発的な提案に、審判の青年は目をパチクリとしそれから慌てて抗議をする。

 

 ――しかし、そんな微かな反対の声は会場に一際大きな歓声によって掻き消された。

 


 

「二人とも。反省はしているね?」

 

「ハイ。申し訳ありません」

 

「大変反省しております…」

 

 試合後、アガレスとゼノンは治療をすっ飛ばして案内された副校長室にて自主的に(・・・・)床へ正座をしていた。

 

 副校長室に入った瞬間二人を待ち構えていた副校長“ルスラン・バーネット”から発せられた怒気から「あっこれヤバいやつだ」と本能から察したアガレスが前々世からの習慣から剣を腰から外し地面に正座し、それにゼノンが倣った形だ。

 

「幸い、観客席の生徒や審判の青年に怪我はなかった」

 

「はい」

 

「だが会場はボロボロ、私自身の眼で被害状況を確認したが。まるで子どもが無造作にスプーンで抉ったワンホールケーキのようだったよ」

 

「おっしゃる通りで…」

 

 目の前の枯れ枝のような老人の声に、生気に満ち溢れた若人二人が圧倒され力なくうなだれる。

 

 これもまた学校内での“立場”という名の力によるものなのだろう――アガレスはともかく、ゼノンとルスランにはもう一つ“立場の違い”があるが。

 

「私も昔は剣に生きた身だ。模擬とは言え闘争で気分があがる(・・・)――というのは分かる」

 

「だが君たちは有力な魔剣士であると共に、教師であることも忘れてはいけない」

 

「教師というのは、生徒を導き、時に叱り。だが彼らが危険に晒された時には、真っ先にその身を盾にしなくてはならない」

 

「そんな教師が。生徒を危険に晒すような真似をしないでくれ…特に君たち二人は、主に実技を担当している。目標にする生徒も多い身だろう」

 

「その通りです――未だ研鑽の身ですが」

 

「ここでの謙遜は意味がないぞゼノンくん…アガレスくんも、理解しているね?」

 

「はい…」

 

 顔を伏せありありと反省の意を示そうとする二人に、ルスランは軽く息をつく。

 

「ある程度の罰は覚悟してもらうよ?」

 

「どんな処罰でも受ける覚悟です」

 

「同じく、なんなりと」

 

「なら、この話はこれで終わりだ。処罰については追って知らせよう」

 

 そう言葉を切ったルスランはこれまで座っていた椅子から立ち上がると、ゆっくりとした足取りで二人の前へと歩み寄った。

 

 正座している二人の方をポンと叩き、先程とは真反対な優しげな誇るような微笑で二人を見た。

 

「二人とも、よく戦ってくれた」

 

「は?」

 

「今回の模擬戦を通して、目指す場所が遠いと実感しより励もうという声が数多く集まった」

 

「それは――」

 

「過程はどうであれ、結果は最良に近いものとなった。そこは誇っておくれ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 二人は副校長に向かって礼をし立ち上がった。

 

「二人とも下がって結構――あぁ、ゼノンくんは少し残ってくれ」

 

「分かりました。アガレス先生、良い勝負だったよ」

 

「こちらこそゼノン先生。機会があればまた…失礼します」

 

 最後に再度礼をしたアガレスは、副校長室を後にした。

 

「さて……ゼノン(・・・)

 

 そして残されたゼノンは、パタンも副校長室の扉が閉じた瞬間…ドパッと冷や汗を流し始めた。

 

 緊張の糸が解けたのではない…張り詰めていたソレが遂に耐え切れず千切れ、抑え込んでいた物が決壊した結果だ。

 

「君には期待していたのだがね…無論、雑兵にしては。だが」

 

「…ッ!期待に応えられず、申し訳ありません」

 

 王国有数の剣の使い手である自分を見下す発言に、俯かせた顔の下で屈辱に歯を食いしばるが…ゼノンは決して腰の剣には手をあてようとしない。

 

「ハァ――まぁいいさ。今回の任務…試合中の事件に見せかけたアガレス・ヴェルネンシスの殺害は失敗に終わった。原因はなんだね?」

 

「私の想定よりも標的の力量が上だった。ただそれだけです」

 

 彼我の実力差だけではない―現在のルスランをゼノンが仕留めるのは安易なようにも見えるが―実はそう簡単な話でもない。

 

「アガレスくんは以前、正体をボカしていたとはいえ教団からの誘いを断った。障害になり得るため早めに摘んでおこうと同じ学園に所属していた君が、試合の中で不慮の事故にみせかけ殺す手筈だったか?」

 

「えぇ……ですが、彼は強かった」

 

 これ以上の泥を被らないよう素直に自身の失敗を受け止める姿勢を取ったゼノンに対し、ルスランは普段の温厚な性格をそのまま表したような表情から――生粋の、真性の加虐嗜好者(サディスト)のようなあくどい笑みを浮かべた。

 

「残念だが、事前の取り決め通り君を“ラウンズ”と推薦することは出来ない。本当に残念だがね…」

 

「いえ、ルスラン様のご期待に応えられず。申し訳ありません…この狸爺が

 

 ラウンズとは、教団における最大戦力として数えられる12人の騎士達の総称を指し、同時にそれは二人がディアボロス教団の一員であることを表していた。

 

 ディアボロス教団――同じ学校の教師という表での関係以上に強く、そして血生臭い上下関係が二人の間にはあった。

 

「なにかいったかね?ん?」

 

「何も。私はこれで失礼します」

 

「ハハハ、これからは自力でラウンズまでの道を切り開いてくれたまえ――努力しろよ若造が」

「……………ハッ」

 

 ゼノンはもう一度深く頭を下げると、先程のアガレスと同じように副校長の部屋から出た。

 

「あっゼノンせんせ――ひっ!?」

 

「すまない」

 

 副校長室から出てきたゼノンを待ち構えていた女子生徒が声を掛けようとするも、抜き身の剣のような殺意に当てられ倒れ込む。

 

 しかしゼノンはそれを助け起こすこともなく足早にその場から去って行った。

 

「ゼ、ゼノン先生…?」

 

 一人取り残された女子生徒は、ただ誰も居ない廊下へ向けて。聞こえない問いかけを発するしか出来なかった。





 という訳で学園内にいる教団の人についてでした。絶対もっといるだろうけどネ!

 因みに裏で二人の会話を盗聴しようとしていたシャドウガーデンの諜報員とローランがバッタリ遭ったりしてますが話術とハッタリで乗り切ってたりします。

【ローラン】
 原作が始まるまでにアガレスが助けた大多数の一人であり協力者の一人。

 直接戦闘力は“女神の試練”でメダルが貰えるかどうか五分五分程度だが、諜報員としての技量が隔絶して高く。情報収集能力とコミュニケーション能力に長けている。

 隠密時や戦闘時は黒スーツと顔全体を覆う黒い仮面が特徴的であり、スーツは独自に改良され静音性を高められている。

 嫁さんと子どもがおり、嫁は本人より強い。
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