中々陰の実力者ムーブが見れなくて不安よな。
シャドウ、動きます(三話先ぐらいに)
みんな青い残響大好きかよ…俺もソーナノ(小声)
誤字報告ありがとうございます。
アガレスがシドを回収し、騎士達に凄みを効かせたその日の夜。日は完全に落ち太陽はその姿を裏側に隠し、淡い月明かりだけが王都を照らしていた。
そんな王都の中心部――から少し外れた位置にある寂れた寮、その一室。
そこは本来、ほかの部屋と変わらず平凡な内装に簡素な家具、質素な小物のみの平々凡々な筈だが…今夜はなぜかそんな普段の様相は鳴りを潜めていた。
「ふん……」
主張の強い内装や豪華絢爛な家具にアクセサリー。そしてそれらを辛うじてまとめてみせた健気なアンティークランプに照らされたシド・カゲノーの居室は、さながら王侯貴族に負けない煌びやかさを放ち。漆黒のコートに身を包み悠然とこれまた華美な椅子に座る彼の姿はさながら夜の支配者のようであった。
(千里の道も一歩から。この値千金の言葉は陰の実力者ライフにも通じるところがあるな…)
日銭を(盗賊から略奪して王女からの施しで)稼ぎ、時には幻の品を(これまた盗賊の略奪品の中から偶々目についた物を)発見する。
これまでの努力と苦労に思いを馳せ、シドは内心でホロリと涙を流した。
(そういやこの持ち方はワインの風味が手の熱によってうんとかかんとか〜って聞いたことあったな。細かいことは忘れたけど)
南西部ボルドー産の90万ゼニーはするであろうヴィンテージワイン(尚シドは酒の良し悪しは分からない)を、これまた高級品であるビトン製のワイングラスに注ぎゆっくりと回してみせる。
「フフ……今宵は陰の時間。太陽すら塗りつぶす闇へ、我らは牙を突き立てる」
血のように赤いワインにも負けないルビーの瞳を輝かせ、その瞬間からうだつの上がらない平凡な貧乏学生“シド・カゲノー”は。シャドウガーデンの盟主、陰の実力者“シャドウ”へと華麗なる変身を果たした。
「わぁ…!失礼します、シャドウ様」
その背後から1人の少女微かな感嘆の声あげたがすぐさま自制し、椅子に座るシャドウへ声をかける。
シルクのような銀髪を短く切りそろえ、泣きぼくろが特徴的な少女“ベータ”は。自らの盟主に深々と礼をしてから今夜の作戦について語り始めた。
「アルファ様からの命の元、今回の作戦にはシャドウガーデンが現時点で運用出来る最大数を動員しています。その数144人」
「――144人!?」
“集まっても30人ぐらいかな”とぼんやりと考えていたシャドウの耳に伝えられた想定の4倍以上の人数に、思わず陰の実力者ロールプレイの仮面が外れ驚愕の声で反芻してしまう。
「ッ!申し訳ありません!ですが、現時点ではこれが限界「エキストラでも雇ったのかな…?」――はい?」
その驚愕の声を“失望からくる落胆の声”と勘違いしてしまったベータは謝罪の言葉を続けようとするも、その声を遮るように届いたシャドウの呟きの意味を理解出来ずに硬直する。
「こちらの話だ――続けろ」
「は、はい…作戦は王都に点在するディアボロス教団、中でも“フェンリル派”に属する者達とその拠点への同時襲撃――そして襲撃作戦の中でアレクシア王女の魔力痕跡を調査し、見つけ次第これを確保するのが。今回の作戦です」
「指揮系統はどうなっている?」
「全体指揮はガンマが、現場指揮はアルファ様が執り。私がその補佐を」
「他の“七陰”はどのように動かす」
「イプシロンは後方支援に徹し、デルタには先陣を切らせ。それを戦闘開始の合図とします――ゼータは諜報活動の影響で王都には間に合わず、イータは研究に専念したいとのことなので。今作戦には不参加です」
「そうか…先程、このような物が届いた」
ベータの説明を聞き終えると、シャドウは懐から一通の手紙を取り出して彼女に差し出す。
「これは…卑劣な騎士による、身の程知らずの脅迫状。と言った所でしょうか?」
「彼らからすれば、気に食わぬ無実の少年を断罪する
フフッとアンティークランプに照らされ微笑む漆黒の衣を纏う彼らと、不確かな光に照らされ伸びる歪な影はさながら影の魔人達の談笑を思わせた
「ガンマには悪いが、
「分かりました――それにしても」
そこでベータはシャドウの顔をチラリと盗み見る。
シャドウの顔は五日間の尋問(という名の拷問)を経て傷だらけであった彼のその顔に、傷は一つもなかった。
無論。魔剣士は魔力を用いることで自身の治癒能力を高めることが出来るが、“モブらしくないから”と騎士団から解放されアガレスに寮まで送られ1人になるまで治療を先送りにしていた場合、消えるとはいえ傷跡が残るのが普通だが…先程の記述通り、シャドウのご尊顔(ベータ視点)は無傷であった。
「炎の力を持つアーティファクト…まさか、治癒にも使えるとは思ってませんでした」
「元来炎とは、破壊の他に文明や再生の象徴でもある。なら、不思議ではないのだろう」
それは、アガレスの尽力によるものだった。
本来は彼自身の体にある異能の力だが、前例がない力であることと。本人が「使えるのはこの剣型のアーティファクトがあるおかげ」と喧伝している。その情報の真偽は、未だシャドウガーデンにおいても判明されていない。
「…少しだけ、本当に少しだけですが。彼には感謝しないといけませんね」
「彼も、今宵動く」
「え…まさか、彼もディアボロス教団の――ッ!」
「…違う」
いつになく強い否定の言葉に、ベータは続ける言葉を失い沈黙する。
「アガレス・ヴェルネンシス――彼も破壊や支配を良しとせず剣を握り抗う者の1人だ」
「では…協力者だと?」
「それもまた否だ。かの
(…あ、昔姉さんと見た本のタイトル一部パクっちゃったな。まぁいいか)
シャドウの言葉に神妙に頷いてみせたベータは、主の意をくみ取り急遽組み立てた内容を口にする。
「――分かりました。仮に彼の者やその仲間と遭遇しても基本的には不干渉。作戦に参加する者全員に通達します」
「それでいい…では、我らは我らの舞台を―――始めよう」
(出来れば介入したいけど、それが可能かどうかは運次第だね。ボクの陰の実力者
夜風に吹かれたなびくコートを翻し、シャドウは傲慢不遜な笑みを浮かべ夜の闇へと消えていった。
――シャドウガーデンが動き出すのと同時刻。
「…来たか」
ドゴオオオォン――!
屋根の上で王都の町並みを見下ろしていたアガレスが呟くと最早地震か何かを思わせるような轟音と地響きが起き、時計塔のような建物が崩れ落ちた。
「動き出したな。今回の王女誘拐に乗じて両組織動き出すとは思ってたが…凄いな」
「開戦の法螺貝にしては派手だな。隠れて動けないほどの大規模な作戦なのか…」
(女神様の言葉が嘘じゃなくて取り敢えずは一安心…いや、騒ぎが起きるのが良いというのは不謹慎か?)
教師としての服装ではなく、黒い上下のインナーの上から赤い革コートを羽織った戦闘服を着たアガレスも。自身の啓示に間違いがないことに内心安堵しながら眼を彼方のほうへと向けた。
「ローランは民衆の避難に集中。俺は騒動の大本を叩く」
「シャドウガーデンをか?」
「態々民衆を殺すほど非効率な奴らとは思いたくないが、いざとなればな。今日はアレクシア王女の救出が優先だ」
(そして、シャドウによる大規模破壊の阻止)
そう言い、彼が本当の最優先目標を心中で述べる。
(…阻んだ後に、素直に退いてくれる相手ならいいんだが)
「行くのか?」
「あぁ…うし!アガレス・ヴェルネンシス、行くぞ!!」
頬を張り気合いを入れ直した彼は、魔力で強化された体を伴い駆け出した。
王都での騒動、その終結の時は――近い。
俺の炎は、夜闇ではよく映える。
目立つ・綺麗と言えば聞こえは良いが、逆に言えば隠密性が失われるに等しい。
「うおっ…今のなに!?」
「なんだっていいだろ!速く避難するぞ!!」
なるべく屋根の上といった人目につかない場所を走っているとはいえ、赤い軌跡を残して瞬く間に過ぎ去っていく謎の物体はどうしても目につく。
「うわっ、瓦礫が…!」
「崩れてくるぞ!速く逃げろ!!」
「ッ!」
そんな時、視界の端で爆発の被害の余波を受けた建物が派手に崩れ。大きな瓦礫の一つが街道へと落ちようとしていた。
「……見捨てるのは、無理だろ!」
頭の冷静な部分が“不測の事態に備えてさっさと行くべきだ”と告げるがそれをねじ伏せ生まれる魔力を炎に変える。
足から強烈な炎が迸り、俺に前へ進む推進力を与えた。
それに従い地面を強く蹴り飛ばして跳躍、瓦礫の落下地点へと
「ひゃあ!?」
「そのまま伏せてて!」
避難者への状況説明を後回しにして咄嗟に指示だけ飛ばし剣を肩越しに構え――
(両断しても助かるのは俺の直線上、端の人間は潰される。少々手間は掛かるが…助ける時に手間を惜しんでられるかよ!)
「【炎衝波】!」
剣の軌跡に沿って現れた炎の濁流が、頭上の瓦礫と激突し、その勢いを弱める。
だが【炎衝波】は本来多人数用の技であり。この攻撃だけで瓦礫を対処出来る力はない…だがそれでいいし、寧ろそうならなくては困る。
「次だ、【灼魔拳】ッ!」
剣を利き手とは逆の手に持ち替え、炎を拳に集約して。その場でアッパーカットを瓦礫に向けて打つ。
『――――ッ!!!』
すると炎で象られた巨大な腕が出現し俺の動作に追従するように動きアッパーカットを瓦礫へ放ち、遙か彼方へと吹き飛ばした。
あの方向は海だ。しかもあまり人が寄りつかない海域の筈だから、二次被害はないだろう。
「…ハァ」
「が、瓦礫がなくなってる!」
「俺たち助かったんだ!!」
「ありがとうございます魔剣士様!」
「また起きないとも限らないから、速めに避難してくれ…」
【炎衝波】で受け止め、【灼魔拳】で吹き飛ばす。
前者だけでは威力が足りず、後者だけでは両者の運動エネルギーの激突で吹き飛ばせずに瓦礫が砕け周辺に被害が及ぶ。
二段階の救出作戦は無事成功。後は騎士団や教会のがくる前に――げっ
「アガレスさん!」
どうやら俺の炎が見えたらしく、数人の騎士がこちらに向かってきていた。
今更隠れても遅そうだ。全員がばったり俺の目を見ている。取り敢えず今は……
「――逃げるか」
炎の推進力を、今度は駆けつけるためではなく逃走するためという反してかっこ悪い理由のために使い。俺はその場から脱した。
「アレってアーティファクトの力だけで片付けていいのかしら…」
暫く走っていると、俺を呼び止めようとする声はとっくのとうに聞こえなくなっていた。
周囲を見るとボロ屋が目立つような通りに居ることが分かる。喧噪は未だ聞こえるが先程よりも遠く、逃げてからそれなりの距離を取れたことを確認出来る。
「…振り切れたか?」
確認も含めてわざと周囲にも聞こえる程度の大きさで独り言を呟いてみせる。
………。
うん、なさそ――
「えぇ、彼らはアナタの遙か後方でバテて、上官達に怒られていたわよ」
「…聞かれてたのか、恥ずかしいな」
思わず素っ頓狂な声を上げそうになるも胆力で抑え込み、声の主がいる方向へ振り返る。
「久しぶりね。あの黒づくめの諜報員さんは元気にしてるかしら」
「おや、いつかの日の推定ギャングのお嬢さん。こちらこそお久しぶり――因みに彼は元気だ」
視線の先にいたのは、見本のような金髪碧眼の――いつぞやローランが殺されかけた――黒いボディスーツのエルフがいた。
…よりによって今から目標に向かおうという時にか。
「何の用で?因みにアイツについて口を割る気はないし、もし君らの計画に置いて俺が邪魔で。足止めしにきた~ってんなら、受けて立つぞ」
「いいえ。アナタを害する気はないわ――それが彼の意向だから」
剣に手をかけようとする俺に対して、エルフ…確か。“アルファ”だったか?は両手を挙げるようなポーズを取る。
「彼…?あぁシャドウがか」
「…そう言えば聞かれてたわね。その通りよ、シャドウ直々に『アガレスとその一派の邪魔はしないこと』というお達しが出たの」
…成る程?
「随分と突然、かつ突飛だな。俺の一派ということは、諜報員さんも含まれるんだろう?」
「そうなるわね」
平然とした顔でアルファは言い切った。切り替えが凄いのか、もしくは
――あぁ、それよりも聞かなくてはいけないことがある。
「分かった――ところでそちらは、俺とシャドウの相互不干渉を想定しているのか?」
「そうね。何か問題があるかしら」
「悪いけどあるな」
変に誤解を与えると後々こじれかねない。降って湧いたようなチャンスだが、俺が“使命”を果たすためには必要なことだ。
「シャドウが俺のことをどう思って解釈してるのかは知らないが、俺の目的は“大規模な破壊活動の阻止”及び“前述の事態が起こった時の被害縮小”だ」
「シャドウは俺に関わりたくないのかもしれないが…俺はシャドウ、いやシャドウガーデンが。目的はどうであれ破壊活動に勤しむというのなら」
相手は現在丸腰で攻撃はしないと言ってくれた――撤廃される可能性があるが――ので剣を抜くことはないが、眼に力を込めてアルファを見つめる。
「俺は君たちの邪魔をする―――正義の炎と翼に誓ってな」
「なるほどね」
「悪いな、依頼主には多大な恩義があるから。裏切れないんだ」
「?いや、
宣誓を受けたアルファに続けて言葉を重ねようとするが、その前にアルファの言葉に俺は瞬時に口を閉じた。
「………え、いいのか?だいぶ好き勝手言った自覚があるんだが」
「私たちは嘗てシャドウに救われた身、彼からの命を反故出来るのは彼だけよ」
これは……予想外だな。
俺をみるアルファの眼は、長いこと生きてきた俺の人生から考えてもそうそう見たことのない強い光で満ちていた。
絶対の自信だけではない、だが依存的な被庇護者のそれはない。
まるで理想の人物がそのまま飛び出して来てその人に仕えてるような――凄まじく充実した目をしていた。
……まぁあくまで所感だが。
「それに、仮に貴方に邪魔をされてもシャドウは止まらないわ。アガレス・ヴェルネンシス」
「…了解だ。こっちは好きに振舞おう」
今度はこっちが両手を上げる。つまり“降参”のポーズをする番だった。
大人物なのか奇跡的なレベルで人に勘違いさせる天才なのか、どっちなんだろうかシャドウは。
「話は済んだわね。じゃあ私たちは私たちの目的を果たすわ…流石に襲ってきたら迎撃はするけど」
「それで構わない――あぁただ、さっきも言ったとおり大規模な破壊活動はやめてほしい。あんな派手に建物を壊さなくても制圧は出来るだろ?」
「…アナタが迎撃したあの瓦礫を作ったのはデルタよ。もう彼女の出番は終わってるから、今夜はもうあんな事故は起きないわ」
「それなら安心だ。最悪そのデルタと戦わなくちゃいけなくなるところだった」
「彼女は強いわよ」
「それは、背筋が震えるな」
自然と俺たちは互いの進行方向へと歩き出す。だがそれは奇しくも同じ方向であり、俺たち二人は並んで歩いていた。
「怖気からくる震え?それとも武者震いかしら」
「――どっちでもいいさ」
秘密組織の典型例として排他的な相手かと思っていたが…普通に話せる相手だな。何ならどこか高貴な雰囲気すらが――
『~~~~ッ!!!』
「「ッ!?」」
会話を更に続けようとすると、野太く響き渡く…だがどこかもの悲しげな雄叫びが俺たちの体を貫く。
「向こうの方角か!」
「教団の実験体かしら」
アルファがポツリと呟いた言葉から、脳裏につい先日ローランから渡された中々におぞましいことが書かれた研究資料の写しを思い出す。
「“ディアボロスの呪いの顕在化実験”…」
「あら、よく知ってるわね」
「知っての通り諜報員が優秀だからな――実用化にはほど遠いのが現状じゃなかったか?」
「教団からすれば、今は猫の手でも借りたい状況よ」
「ヤケクソか…末端にしても思慮が浅い……!」
壁を蹴り登り屋根に着地し、広い視点から声の主を探すと――ここからさほど遠くない位置に家屋よりも大きい、土気色の肌をした赤い瞳の巨人を見初めた。
専門用語ばかりで理解しきることは出来なかったが…身体増強剤、ディアボロス細胞。そして複数人の“悪魔憑き”の血を注入してディアボロスによる英雄の血族への呪いを凝縮・顕在化して強力な生物兵器を作るというものだったか。そしてその素対は“悪魔憑き”の末期患者――
「実質強くデカい魔物だな…実際はただの女の子なんだろうが」
「………」
非道な実験というのはいつの世も醜悪で害悪的だ。
「可哀想だけど、あれは手遅れね」
俺の隣で同じく巨人の様子を見ていたアルファが、諦めの声色で言う。
しかし俺は…その言葉からある可能性を見出し、思わず声をかけた。
「なぁ!――シャドウガーデンは、“悪魔憑き”を何とか出来るのか?」
「…えぇ、でもあそこまで混ぜられてしまったら。例え悪魔憑きは治せても体が耐えられない」
その答えに俺は驚くと共に、“それなら”と笑みを浮かべた。
「なんとか出来るって顔ね」
「“実験される前”に戻すことならな――だから、頼んでも?」
えっ中途半端?いやなんのことだかサッパリ…
【アガレスの戦闘服】
イメージとしてはFFシリーズのジェネシス。
コートは彼がこれまで討伐してきた魔物の中から特に耐火性能が強いもので出来ている。