陰の実力者と二週目主人公。   作:korotuki

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 腹痛で寝込んだ結果日を跨いでの投稿となり申した。正直今も痛いです……!

追記
先日チラリとですが、本作が日間ランキングに掲載されていた事を確認しました。
これも読者の皆さまのお陰です。ありがとうございます


007 帰れる者、戻れない場所

「力に任せた剛腕なんて――!」

 

『グオオオオオオォ!?』

 

 赤い閃光を纏った剣が、怪物の周囲を飛び回り無数の切り傷を作る。

 

 魔力の光と同じ赤い長髪の剣士が斬撃の嵐を止め地上に降り立つと同時に、思い出したように怪物の体の傷から鮮血が吹き出た。

 

 通常の人間を遙かに超えた巨躯から吹き出る血はシャワーのように周囲に飛び散るが――怪物の傷口から蒸気が発生したかと思えばみるみるうちに傷口が塞がっていく。

 

『ガアアアアアアアアアアアアア――!!』

 

「化け物が…これでも再生するというのですか……!?」

 

 怪物の体はまるで数秒前に巻き戻ったかのように、すっかり傷を知らない無傷の体に戻ってしまった。

 

「…ですが私の方が速く、強い!」

 

 せっかく与えた傷を無為にされたアイリス・ミドガルは魔剣士としての常識すら超越したその光景に驚愕するが、気持ちを萎えさせることなく再び剣を構える。

 

 事実先程の斬撃を放つ間怪物から反撃らしい反撃はなく、怪物はただなされるがままだった。

 

 一挙手一投足をよく見れば足運びや拳打を放つ際のフォームは素人もいいとこであり、仮にアイリスと怪物の体躯が同じならアイリスは怪物の隙を突き足を引っかけるだけで容易に怪物を地に伏せさせる事が出来るだろう。

 

 だが現実はアイリスの頭は怪物の膝の位置にも届いておらず、彼女は遙か高い位置にある怪物を見上げ続けた弊害がふと首の後ろをさすった。

 

 怪物はそんな彼女など意に介さず、目の前の自らを傷つける存在をどう排除するかしか考えていないようで。有り余る膂力に任せるように高々と腕を振り上げる。

 

「なら、再生出来ない程のの損傷をその身に刻ませる!契機にその腕を――ッ!?」

 

 切り落とす。そう言おうとした瞬間、彼女は視界の隅にオレンジ色の赤い火花が散るのが見えた。

 

 火花が炎となり。それは地を這う蛇のようにうねりながら怪物へと迫ったかと思えばその直前で止まり――アイリスと怪物の間に炎の壁を作り出した。

 

『グオゥ!??』

「火の手!?だとしてもこんな、意思を感じさせるようなものは…」

 

「アイリス王女!」

 

 戸惑う彼女の元に、剣を赤く光らせたアガレスが走り寄る。

 

「魔剣士アガレス…これは、アナタが?」

 

「アーティファクトの力に過ぎませんよ。休戦言って聞く相手には見えなかったので」

 

 そう言いチロリと炎をはく己の剣を一度振り消火させたアガレスは、自らが生み出した炎の壁へと目を向ける。

 

「――なるほど、獣除けには炎。という訳ですか」

 

 釣られてその壁を見たアイリスは…その奥にいる自分の前に立ちはだかるように現れた炎に怯みこちらへと向かってこない怪物の様子を見て。彼が単純に加勢をしなかった理由を察した。

 

「仮に効かなかったとしても、目眩ましにはなるので……アレは?」

 

 肩を竦め戯けた様子で言うアガレスに頼もしいモノを感じたアイリスは、問いかける彼の言葉に答えた。

 

「一言で言えば正体不明です。突如として現れ、幾人の騎士や魔剣士の命を奪っていった…」

 

「それは…残念です。しかし挙動は獣のそれだ。王国最強の手に余る要素があるようには見えませんが?」

 

「えぇ。事実私は、幾たびもあの怪物に傷を負わせました」

「…不躾ですが、傷があるようには……」

 

 そこでアイリスは顔を悔しげに歪める。

 

「あれは不自然な程に再生が速い、それこそ斬ったそばからと言ってもいい」

 

「なっ……では、どうするので?」

 

「この世に永久・無限のモノは存在しません。再生すると言うのなら。その再生力がなくなるまで切り続けるまで」

 

「単純明快ですね、それは分かりやすい………」

 

 ふと、アガレスの声が途絶える。不審に思ったアイリスがアガレスの方を向くと、彼は顎に手を置き眼を伏せ。何かを考えているような姿勢をとっていた。

 

「…アガレス?」

 

「――いえ、少し考え事を」

 

 そんなアガレスを余所にこれまでの会話で一息入れたアイリスは姿勢を正し、アガレスへの王命を下そうと口を開く。

 

「協力を要請します。アナタの炎があれば、傷は更に深く複雑になるはず――」

 

 

それが徒に苦しめるだけだと、何故分からない

 

「ッ!?」

 

 横から聞こえた鈴を転がすような声にアイリスがバッと振り向くと、その先には黒づくめの女性がいた。

 

「何者だッ!」

「…アルファ」

 

 呆気にとられていたアイリスだがすぐに気を取り直しアルファへ剣を向け硬い声音で問い質した。

 

「どういうつもり…騎士団と敵対するのなら容赦は……!」

 

「何も知らない、ただ見ているだけの愚鈍な脇役にも劣る愚蒙な観客が喚くな」

 

「観客だと…!私を、愚弄するか!!」

 

 内外ともに王国最強と呼ばれる彼女に対するその暴言に、烈火の如き怒りを見せるアイリスに対し。アルファは冷ややかな視線を返す。

 

「貴方に許されてるのはただこの舞台を見ることだけ、アイリス・ミドガル。アナタに、彼女は救えない」

 

 

 

「……へぇ、まるでアンタなら何とか出来るって言い方だな」

 

 そこでこれまで黙っていたアガレスが、アルファに向かって一歩近付く。

 

 まるで見定めるようにジロリとアルファと見るアガレスに対して、アルファは仮面の奥でふわりと笑った。

 

「えぇ。私達シャドウガーデンならね…それで、だからなんなのかしら?」

 

「――協力させてくれ」

「アガレス、何を…!」

 

 突然アガレスは剣を仕舞い、アルファへ頭を下げた。

 

 素性も分からぬ相手への突然の懇願に。アイリスは驚きの声を上げる。

 

 だがそんな彼女を無視して、アガレスは言葉を続けた。

 

「アレを何とかする手立てがこっちにはない。何とか出来るってんなら願ったり叶ったりだ」

 

「手助けはいらないのだけど」

 

「あの炎の壁をどかして、怪物の下でウロチョロして気を引くぐらいは出来る」

 

「…………フッ」

 

「貴様…なッ!?」

「アイリス王女、お気持ちはありがたいですが今だけは」

 

 自らを卑下するような言い方をしたアガレスに対し、アルファは少し口元を歪め小さく鼻で笑う。

 

 アイリスからすればそれは自らを低く見せてまで助力を頼み込んだ彼の態度をせせら笑う失笑のようであった。

 

 胸ぐらを掴んでやると踏み込もうとした彼女だったが――それはアガレスが彼女の道を遮る形で伸ばした腕に止められる。

 

 …………

 

 ――因みに立ち位置と怒りで視野が狭くなっていたアイリス王女には見えていなかったが。アルファの視線はアガレスの顔…というよりかは口元に向いており、またアガレスは小さく舌を出していた(・・・・・・・・・・)

 

 閑話休題

 

「貴方はそれでいいのですか!?」

 

「この場において俺は面子よりも実利をとります……確かに消耗戦は確実かもしれません。しかし相手の活力がどの程度か分からないのにその策は…」

 

 諭すようなアガレスの言葉に、アイリスは少し眉を下げる。

 

(確かにこの場で数分間のあいだ切り続けても怪物は健在。あの再生力が何分、いや何時間かかるか……)

 

 アイリス王女の心中に小さく、だが確かに“不安の種”が生まれた。

 

「そもそもあの怪物はこの騒動の原因ではなく、突発的に現れた障害に過ぎません」

「事態の解決と沈静化…そしてなによりも、アレクシア王女の捜索のために!……ここで報われるかも分からない消耗をする訳にはいきませんっ。違いますか、アイリス王女」

 

「…!」

 

 論理的な進言から一転、絞り出すように言われたその言葉が決定打となる。

 

 愛する妹(アレクシア)という“成長剤”を注がれた“不安の()”は彼女の中で大きく育ち、アイリスは反論する気概を削がれた。

 

「――俺は何をすればいい」

 

「あの炎を弱めてくれればいい。軽く飛び越えられるから」

 

 沈黙を了承と受け取ったように、アガレスはアルファに指示を仰ぐ。

 

「ッ、待って…!」

 

 ふらつきそうな程に焦燥するアイリスは制止の声をあげるが、アルファは元より、アガレスまでもが止まることなく段取りを決め合い――アガレスが手を翳し炎の壁を怪物の上半身が見える程に弱らせると。怪物へ向かってアルファが上体を下げた瞬間、視界から掻き消え眼にも止まらぬスピードで発進した。

 

「アイリス王女」

 

 手を伸ばすだけの彼女にアガレスが振り返る。

 揺れている自分とは違い、一切の揺れが見られない彼の視線を受けて、アイリスは思わず身構える。

 

「………」

 

「貴女の力はもし私たちが失敗した時の後詰め…いや、妹君のためにとっておくべきだ」

 

「…っあ」

 

 ――芽吹いた。

 

「行ってまいります」

 

 呆然とこちらを見るだけのアイリスに背を向けたアガレスは、振り返らずに怪物の方へと走った。

 

 アイリスを、一度も顧みることなく。

 

 


 

 

「中々に演技派ね」

「まさか、最後なんて申し訳なさを抑えられなかったから。彼女の顔を見る余裕もなかった」

 

 炎の壁の向こう側、事前に打ち合わせた(・・・・・・・・・)通りに事を運んだ二人は怪物に変えられた少女の前に立つ。

 

「私はどうすればいいの?」

「少し時間がいる。――それと、我儘だがあくまでアンタが倒した体にしたい」

 

「いいわ。じゃあその様に――少し痛むわよ」

『グォォ!?』

 

 怪物の股をすり抜ける様に通り、すれ違い様に両脚の腱を斬ったアルファは直後天高く飛び上がり。上空でその剣から莫大な青白い魔力を放出させる。

 

『グウゥ…ッ!』

 

「あぁ。君に対しての本題はこっちだ」

 

 突き出した片方の腕にもう片方の手を添えた格好のアガレスはその手の五指を軽く曲げる。

 

 指の一つ一つに指に火が灯り、それに呼応するように怪物の周囲にも火が現れた。

 

 手を反時計回りに回すと炎達が一斉に淡い燐光を放ち周囲を包み。怪物は謎の現象に対してアクションを起こそうとするが、何故か力が抜けた様にその場を動けない。

『グ…カ、あ……』

 

「――【回帰原火】」

 

 アガレスがその手を握ると同時に火はその勢いを急激に強め――

 

 


 

 

「この、魔力は…!」

 

 アイリスは、最初こそ呆然としていたが。怪物が炎に包まれた段階で何とか持ち直し、アガレスからの進言通り剣を手をかけ。後詰めのため待機していたが、突如空に現れた巨大な魔力に目を奪われていた。

 

 巨大な魔力はゆっくりと地面に向けて降りて行き、やがて衝突。凄まじい衝撃波がアイリスを襲った。

 

「くっ…」

 

 その場で踏ん張り耐え、やがて衝撃が止み目を開いたアイリスの視界には。怪物を止めていた炎の壁も、そして怪物もいなくなっていた。

 

「消し去ったというの…?ッ、アガレスは……!」

 

 慌てて視線を衝撃波の発生地へと向けると、そこには二人の人影――アルファとアガレスが向かい合って何事かを話し合っていた。

 

 黒色のおくるみで巻かれた子ども大の物体をアガレスから手渡されたアルファは二、三言話したかと思えばアイリスの方を見て妖しく微笑むと。衝撃波で生じた砂煙に紛れて消えていった。

 

 最後に残っていたのは、剣を鞘に入れ佇むアガレスだけだった。

 

「アガレスッ!無事なのですか!?」

 

「アイリス王女、はい。何とか…」

 

 駆け寄ってきたアイリス王女に答えるアガレスの表情は悔やむようなものであり、そこに怪物を倒したことによる喜悦はなかった。

 しかしそのことについてアイリスが疑問を挟む余地はなく、あまりの情報量に耐えきれなくなったように声をあげる。

 

「アルファに、シャドウガーデン…一体この国でなにが!?」

 

「俺にも詳しいことは……今は事態の究明よりも、動く必要があるかと」

 

 炎を操るその異能とは裏腹に冷静な言葉にアイリスは一度ため息をつき、何とか冷静さを取り戻そうと再び大きく息を吸う。

 

「……そうですね。速くアレクシアを見つけないと…!」

 

「二手に別れましょう。俺も全力を尽くします」

 

「頼みます。――手の空いてるものはこの場に残り現場の保管を!鼠一匹通すな!!」

『ハ、ハッ!』

 

 先程魔力の光を見て駆けつけた騎士達は、その惨状に動揺を隠せない様子だったが、それでも彼らは王女の言葉に背筋を伸ばし敬礼し走って行った。

 

「では私はこれで、ご武運を」

 

「アナタこそ」

 

 短く言葉を交し、二人は逆方向へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 アイリスと別れたアガレスは彼女の姿が見えなくなった瞬間、フッと裏路地へと入る。

 

「何とかなったかしら?」

「あぁ感謝する。…所でその子は――」

 

「大丈夫よ。それにしても…本当に元に戻ったみたいね」

 

 路地裏の先で待っていたアルファが持っていた黒いおくるみ――尚その正体はアルファのスライムスーツ・ソードの一部を布のように変化させた物――を覗き込むと、その中では小さな女の子がすぅすぅと寝息をたて眠っていた。

 

「本当に何とかできるんだな…あぁ、よかった」

 

「アナタが言葉通り、この子が身体を弄られる直前まで戻してくれたから…というのもあるけどね」

 

「…ありがとう」

 

「…急にどうしたの?」

 

 アガレスはそこで深々と、頭を下げた。なんならそれは先程の演技の時よりも深いものだった。

 

「俺が救えなかった人を救ってくれてありがとう。迷惑かもしれないが、言わせてくれ…本当にありがとう」

「…なら、受け取っておくわ。どういたしまして」

 

「「……ふふっ」」

 

 何だか可笑しくなった二人は互いに噴き出しそのまましばし笑い合ったが、どちらかともなく止め。真剣な表情に戻った。

 

「俺は使命を果たしに行く。その子にそっちに任せていいか?」

 

「…私たちの組織(シャドウガーデン)に預けるってことかしら?」

 

「頼む。…どの道その子は、普通に生きていけないからな」

 

「そう――分かったわ。じゃあ今日はこれでお別れね」

 

「そうなるな…シャドウによろしく」

 

「えぇ、そちらこそ。諜報員さんによろしくね?」





 シャドウとアガレスの魔力のアレコレについてですが。
シャドウ
魔力量:S+ 魔力操作:S+
アガレス
魔力量:SS 魔力操作:A
(尚“悪魔憑き”治癒のために必要な魔力操作レベルをSとする)

シャドウ「パワーがてめえならテクニックは俺だ!」

 我が主人公は結構なパワータイプです。
 シャドウ様魔力操作が異次元レベルに上手くて魔力量もあって自然回復量も多いとかなんだお前…!となる。
 下手したらアトミック10連発も可能…ってコト!?(ワッ)
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