陰の実力者と二週目主人公。   作:korotuki

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 お久しぶりです!
 遅れた理由としては……LimbusCompanyやってました!シンクレアくんかわいいね!!

 無論カゲマスもやってますよ!いつか純正シャドウ様のキャラカードが出ることを願いながら、本編どうぞ。


008 闇を貫く光(物理)

    

 カツーン、カツーン――

 

 王都の“ディアボロス教団”の地下施設にて、シャドウガーデンの襲撃により錯乱した科学者が。研究途中の試験薬をアレクシアの近くに収監されていた実験台に投与し暴走。

 

 科学者をプチっと(マイルドな表現)した実験台が暴れたことで自身を縛る拘束具や牢屋から解放されたアレクシアは、ジッとしてられる性格でもないため、見知らぬ施設内を彷徨き出口を捜索していた。

 

「…なんのつもりなのかしら、あの白髪青マント」

 

 アレクシアはふと自分の持つ剣と着ている服に目を向け怪訝そうな声を出した。

 

 本来なら雑兵が持っていたありふれた剣と、血を抜かれていた時と同じ検査着を着ている筈だったアレクシアだったが。今の彼女はまるで誘拐されたその日にまで巻き戻ったように制服を着て、愛剣をその腰に携えていた。

 

「何よ『章の最高潮(クライマックス)にそんな見窄らしい姿でいるのはとてもかわいそうだ』って。意味分かんない……」

 

 苛立ちの感情を隠すこともなく、アレクシアは道端の小石を一つコツンと蹴り飛ばす。

 

 彼女が脳裏に思い出すのは、一人の男性。

 

 女性と見間違う程の線の細い顔に白く長い髪、剣士というより。体全体を覆う白い刺繍を施された青いマントを着る洒落た姿からオーケストラの指揮者を思わせる美丈夫。

 

 科学者の杜撰な管理(・・)によって精神的にかなり疲弊していた時に現れたその男は――まずアイリスの姿を見て酷く愉快げに笑った。

 

 失笑や嘲笑ではない、心の底からたのしいと感じている故に出たであろうその爆笑に。アレクシアは怒りを抱く前に困惑した。

 

『その姿はとっても面白いね!だけど…貴重なサンプルに提供する環境じゃない』

 

 ひとしきり笑い終えたその男性は、次に今まさにアレクシアの血液を採取しようとして。男の登場により固まったままの姿勢でいた科学者へと視線を移す。

 

『もしかしてさ〜、――キミだけのオモチャだと思ってる?』

『あっひ、ヒヒヒヒィ〜!?』

 

 一切の光を通さない伽藍堂な目で、とつくが。

 

 情けない悲鳴をあげ注射器を取り落とし、その場で土下座するように蹲る科学者の姿にアレクシアは「ざまぁみろ」と溜飲を下げつつも。男を睨み付ける

 

『さて、ある程度の環境の改善はするよ〜?欲しいのあるかな』

『…強いていうなら自由かしら』

 

『アハハ、無理だねぇ。まぁ頑張って“囚われのお姫様(ヒロイン)”役でも頑張りなよ。アレクシア王女!』

 

『その言い方、気に食わないわね』

『だから言ったんだよ』

 

 最後まで人を食ったような態度を崩さなかった男だが、言葉自体に嘘はなかった。

 

 清潔な検査着に牢屋内の定期的な清掃、話しかけてもだんまりを決め込んでいたが腕は確かな侍女による食事・清拭の世話。

 

 何より科学者が一日に何回も血を取らずに、毎日決められた時間に血をとるようになったのが大きい。

 

 科学者も男を恐れていたのか上の空の乱暴なものではなくなったのも、何気に安堵したことの一つだった。

 

 そして今日、脱走しようとしたアレクシアの牢屋の入り口には。綺麗に畳まれた制服と剣があり――先程アレクシアがポツリと呟いた言葉こそが制服と剣の上に置かれていたメッセージカードに書かれていた言葉である

 

 …考えるまでもなくあの男の差し金だろうなとアレクシアは思ったが、一旦広げ確認するが怪しい箇所はなかったためアレクシアは遠慮なく着ている。

 

「とにかく速く地上に出て、助けを呼ばないと。一応…ポチのことも心配だし」

 

 己に言い聞かせるように呟き…最後に付け足すように、誰が聞いてるわけでもないのに小さくぶっきらぼうに言って彼女は再び歩き出そうとした。

 

「いや、君が地上に出ることはない」

「ッ!?」

 

 が、独り言で終わらせるつもりだったにまさかの返答を返す者がいた。

 

 アレクシアが声の方向へ目を向けると、そこには王国の剣術指南役であるゼノン・グリフィの姿……が、彼は普段の貴公子然とした態度に微笑を常に絶やさない憎たらしい顔面(アレクシア談)は鳴りを潜め、冷徹な表情と硬い声音でアレクシアを出迎えていた。

 

「…今の発言から、アナタが誘拐犯って認識でいいのかしら?」

 

「あぁそれで合っている。それにしてもその服は…“指揮者”の仕業か」

 

「へぇ。あの白髪青マントそんな呼び方なの?いい大人が恥ずかしくないのかしら」

 

「…今のは、余計な一言だったね」

 

 普段とはまったく違う酷薄な様子に、アレクシアは内心安堵する。

 "あぁ、この男も上っ面を整えていたのだ”と。

 

「私を誘拐した目的は?」

 

「君の血だよ。あの学者から何か聞いてないのかい?」

 

「あの肝の小さな狂人のこと?確かに『英雄の血ィ、英雄の血ィ~』とか言ってたわね」

 

「それだ。王族には特に色濃く英雄の血筋が入っている。ラウンズに入るためにはその血という手柄が必要だった」

 

「“ラウンズ”?狂人の集まりかなにかかしら?」

 

 聞き慣れない言葉に疑問を挟みついでに煽ってゼノンの反応を見ようとしたアレクシアだが、ゼノンは軽く鼻を鳴らしどうってことないように話を続けた。

 

「教団を支える剣にして頭脳、不滅の12騎士“ナイツ・オブ・ラウンズ”…末席とはいえ。今とは比較にならない富と名声が手に入る」

 

「教団とか騎士とか…訳がわからないわね」

「分かる必要はない。キミはただ私と一緒に来てくれるだけでいい…着いてきてくれるね?」

 

「――お断りよ」

 

 吐き捨てるように拒絶の言葉を言ったアレクシアは剣を抜き放ち構を取る。何百ではきかない、何千何万と握り振るって来た愛剣の重みに頼もしさを覚えながら、その鋒をゼノンは向けた。

 

「生憎とこれでも忙しい身なの。貴方たちのお遊戯に付き合ってる暇はないので、帰していただけないかしら?」

 

「無理な話だ。あぁでも、もし君の代わりにアイリス王女が来てくれるなら喜んで解放するよ。そっちの方が、彼らにもいい知らせが――」

「ッ!!」

 

 “姉と比べられる”という彼女にとって地雷も地雷な返しに、アレクシアは目を見開き般若のような形相で襲い掛かった。

 

 ギィン!!!

 

「…失敬、君は姉君と比べられるのが嫌いだったね?」

 

「ブッ殺す!!」

 

「おぉ恐い。猫をかぶるのが随分と得意じゃないか」

 

「お互い様よ!」

 

 初撃を弾かれたが、それで挫けるようなアレクシアではない。

 

 即座に剣のベクトルを手首の力で強引に変え気炎をはきながら切り結ぶ。

 

「そんなことはない。丁度この前感情を抑えきれずにふと生徒の前で怒気を出し、不信感を与えてしまった――もちろん始末したが」

 

「っ、訂正するわ。私はそこまで狂ってない!」

 

「狂う?いいや、君は愚かにも教団を知らない…無知なだけさ。知れば私の口封じの理由も理解してくれる」

 

「黙りなさい!――チッ」

 

 これ以上出鱈目な言葉を聞いてたまるかと一層の力を込め振り下ろしを放つが、ゼノンはそれを軽々と受け止める。思わず舌打ちを放ちながら距離を取った。

 

「これまでのやり取りで分かったと思うが…君は私に勝てない。剣を下ろし、大人しく着いてきてくれないかな?」

 

「…そんな提案、本気で呑むと思ってるのかしら?」

 

「天才なら、窮地と言えるこの場で爆発的な成長を遂げてなんとかなるかもしれないが。少なくとも君は凡人だ」

 

「言ったわね…!」

 

 今宵二つ目となるアレクシアへの凡人呼び(地雷ワード)をかましたゼノンに対して、アレクシアは奮起するように両手で剣を握り魔力と力を込める。

 

 思い起こすは自身の知る――憎たらしいが――最強の魔剣士。“天才”アイリスの比類なき剛剣。

 

「なら見てなさい、私が本当に凡人がどうか――ッ!!」

 

「なっ!?」

 

 姉妹という関係上、誰よりもアイリスの剣筋を見てきたアレクシアだから出来る至上の猿真似(・・・)

 

 僅かに目を見開いたゼノンは咄嗟に防御するが、生じた質量は普段のアレクシアからは考えられないほど強く思わず剣が弾かれ――微かにゼノンの頬を切り裂いた。

 

「…アイリス王女の剛剣か。まさか君がそんなものを隠し持っているとはね」

 

 ツーと流れてきた自身の血を指で拭ったゼノンはそう呟くと、アレクシアはニヤリと悪どい笑みを浮かべた。

 

「本当はアガレス先生(・・・・・・)も真似ようとしてたのよ?あんたへの当てつけになると思ってね」

「……」

 

「でも、彼のは感覚的なものだし。何より引き分けだったからやめたのよ」

 

「フム…まさかそれは――あんな決勝戦(ちゃばん)如きで、私の底を見たつもりなのかな?」

 

 アレクシアの言葉を聞いていたゼノンは不愉快げに目を細め、そこで初めて剣を両手で握った。

 

「今のには少し驚いたが、所詮は凡人の真似事だ。折角だから見せてあげようか」

「天才の……いや、次期ラウンズとなる者の剣を」

 

 見かけはシンプルな大上段の振り下ろしの構え――素直に真っ直ぐ、剣を振り下ろした。

 

「〜〜〜ッ!!?」

 

 が、アレクシアの剣とぶつかった瞬間。途轍もない程の衝撃が彼女を襲った。

 

 愛剣の軋む音はまるで悲鳴をあげているようであり、それ相応に硬い素材で出来ているはずの施設の地面は衝撃に耐え切れずヒビ割れる。そしてその威力はアレクシアの両腕の骨を砕きかけたところでようやく止まる。

 

 あまりの激痛に声すらあげられず、膝をつきながら脂汗を流し歯を食いしばるアレクシア。

 だが、そんな彼女の姿など気にした様子もなくゼノンは。一撃の元で彼女を粉砕せしめたというのに、残念そうな表情をしていた。

 

「今ので剣もろとも気概を折ってやろうと思ったんだけど、流石に一撃では足りなかったか」

 

「…まだやれるわよ」

 

「意地を張るのは結構だが、自分の体を無視して動く魔剣士程愚かな奴はいない。もう動けないことは分かっている」

 

 もう決着はついているとばかりに剣を下げ無造作にこちらに近付いてくるゼノンに対して、アレクシアの既に限界に達した体が応えるはずはなく。そのまま連れ去られようとされた時だった。

 

「ッ、誰だ!」

 

「………我が名はシャドウ」

 

 今宵の主役が、闇を切り裂きながらその姿を表した。

 

 


 

 

「中から戦闘音…ここか!!」

 

 本来なら施設の入り口から突入するのが礼儀なのだろうが、敵は無法者なのでこちらも無法でいかせてもらおうと目的地の真上にて剣を構える。

 

「フッ――羅ァ!!」

 

 方型に剣を走らせ、その中心点を蹴り抜く。

 

「っとと…如何にも研究施設って感じだな」

 

 くり抜いた地面と共に落下し着地する。辺りを見回せば白衣を着た研究者らしき人物や、武装している騎士たちの死体――そして、剣を交える二人の人間を見た。

 

「ッ!?アガレス――!」

 

「来たか……」

 

 一人は普段の余裕綽々といった態度は鳴りを潜め、焦りがありありと顔に浮かびあがっているゼノン・グリフィー。

 

 …そして、俺が再び生を受けることとなった主な原因。

 

「俺が来るのを分かってたみたいに言うなテロリスト――いや、シャドウ」

 

 黒装束に黒い剣、フードの奥から辛うじて見える瞳の色はワインのように濃い赤色。

 

 王国動乱――の皮を被ったディアボロス教団への反逆の狼煙を起こした張本人。シャドウガーデンの盟主"シャドウ"は鍔迫り合いの最中にも関わらずゼノンから視線を外し俺の方を見てきた。

 

 目に写るのは驚愕と…僅かな喜悦に、期待?

 

(俺に何かさせたいのか?いや、させないために俺がいるんだが…)

 

 よく分からないな…アルファの口ぶりからカリスマ性の高いやつってのは分かるが。

 だがここで無駄な思考を展開するのは時間の無駄だ。剣は抜かずに、俺はシャドウを視界におさめながら声をかける。

 

「一見すると、アレクシア王女救出のため。誘拐しに来た刺客と戦う誉れ高い剣術指南役だが…俺もアンタ程ではないが本当の事情は知っている」

 

「…!?知ってるのか、我ら教団のことを!!」

 

 糾弾してくるゼノンを無視してシャドウを見るが、やつはこちらを見るばかりで身動ぎもせずにいた。

 

「俺の目的は世界征服でも下界是正でもない。――シャドウ(アンタ)を止めるためにここにいる」

「今ある世界のためにも、勝手に衝突して。徒に壊されたら堪らないんだよ」

 

 剣は抜かない。これは一種の問答であり、シャドウのヴェールに包まれた真意を微かでも探るためのものだ。

 

 さて、何を言うか――

 

 


 

 

 その時、シャドウに電流走る――

 

(今の発言と彼が纏う、ある種達観した態度や所作。まさかアガレス先生――前作主人公か!?)

 

 陰の実力者ロールプレイのガワを崩すことはなかったが、シャドウ/シドは強く手を握り締める。

 

(くっ――まさかもう始まっていただと!?ボクが陰の実力者となるための修行に励んでいる時に…!)

 

(だが、実力が伴わない陰の実力者など道化(ピエロ)もいいとこ…ここは。それ以上のムーブをして挽回をしなければ!!)

 

 


 

 

「…激しく燃ゆ炎よ」

 

 シャドウは剣先を向けるとその刃に魔力を纏わせ、それを薙ぐように振るった。

 

 黒一色の剣から放たれたその軌跡は、まるで俺たち二人を分ける境界線のようだった。

 

 …なるほど、関わるという意思表示か。

 

「炎が立ち上り、光が強まれば。闇はその暗さを増す」

 

「何が言いたいんだ?比喩が多い…詩人って風体でもないだろうに」

 

 試す意味も含めて挑発を交えてみるが、シャドウは微塵を揺るがずに剣を常に俺に向け続ける。

 

「一度栄えた炎はその猛りを鎮め。次代への導きとなるのが定めだとは思わないのか?」

 

「…?何を――」

 

 待て、“栄えた”?なんで過去形になってるんだ。

 自分で言うのもなんだが俺は表でもそれなりに名が知られている。端から見れば今まさに栄え続けている最中の筈。

 

 それに“次代への導き”?それだとまるで――

 

「へぇ?まるで俺が古ぼけた老人みたいに言うな。初対面なのにエラい失礼じゃないか」

 

「自覚はあるのではないか?」

 

 …(アガレス)今代(いま)の人ではないと確信していないと出ないような言葉だ。

 

「…さぁな。生憎こちとらピチピチの24だ」

 

 惚けた風に返して見たものの、実際は思わず鞘に収まった愛剣を抜きかけた始末。

 仮に俺が新生していることを知っているのだとしたらコイツは"ただ力が強いだけのイレギュラー"なんてものではない。最早人かも怪しいレベルだ…

 

 

 

「私を…無視、するなァ!!!」

 

 突然、これまで放置していたゼノンがしびれを切らし叫びながら剣を構えた。

 咄嗟に柄に手を当てた俺に対し、シャドウはゼノンを一顧だにせず、俺だけを注視し続けていた。

 

「っ!舐めるな!!」

 

 ゼノンはそんなシャドウの無防備な背後へと剣を振り下ろすも…体ごと向き直るどころかノールックで剣を弾く。

 

「…流石に、ここでやりあうのは時期尚早か」

 

「不意は、ついた筈だぞ!!」

 

「お前からみた隙と、私の隙の定義が違うだけだろう?」

 

ゼノンはシャドウの言葉に歯噛みしながら距離を取り、俺の方を見る。

 

「…王都を害そうとする輩を共に倒す心意気は?」

 

「それ以前に自分の心配したらどうだよ」

 

 流石にゼノンと協力は出来ない。敵から味方になった例はたくさんあるが…彼は浸りすぎだ。

 

 苦虫を噛み潰したような顔のゼノンだったが、何事かを言う前にシャドウが軽く振った剣に大きく吹き飛ばされていく。

 

 ――早期決着という意味でシャドウに加勢することも考えたが、それは要らぬ考えらしい。ひとまず近くで鉄火場には似合わないキラキラした目で二人の戦いを見るアレクシアへと駆け寄った。

 

「大丈夫か?」

 

「…………凡人の、剣」

 

 ふと呟いたアレクシアの目はどこか夢心地のような、夢想していた理想が現実に現れたような。そんな様子でシャドウを…正確にはシャドウの剣筋を見ていた。

 

 "凡人の剣"――それはアレクシアにとっては特大の地雷ワードの筈だが、今の彼女はそれが誇らしいものであるという声音を感じた。

 

「シャドウの剣技か?」

 

「あっ……はい。一見出鱈目ですが、用いてるモノの根底は、見慣れたものが数多くあります。ですが彼は、それを極めて高い次元まで押し上げて。無敵の剣として成り立たせてる…」

 

「…………。」

 

 俺に聞かせる、というよりかは無意識下の分析を自身に言い聞かせているような言葉。なるほど、確かに徹底的に無駄を省かれたその動きはある程度の遊び(・・)が見えるとはいえ、剣術とは体系化された技術の筈なのにその光景はどこか自然的な様子すら感じる。

 

(仙人か、何かか?シャドウは――)

 

 フードのせいでよく見えないが、その口元は微かに釣り上がっており。今も決死の形相で斬りかかるゼノンを赤子の手をひねるように対処し続けている。やがて、ゼノンが肩を大きく上下させ息を荒くし始めた頃。彼は訳が分からないように顔を歪める。

 

「鈍い剣だな?次期ラウンズ」

 

「クッ…!貴様は、一体何者だ!!それだけの強さを持ちながら何故正体をひた隠し。教団に牙を剥く!!」

 

「我はシャドウガーデン。ただ陰に潜み陰を狩る者達――我らはただその為だけに在る」

 

 その言葉を受け、憤怒の表情を浮かべたゼノンが、ふと外套の内側に手を入れるような動作をする。

 

「――なんかするらしいな。アレクシア、注意を」

 

「へ?え、えぇ…」

 

 取り出したるはガラス瓶。だがその中には血を思わせる赤黒い錠剤が入っており、土壇場で持ち出したそれはただ一介のドーピング剤で済む代物には見えなかった。

 

「なるほど、その心意気は認めよう…ならばその心ごとへし折る“最強”を見せてやる――アガレス!」

 

 俺の方を見る彼の眼には、暗い喜悦――そして少しの後悔――に包まれていた。

 

「お前も眼に焼き付けておけ!これが私とお前の間に決然とあった、実力の差というものだ!!」

 

 そう言うと彼は薬を飲み干す。瞬間、その全身から噴き出す魔力の奔流が俺の肌をチリつかせる。

 

「ラウンズの絶対条件は、常人が使えばただ力に押し負け自滅してしまう“覚醒の力”に負けず!その圧倒的な力を自由に扱えることォ!!」

 

 ――ゼノンの体が変質していく。

 筋肉が肥大化し、血管が浮き出る。瞳孔は開ききり、裂けたような口からゼノンは狂ったような笑い声をあげている。その姿はもはや人と呼べるかは怪しく、まるで理性を失った獣のようだった。

 

「“覚醒者3rd”――来い、最強が如何ほどの物なのかを見せてやる!」

 

 その言葉に聞き覚えはなかったが、推測は出来る。覚醒という言葉からおそらくは、何かしらの壁を突き破った人間を指しているのだろうと思われる。

 

 …仮にその言葉が真実なのだとしたら、薬物で無理矢理にそれを引き出した彼のその姿は――

 

「哀しいな」「醜いな」

 

「「…ん?」」

 

 突然の声に思わず声の主を見る。そこには俺と同じく、ゼノンの姿を冷ややかな目で見るシャドウの姿があった。

 シャドウもキョトンとした顔(フードに隠れて見れなかったが、雰囲気からそんな表情をしていたのだと思われる)をしていた。

 

「――ンン゛」

 

 あ、咳払いした。

 

「何…?」

「……借り物の力で最強を騙るな。それは、他ならぬ最強への侮辱だ」

 

 瞬間、ゼノンの荒れ狂った魔力が吹き荒れていた筈の廊下が突然静かになった。

 だがそれは静まったのではなく、呑まれた(・・・・)と言った方が正しい。

 

「なん、だッ…この魔力は……!」

 

 気付けば周囲の景色は紫紺色に染まりきっており、現実味のない色味へと変貌していた。ゼノンとアレクシア王女は“信じられない”といった顔で周りを見ている。そんな中俺はその風景の発生源であるシャドウへと眼を向けた。

 

 人にはそれぞれ魔力の“色”がある。俺は異能だけに止まらず魔力の色すらも炎のような橙色であり、アレクシア王女は髪色とよく似た真白。そしてシャドウは――この紫紺色なのだろう。

 

 彼は手を刃に走らせその魔力を纏わせる。

 

 それはさながら闇夜に光る月光のようで、どこか妖艶な雰囲気を感じさせた。ゼノンはその様子に気圧されながらも剣を構え、シャドウを睨みつけるが。その両膝は否応なしに震えていた。

 

「真の“最強”を、その眼に刻め」

 

 その言葉と同時に、シャドウの剣と体が滑らかに動き出す。

 

 

 ――――ここだ。

 

 俺はそう確信する。

 

 この世界に再臨した最初の原因が、今から俺の目の前で巻き起こるのだと直感で理解する。

 

 緊張を一呼吸の間に掌握し捩じ伏せ剣を握り、タイミングを見逃さないために眼を細め機を待つ。

 

「な、なんだこの魔力量は――貴様。本当に人間…ッ!?」

 

「綺麗…」

 

 アレクシア王女が小さく呟いた。

 確かに美しい。膨大でありながら完璧に御された…人工美ともとれるその光景は、中々に綺麗な光景だ。

 

アイ(アァァイ)アム(アアァァンッム)…」

 

 ――だが、俺からすればそんな感傷に浸っている場合ではない。

 

「フッ――!」

 

 手を鞭の様に振るい、炎の礫を放つ。放たれた礫――炎石――はシャドウとゼノンの四方を囲むように配置された。

 

(よし、いつでもこい!!)

 

 ふと、シャドウが俺の方をチラリと見た気がした。

 

 だがその真偽を確認する前に、彼の絶技は放たれた――

 

「――アトミック(アトゥミック)

「ッ【守護炎陣】!」

 

 俺が地面に炎迸る剣を突き立てると同時に炎石から赤色のバリアが展開される。四つのバリアは互いを相乗するように大きく、そして堅牢になっていき瞬時に大きな方陣が完成した。

 

 技の発動を確認したのと同時に、刹那――視界が紫紺を超え白にに埋め尽くされる。

 

「~~~ッ!」

 

 音はない。ただ凄まじい光量と衝撃が一瞬にして襲いかかってきた。あまりの眩しさに思わず目を瞑ってしまいそうになるが、現実逃避をするわけにはいかない。

 

 方陣が軋むのを感じる。それも“ピシ、ピシ…”という優しい物ではなく、“ビシビシビシィ!”というあと数秒で割れるタイプの壊れ方だ。

 

「あ、アガレス!なにやって――防いでるっていうの!?」

 

 となりで狼狽するアレクシア王女の声が遠い。たぶん方陣から漏れる轟音と衝撃波によって流されてしまっているんだろう。

 

 その衝撃波があまりに強いせいで補強のための追加の炎石を投げることも出来ない。

 

(このままじゃ破られて、結局――いや弱気になるな!)

 

 心中の声に渇を入れて顔を上げる。方陣が破られてもいないのに心が負けてどうする!

 

(そうだ思い出せ、自分より強いヤツからの。絶体絶命の一撃必殺を避けられずに受け止めなくちゃいけない場面だってあったろ!そんな時はどうした――!)

 

 必死に思考を巡らせて俺は答えを見つけ出す。

 

 すぐさまそれを実行すべく俺は意識を集中させ、方陣の制御へ取り掛かる。

 

 方陣全体に均一に配分していた魔力の均衡を崩し、前面、後面、右面、左面を厚くする。

 

(何も足を踏ん張って無理して堪えるだけが防御じゃない!力が足りないなら……)

 

 すると強化された分ほかから魔力を捻出しなければならない。

 しかし俺は制御のみで、方陣に新たな魔力を供給することは出来ない。

 

 ならば他を厚くした分――

 他の部分を薄くせざるをえない(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 前後左右が強化され、下は地面。となるとあおりを受けるのは、上だ。

 

(流れに任せて、受け流せばいい!!)

 

 直後パリン。という何かが割れたような、突き破れたような音が方陣の上部分から響き。そこからエネルギーの濁流が溢れ出す

 

 それは天を食い荒らすように突き進み。地下から地上へ、地上から空へ、空から上空へと登り続け…やがて人の目に視認できないほどの高みへと消えていった。

 

「まるで龍みたい…」

 

「いや、どんだけ緻密に。そして硬く魔力を…!?」

 

 その事実に絶句する。

 この世界の魔力は出した本人の手を離れると急速に萎んでいく(大気中に魔力が霧散しているからだと言われている)特性があり、そのせいで魔剣士は有効な遠距離に対する攻撃手段を持てないでいる。

 

 対策としては魔力に頼らない遠距離攻撃手段。そしてもう一つは…俺が呟いた魔力を高度に練る方法だ

 

 魔力が霧散するなら、霧散しない程に魔力を固めて放てばいい。

 

 口で言うのなら簡単だがこれがもう非常に難しい。魔力量が生まれで決まるのなら、魔力操作は地道な鍛練の道だ。

 

 事実俺も異能に頼らずに斬撃を飛ばせとなったら10メートル程度が限界であり、この事実が"飛ぶ斬撃"の実現が如何に困難かを表している……ハズ、なんだが。

 

「…恐ろしいな。シャドウ」

 

 思わず口から出たその声に反論するには、先程の現象は衝撃的すぎた。

 





 感想、批評お待ちしております。

 …さて、どうするか。
 (最終回のアイリスが持ち出したアーティファクトを見て苦い顔をする作者)
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