俺と勇者と英雄 作:英雄譚に魅入られた者
これは歪に叶えられてしまった願い。
もしくは、神サマからの天罰というものなのだろう。
山道脇にひっそりと建っていた寂れた小さな神社にバイクを停め、賽銭を入れて願ったのは健康祈願や交通安全ではなくハマっているウマ娘のこと。
昨年の年末に推しが実装されて貯めていた石を全部使い完凸させた上、もう一人の推しもデイリーレジェンドレースでコツコツと貯めていた分と引いた分の女神像を合わせて完凸させれたため、上手く育成できますようにと。
あとは、去年一年を通して病に侵され、愛機のバイクで走れなかったため、今年こそは走れますようにと。
ーーー我ながら煩悩しかねぇなぁ。
とおもいつつ、目を開いたのだが。
ーーーあ?……なんだこれ?
目を開くと広がっていたのは暗闇。
目の前の本殿はもちろんのこと、周りの木々から停めていたはずの我が愛機すらその姿を消していた。
自分が立っているはずの石段も見えなければ、足裏の硬い石の感覚すらなくなっている。
ーーーんっ…!?ん???あー……なるほど?
かとおもえば、俺の横を凄い勢いでヒトの形をした光るナニカが駆けていった。
それは本殿があった所に向かっていき、ヒトの形から円になり、目の前で浮かんでいる。
あまりに意味がわからない現状であっても、思考は至って冷静なようで。
この状況をしっかりと分析しようとしていた。
ーーーこれは、アレだな?プロジェクトマッピングとかいうやつだな?こんな人気のない寂れた神社でやってる意味がわからんけど、それも相まって本殿が光ってて神秘的かつ神々しいし。はぇ……最近の技術ってすんごい。
近代の科学力と古代の神秘のマリアージュかぁ。
とIQを溶かしつつも、おそらく賽銭箱に賽銭が入ったらプロジェクトマッピングが起動するシステムなんだろうなぁと。
にしては機材とか見えないし、暗闇がなんだか夜の闇より暗い気がするが。
ーーー…………。
あの、長くない?次の映像まだ???
ーーー帰るか。……ぐぅぅ!??!
映像も変わらないし、まぁ、寂れた神社ならこんなものかと帰ろうと振り返る。
愛機の姿は見えなくとも、止めたところに行けばあるだろうという考えからだったのだが、何故か振り返った瞬間、そこに愛機はいた。
さっき横を通って行ったナニカの様に、何故かボディを光り輝かせた上、勢いよく突っ込んできていた様で俺の身体に突き刺さっている。
もちろん受け止めれるわけがなく、容赦なく吹き飛ばされるその先は本殿で光を放つ円の中。
視界が黒から白に変わる中、愛機が身体に溶けていくのを見ながら気を失ったのだった。
ーーーーーー
今思えば、アレは因子継承だったのかなぁ。
何故って?だって今の俺、ヒト息子じゃなくてウマ娘だし。
目が覚めたら幼女になってる上にウマ娘になってて困惑したわ。
突然ヒト息子からウマ娘に転生?させられた事には理解が追いつかなかったが、とりあえず受け入れて生活していくうちに理解できた。
うちの横にアグネスデジタルの実家たる印刷所があって、向かいの家にはゼンノロブロイが住んでいて。
うーん、どう考えても神頼みの結果だなぁと。
ゼンノロブロイにアグネスデジタル。
生前?前世?にてアプリで一目惚れしてから推していた2人が近所かつ幼なじみとしてそこに居るのだから。
けどよ、神サマ。
俺はウマ娘になりたいとか願ってなかったんだが!ありがとうございます!!
しかも幼なじみとか!土下寝でしか感謝を伝えられねぇ!!
けど、愛機を俺と合体させるのはどうなの?嬉しいけど複雑だぜ?
我が愛機たるバイクだが、あの時ダイレクトアタックを仕掛けてきた時に体に吸収されており、ウマ娘でいうウマソウルと化していた。
ほら、バイクって『鉄馬』とも言うらしいし。ウマソウルになるでしょ。
と聞こえた気がしたのを覚えている。
たぶんそこら辺は適当だったんだろうなぁ。
そんな俺だが現在、中央トレセン学園中等部二年に在籍している。
寮はデジタルと同じ栗東寮。
「…今思えば、新入生の元にヘンタイを送ってしまったのか……?」
自主練やランニングから帰ってくる娘たちとすれ違うように寮から出て行く。
今日は入学式であり、もう一つの寮に行ってしまったロブロイと校門前で待ち合わせているため、早めに出ている。
ちなみにデジタルも途中まで一緒にいたのだが、
「はっ!?校内から新たなエモの波動を感じますよっ!しかしながら、これは……困惑の気配!?すいません、先に行きますね!」
といつものように電波を受信して、先に走って行ってしまった。
その時は、まぁ、新入生が迷ったのかなぁ、いってらー程度で送り出した訳だが、今に思えば人選を間違えた気がしてならない。
とりあえずロブロイと合流したら、教会という名の保健室に行くことになりそうだ。たぶん、運ばれるから。
おぉ、デジタルよ、死んでしまうとは情けない。わりといつもの事だけど。
「お、ロブロイ。相変わらず早いね」
「あ、レイさん。おはようございます」
校門前、すでにロブロイは着いていたようで、こちらに気がつくとペコリと一礼する。
うーん、相変わらず小さいけど大きいよなぁ。
同室のライスシャワーも大きいし、あの部屋割りって耳の長さだったりする?
まぁ、一部ライスシャワーと比較すると……うん。
ロブロイが猫背になってたり、本を抱えてたりすることが多いためあんまり感じなかったが。
確かメイショウドトウに次いでだっけ?デッカ。
「あの…デジタルさんは?」
「ん、見ず知らずの迷子の新入生を救いに。もしくはいつもの発作」
「あっ、はい。変わらないようで何よりです」
ロブロイはデジタルらしいと苦笑いするが、これでもデジタルのことを結構尊敬していたりする。
ロブロイ曰く、デジタルは少々(?)変わった趣味はあるものの、日々努力を怠らず研鑽を積みつつ、困ってる人を見たら手を差し伸ばして徳も積む、まるで物語に出てくる勇者のようなウマ娘だと。
一方で自分は地味で目立たない、どこにでもいる平凡なウマ娘だとか。
まぁ、そんな評価をされてる何処かのヘンタイも、自分の事をどこにでもいる平凡なウマ娘です、とかいっていたが。
我が幼なじみ達はどうにも自己肯定感が低いらしい。
お前らがどこにでもいる平凡なウマ娘の訳がないだろう。
まぁ、まだレースに出てないため、戦績という形で見れないから仕方ないのだけど。
それでもやっぱり2人とも平凡って事はないから。
とりあえずロブロイは地味で目立たないと言うが、昨年まで小学生であり、その謙虚で文学少女特有の儚さを纏う姿は同年代男子の目には毒だったから。
しかもスタイルも既にこの状態であったが故に、一部男子の癖になっているのを知っているぞ。同じクラスだった図書委員くんだったりロブロイの弟くんとか。
ヘンタイの方は……確かにどこにでもいるな?平凡ではないが。
「んじゃ、とりあえずだけど、保健室から行こう。デジタルが運ばれるかもしれないからね」
そう言って歩き出す。
こうしてトレセン学園2年目の1日目が始まったのだった。